うちの母港は確率がおかしいと思うんだ   作:出口のない周回

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戦闘力がおかしい

 どうやら、本日中の救助は望めなさそうだ。

 今にも水平線の向こう側へと沈もうとしている茜色の太陽を眺める私は、釣糸を海へと足らしながらそう思った。

 

 昼頃に釣った魚達は昼食として全て食べてしまったので、現在もこうして釣りと水平線を眺める作業を続けているわけだが、未だに船らしき影はひとつも発見できていない。

 おまけに、日が沈むにつれて釣れる魚の量も少なくなってきた。

 おそらく小一時間ほど、釣糸を海に垂らしているだけの状況が続いている。

 

 

 傍らのバケツを覗きこむと、昼食後に少しばかり釣れたこれもまた小ぶりな魚が数匹泳いでいる姿があった。

 バケツを挟んで隣のエルドリッジも私と同じように中を覗きこんでいた。

 

 まあ、今日はこれでも足りるだろう。

 それよりも、日が完全に暮れてしまう前に寝床の確保をしなければ。

 

 

 

 そう思い引き上げようとした所で、釣竿に重みがかかった。

 手元にかかる中々の重みから考えると、最後にかかった獲物はそれなりに大物かもしれない。

 実際には地面や岩場に引っ掛かっているだけの可能性もあるが少しばかりの期待を抱いて釣竿を引いた。

 

 

 釣り上げたのは魚ではなかった。

 

 グラーフ・ツェッペリンやプリンツ・オイゲン等、鉄血の艦船達がよく連れている鋭い牙を持った、小さな船のような何か。たしか、『生体兵器』と呼ばれていたようなもの。

 ソレが釣糸の先に噛みつくようにぶら下がっていた。

 野生で生息しているものだったのか。まず、最初に私が思ったのはそんなことだった。

 

 

 とりあえず絡み付いている釣糸を外してやると、手足と呼べるかもわからないようなモノでよちよちと歩き、じゃれるようにすり寄ってきた。そしてしばらくすると、私の膝の上に収まった。

 

 ごつごつとしているが、こうして見ると犬や猫みたいで少し愛らしいのかもしれない。

 しかし、見れば見るほどグラーフ・ツェッペリンが連れているアレによく似ている。

 

 

 皆は元気にしているだろうか。

 たった1日程度しか経過してはいないが、生体兵器の姿に懐かしさを覚えた私は、そう呟いた。

 

 思いふけるように、方角があっているかもわからないが、水平線の向こう側を見るように海を眺める。

 

 キラキラと夕焼けの色を反射する水面が目に眩しい。

 

「懐かしむかのような視線の先、海の果てへと沈む夕日。光と闇の境界線、あるいは光と共に過ぎ去りしものが過去か。愛する人よ。一体、水平線の向こう側に何を望むというのだろうか」

 

 エルドリッジが居る方向とは反対側から、突如として声が聞こえた。

 そちらへと視線を向けると、私の隣に並ぶように腰かけているZ46と目が合った。

 

 何故、ここにZ46が。

 これは幻覚か。考えられるとすれば、極度のストレスにより引き起こされたのだろう。

 

 Z46と目が合ったと同時に、先ほどまで私の膝の上に落ち着いていた生体兵器が立ち上がり、よちよちと歩き始めた。

 

 その進む先へ目をやれば、そこにはソレを抱え上げるグラーフ・ツェッペリンの姿。そしてその後ろに続くプリンツ・オイゲンやZ1等の鉄血艦船達。

 

「──卿よ。随分と待たせてしまったが、我ら鉄血はここに集結した。さあ、我らと共に行こう」

 

 ああ。これは、そうか。

 

 彼女達は私達の救助に来てくれたのだろう。

 

 おそらくは私自身が先日その存在を知った、執務室に仕掛けてあるカメラにより異常を察知したウォースパイトが、すぐさま救助隊を派遣してくれたのだろう。

 

 流石はウォースパイトだ。とても頼りになる。

 

