エスパーはゴーストに有利って勘違いしてます。
はい、私の勘違いですごめんなさい。
「おはよう! よく眠れたかな!?」
目覚まし時計でなく、家族以外の女の子に起こしてもらう。そんな青春漫画の一ページのような出来事が自身に起きたが、嬉し恥ずかしと言った感情より、朝から元気すぎて疲れそうだという感想しか出てこなかった。
白いワンピース姿で元気いっぱいの挨拶をしてくる相手に挨拶し返す。
「ふっつーに入ってくるのな……おはよう……」
「テツヤの家じゃないし、別にいいじゃない」
「ホオカノの家でもないじゃん……」
第一印象では年上ぶる生意気な少女だったのに、今ではやたら距離感が近い田舎の少女という印象だ。
「こんな朝早くになんだよ……」
「昨日言ったじゃん。村の案内したげるって」
「言ってたけどこんな朝早くとは聞いてない……」
今は何時だろうか。朝によく鳴く鳥の声も聞こえないくらいだし、とても早い時間だと思う。
「何言ってんの。もう10時だよ? 朝と言うにはちょっと遅いくらいじゃない」
「え、まじか」
思っていたより眠っていたようだ。
朝食としてやっぱりカロリーメイトを食べようとリュックから取りだす。作る手間がないから本当に便利だ。
「そーいやこの村ってポケモントレーナーって何人くらいいるんだ?」
カロリーメイトを食べながら思ったことを聞いてみる。
小さな村だしそんなにいないだろう。いや、0人という可能性もある。
「トレーナーって言っていいかわからないけど、私だけだね」
「ほー」
昨日考えた通り、ホオカノはトレーナーだったようだ。後でポケモンバトルを頼んでみようかと思ったが、手持ちのうちの2匹がボクレーとフワンテ。そして本人が自信なさげなあたり、断られるかもしれないなと考える。
そういえば、と気になったことをもうひとつ尋ねた。
「この村って、ポケモンセンターとかある……?」
昨日はそれらしき建物は見当たらなかった。場所によってはないこともあるらしいが、自身の町ではなじみ深いもの。ない場合はどうしているのか想像がつかない。
「ポケモンセンター? 無い、と思うけど……」
ホオカノの歯切れの悪い返答に、やっぱりないのか、と途方に暮れる。
これだとなおさら気軽にポケモンバトルなんて言ってられない。
「ポケモンの怪我とかは近くの町まで行って治すしかないってことかあ」
「怪我してる子がいるの?」
「いや、いないけど。普段どうしてんの?」
「怪我した子の治療? 安静に、としか……」
ポケモンセンターに連れていくという発想はないようだ。
田舎の逞しさと言うべきなのか、楽観的な考えだと咎めるべきなのか。
「ポケモンセンターは滅多に使わない感じかあ」
「んー……というかポケモンセンターって、何?」
「そっからっすか」
予想以上の知識のなさ。もしやここはとんでもない辺境なのでは、と思えてきた。
「いや、ポケモンの、病院的な?」
「ふーん」
「ていうか結構メジャーな施設だけど、どんだけ田舎なのここ」
「しょうがないじゃない。閉鎖的な村なんだもの。よその人が来ること自体すっごく珍しいんだから」
四方を森に囲まれ、電波は通じず、ポケモンセンターはなく。
一種の陸の孤島なのでは。なんだか殺人事件でも起きてしまいそうだ。
そんなふざけた思考が頭に浮かんでしまった。
「まあそれならポケモンバトルなんて気軽にできないなー」
「別にしなくていいじゃん」
「一応トレーナーとしての腕をあげる旅でもあるし、出来る場所ならやろうかなって思っててさ」
「野蛮だねー」
「まあここじゃやらね。ポケモンセンターもないし、ホオカノがトレーナーだしなあ」
「私がってどういう意味よ」
どういう意味と言われても、正直に答えたら怒られそうである。
ボクレーとフワンテを使うトレーナー。しかもボクレーは勝手にどこかへ行っていたようだし、フワンテも自由に動き回っていそうだ。自分がオニドリルに逃げられたことは置いといて、そんな理由から強いイメージがない。
「弱そうだし」
「失礼すぎる。っていうかテツヤよりは強いよ絶対」
「ないない。ボクレーやフワンテに負けないよ俺の子」
「チルドとポワニが戦うわけないじゃない」
どうやら切り札的なポケモンがいるようだ。
この村ではポケモンバトルはやらないと考えたことだし、せっかくなので何か教えてもらおうと思った。
「ほー。じゃあ何持ってるんだよ」
「ふふーん。すっごい珍しい子よ」
