SSDOの登場は、世界の表舞台にも裏舞台にも強いインパクトを与えた。
表のネットワークの中でも裏のネットワークの中でも、オンラインでもオフラインでも様々な情報・意見・見解・感想・考察がシェアされ、人々は個人でもそれ以外の様々な範囲に於いても、様々なレベルで動揺していた。
現時点でSSDОについて全く知らない人々は、外との情報交流の無い地域内で生活している人々か、外との情報交流の無い状況の中で生きている人達だった。
大国・主要国での現政権は、現状でSSDОを敵視しているところも猜疑的に見ているところもあり、無関心を装うところもあった。
中小の国々での現政権は、とにかく情報収集への注力が強化されていた。
それはもちろんSSDОへの対応ベクトルを決定する為でもある。
貧国・最貧国での現政権の中では、接触を試みようとする動きが、既にチラホラと立ち顕れ始めていた。
世界の10大メディア・カンパニーの中で、8社は朝や昼やプライムタイムで第一報を伝えた。
SNSの中に顕れる『民意』の中で、最も多いものは『歓迎』だった。
アメリカ・ニューヨーク・FBI対テロ特殊捜査拠点・通称『郵便局』・・・
「・・ねえ、クワンティコはまだアレについての指示を出さないの・・?・・」
エリザベス・キーン捜査官がアラム・モジタバイ捜査官に、コーヒーが入った紙コップから口を離し、右手の人差し指で上を指差しながら訊いた。
「・・さあ?・・朝刊(FBI本部から朝一番に出される指示書)には載ってなかったけど・・?・・」 「・・一体どう言うつもりなのかしら・・?!・・」
「・・CIAにいる友人と電話で話したんだけど、政府組織の情報部門はどこもアレについての情報は殆ど集まってない・・・だから、対応方針どころか方向性のベクトルさえ決められないって言ってた・・・だからウチも方針を出せないんだろうな・・・・」
ドナルド・レスラー捜査官が、駅売りの新聞をデスクに放って言った。
「・・おはよう、諸君・・・」 ハロルド・クーパー副部長だ。
「・・SSDOと名乗る、あの宇宙ステーションについての我々への指示は、当分出ないだろう・・何しろ対象が、我々から見れば大き過ぎる・・・キーン捜査官・・彼は、アレについて何か知らないかな・・?・・」
「・・えっ?、レッドですか?・・知らないと思いますよ・・・アレについて事前に知れるほどの大物でもないと思いますけど・・?・・」
「・・電話してみてくれ・・・連絡は執っているんだろ・・?・・」
「・・この3日間は繋がりません・・」 「・・かけてみてくれ・・」 「・・はい・・」
「・・皆『朝刊』は見たな・・?・・今朝早くマンハッタンで起きた銃撃戦については・・?・・」
「・・正に奇妙です・・目撃情報が錯綜していて要領を得ません・・特殊部隊同士の戦闘だとか、大規模な映画ロケだとか、エイリアンによる大規模なアブダクションだとか、メチャクチャですね・・・」 「・・ニューヨーク市警からの報告は・・?・・」
「・・まだ現場検証の途中ですが、被害者がいないみたいで・・」 「・・何・・?」
「・・人が被弾して倒れたと言う目撃証言はあったようですが、実際に行って見ると誰も倒れていなかったそうで・・・」 「・・監視カメラは・・?・・」
「・・何故かその当時、現場一帯をカバーできるカメラは総て動いていなかったそうです・・」
「・・他に痕跡は・・?・・」 「・・検証中です・・」
「・・行って見なきゃ判らんな・・キーン、ナヴァービ、マリクで行ってくれ・・現場の精密な観測・確認と、徹底的な聞き込みだ・・良いな・?・」
3人ともすぐにコートを掴んで出て行った。
ネパール山奥の秘境・・ジャミール・・・・
