ペルソナ5 オリジナルパレスもの 作:もぶ
巻きで
その日怪盗団は双葉の目覚めを待つ日々を送っていた。
リーダーのジョーカーこと雨宮蓮はXデーの前に決着をつけたいと言い、今までにないほどハイペースでのパレス攻略を行った。
そのため、まだ8月にすら入っていないというのに攻略が完了。
しかし双葉本人が自身のパレスで覚醒したことか、はたまた別の要因があるのか不明だがこんこんと眠りについたまま起きる気配がない。
取り敢えず今できることをしようと、メジエドへの対抗手段を探しながらメメントスでの依頼をしている。
「ん……?」
「おっ、新しい依頼か?」
SNSの通知にスマホを取り出すとモルガナも覗き込んできた。
『かなり切羽詰まってるみたいなんだけど……』という切り出しから始まる依頼の内容をまとめると、新興宗教にハマった母親を改心させてほしいという内容だった。
親類や友人に金を無心し新興宗教に注ぎ込むまでならともかく、ついに金欲しさに夫や子供に生命保険をかけ始めたらしい。
依頼は身の危険を感じたターゲットの娘が自ら出したようだ。
「これは……早く対処しねーとヤバイんじゃないか?」
「そうだな」
仲間にアジト集合の連絡をし、消費アイテムの補充のために診療所へと向かう。
前回の急な探索でアイテムが尽きかけていた。
改心に必要な対象の名前を確認すると足早に行動し始める。
アジトに集まった仲間達に手短にターゲットの説明をする。
金の無心だけでもやや表情が固かったが、生命保険のくだりでターゲットの目的が解ると皆すっと表情が引き締まり同意してくれた。
「よーし!全会一致だな」
「あぁ、怪盗団の腕の見せ所ってな!」
「流石に見逃せないな」
「保険金目当ての殺人だなんて許されないわ」
「うん、だから改心させちゃおう」
「行こう」
全員で渋谷に移動してメメントスに侵入し、ターゲットの位置をモルガナに探ってもらう。
道中のシャドウとの戦闘はなるべく回避し先を急いだ。
そしてついにメメントスのターゲットの存在を主張する赤黒い不吉な渦の前にたどり着いた。
「ついたぜ……ここの先にターゲットがいる」
「っしゃ、気合い入れてこうぜ!」
渦の中に飛び込むと、40後半程の女性が立っていた。
髪の毛は雑にまとめられただけで、白いシャツはわずかに黄ばみシワまみれで距離があるため臭いまでは解らないが決して清潔とは言えない。
なにやらぶつぶつと独り言を言っているターゲットへ接近する。
「エニシダ様……エニシダ様が救ってくれる。私を理解してくれる……でもエニシダ様への面会にはお金が足りない……早くお金を早く」
「だからって家族殺してまで金が欲しいのかよっ」
「エニシダ様だかなんだか知らないけど、そんなものにすがって本当にあなたが救われることなんてないわ」
「うるさいっ!うるさいうるさいうるさいうるさいっ!エニシダ様の素晴らしさがわからないこそ泥なんて死んでしまえ!」
「来るぞっ!」
シャドウが本性を表して襲いかかってきた。
しかし、メメントス攻略もパレス攻略も乗り越えてきた今の怪盗団の敵ではない。
適切に弱点をついて総攻撃をかけると、もはやターゲットは耐えられなかったのか呻き声を上げながら泣き言を繰り返した。
「エニシダ様は……私のことを見てくれた!誰も見てくれない私のことを!」
「本当に誰も見てくれなかったのか?」
ジョーカーが冷静に問いかけると、ターゲットは一瞬はっとしたような顔をして青ざめる。
続いて畳み掛ける真の言葉に、もはや抵抗の意思は完全に折られたようだった。
「旦那さんも娘さんも居るんでしょ?一度でも貴女の悩みを打ち明けてみたことはあった?」
「……う、うぅ……ごめんなさい、ごめんなさい、あなた……ゆみ……」
なぜターゲットがあそこまで追い詰められたのか、詳しい事情は解らないが消えるときの様子からして改心させることに成功したと見ていいだろう。
後は三島からの連絡を待つだけだ。
他にターゲットは居ないため、今日はもう引き返すことになった。