地味にもったいぶってくる。まぁこの田舎っぷりでは珍しい子と言っても案外大したことなさそうである。ある意味ボクレーのほうがこの辺りではすごい珍しいと思う。
「まぁ手持ちを互いに全員見せあうか。バトルはしない方向で」
「あ、うん」
ゲンさんの家で全員出すと狭いので、家から出て互いに見せ合うことにした。
「顔見せだー。出てこーい」
そう言ってモンスターボールを5つ取りだす。6つ目はオニドリルのへいはちだ。未だに戻ってきてないのはどうしたものか。
「お、おお……見たことない子ばっかり……」
ホオカノの反応に少しばかりドヤ顔をしてしまった。とはいえ外ではそんな珍しい子というわけではないが。
「サイホーンのやまごろう。あまり頭はよくないけどすごい真面目な性格だ」
「ゴツゴツだあ」
「ユンゲラーのじゅうべい。やまごろうとは逆で頭はいい。あとすごい器用」
「髭生えた狐だあ」
「ポニータのリンダ。人懐っこい性格で癒し系」
「癒されるう」
「さっきからその反応なに」
「ひとつひとつ反応しないと悪いかなって思って」
妙な気遣いをされた。いや、紹介しやすくて良かったけど、なんかうざさも感じてしまうのだ。
「ま、まあ続きいくぞ! あ。あとは昨日紹介したせんふうとごんざ。あと大脱走中のオニドリル、へいはちだから紹介できなかったわ」
「逃げられたんだ……」
「可哀想なものを見る目はやめろ」
自分だってボクレー、チルドに逃げられそうになっていたのではないだろうか。
「まあ私も人のこと言えないんだけどね」
「頻繁に逃げられてそうだもんな」
「どんな印象よ」
そのままの印象を答えようとしたら、森から悲鳴のような音が聞こえてきた。さすがに昨日も聞いたからわかる。ボクレーのチルドだ。
その考えは正解で、チルドはホオカノの隣に浮かび寄ってきた。そして遅れてフワンテのポワニもやってきた。
「え、また握手?」
「ポワニったらすっかりテツヤを気にいったみたい」
「…………そしてまたお前は」
せんふうが握手しようとしてきたポワニの手を払い落とした。同族嫌悪なのだろうか。
「あはは……せんふうはポワニのこと好きじゃないみたいね」
「な、なんかごめん」
「いいよいいよ。ポワニとチルドの紹介は別にいいよね。んじゃ、出てきて」
そう言ってホオカノは鞄からモンスターボールを取りだした。
「え」
どうせ珍しいと言ってもピカチュウとかその辺だろうと高をくくっていたが、想像をはるかに超えた珍しいポケモンが出てきた。
姿を見せたと同時に周囲の温度が下がる。青白い毛並みに長い九つの尾。凛とすました表情の狐。
この辺りではまず見ない、遠い地方の、アローラ地方の姿。
「キュウコンのケオケオ。普通のキュウコンと違って見ての通り、色が違うしタイプまで違うの」
リージョンフォームのキュウコンだった。
「リージョンフォームのとは……マジで珍しい」
「リージョンフォーム?」
「え、知らない? 手持ちの子なのに」
「あー、まあね。この子はおばあちゃんから譲り受けた子だから、実はよく知らなくて。だからニックネームもおばあちゃんのセンス」
ケオケオ、と呼ばれたキュウコンはじっとこちらを見据える。まるで見定めるような視線が落ち着かない。
「ほー。ほかの子は?」
予想以上の驚きに、他のポケモンにもちょっと期待が持ててしまう。先ほどちらっと見えた鞄にはボールがあと3つあった。うち2つはチルドとポワニのものだろう。残りの1つが何か、気になりせかすように聞いてしまった。
「あー、それがね。逃げられちゃってて……」
「逃げられたのか……」
「可哀想なものを見る目で見ないで?」
先ほどの仕返しである。
「いつの間にか2匹いなくなっちゃっててね。どこに行ったんだか」
「え、2匹も?」
逃げられ過ぎじゃないだろうかそれは。
「うん。だからこの3つのボールはどれもからっぽ」
「チルドとポワニのかと思ってた」
「チルドとポワニは実際はボールに入れたことがないの。いつの間にかよくついてくるようになっててね」
と言うことはチルドとポワニはある意味野生のポケモンである。まぁ横から盗むように捕まえる、なんてことはする気はないが、なんとも不安な話だ。
「ん? 2匹に逃げられて、3つともからっぽって……あと1つは何か捕まえるつもりなのか?」
「いや? そんなつもりはないけど。このボールもおばあちゃんから譲り受けたもので、たぶんあと1匹はおばあちゃんから逃げたんじゃない?」
