うちの母港は確率がおかしいと思うんだ   作:出口のない周回

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確率の『裏側』がおかしい

「──今回もまた、これと言った成果は無し、か」

 

 第二艦隊へ一時的に編入する形で3-4に出撃し、同海域の敵主力艦隊にて旗艦を務める『ヒリュウ』を撃破したウォースパイトはそう呟いた。

 

 指揮官の指示によりこの海域の攻略を始めて、それなりの期間が経過している。

 しかし、未だに指揮官が見ているもの、求めているものを成果として挙げることが出来ずにいるのが現状だ。

 このまま何一つとして進まない状況が依然として続くようであれば、不甲斐ない自分達へ対して指揮官が愛想を尽かしてしまう時がいつの日か訪れてしまうのではないか。

 そんな不安に駆られ、こうして自身が現場へと出向く事も度々あるが、結果はいつもと変わらず。

 

 都合良く好転しない現実に、ウォースパイトは軽いため息を吐いた。

 

「申し訳ありません、陛下。このように不甲斐ない結果となりました事を深く──」

 

「貴女達は──いえ、私達は最善を尽くした。それは間違いなく事実よ」

 

 言葉の途中でそれを斬るように自身の声を重ねる事で、深々と頭を下げるフッドを制止したウォースパイト。

 指揮官は、この海域に何を探しているのだろうか。

 彼女の胸中にはそんな思いが渦巻いていた。

 

 この3-4と呼ばれる海域で得られる経験値はそれほど多いわけでなく、手に入れられる設計図も今の母港のレベルでわざわざ求めるような物でもない。

 果たして、新たな海域の攻略を一時的とは言え中断するほどの価値はあるのだろうか。

 

 ふと、指揮官へ疑問を持つような言葉が頭を過った事に気が付いたウォースパイトは、首を振ってそれを強く否定した。

 そして普段から指揮官に対して抱いている尊敬や他の感情を思い出し、言葉の上書きを行う。

 

 ──指揮官が、判断を誤る事などあるはずがない。

 

 事実、これまでの出撃においてただの一度も撤退をした事はなく。撃破された者も存在しない。

 そして今回の出撃も普段と一切の変わりなく、全てを見通しているかのような指揮で必要以上の消耗を起こさずに敵主力艦隊を撃破。

 それに加えて、委託任務により経験を積んだ新人の艦船達が敵戦力の低いこの海域で実戦経験を得る。その過程で彼女らが何を勘違いしたのか指揮官へ対する好意、あるいは恋慕の情を抱くのは少し頂けないが。

 

 こうして考えれば、やはり指揮官の判断は完璧なものばかりである。

 ならばこそ、この海域には何かが存在する事は確定的に明らかなのだ。

 指揮官には既に見えているモノを発見し、成果として持ち帰る事が出来ないのは、一重に自身の至らない故か。

 

 そこまでを考えた所でウォースパイトは、思考の海から現実の海上へと戻った。

 深く考えると周囲が見えなくなってしまうのは自分の悪い癖だ。と、軽く首を振った彼女は第二艦隊に属する艦船達を見渡す。

 

「──作戦目標の達成を確認。これより我ら第二艦隊は帰投する! 母港に辿り着くまで、一切の警戒を怠るな!」

 

 やや緩んだ雰囲気を再び引き締めるため、皆を奮い立たせるようにウォースパイトは叫んだ。

 その海を震わせるが如く轟いた声に、新人の艦船達はぴしっと肩肘を張り、忙しなく周囲の警戒を始めた。

 

 戦場において、気の緩みは死に繋がる。かと言って、気を張りつめすぎるのもあまり良いわけではないのだが。

 まあその辺りは、これから実戦を経験する内に学ぶ事だろう。

 

「あぁ、あぁ……! 指揮官様はこんなにまでも私の事を求めてくださる……! 今日こそ赤城は、この壁を乗り越えて指揮官様のお側へ……」

 

 不意に、どこからともなく現れた赤城がその身をよじらせてそんな言葉を呟いた。そして続け様に、人の形を模倣したような紙を飛ばした。

 赤き焔を纏い宙を舞うそれは、途中で艦載機へと変化し、飛来する。

 

 またか。

 ウォースパイトの胸中にはそんな、どこか呆れるような思いと共に、沸々とした怒りが込み上げる。

 