 どうやって場所がわかったのか、なんてそんな細かい事はどうだって良いだろう。これで助かったのだから。

 

 私は立ち上がり、エルドリッジの手をとりグラーフ・ツェッペリン達の元へ足を運ぼうとした。

 

「──待つんだ、指揮官。私と共に行こう」

 

 響き渡るような鷹の鳴き声と共に背後からかけられたそんな言葉。

 振り返るとそこには、潮風に髪を靡かせる我が母港最高戦力エンタープライズの姿があった。

 

 どうやら、エンタープライズまで私を探しに来てくれたらしい。ありがたいことだが、母港の守りは問題ないのだろうか。

 現在この場所には、母港に所属している鉄血艦船全員とエンタープライズ、そしてエルドリッジが居ることになる。

 無人島から帰還したら母港が半壊滅状態だった。など。

 洒落にもならない。

 

「──邪魔をしてくれるな。これは我ら鉄血の問題だ」

 

 そう言ったグラーフ・ツェッペリンはエンタープライズを強く睨み付ける。

 何故だろうか。気が付けば、私達を挟むような形でエンタープライズと鉄血艦隊の睨み合いが始まってしまった。

 

 何か危険な空気を私の第六感とも言えるような何かが感じ取ったので、共に居たエルドリッジを抱える。

 その際、すぐ隣にいたZ46がよじ登ってきたので、現在の私はエルドリッジを抱えながらZ46を背負っているような状態だ。

 

「ご主人様、御迎えに上がりました。陛下がお待ちになっておいでです」

 

 そんな私の耳元で囁かれた言葉。

 

 

 声の主であるベルファストが示す先には巨大な戦艦。そして甲板に剣を突き立てて、堂々とした佇まいで風を受けるウォースパイトの姿。

 その背後には、それこそが玉座であると誰もが理解できるかのように華美な装飾が施された椅子。そしてそこにふんぞり返るように腰かけるのはロイヤル艦隊の総大将、クイーンエリザベス。

 

「このエリザベス様が直々に迎えに来てあげたのよ! 感謝しなさい! ……ウォースパイト! そこに立ったら下僕に私の高貴な姿が見えないじゃない!」

 

「申し訳ありません、陛下」

 

「ふふん、わかればいいのよ! ……って、早く横にずれなさい!」

 

 突如として現れた。と、そう表現するしかないほどに突拍子もなく現れたロイヤル艦隊。

 沈み行く太陽を背に、目映いほどに輝く彼女達の姿はまさに王家の威光と評するに相応しい。

 

 彼女達の威風堂々としたその姿に人々は希望を抱き、そして彼女達を誇りに思うのだろう。

 

 

 

 いや、ここにロイヤル艦隊までもが集結してしまったということは。母港の防衛網が普段と比較して半減している状態であるわけだ。

 それは最悪の場合、人類の最終防衛ラインである我らが母港の壊滅に繋がり。つまりは人類の敗北に等しい状況となる。

 他の指揮官は存在しているはずであるが、その姿をこの海上で確認した事が一度もない以上、そう考えておいて支障はないだろう。

 

 

 ついさきほども頭に浮かんだ光景が、やや現実味を帯び始めた。

 その実感に少しばかり肌がざわついたと同時に、この身に訪れた浮遊感。

 

 気が付けば、ウォースパイト達ロイヤル艦隊がすぐ側にいた。

 

 場所が変わったにも関わらず、私の傍らにはさきほどと変わらずベルファストが立っていたので、おそらく彼女によってここへ移動させられたのだと思われる。

 全体を俯瞰できるこの場へ移動させられたのは良いことだろう。この位置は皆をまとめ直ちに帰投行動へと移す事の可能な、現在の状況に適した立ち位置だ。

 

 あるいは、聡明なウォースパイトの事だ。そこまで考えた上で私をここに移動させるように指示を出してくれたのだろう。

 頼りになる秘書艦だ。それこそ、私には勿体ないほどに。

 

「安心して、指揮官は私が守るわ」

 

