アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第69話 封印

魔王ちゃんの自宅、魔王城に私たちはきていた。

「とりあえず、座って。」

と魔王ちゃんに言われるが、座れるような場所は、部屋の真ん中にそびえる大きなソファーベッドしかない。あとは床にベタ座りするかだ。

私はそろそろと、ソファーベッドの端にすわり、ほっと息をついた。それも束の間、すぐ隣にエルサイスが割り込んできて、肩と肩がベッタリくっつくような位置に腰を降ろしてくる。

「くっつくな。うざったいな。」

私はそう言って、エルサイスを押し、ソファーベッドの下の床に突き落とす。

「酷いなぁもう。」

エルサイスはそう文句を漏らしながらも、顔は笑っている。こうなるとわかってやっているのだ。

まったくタチが悪い。

そうやってじゃれてくるエルサイスに、私は心底うんざりしていた。

「ごめんね。お茶くらい出してあげたいところなんだけど、なんにもないの。」

魔王ちゃんが、私が座ってる場所とは反対側の端に座りながら、申し訳なさそうに言う。

「大丈夫ですよ。紅茶くらいならすぐ合成できます。」

エルサイスはそう言うと、布袋とアロエベラを使って、紅茶を合成し始める。

合成を待っている間、魔王ちゃんがポツリポツリと愚痴をこぼし始める。

「魔王ってだけで、事情も聞かず追いかけられるなんて……。」

そう目を伏せる魔王ちゃん頭を、私は慰めるようによしよしと撫でた。魔王ちゃんは唇を噛み、今にも泣きだしそうな顔をする。

「あなたまで巻きこんで……。」

「私は別にいよ。どちらかっていうと、自分から巻き込まれにいったんだし。」

いつもは、わけもわからずズルズルと面倒ごとに巻き込まれる私たちだが、今回の件は、自ら進んで飛び込んだ結果だ。大事な友人の1人である魔王ちゃんを守るためなら、多少の厄介事は致し方ない。

「もう死にたいよ……でも死ねない。魔王だからね……。」

そう呟く魔王ちゃんに、エルサイスが無言のまま、合成したばかりの紅茶を渡す。魔王ちゃんは小さく「ありがとう」と言うと、カップを受け取り、1口口をつけた。

沈黙。

私はチラリと横目で、エルサイスの様子を伺う。

いつもと同じ、ほんの少しだけ口角が上がって、どこか微笑んでいるようにも見えるような顔で、彼は空中に目を向けていた。

魔王ちゃんの話に、あまり興味はなさそうだ。

エルサイスは魔王ちゃんのことを、私の、つまり『クロの友人』とは言うが、『僕たちの友人』とは言わない。

結局、そういうことだ。

これはパートナーである、私の友人の問題であって、彼にとっては、直接関係のない話なのだろう。

「(薄情なやつだな。)」

今更ながら、そう思う。

ボンド『シルフィード』のメンバーだって、私の仲間だから仲良くしているだけなのかもしれない。

エルサイスのそういうところは、本当に嫌いだ。変に他人と距離を置く。いつまでも心にブレーキがかかったままのようで、もどかしい。

「何?」

私の目線に気がついたエルサイスが、不思議そうに首を傾げながら、こちらを見る。上目遣いが、どこか子供っぽくみえた。

「別に。」

私が素っ気なく返すと、エルサイスはふっと笑みを零す。そうやって自然に笑ってる方がいいのにと、どうでもいことを考えてしまう。

それはさておき。

「どうしよう……。」

魔王ちゃんが、そう俯きながら呟いたので、私は意識をそちらへ持っていく。

「封印されるしかないのかな……。」

私もエルサイスも、なんと答えたらいいのかわからず、沈黙を続ける。

封印されると、一体どういう状況になるのか、私たちにはわからない。そうした方がいいとも、悪いとも、言えるだけの材料を私たちは持っていないのだ。

「あいつらじゃなくて、あなたたちになら、封印、されてもいいかな。どう?魔王を封印してみたくない?」

「え?!」

何度も言うように、封印されたあとの状況はわからない。しかし、何となく暗くて、狭くて、冷たい場所に閉じ込められるというイメージがあって、あまりいい気はしない。

私は困って、エルサイスに助けを求めた。エルサイスは肩を竦めて首を左右に振るだけで、助言をくれそうな雰囲気はない。

「(役立たずめ。)」

心の中で毒づいて、八つ当たりする。

「外の人たちは、私が封印されていれば、納得してもらえるんでしょ?」

「そうだとしても、魔王ちゃんを封印するなんて……。」

私は途中で言い淀んでしまい。先を続けることができなかった。どうするのが正解なのか、私にはまったく見当のつかない話なのだ。

「うん……そうしよ、そうしようよー!」

魔王ちゃんは1人で勝手に決意すると、私の両手を手に取り、ニッコリ微笑んだ。嬉しそうなその姿に、私は戸惑うが、どうにもできず、ただ黙ったまま魔王ちゃんを見つめ返す。

「どうせ封印されるなら私の大切なものに……そうね、私の杖の石に。」

魔王ちゃんはそういうと、自分の杖の先から、ハート型の石を取り出すと、私に握らせた。

ずっしりと重いそれは、沈みゆく太陽のような赤さで、ルビーのように煌めいていた。

「クロの髪と一緒の色だね。」

何気ないエルサイスの言葉に、私はなんだか嬉しくなる。

「そのかわりね、約束。封印されたら私のこと、誰にも渡さないでね?」

宝石の上から、私の手をギュッと握りながら魔王ちゃんが言う。夕方と夜の間の空のような紫色の目は、真剣そのもので、有無を言わせぬ威厳が宿っていた。

私は何も言い返すことができず、ただコクンとうなずいた。

「それじゃぁ……やるね。」

魔王ちゃんに押し切られる形で、こうなってしまった感はあるが、私にもそれなりの覚悟はあった。大事な友人を守れるなら、私それを受け入れよう。

魔王ちゃんは立ち上がると、両手を組み、宝石に向かって祈りを捧げる。

私とエルサイスは、その様子を部屋の隅から見ていた。

覚悟はあったものの、これから魔王ちゃんがどうなってしまうのか、何か悪いことが起きてしまうのではないかと、心配で、怖かった。

はからずも、藁にもすがるように、隣にいるエルサイスのローブの裾をギュッと握ってしまう。強く握りすぎて、爪が白くなっていた。しかし、そうでもして縋りついていないと、深い闇のような不安に、押しつぶされてしまいそうだった。

エルサイスはそんな私を見て、ふっと笑うと、私の肩に手を回し

「大丈夫だよ。」

と囁いた。

口先だけの、適当な言葉だ。それでも、私は少し安心する。気休めだって、時には役に立つのだ。

魔王ちゃんの祈りに反応するように、ハート型の石は空中に浮き、その姿を星のように煌めかせる。

金色の光が、幾筋も魔王ちゃん体から伸び、胸の前に、集約されていく。

これが、魂の輝きなのだろうか。とても神秘的で儚く、蜂蜜酒のように甘美で、美しい。

光がゆっくりとハート型の石へと吸い込まれていく。

私はその眩しさに、思わず目を閉じる。

気がついた時には、魔王ちゃんの姿はなく、ハート型の石だけが、無造作に床に転がっていた。

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