『グレタ・ガルボ』・ブリッジ・・・
メイン・スクリーンに映し出されていたセシル・デミル社長の姿が消えて、特別生中継が終了した・・。
中条長官は一つ息を吐くと我に返り、とっくに火の消えたパイプから灰を灰皿に出した。
「・・しかし・・オープンチャンネルの事は聞いていましたが・・あそこまで話が進むとは・・・それに今、榎本さんが地球に降りるのは非常に危険です・・・しかも・・・」
「・・フルオープンで、宣言しちゃったしな・・・」
言いながら長官は新しい煙草をパイプに詰めて、火を点けた。
「・・しかし、黄先生・・・パミール高原での作戦までには、同盟の陽動作戦が複数予想されます・・榎本さんはそれらに対して先手を打ったのかも知れない・・・」
2回ふかしてから立ち上がり、コーヒーを淹れた。
「・・なるほど・・こちらが分散させられる前に相手を集中させてそれを叩く、ですか・・しかし自分を囮とするとは、榎本さんも大胆ですね・・・」
「・・それ以外にも効果的な側面は色々とあると思いますがね、黄先生・・この船団だって結構目立ってますから・・・そろそろ光学迷彩を掛けましょうか・・?・・」
「・・そうですね・・船団全艦に光学迷彩を展開!・・」 「・・了解・・」
「・・X タイムには、どこまで到達できますかね・・?・・」
「・・何も無ければ、X ポイントの20キロ圏内には入っている筈です・・」
ニューヨーク・ポイントA・地下4階・特別治療室・・・・
大きい丸いテーブルに両肘を突き、重ねた両手の甲に顎を乗せてジョン・グリアが席に着いていた。
彼の右手側から、ルート、リース、サミーン、デンベ、レッド、レナード、フィンチ、そしてベアーがフィンチの右下に寝そべっていた。
「・・さすがに老けたな、レッド・・肥満体質は変わらないようだが・・・」
「・・そりゃお互い様だ・・・もう真っ白じゃないか・・・」
「・・それで・・ファイルは持ってきたのか・・?・・」
「・・それは・・私から進呈しよう・・・」
レナード・コールが胸ポケットからメディアメモリを出して、ジョン・グリアの目の前に置いた。
「・・こんなものの中に入っているのか・・?・・」
「・・ああ・・だがその中にあるのは、8年前までの・・フルクラムが関与した事件だ・・・現状で探り出せるのは・・マシーンでもこれが限界だ・・・」
「・・サマリタンの機能が回復したら、それを基にフルクラムを暴露したら良い・・・サマリタンの能力なら充分に出来るはずだ・・・」
「・・なら、何故マシーンがやらない?・・マシーンはいつの間にかサマリタンより数段、機能も性能も高めた・・・マシーンがやる方がもっと効果的にできるだろう・・?・・」
「・・ジョン・・電話でも言ったが、世界の裏側のそのまた影の中には、フルクラムよりも遙かに凶悪で狡猾な秘密結社が幾つも蠢いてる・・・サマリタンを乗っ取ろうとしていたガイゾックもそうだ・・・マシーンはそいつ等とフルタイムで渡り合いながら、世界上での人助けに忙しいんだ・・・フルクラムは、君等とサマリタンに任せるよ・・・」
「・・そのガイゾックとやらは・・サマリタンの統合を諦めたのかな・・?・・」
「・・まだ確定してはいません・・・それには時間が必要です・・・」フィンチが言った。
「・・ところでジョン・・私の妹はどこにいるんだ・・?・・」
「・・ミスター・コール・・確かに私は長年君を探し続けてきた・・・静止画でも動画でも君の姿は確認していた・・・だが君の居所は要として知れなかった・・・そして、君と直に顔を合わせるのは今日が初めてだ・・・その私がどうして君の妹の居場所を知っているのかね・・?・・」
「・・デシマ・テクノロジーズがまだあった頃・・私の妹は君の第3秘書だった・・忘れたとは言わせない・・・名前は、ミランダ・コール・・・サマリタンが覚醒してデシマ・テクノロジーズが解体された当時・・・妹は潜在資産とされて・・何故か隠された・・以後の事は判らない・・・どこにいるんだ?・・ジョン・・」
「・・すまないが、分からない・・思い当たる事もない・・・」
「・・手掛かりは二つだ・・・一つは、今動いている最小限のサマリタン・・・二つ目は、あんたの胸に入っているペースメーカーにくっ付けられているメディアだ・・・」