 皆に指示を出す前に、まずはウォースパイトへ声をかけようとしたが返ってきたのはそんな言葉。

 つまり、どういうことだろうか。

 

 いや、ああ。そうか。

 

 周辺の警戒は自分達に任せて、全体の指揮に専念してくれ、とそう言ってくれているわけだ。

 

 私は、懐からスマートフォンによく似た薄っぺらい板状のものを取り出し、それを起動する。

 すると私の近くにスピーカーを持って宙に浮かぶ、饅頭と呼ばれるヒヨコが現れた。

 

『──全艦隊に次ぐ。これより我々は、我らが母港へ向けて帰投する。各自隊列を組み、警戒態勢をとりつつ可能なものは索敵を行え』

 

 手元の端末へ向けた声が饅頭の持つスピーカーより発せられ、周囲に響いた。

 その声に、何やら言い争いをしているような状態であった鉄血艦隊やエンタープライズらも即座に動き始める。

 私からの指示に思考を即刻切り替えて行動に移す事のできる彼女達は、やはり素晴らしい部下達だ。

 

 各々が配置についた事を確認し、私はウォースパイトに現状の確認を行う。

 彼女は少しばかり戸惑ったような顔を浮かべた。

 そう、言うなれば『間違っているわけではないが、何か思っていたものと違う時』に私は今の彼女と同じ表情を浮かべるだろう。まあ、そんな顔だ。

 彼女が実際にそう思っているのかはわからないが。

 

 しかし、流石はウォースパイトと言うべきだろうか。そんな戸惑いを見せたのもほんの一瞬で、その次の瞬間にはすらすらと淀みなく情報を並べ立てていく。

 

 母港とこことの座標や位置関係は把握済み。

 ウォースパイトが把握している範囲で母港に残っているはずの戦力はエンタープライズ以外のユニオン艦隊、重桜艦隊、そしてロイヤル艦隊の約半数。

 母港からこちらへ向かう途中に敵影はなし。

 

 以上が、ウォースパイトより得られた大まかな情報だ。

 

「……索敵を行いつつ可能な範囲の最高速度で母港へ向かうならば、おおよそどれくらいの時間がかかるだろうか?」

 

「何もなく、順調に進んだとしても一時間半以上。これから暗くなって視界が悪くなることも含めると……、最低でも二時間は考えておくべきよ」

 

 最低でも二時間、となるとたどり着く頃にはウォースパイト達が母港を出てから少なくとも三時間以上が経過しているわけだ。

 

「……仔細承知した。では、細かな指揮は私よりも現場に慣れているであろう貴女に任せたい。もちろん、敵との遭遇や想定外の問題が起こった場合には私が出させてもらう」

 

「……ええ。私に任せて、指揮官は休んでいると良いわ」

 

 ウォースパイトは少しの間を置いて、いつものように品位のある態度で頷いた。

 

 

 ──母港に残っている者達が無事だと良いのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もう。高雄ちゃんってば、いつまでそうしてるつもり?」

 

 母港内に設けられた重桜区画。その内に存在する施設、鍛練場。

 重桜の領内によく見られる、畳の敷き詰められた床に木製の壁。壁には『明鏡止水』と筆で書かれた何やら趣のようなものを感じられる掛け軸がかけられ、微かに揺れることもなく静止している。何処かの道場と思えるような内装。

 ここで行われるのは砲撃や雷撃等の戦闘訓練ではなく、精神統一などの内面的な鍛練が主である。それ故に、ここには普段あまり人が訪れることはない。

 

 しかし、現在そんな鍛練場に二人の人影があった。

 二人の内、先ほど声を発したのは重桜艦隊所属、重巡洋艦の愛宕。

 そして、畳の上で座禅を組み静止している同じく重巡洋艦の高雄。先の愛宕の姉妹艦だ。

 両名共にこの鍛練場にはよく姿を現している。謂わば、ここの常連である。

 故に、彼女達がここに居ること。それ自体は特に珍しくもなんともない光景だ。

 