 ふざけるな。

 私達の。

 

 ────()()

 

「──指揮官が、貴女を求めている。そんなこと、あるはずがないに決まっているわ」

 

 怒りに脳内を支配されつつも冷静に振る舞うウォースパイトは、淡々と事実を告げるかのように平坦な声で言った。

 

Exactly(仰る通りでございます)──。陛下、こちらの処分はお任せ下さい。常日頃から慣れ──もとい、心得ておりますわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何だろうか。

 今、確率そのものを揺るがしてしまうかのような、そんな何かが起こった気がした。

 

 

 いや、私は何を言っているのだろうか。

 ふと頭に浮かんだ、突拍子もない言葉を掻き消すように私は頭を振る。

 

「どうかされましたか? 指揮官様」

 

 そんな私の様子が気になったらしいレナウンが、斜め後ろ辺りからそう声をかけてくる。

 私の顔をそっと覗き込んでいるつもりなのだろう、視界の端に彼女の顔が映った。

 問題ない事を告げると、視界に映らなくなったので元の位置へと戻ったと思われる。

 

 今日は秘書艦のウォースパイトがいない。

 出撃するとのことで、フッドと共に第二艦隊を率いて3-4へと出向いていったのだ。たしか、朝食を食べ終えて少し経った頃だったか。

 彼女の3-4への出撃自体は稀によくある事なので特に問題はないと考えているが、その理由などは全く判明していない。

 曜日が決まっているとかではなく、突発的にそう言い出すので、おそらくはストレス発散のようなものであると推測している。

 

 そんなわけで、本日予定していた委託任務は取り止め。私の背後にレナウンが憑く事となったわけだ。

 時折、彼女はそわそわとした様子を見せるが、それ以外に特に変わった事はない。

 

 

 かち、かち。と、規則正しいリズムで時を刻む秒針の音が、静かな執務室内に響き渡る。

 壁に掛けられた時計へと目を向ければ、第二艦隊が帰還する予定時刻まで後数時間である事がわかった。

 第二艦隊が帰還すれば、そこからまた仕事が発生するのだがそれまでは実質的にやる事がなく。

 

 

 端的に言うなれば、少しばかり暇である。

 

 普段ウォースパイトが居ない時。つまりお茶会の日には他の艦船が頻繁に訪れるのだが、今日はほとんど誰も来ない。

 何故だろうか。

 

 背中に突き刺さるレナウンの視線を感じつつ、頭を捻って考えたが答えは出なかった。

 

 ぼんやりと手元の書類を眺めていると、『饅頭』と呼ばれている丸々としたひよこのような生物が、机の上に置かれた書類に乗る。何処から飛んできたのだろうか。

 身振り手振りをして書類の上をぽよぽよと移動する饅頭は、どうやら何かを伝えようとしているらしい。

 つまり、饅頭の動きから推測すると。

 

 いや、さっぱりわからない。

 まあ当然と言えば当然だろう。

 こちらとしても理解できるよう、最大限の努力は惜しまないが、やはり限度と言うものがある。それが現実だ。

 

 私が軽く首を振って理解できなかったことを示すと、饅頭は悲しそうにぷるぷると震えた後、すぐ側にある書類の束を探し始めた。

 一体何を探しているのだろうか。

 

 少しして、お目当てのものが見つかったのか一枚の書類を引っ張り出してきた饅頭は、私の目につくようにそれを広げた。

 その書類には現在母港で保管している資源について書かれており。

 

 そう言えば今朝方、資金が保管上限に達したのだった。

 饅頭はそれを伝えに来てくれたらしい。

 

 私は執務机の棚に備えてある飴を礼代わりに饅頭へ渡して、立ち上がった。

 

 

 

 

「…………これは……そう。違う……と言うもの。で、ございます」

 

「指揮官にゃ?! こ、ここここれは違うのにゃ!」

 

 資金が溢れてしまう前に有用な物、パーツや装備箱等を購入しようと私はレナウンを後ろに連れてショップへと訪れた。

 私を迎えてくれるのはショップ店員を務める不知火と明石である。それは間違いない、が。

 どうやら間が悪かったらしく、二人が作業をしている最中に来てしまったようだ。

 