レッドが言った。
「・・私の記憶は手掛かりにはならないな・・君の妹についての記憶も・・私の胸に入っている物についての記憶も・・無い・・調べたければ、自由に調べればいい・・」
「・・それじゃあ、どうするの・・?・・」と、サミーン。
「・・『上』に相談してみようか・・?・・医療的アプローチのテクノロジーやテクニックでも・・一番進んでいるだろうからな・・・」と、リース。
「・・『上』と言うのは・・あのステーションの事だな・・?・・マシーンとあのステーションは・・どう言う関係にあるんだ・・?・・」
「・・マシーンとステーションは・・同盟関係にあります・・今貴方にお伝えできるのは、それだけです・・・今後、ご協力によっては・・色々とお話できることもあるでしょう・・・」
ハロルド・フィンチは、ジョン・グリアの眼を真っ直ぐに見据えながら、冷静に言った。
「・・ハリー・・そろそろ時間よ・・行かないと・・・」
と、ルートがフィンチに声を掛けた。
「・・ああ・・そうだった・・申し訳ありませんが、ミーティングが始まりますので、私とリース君とグローブスさんは先に上がります・・・皆さんはご自由にお過ごし下さい・・」
『財団』中央指令室・・・・
メイン・スクリーンの映像は既に、通常の36に分割されたマルチ画面に戻っていた。
「・・シエン・ジン・グンか・・・偽名だろうが・・日本人だな・・・」
「・・実に流暢な英語でしたが・・?・・」
「・・間違いないな・・・青ヶ島に降りると言ったが、どういうつもりだろう・・?・・」
「・・さあ・・・」 「・・まさか自分を囮に陽動作戦を仕掛けようと言うのかな・・?・・」
「・・まさか・・」 「・・いや・・あり得るな・・いずれにしろ次のサロン・ミーティングで新しい方針が出されるだろう・・・資料の作成は・・?・・」
「・・順調です・・間もなくまとめあがるかと・・・しかし、彼らの科学技術力は全く驚異的なものですね・・・」
「・・ああ、それどころか、脅威的ですらあるよ・・それにしても、A C Nは何故動いたんだ・・?・・」
「・・あそこは、T Vキーステーションとしては新興の会社です・・主だったメジャー・メディアカンパニーには、それなりに根回しも締め付けも効いているとは思いますが・・新興中規模キーステーションの総てまでには、眼が行き届いてはいなかったようです・・」
「・・もう一度改めて増し締めする必要がありそうだな・・」 「・・そうですね・・」
「・・こちらのA Iに、オーブと日本も含めてS S D Oと好意的に接触しそうな国や団体が出て来るかどうかについて推測させてくれ・・それと、日本会議とオーブの5大首長会議には・・それとなく警告しよう・・オーブも日本も、裏面で持っている戦力には無視できないものがあるからな・・・」 「・・分かりました・・」
日本・岐阜県北部・高山山麓山中の極めて小さい山里・・・
ある藁葺き屋根の平屋の居間で、小さい白髪の老婆が、既に砂嵐を映し出しているだけのT Vの前に座り、湯呑を一口分傾けて傍の盆に置いた。
彼女の右後ろで、小柄な若者が右肘を突き右手で頭を支えて寝そべっている。
「・・ばあちゃん!・・久し振りにテレビが点いたと思ったら、セリフが全部英語だから全然話が見えねぇよ・・・」
「・・ふん・・お前は百話法の修得が、まだ未了じゃったな・・・赤羽直系の者なのに・・・お前もそろそろ外に出るべきなのかも知れんな・・・」
「・・あの金髪のでっかいあんちゃんがあの子を連れて来た時も、ばあちゃん同じ言葉でしゃべっていたよな・・英語じゃなかったと思うけど・・・」
「・・ギリシャ語じゃよ・・喋ったのは随分と久し振りじゃったがな・・・」
「・・俺なんかが見ても・・・あの赤ん坊・・なんか違うな・・って感じなんだよね・・・」
「・・ほう・・お前でも分かるか・・・男児とは言え赤羽の直系・・鏡に連なる者じゃな・・・」
もう一度湯呑を持った。
「・・あの子が来た時・・志乃に乳呑児がいて助かった・・・」
「・・ばあちゃん・・そろそろ『上』の人が言ってた時間だぜ・・チャンネルは7番だったよな・・マイクもセットしなきゃな・・・」
「・・そうか・・大吾・・済んだら詩織と秋穂を呼んでくれ・・それで、お前も一緒に聴いたらええ・・・」