アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
「もうしつこいってば!」
「いい加減逃げるのを諦めたらどうだ。おとなしく封印されるのだ。」
「なんで封印されなくちゃいけないの!」
「災厄を振りまくだけの存在がいてはこまるのだ。神妙にしろ!」
「やめて!」
言い争う魔王ちゃんと、連邦の兵士オスカーの間に、クローバーが滑り込む。
「やめろ。嫌がってるだろ。」
クローバーはそう言ってオスカーの手を掴むと、目力だけで射殺さんとばかりに、その顔を睨み返した。
そのあまりのプレッシャーに、オスカーは一瞬たじろぐ。しかし、そこは訓練された兵士だ。そこら辺のチンピラとは違う。1歩も引かず、クローバーの手を振り払うと
「なんだお前は?」
と、冷静に返す。
「たまたま通りかかった冒険者ですよ。」
僕はそう言いながら、にこやかな笑みをオスカーに向ける。
連邦の酒場で、にもともふと別れてから、僕とクローバーは、魔王ちゃんを探しに、この三国国境まできた。この場所の奥に、魔王ちゃんの自宅があるのだ。
そこを目指している途中で、魔王ちゃんを見つけることができた。それはとても幸運なことだった。
「どこかで見た顔だな。」
「大農園では大変お世話になりました。」
僕がそう言って恭しくお辞儀をすると、オスカーは不快そうに鼻を鳴らす。
オスカーは、大農園の用心棒バスタの弟子で、随分前だが、連邦の王の命令で、大農園を潰しにかかり、バスタと僕らの返り討ちにあっていた。
「毒剣はどうした?もう今頃動けなくなってると思ってたんだけど。」
クローバーがそう聞くと
「どんな時でも先に、解毒薬を飲んでおけっていったのは、あの師匠さ。」
と、オスカーは面倒そうに返した。
バスタの毒剣が、解毒できるとは知らなかった。それが分かれば、あの剣は怖くない。敵を殺傷する剣というよりは、追い払うためのものなのだろう。
「俺はお前らとおしゃべりしにきたわけじゃない。そこをどけ。」
オスカーがそう言って、クローバーをおしのけようとするが、クローバーは
「嫌だね。」
と言って道を譲らない。
そうして睨み合いをしている隙に、魔王ちゃんはオスカーの前からスルりと逃げ出す。
「待て!」
あとを追いかけようとしたオスカーを、クローバーが足をかけて転ばせる。
「うぐっ!貴様!」
派手にすっ転び、地面につっぷしたオスカーは、クローバーに怒りの目を向けた。
「事故だよ、事故。足が滑っただけだ。」
クローバーがイタズラっぽい笑みを返す。僕よりたちが悪い。
「クロ、行くよ。」
僕はクローバーに声をかけると、魔王ちゃんの行方を追いかけた。
「また来た!……ってあなたち……。」
追いかけてきたのが、僕たちだと気づくなり魔王ちゃんは
「あなたたちも、私を封印するために追いかけて……?」
と、猜疑心に満ちた目で、こちらを見てきた。色々な人に追い回されていたのだろう。その表情はどこか疲れて見える。
「僕たちは、魔王ちゃんを封印しようなんて思ってませんよ。」
僕がそう言うと、魔王ちゃんは、安心したため息をつく。
人間の憎悪や畏怖を受け止めるのが、魔王だと、アスタナは言っていたが、これはあまりにも辛すぎるなと思う。魔王ちゃん自身は人畜無害で、何も悪いことはしていないのに。
「私は封印されるようなこと、何もしてないのに……!」
「魔王ちゃん……。」
クローバーが哀れみの目を魔王ちゃんに向ける。
「……いや、このないだ、ちょっと飲みすぎて、暴れてお皿を4,5枚……10枚ぐらい割っただけだよ!」
「魔王ちゃん……。」
魔王ちゃんの話に、クローバーは、今度は呆れた目を向ける。