「……拙者とて、指揮官殿が約束を違えるような人ではないと理解している。おそらく、何かやむを得ない事情があったのだろう。……しかし、だ。少しだけ、こうさせてくれ」

 

「高雄ちゃん……」

 

 

 彼女達は本日の昼下がり頃に、この鍛練場にて指揮官と共に鍛練をして過ごす約束をおよそ一週間ほど前から取り付けていた。

 久々に取れた指揮官との時間であるため彼女達は楽しみにしていたが、約束の時間に指揮官が姿を現す事は無く、彼女達は落ち込んだ。

 愛宕は心の中で納得し、落ち着いてその状況を飲み込んだ。

 高雄も同じく納得し、理解しているのだが、精神を落ち着けるためと称してこの場に留まっている。端的に言うなれば幼子によく見られる『拗ねている』状態である。

 

 彼女達は鍛えられて研ぎ澄まされたその感覚により『気』を探知する事を可能として、指揮官の居場所を常に把握しているため、指揮官がここより遠く離れた場所に居るという事は当然知っていた。

 しかし約束の時間から日が沈みかけている現在まで高雄は鍛練場にて微動だにせず、それに付き添っていた愛宕も指揮官が離れている理由は知らない。

 

「そんなこと言って何時間も拗ねてる悪い子は誰かしらぁ~?」

 

「ぅひゃあ! ふふっ、ひひゃ! なっ、何をする愛宕!」

 

 瞳を閉ざして座禅を組む高雄の背後から愛宕が飛びかかり、何処とは言わないが高雄の持つ豊満なモノを弄る。

 高雄の発した艶かしい声が、静かな鍛練場に響いた。

 

「……ふふっ。高雄ちゃん、やっと笑った」

 

 跳び跳ねるように立ち上がった高雄にやや涙目で睨まれた愛宕は、ふわりと柔らかな微笑みを浮かべて立ち上がる。

 そして軽く自身の服を払い、身を整えると高雄の手を自身の両手で優しく包み込んだ。

 

「指揮官が遠方からこっちに向かっていること、高雄ちゃんも気付いてるはずよ。ちゃんと笑顔で迎えてあげないと。ね?」

 

「愛宕……。ああ、そうだな」

 

「──それじゃあ早速、海岸の方に向かいましょう。帰ってくる場所が壊されてたら、指揮官も悲しんじゃうわ」

 

「何を言っ──! うわぁ! 何をそんなに急いでいるんだ愛宕?!」

 

 早歩きで進み始めた愛宕に半ば引っ張られるような形で鍛練場を出た高雄は急ぐ様子の愛宕に疑問を抱きつつ、彼女に着いていくよう足を進めていた。

 やがて愛宕の言葉の意味に気付いた高雄は気を張り巡らせ、この母港全域に留まらず、外に出ている他の艦達を含む全ての位置関係を把握。

 そしてその頃には、高雄と愛宕は横に並ぶような状態で海岸へと向けて走っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 先ほどまで、水平線からほんの少しだけ顔を覗かせていた太陽はついに沈み、全てを飲み込むかのような闇が世界を覆う。

 そんな海上を埋め尽くす赤、赤、赤。

 徐々に迫りくる、赤き光を放つ黒のシルエット。その姿を見間違えるはずもなく、それは確かに人類の敵『セイレーン』が従える艦だった。

 

「──これは、あまりよろしくない状況ですわね」

 

 現在、この母港が危機的状況に置かれていることを確認した。もとい、理解させられたロイヤル艦隊達。

 その中でイラストリアスがそう呟き、ロイヤル艦隊に少しばかりの動揺の波が立った。

 全体的に見ても比較的古参であり、それなりに上の立場である彼女の言葉ともなれば当然であろう。

 

 普段ならば、イラストリアスも自身の立場を理解しているため、今回のようにネガティブな言葉を口に出す事はほとんどない。

 だからこそ、現在の状況がどれほど悪いのかを彼女の言葉から読み取れる。

 