崖を背にして建てられている粗末な庵の中で作業台に向っていたムウは、右手に持っていたハンマーを置き、そのまま鑢を取ろうとしてその手を止めた。
両手を腿の上に置き、背筋を伸ばして眼を閉じ瞑想する事1分強・・目を開けると立ち上がって振り向き、弟子を呼んだ。
「・・貴鬼!・・貴鬼!!・・・」
「・・はっ・・はい!・ムウ様・・何事でございましょう・・?・・」
「・・貴鬼・・すまないが、私はこれから暫くここを留守にする・・・その間の来訪者への応対を頼むよ・・良いかな・・?・・」
「・・はい・・それはお任せ下さい・・・でも、何があったのですか・・?・・」
「・・牡羊座(アリエス)が揺動(ゆれ)ている・・・思い当たる事を確める為、聖域(サンクチュアリ)に行ってみる・・・早ければ3日ほどで戻れるだろうが・・時間が掛かるようなら戻るまで頼むよ・・・」
「・・分かりました・・・では、お支度を・・・」 そう言って貴鬼は飛び出して行った。
ムウはそこに立ったまま顔を上げて遙か彼方を見晴るかす目付きをした。
「・・シオン・・・・」
『荼枳尼衆山寺』・・・
寺から100メートル程奥まった所にそびえ立つ巨木の上部で、青緑の長い体毛に覆われた体長20メートル程の猿人のような巨獣が、興奮している様子で大きく咆哮を挙げながら巨木の幹を叩いたり、身体を揺らして巨木の梢まで揺すったり、自分の身体を激しく叩いたりしていた。
すぐ傍に並んで立つ木の幹に掴まって、ボロ衣を纏った四肢のひょろ長い枯れた長身の老人が、その巨獣に盛んに声を掛け、猛りを鎮めようとしていた。
羅誐(ラーガ)が暗闇の中から顕れて、頭上の老人を叱責した。
「・・何をやっているのだ! 泰山府君!! 青面金剛を早く静かにさせんか!!・・」
銀色に輝く円盤状の物体が、高速回転で静かな金属音を響かせながら、巨木の周囲を旋回し始めた。
極低温の冷気を棚引かせ、滴らせながら目出しの布フードを頭から被った異形の巨漢が、不気味で規則的な呼吸音を響かせながら顕れる。
「・・どうしたのだ!? 泰山府君? 何を騒いでおる・・?・・」
「・・はあ、大聖歓喜天様・・金剛めが久し振りに獲物にありつけるのを察したのか、または満月が近いせいなのか、猛りが静まりませなんだ・・」
巨虎の唸り声が低く流れ、迸る電撃が一閃、巨木の幹を撃つと、巨獣は怯えたように静まった。ゴーゴン大公が顕れた。
「・・ほう・・あれが青面金剛か・・強そうだな・・大聖よ・・・」
「・・はっ・・お褒めに与りまして・・・」
「・・ライガーン将軍が見たら、猛獣軍団に欲しいと言うかも知れんな・・・」
「・・お戯れを・・」「・・あと数時間だ・・騒ぎにはするなよ・・」「・・心得ました・・」
「・・ときに大聖よ・・お前にほど近い気配を持つ者が・・先程日本に入ったようだ・・・お前も気付いておろう・・?・・」 「・・は・・それはもう・・・」
「・・水瓶星座(アクエリアス)の宿命が立ち顕れた・・と言う事かな・・?・・」
「・・は・・」 そう言ったきりで黙ると、大聖は僅かに顔を仰向けて独り言ちた・・・。
「・・カミュ・・・」
青面金剛が泰山府君を右肩に乗せて、地上に降り立った。
白銀の円盤が回転を緩めて着地した。シャドゥのギンガメだった。
いつの間にかマントを羽織り、シルクハットを被った長身の男が、傍に立っていた。
「・・久し振りだな、シャドゥナイト・・もう2体、連れて来ていると感じていたが・・?・・」
ゴーゴン大公が鞭を脇に抱えて腕を組んだ。
「・・白骨ムササビは、オフ・モードにしている・・ゴールデン・トータスは、先に偵察に出している・・・現場上空2000mに滞空させてな・・・それで見付けたが、既に抜け駆けしている者が数名いる・・・」
「・・誰だ・・?・・」 「・・デストロンの幹部連中だな・・・」