「……他のテーブルのお客さんとケンカになって、ただミルクを相手の頭からかけたり……。寝ちゃったお客さんの顔に落書きしたり……。」
僕もクローバーと同じく、呆れ返ってため息をついた。前言撤回だ。魔王ちゃんは、何も悪いことはしていないわけではなかった。
「したよ!いろいろした!悪かったと思ってる!でも、そんなの大したことじゃないじゃない!」
魔王ちゃんはそう言うと、俯いて唇を噛んだ。
そうなのだ。魔王ちゃんがしたことは、確かに悪いことだが、許されないようなことではない。子供のいたずらのような、かわいいものだ。
魔王ちゃんよりも、もっと醜悪なことをしている人は、魔王、人間、問わず、いっぱいいる。
人を騙して利用しようとしたリーヤン、無意味に農園を潰そうとしたオスカーや連邦の王、物取りを繰り返すポーラ、人の命で万能薬を作るロッツや公国の王ドレイク。
そうやって、大なり小なり罪を犯して、それでものうのうと生きてる人は、ごまんといる。
それなのに、比較的罪が軽い魔王ちゃんばかり責められる。理不尽な話だった。
「確かにちょっと、いたずらの度が過ぎるかもしれないけど……。それだって魔王ちゃんが、封印される理由にはならいでしょ。」
そう言うクローバーの後ろで、僕は「うんうん」とうなずき、同意を示す。
オスカーは魔王ちゃんを「災厄を振りまくだけの存在」と言ったが、そんなのは嘘だ。
確かに時々厄介事を起こしているようだが、それは些細なことだ。それよりも、魔王ちゃんはいつも色々な人の相談に乗っていたし、様々な話でみんなを楽しませてくれていた。
「見つけたぞ!」
胸に土をつけたままのオスカーが、こちらを見つけ駆けてくる。
「ね、あなたちは私の味方?それとも……人間の……?」
魔王ちゃんがオスカーと僕らを交互に見比べながら、素早く言う。
「私は、人間でも魔王でもない、魔王ちゃんっていう存在の味方だよ。」
クローバーが真剣な顔で返す。
「貴様らは魔王の味方なんだな。いいだろう。まとめて叩き斬ってやろう。」
オスカーはそう威勢よく言うと、剣を抜き払う。クローバーも負けじと、デモンソード=アビスの剣柄に手をかける。
「待って、こっちよ。」
魔王ちゃんはそう言うと、クローバーの手を引いて走り出す。僕も素早くその後に続く。
走りながら、チラリと後ろを振り返ると、立ったままのオスカーが見えた。僕らを追ってくる様子はなかった。
「ここまでくればもう大丈夫。」
そう言う魔王ちゃんの横で、僕は肩で息をした。そんなに遠くまで走ったわけではないが、瞬間的に全力疾走をすれば、それなりに疲れる。
「あいつ追ってこなかったけど、何で?」
クローバーは僕とは対照的に、息一つ乱していない。涼しい顔で、魔王ちゃんに疑問をぶつけていた。
「ここは北のアブル連邦と、東のクリシュナ魔王国、南のマーロ共和国との国境地帯。どの国でもない、非武装中立地帯ね。」
「あぁなるほど。」
魔王ちゃんの答えに、僕は息を整えながら、そう呟き納得する。
中立地域に、連邦の兵士が侵入したとなれば、他の2国に対する軍事行動と思われてもおかしくはない。
「連邦の兵士がここでひと暴れしたってなれば、外交問題になりかねない。場合によっては、戦争の引き金になる可能性だってあるから、オスカーさんは動けなかったんだよ。」
よくわかっていないクローバーに、僕が説明する。魔王ちゃんは僕の説明に「うんうん」とうなずいた。
「さて、私たちも魔王国にも共和国にも入れないし、連邦にも戻れない。一旦、お城に戻るしかないかな……。」
僕らは魔王ちゃんの言葉に従うと、その後ろをついて歩き、魔王城へと向かった。