「そう、悲観的な言葉をあまり口に出してはいけないよ。……他のユニオンのみんなはどっか行っちゃってる人が多いけど、私達も協力するからさ。指揮官達が戻ってくるまで頑張ろうよ!」

 

 そう明るい雰囲気で言ったのはクリーブランド。背後には姉妹艦を連れている。

 彼女達クリーブランド級の艦船もロイヤル艦隊と同じく、母港の防衛のために残った者達であった。

 彼女達以外に残っているユニオン艦達も少しはこの埠頭にその姿を見られるが、やはり大半は居ないようだ。

 おそらくは、指揮官の捜索に向かったのだろう。

 重桜に所属する者達も大半は行方知れずであるが、理由はユニオンの者達と同じであると推測できる。

 

 敵勢力に目を向けると、ピュリファイアーやテスター等の『上位個体』と呼ばれるセイレーンの姿が、無数の赤と黒を越えた向こう側にうっすらと見えている。

 彼我の戦力差は圧倒的なまでにかけ離れていた。

 そんな絶望的状況にこの戦力で当たるなど、結果を見るまでもなく敗北が訪れると誰であろうと理解できる。

 それ故に、クリーブランド率いるユニオンの少数が加わった所でロイヤル艦隊、ひいては現存戦力全体の士気が上がるはずもない。

 

 こちらのコンディションが悪いために、相手が待ってくれるなど。当然、戦争にそんな話はなく。

 このまま進めば、依然として距離を詰めてくるセイレーン等と無し崩し的に衝突し、開戦。そんな流れが予想される。

 

「指揮官が戻ってくるまで、か──。別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう? 誇り高き戦士達よ! 沈まぬ太陽の威光を存分に刻みつけてやろうぞ!」

 

 そんな暗い雰囲気が漂う中、覇気の籠った言葉を口にしたのはキング・ジョージ五世。

 そして普段は腰に吊るされているサーベルを抜き放つと、天高く掲げ、セイレーンへとその鋒を向けた。

 

 ロイヤルの中でも高位の立場である彼女の鼓舞に、ロイヤル艦達は心を奮い立たせ、その波は他の艦へと広がっていく。

 

「ユニコーン、頑張る……!」

 

「指揮官のために、一緒にがんばりましょう!」

 

「……指揮官のため。……みんなのため。ラフィーはもう一度、鬼になる……」

 

「綾波、みんなを守るのです」

 

 各々が強い意志を込めた言葉を口に出し、戦闘態勢を整えていく中を二つの影が駆け抜けた。

 

「──すまないが、ここは拙者達に任せてもらおう」

 

「──ごめんなさいね。私も高雄ちゃんも、ちょーっとだけ、気が立ってるの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは……」

 

 あれから真っ暗な海上を進んで暫く経ち、水平線の辺りに母港の存在を示す明かりが見えてきた頃。

 セイレーンとの遭遇戦やこれと言ったトラブルもなく、順調に進んできた私達はやや油断していたのだろう。

 気が付けば、周囲を囲むように位置する謎の陰。

 もはや間に合わないと思いつつも、全艦に戦闘態勢へ移るよう伝達した所で私達はそれの正体に気付いた。

 

 なんと、私達を取り囲んでいた陰は全てセイレーンが従える艦の残骸であった。それも、一太刀の下に両断されたものばかり。

 目を凝らして辺りを見れば、無数とも思えるほどの数の、同じく一刀両断にされた残骸が浮かんでいた。

 おそらくは、私達を狙ったものではなく母港へと襲撃をかけた末に行き着いたものなのだろう。

 そしてそれは、私達が不在の間に母港に対する敵襲があったことに他ならない。

 が、私達が向かっている先である母港はとても静かなもので、火の手はおろかこれといった損壊がないように見える。それこそ、普段と何も変わらない姿で。

 

 母港や、他の者達は無事なのだろうか。

 

「……妙、だな。指揮官、あなたもそう思わないか?」

 

 エンタープライズも同じ考えに行き着いたようで、そう話を振ってきた。

 頷いて返すと、エンタープライズは話を続ける。

 