「・・ふん・・ゴールデン・トータスを中継して、脳波通信で警告しろ・・・先に行くのは構わんが、勝手に仕掛けて向こうに構えられるのも面倒だ・・・それにしても・・まだ日も高いのに、行ってどうしようと言うのか・・・どこにいる・・?・・」
「・・Q所属の潜水艦で東京湾の海底に着底している・・・フリージーヤードを使っているから、アクティブソナーでも探知されない・・・警告は中継しよう・・・」
東京湾海底・・・着底中の潜水艦・・・
「・・うっ・・」 ドクトルGが右手で軽く頭を押さえて俯いた。
「・・どうした・・?・・まだ脳波シグナルに慣れないか・・?・・」
ツバサ大僧正が振り向いて訊く。
「・・ああ、これだけは慣れんな・・ふん・・わざわざ警告せんでも分かっておるわ・・・」
「・・ああ、我ら4人を含めても16体だけではな・・・だがそれでも作戦直前に先行して潜入し、先手を取って攻撃する事も、作戦の支援もできるだろう・・・」
ヨロイ元帥がグラスを取って応じた。
「・・まあ他にも来るだろうが・・この艦も凶皇仏回収艦として使えるだろうしな・・・」
キバ男爵が何かを口に放り込みながら言う。
「・・艦長! 日が落ちたら離底・・フリージーヤードを解いて微速で陸に接近しつつ微速で浮上だ・・我らが出たらその場でボトムして待て・・いいな・・」
ドクトルGがマイクカフを取り上げて言った。 「・・了解・・・」
「・・まず我らは空から行く・・」と、ツバサ大僧正。
「・・我らは海上から行こう・・」と、キバ男爵。
「・・我らは海底を進み、上陸する・・」と、ドクトルG。
「・・では我らは海底から地下に潜り、そのまま地中を進み目標に向かう・・」と、ヨロイ元帥が告げた。
『ガランシェール・ブリッジ』・・・
スベロア・ジンネマン艦長がキャプテンシートで腕を組んだ。
「・・ギルボア・・操舵状況は・・?・・」
「・・完全に予定通りですね・・」
ギルボア・サント操舵手が、全く姿勢を変えずに答えた。
「・・アルビオンと3艦は出たのか・・?・・」
「・・4艦とも暫く前に出て、レーザー推進による初期加速を終了・・・現在、更に加速しつつ接近中です・・・あちらも予定通りですね・・・」
フラスト・スコール航行士が、右肩越しにキャプテンシートを見遣って言った。
ジンネマン艦長がマイクカフを取り上げて呼び掛けた。
「・・トムラ!・・モビルスーツはどうだ・・?・・」
「・・総て問題なく準備完了ですね・・・クシャトリヤ・・・高機動ザクⅡ・・・ハイザック・・・ザクエクシード・・・ギラ・ドーガ・・・ハイパードーガ・・・ヤクトドーガ・・ブースターベッドとベースジャバー・・それにシャクルズも含めて、全機オールOKです!・・・」 「・・よくやってくれた・・ご苦労さん・・・」
「・・お客さん達はどうだ・?・・ギルボア・・?・・」
「・・おとなしくして貰っていますよ・・・って言っても・・まだお客さん・・増えるんでしょ・・?・キャプテン・・?・・」
「・・まあ・・そうなるようだな・・・」
「・・キャプテン! 大体このガランシェールは元々ハーフカーゴなんですからね! 同盟と一戦交えるなんて・・できるんですか・・?・・」
「・・大気圏に突入したら、高高度でモビルスーツを発進させて、お客さん達にも出て貰う・・・その後は中高度まで降りて援護の攻撃と支援が俺達の任務だ・・・本艦が子供達を回収するようなら・・低高度まで降りて、回収後脱出するまでだ・・・ガタイに比べれば脚は華奢だから、ハードなランディングには向かないからな・・・強行着陸は、強襲揚陸艦に任せるさ・・・だからギルボア、フラスト! 推進剤は大事に使えよ・・・」
「・・了解・・」「・・へーい・・・」
「・・あとは同盟の奴らが、どのくらいの規模と数で来るか、だな・・・」
MAC01 中央指令室・・・・
