森久保ドライブ   作:ブラチーノ

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第七回シンデレラガールズにも選ばれた売れっ子のアイドル「安部菜々」
富と名声を得ても彼女の心が満たされることはなかった。
生きていることを実感できるのは
一人で湾岸を走っている
ただその時だけ…

そして出会う
その心をひきつけて離さない
"悪魔"と呼ばれた幻のZに…

「私をこんなにも引き付ける、それはなんだ。悪魔のZ-―ッ!」

次回 フェアレディウサミンZ


走るアイドル モリクボ

「う~ん、モナコに到着。」

「…すごい、きれい。」

ここはモナコモンテカルロ 絶対に抜けない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モナコ公国

フランスとイタリアとの国境近くに位置する都市国家であり、世界で2番目に小さい国家である。

長さ 3180m

幅 1100m

そのうち5分の1以上が緑地。熱帯公園やカジノがある。

非常に手入れが行き届いていて、道路にゴミは落ちていないし、公園の噴水はいつも水を噴き上げ、花壇には季節の花がいつも咲き乱れている国。

所得税がないため、モナコ国外からほとんどの収入を得ている富裕者の多くがこの国にやってくる。

セレブの楽園である。

ラリーのほかに、F1のレース モナコGPも行われる。

日本の鈴鹿のようにサーキットで走るのではなく、モナコの町を封鎖して行う公道レースである。

 

 

ラリーについてもう一度説明しよう。

運営に指定されたコース(主に公道)でタイムアタックをする、自動車競技の一種。運転手(ドライバー)案内人(コ・ドライバー)の2名1組が競技車両(ラリーカー)に同乗する。

通常(エリゾン)区間では車線・信号・制限速度などの交通法規を守り一般車両に混じって走行し、スペシャルステージ(SS)と呼ばれる区間では道路を一時占有し、ラリーカーのみでタイムの速さや運転の正確性を競う。

そのラリーの世界選手権がWRCである。

 

WRC第一戦ラリー・モンテカルロ

モナコ公国を中心に行われる世界ラリー選手権(WRC)の開幕戦、例年1月下旬に開催され、新年のモータースポーツシーズンの幕開けを告げるイベントである。

F1のモナコGPと同じく、モナコ自動車クラブがラリーを主催する。初開催されたのはインディ500初開催年と並び同年となる1911年で、現在行われている国際モータースポーツイベントの中でも最も古い部類に入る。

モナコのモンテカルロ地区にスタート/ゴール地点が置かれる。

初日、カジノ前の広場で出発式典が行なわれ、夜間にフランスの山岳地帯へ移動。夜にタイムアタックが行われる。

2日目3日目とアルプス山脈の険しく曲がりくねった峠道でタイムアタックを行う。

その後再びモナコへ戻り、上位60台のみが最終日のタイムアタックを行う。

 

一日目 SS1 ~SS2

二日目 SS3 ~SS8

三日目 SS9 ~SS13

四日目 SS14~SS15+スーパーSS

スーパーSSとはスタジアムなどに設置された特設の周回コースで行われるステージのことである。

森久保の出る今年のモンテカルロではモナコGPコースの一部を使用したスーパーSSが行われる。

 

 

 

 

本番二日前

「さぁロードブックもらったし、レッキの時間だいくぞ森久保。」

「ドナドナドーナドーナー」

自分専用車に、(はしゃ)いでいた森久保も本番が近づいてくると逃げ腰になり、今では屠殺場に連れていかれる子牛のような状態である。

 

レッキとはコースの下見であり、SSの詳細な情報を書き込んだペースノートの作成が行われる。

レッキ中はまだ交通規制が行われていないので道路交通法に乗っ取っらなければならない。

というわけで運転しているのは森久保Pである。 

本番では森久保P(コドライバー)がこのペースノートを読み上げドライバーに指示を送る。

森久保(ドライバー)はその情報を頼りに全開走行することとなる。

ペースノートの正確度は競技の成績を左右するだけではなく乗員の安全にも大きく関わるので、ここでしっかりしておかないとあの世にドナドナされる事態になってしまう。

「…ここの連続カーブ、直線で抜けられそうですね。ドナドナドーナー」

何気にしっかりコースを見ている森久保である。目は虚ろだが。

 