帰りの車内にて、フォックスがふと声をあげる。
「エニシダはもしやあのエニシダか」
「あ?お前なんか知ってんの?」
運転しているジョーカー以外の全員から視線を向けられながらも、マイペースに続けるフォックス。
「以前、怪盗お願いチャンネルで改心の依頼があったのを見たことがある。今回のメジエドからの宣告がなければエニシダはどうかと提案しようと思っていた」
「さっきの人の感じと依頼内容からして、そのエニシダって人は新興宗教の偉い人なんでしょ?」
「あぁ、ホームページを見たところ教祖らしい」
「うわ~悪の教祖とか、いかにもって感じだな」
「写真とかあるの?」
「いや、非公開だ。代わりに教団の運営をする夫婦の写真はあったが」
盛り上がる会話を横目に聞きながら、シャドウを引き倒す。
宗教には詳しくないが、そういった団体を立ち上げるような人間が顔写真を乗せないのは珍しいのではないか。
何かしらのリーダーとなるという事はある程度自己顕示欲が強そうなイメージをなんとなく持っていたが違うらしい。
そのような印象を抱くのは王を名乗ったカモシダ、金と名声を求めたマダラメ、マフィアを自称するカネシロと今までのパレスの主が軒並み主張が強かったからかもしれない。
そのエニシダはターゲット心から心酔されるような何かがあることは間違いないだろう。
ユーザーが限られる怪盗お願いチャンネルに複数上がるという事は、想像以上の被害者がいるということになる。
そこまで考えたとき、発見されそうになったシャドウをなんとか引き倒すと雑念を振り払い運転に集中した。
メメントスを出て電子機器が復活したら少し気になっていたので怪盗お願いチャンネルを開く。
あまり蓮自身が怪盗お願いチャンネルを見ることは少なかったが、もしかしたら見逃していたかもしれない相手ということもあり少し気になっていた。
「えーなになに、悪徳宗教法人幸福の輪?うわっリュージじゃねーがいかにもってかんじだな」
幸福の輪に行ってから知り合いがおかしくなった、多額の金を使い始めて借金を重ねている、何度も一緒に行こうと誘われるなど、今回のターゲットのような例は複数上がっているようだ。
しかし他のいたずらのような書き込みに紛れ、そう目立つものでもなかった。
その中の一つに毛色が違う依頼が一つある。
幸福の輪の悪魔エニシダアクトを改心させて信者達を救って欲しい
ただ一言だけの依頼。
しかし唯一違うのは具体的な人名が出てきたこと。
「エニシダアクト……?もしかして、噂の教祖様の名前か?」
「かもしれない」
裕介がホームページがあると言っていたのを思い出すと、幸福の輪で検索する。
あまりHPに長けたものが作ったものではないのが一目で解るレイアウトは、本当に些細な個人的なHPのように見える。
HP内でエニシダアクトを探すが、出てくるのは教団の管理者の縁田史夫、縁田明子の名前くらいだった。
エニシダアクトという名前が顔のない教祖のものである可能性がぐんと上がる。
「イセカイナビで検索してみるか?」
「あぁ」
イセカイナビを起動してエニシダアクトで検索してみる。
『目的地は存在しません』
無機質な音声ガイダンスがエニシダアクトのパレスがないことを告げる。
「エニシダアクトにパレスは無いのか……となるとメメントスか?」
うなるモルガナを横目にもう一度イセカイナビを立ち上げる。
「縁田史夫」
イセカイナビは反応しない。
無いともあるとも言わないナビに、直感的に足りないのかもしれないと付け足す。
「縁田明子」
『目的地が見つかりました』
「!?二人で一つのパレスってことか!?」
「そのようだ」
「みんなにも一応伝えたほうが良さそうだな」
本当にエニシダのパレスを攻略し改心させるかは別として、情報の共有だけはしたほうが良いだろう。
二人で一つのパレスという変則的な事態だ、今後も同じような事が起こる可能性がけでも視野にいれておくべきだ。
SNSを立ち上げると、明日の放課後の集合を連絡した。