アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
連邦の酒場は今までにないくらい大盛況だった。
席は2階を含め、すべて埋まっていて、入りきれないお客が、店の外にまで溢れている。
「なんだこれは?」
クローバーが不思議そうに首を傾げる。
「祭りかなんかか?」
「うーん……そういう訳でもなさそうだけど。」
僕は辺りを見回し、様子を伺った。お客はみんな冒険者のようだ。どの人もいつでも戦闘できるような格好で、遊びにきているような感じはしない。
国境沿いで釣りをしていた僕らは、昼食を取りにこの城塞都市へとやってきたのだが、どうやら選択を間違ったらしい。
カウンターの中では、店員たちがてんやわんやで働いていて、次々に料理や飲み物を運んでいく。キッチンは戦場のような雰囲気で、ときより怒号が飛び交い、料理人たちが目を回しながら忙しなく動き回っていた。
この状態では、いつご飯にありつけるのか、まったくわからない。
「うーん……牛車で公国に行こうか?」
気長に待っていられるくらいの、空腹具合でもないので、僕らは諦めてこの場を去ろうとする。
「あ、姉御!!」
聞きなれた声に、クローバーがそちらを振り返る。
「にもちゃん!!」
隅の方のテーブル席に、にもとそのパートナーのもふが座っていた。
「ここ空いてますよ。座ります?」
2人はそう言うと、ベンチシートの上に置いてあった荷物を床にポイッと投げると、無理やりスペースを作る。
「いいんですか?」
「うんうん、いっぱい頼んだから一緒に食べよう!」
にもがそういいながら、大皿の料理をテーブルの真ん中に持ってくる。
僕とクローバーは顔を見合わせると「うん」とうなづき合い、それぞれ席についた。
「姉御に会えるなんてラッキー!」
にもはそう言いながら、隣に座るクローバーにギュッと抱きつく。
「にもちゃん、この混雑ぶりは何?みんな何しにきてるの?」
「あれ?姉御知らないの?」
「知らないできたのなら、とんだ災難でしたね。」
もふはそういうと、最近この辺に出る魔王の話をした。僕と、クローバーは運ばれてくる料理をつまみながら、話半分で聞いていた。
一晩で店の酒を飲み干したとか、カミナリで勇者を圧倒したとか、どれもなんだか胡散臭い内容だ。
「普通の魔王なら、大したことないんですけど、その魔王を封印できたら、報酬もそれなりに期待できるらしいですよ。」
「お前その話、全部信じてるのか?」
「まさか、そんなわけないですよ。」
クローバーの問いかけに、もふはおかしそうに笑った。
「魔王についての噂はどれも眉唾ものですね。でも、報酬については、本当みたいです。実際に連邦の兵士が、その魔王を追ってるみたいですし。」
クローバーが「どう思う?」というように、僕の方をチラリと見てくる。僕は肩をすくめることしか出来ない。
僕らが把握している魔王は3人。
地下工場を縄張りにしていたトッポ。この魔王は、先日公国の桜の木の力で封印し、今は公国の宝物庫の中で眠っている。
もう1人は炎の洞窟で僕らが封印を解いてしまったアスタナ。この魔王は1週間ほど前、この城塞都市に出現し、クローバーが討伐したばかりだ。
残る魔王は、人畜無害な魔王、マイカ。僕らは魔王ちゃんと呼んでいて、クローバーの大事な友人だった。
「その封印されそうになってる魔王って、魔王ちゃんのことなんじゃ……。」
「姉御何か知ってるの?」
にも詰め寄られ、クローバーは困った顔を返す。
「魔王ちゃん、もといマイカさんは、クロの友人の1人なんです。」
クローバーの代わりに、僕がにもに説明する。
「そうなんですか?それなら、この状況はあまり良くないかもしれませんね。」
「こんなにたくさんの人がその魔王を狙ってるんだもん!お友達が危ないよ!」
にもも、もふも、クローバーが魔王と友人同士ということに、特段の驚きを見せなかった。
こういうところが、ボンド『シルフィード』の良いところだ。そのメンバーである彼らは、肩書きや属性で、人を安易に判断したり、差別したりしない。
「お友達に知らせてあげたら?逃げた方がいいって。」
にもの提案に、クローバーは
「でも……」
と、言い淀む。そうしたいのは山々だが、そうすれば、魔王封印の報酬目当てできた、にもともふの邪魔をすることになってしまう。
「にもさんたちは、それでいいんですか?」
僕がそう尋ねると、2人は顔を見合わせ、笑い合った。
「俺らには、絶対に魔王を封印したいなんて強い気持ちはまったくないですよ。」
「そうそう、ただなんとなく、みんな集まってて楽しそうだなぁ!って思ってきただけだし。」
そう笑う2人を見て、僕もクローバーもほっと息をつく。利害関係がなければ、気を使う必要も無い。
「お友達を助けてあげて。」
にもにそう言われたクローバーは、決意を込めた表情で「うん」とうなずいた。