「逃げられる血筋なんすね……」
「うっさい」
ということはホオカノの正式な手持ちは1匹のみ。アローラキュウコンだけである。
とはいっても、キュウコンの堂々とした姿や年季の入ってそうな毛並みから、手持ちのポケモンが束になってかかっても勝てる想像がつかない。
しかも、場に出てからずっと睨まれている。キュウコンに。そのせいでずっと落ち着かない。何か悪いことをしてしまっていたのだろうか。それともホオカノへ馴れ馴れしくしている姿が気に食わないとかだろうか。
「と、とりあえずボールに戻すか。このままだと大所帯すぎるし」
「わかったわ」
そう提案してポケモンたちをボールに戻す。せんふうだけ少し嫌がるそぶりを見せた。ここに来てから妙に気難しくなっているようだ。
だがボールに入っていてもらう。不機嫌っぽいからなおさらだ。
「あー、そういやこいつらは残っちゃうのか」
「まぁねぇ」
ボールに入れられていない、チルドとポワニだけが残った。
「ま、気にせずいこ。それじゃ早速村を案内したげるね!」
「あ、はい。って言っても案内するほど広くなくない?」
「入ったらダメな場所とかあるし、それくらいは知っておいたほうがいいでしょ?」
「そんな長居するつもりはないんだけど……」
入ったらダメな場所。やはりなんらかの風習的なもので、立ち入りを禁止されている神聖な場所、とかあるのだろうか。そう言った場所は少しだけ興味が出てしまう。
外から見る分なら構わないだろうし、案内に従うことにした。
案内は予想以上に長かった。
と言うのも村の中だと会う人会う人色々と構ってくる。村の外の様子を尋ねてきたり、ホオカノと仲を揶揄われたり、ただの畑仕事の愚痴だったり、ポケモンについて聞かれることもあった。
そのどれもに対応しているとあっという間に時間が過ぎていった。
「んでここが立ち入ったらダメな場所」
「ここ?」
そう言われて見せられたのはただの森である。森の中に一本、全く整えられていない細い道がある。特に神社とか鳥居とか、神聖なモノ、みたいなシンボルはない。一見すると完全にただの森だ。
「なんで立ち入り禁止なんだ?」
「危険だから。入ったら絶対ダメな場所だよ。……一度誤って入ってしまった人がいたんだけど、帰ってこなかったんだ」
一種のホラースポットになりえそうだ。
その森を見上げると、遠くに大き目の建物が見えた。
「あそこの建物は何? この先っぽいけど」
「あれ……は……、なんだったかな。忘れちゃった。けど立ち入り禁止だからね。この先は。ほんっとうに危険なんだから」
「はぁ」
なんらかの都市伝説とかがありそうだ。都市というより村だし、村伝説だろうか。そんなありていもないことを考える。
「これで一通り案内はすんだかな。もうすっかり遅くなっちゃったね」
「そだなー」
「それじゃ帰ろっか」
「ゲンさんの家へ……」
今日も結局この村で過ごすことになりそうだ。
ゲンさんがいつ帰ってくるかわからないという不安を除けば、居心地はよく感じるので別にいいことだが。
ゲンさんの家に到着し、そこでホオカノと別れる。
いなくなった途端に静寂を感じた。一日中一緒にいたせいである。そしてこの村の夜は本当に静かだ。まるで生き物一匹もいないかのような静けさ。時折聞こえてくるチルドの鳴き声が本気で怖いけど、それ以外は静かなものだ。
それにしても、キュウコンに睨まれてた時はそれはそれで怖かったが、やっぱり不気味さで言えばゴーストタイプの方がはるかに強い。
案内をしてもらってる最中、ずっと後ろに着いてきていたチルドの目線を思いだすと自然と身震いしてしまった。
「じゅうべい」
なんとなくユンゲラーのじゅうべいを呼び出す。
ゴーストタイプにはエスパータイプだ。戦闘するわけではないが、オカルト現象には強そうなじゅうべいと今夜は一緒に寝たい。怖いわけではないのだ。
じゅうべいは特にやることがないと悟ったのか、部屋の壁に座ってもたれかかった。
カロリーメイトを取りだし、じゅうべいと分けながら携帯電話を見る。やはり圏外のままだ。
なんとも暇である。眠いわけではないがやることがない。
駄目元で小型テレビの電源を入れる。電波の受信ができないのだ。どうせ何も映らないだろう。そう思っていた。
『───らない……』
「うひぃ!?」
無駄だと思っていたのになんらかの電波を受信できているようだ。途切れ途切れに音が入る。ちょっと怖かったため、情けない声をあげてしまった。