「・・司令・・ニューヨーク、ポイントAからです・・繋ぎます・・」 「・・頼む・・」
モニターにハロルド・フィンチの顔が映る。
「・・フィンチさん、どうも・・・グリア氏は如何ですか・・?・・」
「・・よく眠っています・・状態は良好です・・」
「・・分かりました・・それでは、始めますか・・こことそちらとこちらの医療室とでデータリンクを繋ぎます・・・通信は切らないようにお願いします・・・そちらでもモニターし続けて、記録を録るようにして下さい・・グリア氏は、そのままの姿勢でこちらの医療室に転送で収容しますが・・その前にデータ・フィルタリングフィールドを掛けて、グリア氏の中の装置が送受信するGPSシグナルを偏向させます・・・」
「・・分かりました・・宜しくお願いします・・・」
「・・はい・・では、暫くそのままでお待ちください・・・」
「・・コンピューター・・指令室と医療室とニューヨーク、ポイントAのセンター・コントロールムームとの間に・・Mネットを通じて相互データリンク・ネットワークを設定・・・」
「・・設定完了しました・・」
「・・転送室へ・・こちら指令室・・まずグリア氏の周囲にデータ・フィルタリングフィールドを掛けてくれ・・・それで装置が送受信する位置情報を偏向させる・・・偏向先は、セントラルパークの中央部にしよう・・・いいか、受信してからフィールドを掛けるんだ・・タイミングを誤るな・・・フィールドを掛けたら、グリア氏とペースメーカー・・装置とメディア・・それぞれの対象に対し、個別にロックを掛ける・・4つのロックを個別に掛けてくれ・・・まず、そこまで頼む・・・」
「・・了解・・・作業中・・・完了しました・・・」
「・・よし・・そのまま待機・・」 「・・了解・・待機します・・・」
「・・指令室から医療室へ・・・ドクター、聴こえますか・・?・・」
「・・ああ・・聴こえているよ・・」 「・・調整槽の用意と、手術の準備は如何ですか・・?・・」
「・・ああ、既に完了しているよ・・」
「・・分かりました・・それでは、始めましょう・・転送室でタイミングを見計らって、グリア氏をそちらの手術台に転送します・・・次に、装置とメディアを転送でグリア氏の体内から除去しますので、そちらでレベル9のフォース・フィールドで、保全スペースの設定をお願いします・・・除去した装置とメディアは・・その保全スペースの中に転送します・・・次に、グリア氏を調整槽の調整溶液の中に転送して・・すぐにペースメーカーを転送で除去しますので・・その後のグリア氏へのケアは、宜しくお願いします・・・こちらは、装置からメディアを転送で取り出します・・・ここまでの処置を30秒以内で行います・・・宜しいですか・・?・・それでは、保全スペースの設定をお願いします・・こちらでタイミングを計ります・・・」
「・・了解しました・・少々お待ちを・・・・設定完了しました・・」
「・・分かりました・・では、調整槽の前で待機を・・・転送室・・タイミングは任せるが、受信直後だ・・いいな?・・」 「・・了解・・スタンバイ・・・・転送!・」
ハロルド・フィンチの目の前でジョン・グリアの肉体が消えて・・・MAC01の医療室の手術台の上に顕れた・・・次に保全スペースの中に小さい装置が顕れた・・・次に手術台の上のグリア氏が消えて・・・調整槽の調整溶液の中で実体化した・・・調整槽の脇にある台の上で・・ペースメーカーが実体化した・・・すぐさま細いコンジットケーブルが数10本・・グリア氏の身体各所に自動で装着された・・・ドクターは調整コンソールデスクの前に座り・・・制御パネルの上で、指を走らせ始めた・・・最後に総合精密分析室の中核次元コンピューターの分析台の上で・・・小さいソリッドメディアが実体化した・・。