 

"森久保のペースノートの書き方"

 

ハンドルの切り角を1〜8の段階で表す。8がゆるやか、1がきつい。読み方が聞き間違いがないよう軍隊式である1(ヒト)2(フタ)3(サン)4(ヨン)5()6(ロク)7(ナナ)8(ヤー)9(キュウ)0(マル)

左コーナーは 左。右コーナーは 右と言う

カーブの長さは ショートとロングの2つ

角度が変化するカーブでは 2桁数字で言う ゆるやかからきついカーブの時は81(ヤージュウヒト)など

連続コーナーは「~から」、やや距離が開く場合は「~んでもって」

ライン取りは、イン、アウト、カット、ドントカットなど

直線の距離はメーターの後に数字、メーター500(500m直線)など

90度コーナーは「スクエアー」180度ヘアピンコーナーは「ヘアピン」

その他 橋や水たまり、岩などはそのまま。

 

 

 

 

 

 

これらは全て激しく揺れる車内で読み上げるためノートにデカデカと見やすく書く。

森久保Pと森久保はホテルに帰った後もコースの録画を何回も見直しながらペースノートを作り上げていった。

 

 

 

 

本番前日

今日は昨日作ったペースノートの確認と、本番さながらのスピードで走るシェイクダウンをする。

このシェイクダウンで車の調子や、本番に使うタイヤ選び、またラリーの出走順番が決まる。

観客もシェイクダウンを見ようと続々と集まってきており、いよいよラリーが始まるのだということを感じる。

「…ハハハ…アハハ…」

森久保は緊張のせいで眠れておらずここにきて肉体的精神的にも疲労のピークに来ていた。

ゆぅらぁりと歩くその姿はアイドルではなく新種のSCPか何かである。

シェイクダウンで事故ってリタイアは流石にまずい。

「く、車はバッチシだよぉ」

メカニックの池袋晶葉もふらふらである。今日のシェイクダウンに向けて徹夜で調整をしていたようだ。

「こんにちは、皆さんご機嫌は・・・あまりよろしくないようですね。」

「・・・フフフ・・・ハハハ」

四条と萩原が現れた。萩原の方はSCPと、なり果てていたが。

「初めまして、四条さん、森久保Pです。」

「四条貴音です。お互い事故だけは気をつけてがんばりましょう。」

「はい。・・・あの、萩原さんの方は大丈夫何ですか?」

「緊張で眠れていないようでして・・・」

「スタミナドリンクありますけど使いますか?」

「いいのですか?では言葉に甘えて・・・ほら雪歩、飲みなさい。」

「おーい森久保ォ、晶葉~、こいつを飲め~」

「「「アアアアアアア」」」ビリビリ

一体このドリンクは何からできているんだろう。

「では私たちはそろそろ時間ですので。」

「はい、頑張ってください。」

二人は青い車に乗ってスタート地点へ向かって行った。

「・・・WRX STI でしたね。」

森久保が四条達の車を見てつぶやいた。

  WRX STI

スバル インプレッサのスポーツグレードである。

ラリーの他にもニュルブルクリンク24時間レースでクラス優勝するなど、その性能は世界トップレベルである。

 

 

「Hello Nice to meet you」

「オー ハローハロー」

外人さんたちが挨拶してきた。彼らは私たちと同じ三菱のラリーチームである。三菱からは森久保含め3人のドライバーが参戦する。彼らはイギリスに本拠を置くプロのラリーチームなのだ。森久保は他の用事もあるのですべてのラリーに出場できるわけではないが、彼らはすべてのラリーに出る予定である。