『え? 今───が聞こ───』
テレビから聞こえてくる声は、どこか聞き覚えのある声だ。
それもよく聞く声。日常生活で聞く声だ。
「じゅうべい?」
じゅうべいが隣までやってきてテレビに手をかざす。すると先ほどまで画面は真っ暗だったテレビに映像が入った。それと同時に音声も明瞭になる。
「ほぇ?」
『やっぱり聞こえた! 今すっごい間抜けなお兄ちゃんの声が!!』
「え、どうなってんのこれ」
『ジョージすごい! 天才!』
テレビに映っているのは妹と妹のポケモン、ユンゲラーのジョージだ。そしてその背景も見慣れた自宅である。ゲンさんの家ではない。
「じゅうべいのおかげか?」
じゅうべいとジョージ。ユンゲラー同士、エスパー同士でなんらかの超能力でテレビ電話のようなことをしたのだろうか。
『あ、じゅうべいも手伝ってくれてたの? ありがとうって伝えておいてって聞こえるかな』
「あ、ああ、聞こえてる聞こえてる」
『それより今どこにいるの!? お母さんすごい怒ってるよ!? あたしまで怒られたんだけど!!』
「まじかー」
帰りたくなくなる情報が入ってきた。明日帰る予定だったのに、というかほんの数日くらい許してほしいものである。
「過保護すぎね? まだ二日程度なのに」
『え? 何言ってんの。もう3週間だよ! 連絡もなしに3週間はさすがに誤魔化せないから!』
「は? いや二日しか……」
『ひょっとして何か事故にでもあって気を失ってたとかベタな展開? もういいよ、それで今どこなの!』
「いや、事故なんてあってないけど、えっと……どこだここ?」
『え……迷子?』
「あ、いや。そういや村の名前聞いてないなって思って」
すっかり村の名前を聞くのを忘れていた。とはいえフワライドで飛んでいける距離だ。それほど遠くはないと思う。オニドリルのへいはちが戻ってきたらひとっとびで戻れるはずだ。
「っていうかそっちにへいはち戻ってない? あいつどっか飛んで逃げてったんだけど」
『はあ? 何したのいったい……こっちには来てないけど』
「いや、出したら一目散に飛んでったんだよ。それから戻ってきてない」
『……』
「そんな考える人のポーズするほど思うことあった?」
『え? こっちの画面見えてるの?』
「ああ、ばっちし。もしかしてこっちのは見えてない?」
『うん。全然見えない。画面がずっと真っ黒のまま』
これはジョージとじゅうべいの、エスパータイプとしての技術の差とかだろうか。
ちょっとだけ誇らしげになってしまう。
『あー、とりあえず迎えに行くから。なんて村か今から聞いてきて』
「お、おう」
まだ夜分遅くというような時間ではないだろう。もうちょっと遅ければまた明日にしようと思うが、呆れと怒りの混ざった妹の指令に従うことにした。
しかし外に出て感じる静寂さと暗闇。ちょっと怖い。
そう思い、じゅうべいにもついてきてもらうことに。そして一緒に小型テレビも。
『月明り以外一切ない真っ暗って、そんなド田舎まだ残ってるんだね』
「お前の声普通に村中に聞こえるからそういうこと言うのやめような?」
不気味な怖さとは無縁になれる声だが、逆に村の人から怒られかねないという怖さを感じてしまう。
『ていうかまだ日が暮れて早いよ? 電気とかないの?』
「いや、あるよ。さっきまでつけてたし」
『じゃあ別に真っ暗じゃなくない?』
「いや、それが真っ暗で……え……?」
言われてから気づいた。
月明かりを除いたら、いくらなんでも暗すぎないだろうか。ゲンさんの家は電気をつけっぱなしだから明りが漏れている。だが他の家からは一切明りが出ていない。
早寝早起きというには、どの家もきっちりしすぎている。ホオカノと別れる前に通った時はまだ普通に出歩いていたりした。帰って夕飯を食べて、そしてすぐ寝るにしてもすべての家がそうなるだろうか。
『どうしたの?』
「……あ、いや。どの家ももう電気消しててどうしようかと」
『はっや……どっかに看板とかないの? 村の名前書いてあるような』
「あー、まぁ小さい村だしちょっと探してみるわ」
『気を付けてね? なんかその村、変だよ』
怖いことを言わないでほしい。
ただ単に、どの家も早寝早起きがきっちりしてるだけだ。昼間会話した分を思い出しても変な人などいなかった。どの人も顔がどんなのだったか思い出せないが。
「……」
『お兄ちゃん、大丈夫?』