「この程度の襲撃を防ぐ事が容易いのはわかるんだが……何故だろうか」

 

「……えぇ、そうね。高雄と愛宕。戦闘に参加したのはこの二人だけ。それが少し気がかりね」

 

 すぐ近くに居たウォースパイトが話に入ってきた、のだが。

 どうやらこの二人は、私とは全く異なる点に疑問を抱いているようだ。

 私が考えている母港や他の者の安否。もとい、損害なく防衛されたことを前提とした上で話しをしているらしい。

 

 二人は時折、私に同意を求めるように視線を送ってくるが、話の腰を折るわけにもいかないのでとりあえず頷いて返しておいた。

 

「──ふ。かの両名が、何らかの気晴らしに単騎出撃を行った。そう考えればおのずと答えが出る。卿もそう思わないか?」

 

 ばたばたと、外套が風に大きく揺れる音を鳴らして私の背後に降り立ったグラーフ・ツェッペリンがそう言う。

 エンタープライズやウォースパイトも彼女の言葉に納得するように小さく何度か頷いた。

 とりあえず私も頷いておくことにする。こう言う時、無駄に前の思考を引き摺ることは推奨されない。

 つまりは、何事においても切り換えが大事だ。

 

 彼女達の話を纏めるならば『何らかの理由により気が立っていた高雄と愛宕が全てを斬り伏せた』と言うことだ。途中でピュリファイアーと思われる残骸も見かけたが。

 母港は無事なのだからと、ここで思考を停止してしまっても特に問題はないはずだが、念のためにもその『理由』へと思考を伸ばすこととする。

 

 とは言ったものの。いや、正確には思ったものの、であるが。

 まあそんな事はどうでも良く。特に心当たりはない。

 

 

 ──いや。

 

 確か、今日は彼女達との鍛練を約束していた。

 こんな事態になってしまったため、結果としては約束を反故にしたわけであるが。

 いや、まさか。そんなことがあるわけが。

 

 

 

 ────────

 ──────

 ────

 

 

 

 指揮官:艦船との約束を反故にしてしまったんだが。

 

 3D5指揮官:あっ……(察し

 

 810指揮官:駄目みたいですね……(諦感

 

 774指揮官:[ダメです]

 

 114514指揮官:多分、激おこだと思うんですけど(名推理

 

 

 

 

 ────

 ──────

 ────────

 

 

 

「──卿よ、どうかしたか? 顔色が悪いようだが」

 

 グラーフ・ツェッペリンに言われて気付いたが、確かに端末に反射して写った私の顔は、やや青かった。

 

 少しして、船が大きく揺れた。

 どうやら母港に到着し、海岸沿いに停泊したようだ。

 

「指揮官、後のことは私に任せて。貴方はゆっくり休息をとって頂戴」

 

 ウォースパイトには大丈夫だと言い、船の甲板からコンクリートの地面へ向かって跳んだ。

 数メートルほどの高低差は、まあ一般人であれば軽く骨折はするかもしれないが。指揮官であればこの程度で怪我をするはずもない。

 

「この度は、私の不注意によりこのような事態になってしまい、誠に申し訳ない。以降はこのような事が起こらないよう、努めさせてもらう」

 

 埠頭に集まっている艦船達に向けて私はそう言った。

 随分と少ないが、他の艦は各自の寮舎で休んでいるのだろうか。

 もしそうだとするならば、また後日にでも謝罪の場を設ける必要があるかもしれない。

 が、まあとりあえずは。この場に居る、母港の防衛や私の捜索に尽力してくれた者達の無事を喜ぶべきだろう。

 

 ちらりと愛宕、高雄へと視線を向けて様子を確認したが、両名共に笑顔を浮かべていた。

 おそらくは問題がないだろうと思われるが、また後ほど謝罪を行うとしよう。

 

「本来なら必要のない業務で疲労もあるだろう、各自十分に休息をとって欲しい。では、ご苦労だった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──指揮官殿。拙者達に話とは?」