『ミス モリクボ、お会いできて光栄です。』

「・・・何て言ってるんですか?」

「初めましてだってさ。」

「…初めまして、よろしくお願いします。」

外人さんたちも自分たちの準備に戻って行き、森久保たちの出走の時間が近づいてきた。

「さて俺らも行くぞ。そろそろ俺たちの順番だ。」

「・・・むぅりぃー。」

346ランエボに乗り込んでスタート地点へ向かう。

「まだ本番じゃないんだし、そんなに気張らなくていいぞ。」

「・・・ヒッヒッフーヒッヒッフー」

スタート地点に着いた。

「カウントダウン始め、15秒前」

「10秒前」

「5秒前」

「3」ブブブ

「2」ブブブ

「1」ブブブァンブァン

「GO! 右4メーター60左6から右5左7ジャンプ!」

ブォォォオオオオババンブォォォ

 

 

 

 

晶葉は観客に混じってラリーカーが走っていくのを見ていた。

最初に企業のWRカーが走り抜けていく、その後も様々なラリーカーが走り抜ける。

「あれは765の車か。」

ババババブァァァァァアアアボボボボヴァァァン

土煙を上げながらカーブから姿を現すWRX、フロントに大きく765と描かれている。道幅一杯まで膨れて立ち上がりアクセル全開、そのままドリフトで目の前のカーブを豪快にすり抜けていった。普段の四条からは想像もできない絵図である。

「そろそろ来るか。」

またエンジン音が近づいてくる。バンバンとミスファイアリングシステムの音がする。

ヴァヴァヴァブロロオオバババンボォォォオオオ

カーブから横っ飛びで出てきたラリーカー、緑と白と346のマーク、間違いない森久保の車だ。カーブなのに晶葉の方向へと突っ込んでくる。

「…あれ?うわぁぁぁぁああ!!」

晶葉の目の前、道の縁で車は浮き上がりカーブを直線的にショートカット、飛び越えていった。

ワァァァアアアア!!

観客もこれには大興奮。歓声が上がる。

無事着地した車は即座に反対へ切り替えしドリフトで次のカーブを曲がっていった。

「まだシェイクダウンなんだが気合が入っているなぁ。」

自分も気合を入れ直して、明日からのラリーを戦い抜こうと決意する晶葉であった。

 

 

 

 

「右3メーター200左4カット右3ドントカット!」

森久保Pは先ほどから冷や汗が止まらない。事故ったと思った回数など数え切れない。

(この子すごい飛ばすんですけど!まだシェイクダウンなのに!)

視界の隅に晶葉が入った。道ばたからこちらを見ている。

 (ん?あれは晶葉か。見に来たんだな。)

その時である。森久保Pは浮遊感を感じた。晶葉が車の下へと消えていく。

(カーブをジャンプでショートカットしただとぉ!?晶葉の上を通り抜けたぞ今!流石に飛ばし過ぎだ。)

横の森久保を少し見る。

「   」

顔は青ざめ、目のハイライトは消え、半笑いの状態だった。

もりくぼは こんらんしている!

(駄目だ早く何とかしないと)「森久保!しっかりしろ!意識を保て!」

「むぅりぃぃぃいい」

もう止まれない。ゴールまで森久保の混乱状態が解除されることはなかった。事故らなかったのは森久保の才能なのか、それとも幸運か。

少なくとも車の調子が良好なのは確認できたため、森久保達は明日に備えてゆっくりと休息を取った。森久保は特に。

 

 

 




シェイクダウンの手を逃れた森久保を待っていたのはまた、地獄だった。タイヤの跡に棲みついた欲望と暴走。百年戦争が生み出した、フランスの街。狂騒と野心、混沌と栄光とをコンクリートミキサーにかけてぶちまけたここは、モナコのモンテカルロ。

次回、『DAY1』。来週も、森久保とラリーに付き合ってもらう。
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