「ああ、大丈夫大丈夫」
『こっちは映像見えないからさ。声がなかったら本当に繋がってるか不安になるんだけど』
「……お前って意外にブラコン?」
『普通に考えて3週間も行方不明だった兄が、不気味な村にいるとか不安になってもおかしくないと思うんですけど』
「あ、はい」
妹の中ではもうこの村は完全にマイナスイメージのようだ。
電波は通じない。夜は完全に暗闇、無音。
じゅうべいとジョージがいなかったら未だに連絡つかずだったし、仕方のないことかもしれない。
村の外側を歩いて10分ほどしたころ、それらしき看板が見えた。
「あ、あったあった。えっと村の名前、は……」
『なになに』
「ポンニタイコタン……? なんか聞いたことあるような……変な名前」
『……本当にそれであってるの? 冗談とかだったら笑えないんだけど』
「冗談ってなんだよ。これであってるから」
なんとも変わった名前の村だ。変な名前の村として記憶に残りそうな印象を受ける。それでどこか聞き覚えがあるように感じたのだろうか。
『……その村、本当に人がいるの?』
「なんだその質問」
『いいから』
「そりゃ当然いるっての」
それから少し間があった。
とりあえず村の名前もわかったことだし、迎えが来るまでゲンさんの家に戻ることにする。そういえば、もしも今から迎えが来たらホオカノにお別れの挨拶が出来ない。いや、またここに来たらいいだけか。
そんな考え事をしながら夜道を歩いたせいか、見覚えのない通りを選んでしまった。
見覚えのないと言っても小さな村だ。いくら暗くても迷うことはない。
引き返さずに進むと、道の横に2つ、お墓があった。
「……変なところにお墓があるんだな」
『………お墓?』
「うん。墓所でもないのに無造作に墓っぽいのが。なんというか、こんな暗い中で見ると不気味さがやばい」
『すぐに村から出て』
「へょ」
突然出ていけ発言が来るとびくっとする。それが幽霊とかでなく妹からという奇妙な事態。少し変な声が出てしまった。
一応周囲をキョロキョロと見渡す。見えるのはじゅうべいと2つのお墓だけだ。お墓はとても簡素なもので、墓石で出来たものでなく、丸石と木の札が立てられているものだ。木の札の部分には何が書いてあるが、掠れていて読めなかった。
「へいはちがいないし迎えがほしいんだけど。せんふうじゃ帰るの難しいしさ」
『その村に人なんているはずないよ……絶対そこヤバイって……とにかく出て』
「な、なんだよビビらせるのやめろよ」
『いいから! そこは───』
突然テレビの音が途切れたと同時に、悲鳴のような音が聞こえてきた。
この音は何度も聞いたボクレーの、チルドの鳴き声だ。
テレビの途切れるタイミングと鳴き声の聞こえてきたタイミングがかみ合い過ぎてとんでもなく怖く感じた。
「……なんだ、チルド……か」
暗闇の中、赤みがかった双眼でこちらを見つめるチルドはそばまでやってきた。チルドのほかは誰もいない。
「またホオカノのところから逃げてきたのか?」
特にチルドは応えない。もっとも、その悲鳴のような鳴き声では何を言ってるか全くわからないので返事をされてもどうしようもないが。
そばまでやってきたチルドは、次にお墓に目を向けた。
ゴーストタイプとしてお墓には思い入れでもあるのだろうか。しばらくじっとお墓を見つめていた。
そして今度は小さく鳴き声をあげる。相変わらずの悲鳴のような声だ。そして道の先へ行き、振り返った。
「……?」
よくわからないで見ていると、また小さく鳴きこちらを見ている。今度は寄ってこない。
こちらから歩み寄ると、再び道の先へ行き出した。そして距離があくとまた振り返り、小さく鳴いた。
「ついてこいってことか?」
チルドは特に肯定するわけでもなく、近づいたぶんだけまた進み始めた。
どうしたものか、と悩んでしまう。
このままチルドについていくか。何を考えているかわからないし、正直怖い。ゴーストタイプのポケモン、それも人に慣れているとはいえチルドは野生のポケモンだ。突然襲われたり、もしかしたら罠だったりするかもしれない。
いっそ無視してゲンさんの家に戻ろうか。それが一番のように思えるが、ゴーストタイプを無視して祟られたらなんて考えるとそれも怖い。
ちらりとじゅうべいを盗み見る。じゅうべいはユンゲラー。つまりエスパータイプだ。ゴーストには強いはず。
だからきっと大丈夫。そう思い、チルドについていくことにした。