 

「──ああ。まずは、こんな時間に呼び出したことを謝罪しよう。すまない」

 

 あれからウォースパイトと共に事後処理や、他に私の

捜索へと散って行った者達を戻す手配等々を行った。

 そして時間が過ぎ、皆が寝静まるであろう頃に高雄と愛宕の二人は執務室に姿を現した。

 解散した後に二人に声をかけておいたのだ。

 

「そして、本題についてだが。本日の、貴女方二人との約束を反故にしてしまったことを謝罪したい。私に可能なことであれば、出来うる限りの埋め合わせはさせてもらう」

 

 やはりやむを得ない事情があるとは言え、約束を破ってしまった以上は謝罪を行うべきだろう。

 人として、上に立つ者として、当然のことだ。

 

 二人の反応としては、まあ。私がそう思いたいだけかもしれないが、そう悪いものでも無かったように思える。

 『出来うる限りの埋め合わせ』の所で若干の寒気を感じたが、まあ気のせいだろう。あるいは、風邪でも引いてしまったか。

 

「拙者としては、また共に鍛練を──!」

 

「え、えっと。そうだわ! お姉さん達と指揮官で一日デートしましょう! 日にちは指揮官の都合の良い日で大丈夫よ!」

 

 高雄が話している途中で愛宕が彼女の口をその手でふさぎ、代わりにそう言った。

 高雄はやや驚いたような顔を浮かべ、愛宕を睨んでいる。

 

「……私は構わないが」

 

 愛宕は何度も頷いているので、問題はないだろう。やや息が荒いような気もするが、まあ問題なしとしておこう。

 高雄に視線を向けると、愛宕に口を抑えられた状態のまま何度か大きく首を振った。が、やがては小さく頷いて目を伏せた。

 

「……わかった。では、日取りはまた後ほど追って確認しよう」

 

 私のその言葉を皮切りに、愛宕は急ぐように高雄を引き摺って執務室を出ていった。

 

 彼女は『一日デート』と称していたが、つまる所、丸一日自分達に付き合えと言うことだろう。

 これは通常よりも過酷な鍛練となりそうな予感がするが、自分で起こした不始末だ。甘んじて受け入れる他ない。

 いや、むしろ思ったよりも良い結末で喜ぶべきか。

 エンタープライズの件で書いた遺書の出番は、まあまた今度だ。

 

 

 こんこん、と木製の扉を小さく叩く音。

 特に他に呼び出した者は居ないが、入室を促した。

 

「……指揮官、ごめんなさい」

 

 少しして、扉が開くことはなく。私は首を傾げた。

 その瞬間、ばちばちと、空気が弾ける音と共に目の前の空間に現れたのはエルドリッジだった。

 どうやら先ほどのノックは彼女らしい。

 

「いや、今回の事はお互いに不幸な事故だった。それで良い。災難だったな、エルドリッジ」

 

 普段ならば、ふわふわとしている彼女のアホ毛も目に見えてわかるほどに元気なく垂れ下がっており、彼女自身がしょんぼりとしていることはたしかだろう。

 そんな彼女の下まで歩み寄って、元気付けてやろうとその頭を撫でた。

 

 ああ、いや。上司に撫でられてもそれほど嬉しくはないかもしれない。

 いやしかし、彼女の場合は抱っこをせがんでくる節がある。

 問題はないだろう、そう思いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………今度は、もっと上手にする」




 (アニメの延期)嫌な事件だったね……。



 うーん。





 それはそうと、前回の感想で『水と食料はエルドリッジが用意したものではないか?』みたいなこと言ってた人いたよね。




 もうね、あなたは名探偵かとね。

 うん。

 聡明な読者方の中には気付く方もいると思ったけどさ。



 早すぎるよね。
 もうね、うん。



 すごい(本音








 あっ、そういえば。

 ここ、ヤンデレタグ付けてないんだよね。

 やっぱ付けたほうが良いかな。







 まあええわ(遠い目
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