アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第66話 夢をもつということ

心地が良いい。

ふわふわゆらゆら漂うように、私はまどろんでいた。暖かい体は、少しずつ感覚失っていき、湯船のお湯と同化していく。揺れて、溶けて、染まって、薄れていく意識。

「クーロ?大丈夫?」

ドアの向こうからかけられた声に、私はハッとして、あっという間に現実に引き戻される。

「寝てる?」

ドアノブに、手がかかる気配がする。

「入ってきたら殺す。」

パシャっと水しぶきをあげながら、私は慌てて湯船から立ち上がり、そちらを睨みつけて牽制を送る。

「のぼせないでね。」

エルサイスは、そう言い残すと、ゆっくりドアから離れていった。

私は長いため息をつくと、再び湯船に身を沈めた。疲れていたので、ついお風呂で眠ってしまっていたようだ。

入った当初は熱かった湯船も、今はすっかりぬるくなってしまっていた。

ユーキとカレンが連邦を去ると、町人たちは私たちを英雄扱いし始めた。

口々に賛辞を送り、褒め称えてくる彼らに、私は心底うんざりしていた。そうして、明らかに不機嫌になっていく私の手を、エルサイスは強引に引っ張って歩き、私はそれに引きずられるように、宿へときたのだった。

「言い返してやりたかったなぁ……。」

宿のバスルームで、私はそう一人呟いた。思うとことは色々あった。ユーキのことも、カレンのことも、町人たちのことも、色々納得いかない。

なぜこんなごたごたに、私たちは巻き込まれてしまったのか、さっぱりわからない。

「クーロ?また寝てる?」

「起きてるよ。今上がるから、あっち行け。」

まったくうるさいやつだ。私は渋々湯船から身を起こすと、バスルームを出た。

「クロがお風呂で寝てる間、何件か貢物があったよ。」

「貢物?」

服を着て、髪をタオルで拭きながら、パーテーションの向こう側に出ると、エルサイスが机の上にいくつかの料理と、花束を並べて待っていた。

「何これ?」

「魔王退治のお礼だってさ。」

「くだらねーな。」

私はため息をつくと、エルサイスから水の入ったコップを受け取り、中身を飲み干す。

「まぁいいんじゃない。もらっといて損は無いさ。」

エルサイスはそう言いながら、私と入れ違いでバスルームへ向かう。

「美味しそうなグラタンと、バケット、フライドポテト、デザートのフルーツまであるよ。」

パーテーションの向こう側で、ゴソゴソ服を脱ぎながら、エルサイスが言う。

「なんかさ「これで許してください感」があって、嫌だな。」

「まぁ本音はそうだろうね。」

エルサイスの返しに、私はため息をつく。

こういうそろりそろりと擦り寄ってくる感じが、私は大嫌いだ。ベタベタしたオイルで汚れていくような、気持ちの悪さがある。

「深い意味は考えない方がいいよ。知らないふりして、食べてしまえばそれでおしまい。すぐ上がるけど、お腹がすいてるなら先に食べてていいからね。」

エルサイスはそう言い残してバスルームへと消えていった。

私は仕方なく、フライドポテトを1口つまむ。カリカリ感は無かったが、まだ少し温かさは残っていた。

窓から町を見下ろす。もう黄昏時も終わりで、夜のベールが町を覆い始めていた。人々は家路へ急ぎ足で向かい、どこか忙しなく感じる。

ユーキは勇者になりたかった。強くて、みんなを守れる、勇敢な英雄に。

想いは人一倍あるくせに、彼はそうなるための努力を怠った。そして、見せかけだけで、そうなろうとして、こんな事態を引きをこしたのだ。この結果は、当然のものだった。

カレンは「すべての人が想いを実現できる勇者になれるわけじゃない」といった。それは確かにそうだ。

他の誰よりも騎士になりたいと人一倍願った私だって、結局、騎士になれなかった。

でも、だからといって、私はそうなる努力をしなかった訳では無い。そこがユーキと違う。

私は騎士になるために、死にものぐるいで努力した。様々なものを犠牲にし、傷つき、傷つけられながらも、茨の道を歩み続け、そして最後は届かなかった。

ユーキはその努力を放棄し、口先だけで夢を実現させようとしたのだ。

なんと空虚なものなのだろうか。

私はため息をつく。理解ができない。

みんながみんな、なりたいものになれるわけではない。でも、努力することを放棄すれば、いつまで経っても、それになることはできない。

夢を持つということは、かくも恐ろしいことなのだ。絶対に努力しなければ実現できない。でも、精一杯努力したとしても、実現できるとは限らない。

「自分努力だけで、なんでも叶えられるなら、人生ずっと楽なんだけどな……。」

思わずそう口に出してしまう。世界には、自分の努力だけでは、思い通りならないことが多すぎる。

ユーキがこれからどうするのか、私にはわからない。夢を諦めるか、鍛錬に励むのか、どちらにせよ、あのヘタレクズが、勇者になるなんて、私には想像もできない。

でも、人生は何が起こるかわからないのだ。サナギが蝶になるように、騎士になれなかった私が冒険者をしているように、ユーキも思わぬ変化をとげるかもしれない。

「ふー、スッキリした。あ、待っててくれたの?」

バスルームから、エルサイスが出てきて、まだ濡れている金色の長髪をかきあげながら、席に着き、フライドポテトを1口つまんだ。

「ちょっと考えごとしてただけ。」

「ふーん。」

エルサイスは興味が無さそうな返事をして、テーブルセッティングを始める。私はその向かいに座り、食卓を囲む。

「では…」

「じゃぁ…」

「「いただきます。」」

2人で同時にそう手を合わせ、食事を始める。料理は少し冷めていたが、それでも美味しかった。

今私に、絶対に叶えたいという夢はない。ただ、なんとなく毎日を過ごしている。それくらいがちょうどいいかもしれない。

今はただ、エルサイスと2人、この小さな幸せを守っていければいい。でも、そんな簡単な願いでさえも、努力しなければ、壊れてしまうのだ。

「うん、美味しい。このベーコン最高。」

エルサイスはそういいながら、ベーコンとじゃがいもが入ったグラタンを、美味しそうに頬張った。気の抜けたその顔に、私は思わず笑みを漏らした。

「何?」

エルサイスは中々目ざとい。

「別に。口の周りにソースついてるぞ。」

私がそう指摘すると、エルサイスは舌でペロリと唇をなめた。なんだか子供みたいだ。

夢とか、幸せとか、努力とか、ついつい昔のくせで、難しく考え過ぎてしまうが、あまり肩肘張らずにいってもいいのかもなっと、グラタン1つで幸せそうな顔をしているエルサイスを見て、私は思った。

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