 普段は装備箱T3に使われている紫色の箱。その上から黄色のペンキを塗りたくっている彼女達を少しばかり眺めていると目が合った。

 中の装備を取り出した後の空になった装備箱の行く末は少しばかり気になっていた所だが、こうして再利用されていたらしい。

 限りある資源の有効活用とは、何とも素晴らしき事か。

 

 しかし。二人は先ほどからしきりに「違う」だとか、何やら取り繕うような言葉を並べているが、一体どういう意味だろうか。

 いや、今は指揮官としてすべき事を優先させるとしよう。

 

 

「…………にゃにゃ!?」

 

 作業の手伝いを申し出た私への二人の反応はまず、驚いたような表情を浮かべる事だった。

 

 二人が同じリアクションをとったかのように表現したが、そう言うわけではない。

 目をやや見開いただけの不知火に対して、体全体で驚愕を示すようにオーバーな動きをした明石。と、それぞれの性格を大まかに推察する事が可能と思えるほど、その反応には差があった。

 

「……割引は、しませんよ」

 

 驚愕のポーズのまま固まっている明石を尻目に、不知火はそう言った。

 彼女は普段から口癖のようにその言葉を使っているが、本心から言っているわけではないようで。度々、商品の割引を行っている姿が見られる。

 

 それはさておき、割引を目当てとして手伝いを申し出ているわけではないので、問題無いと伝えて指示を仰ぐ。

 先ほど見ていた限りでは黄色のペンキを塗るだけだったが、何か順序立てて作業をしなければならない可能性もあるので勝手に触れはしない。当然の事だろう。

 わけもわからないまま勝手に進めるというのは、もはや手伝いではなく単なる『邪魔』である。

 

「……し、指揮官。怒らない、のにゃ……?」

 

 固まった状態から復帰した明石はそう言ったが、資源の再利用を素晴らしいと称賛することはあれど、何処に怒る必要があると言うのだろうか。

 

 SSR装備の出現率の低さから極一部の指揮官達の間では、装備箱T3をT4と偽って販売しているのではないかと噂されている。と、そんな話を耳にしたこともあるが。

 彼女達の普段の姿を見ていれば、そのような疑惑を抱くはずもなく。彼女達は信用できると、私は言い切れる。

 

 つまりは、だ。

 

 明石、不知火の両名は普通なら誰も目を向けないような部分で資源の倹約を行って、母港に日々貢献してくれる素晴らしい部下である。

 それこそ、私には勿体ないほどに。

 

 そのままを伝えたわけではないが、概ね彼女達を称賛するような意味合いを持った言葉と共に日頃の感謝を述べる。

 すると、明石はその大きな瞳を潤ませて。ぽろぽろと、涙を溢し始めた。

 

「し、指揮官! 明石は一生、指揮官に着いていくにゃ……!」

 

 何度か自身の涙を袖で拭った彼女が言ったのはそんな言葉だった。

 

 いや、それは勘弁して頂きたい。

 ここはRPGの世界では無いのだ。

 どこに行っても後ろを着いてくるような艦船は、レナウン一人だけで手一杯だ。いや、むしろ手に余ると言えなくもない。

 

 そんな事よりもだ。

 作業の途中だったと思うのだが、こうも長い間中断してしまっても良いのだろうか。

 その後の彼女達の段取り等に響かなければ良いのだが。

 

 

「……指揮官さまはやはり、大うつけでございますね」

 

 そう言って、微かに笑った不知火の顔は普段よりも眩しく見えた。

 照明の加減によりそう見えただけだろうか。

 

 それとも、やはり女性は笑顔が一番美しいと言うことか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや、何か良い感じでまとまりそうな気もしたが。

 

 結局の所、私は何を手伝えば良いのだろうか。

 

 

 








 ドロップ率(≒赤城が艦隊を撃破して無事に母港へと辿り着く確率)
 なお母港近海にはエンタープライズ(Lv120・親愛度:ヤンデレ)が待ち構えているものとする。





 まあ、そう。

 なんか、そんな感じの話を書きたかっただけなんだ。



 うん。





 あ、そうそう。

 ここ、基本的に赤城は断片的にしか出ないんだ。


 具体的に言うなら、指揮官とは会わないんだ。




 ……持ってないからね(現実



 うん。

 仕方ないね。

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