「・・ドクター! 聴こえますか!? グリア氏の状態はどうですか?・・」
「・・聴こえているよ・・生命反応は安定・・各種の生体パルス・リズム・サイクル共に安定している・・化学神経系・・電気神経系共に安定・・循環器系の反応も安定している・・・処置は安全に終えられたようだ・・・彼へのケアについては任せてくれ・・・」
「・・了解しました、ドクター・・あとは宜しくお願いします・・・分析室・・聴こえるか・・?・・メディアの分析は済んだか・・?・・」
「・・分析は終了しました・・・入っていたのは複数の位置情報と画像のデータと、DNAパターンの情報ですね・・・・」
「・・どこだ・・?・・」 「・・いずれも北極点の近傍です・・送ります・・・」
ニューヨーク・ポイントA・地下3階・センターコントロールフロア・・・
「・・ミリー・・・」
レナード・コールが呻くように妹の名を呼び、身を乗り出してメインモニターに映し出された画像を凝視した。
「・・間違いないのか・・?・・」 傍らに座っていたレッドが彼を見遣って訊いた。
「・・ああ・・あれは彼女が大学を出た時に撮った写真だ・・・」
「・・カプセルの中で眠らされているように観えるな・・・榎本さん・・あのカプセルをどう観るかね・・?・・」
「・・こちらでも今画像解析を始めていますが、やはりある種の睡眠装置であるように観えますね・・・」
「・・北極か・・・やはりあそことは、事を構えなきゃならんのかな・・・」
思い切り背もたれに身体を預けて後ろに反らせ、顔に山高帽を被せてレッドが言う。
「・・ミスター榎本・・・貴方なら・・NPBの・・・ジュリア・マノーダ博士と話をして・・・説得する事もできるのでは・・?・・」
レナード・コールは苦渋の表情だった。
「・・ミスター・コール・・・お気持ちは充分に解ります・・・私も出来れば彼女と戦いたくはないですし・・和解できるのならしたいと思います・・・ですが、私がいくら呼び掛けても・・・彼女は応答しないでしょう・・・・」
「・・すみません・・脇から失礼しますが・・その、ミランダ・コールさんと言う女性は・・どのくらい重要な人物なのですか・・?・・」
ハロルド・フィンチが、控えめに口を開いた。
「・・フィンチさん・・ある人物を完全な状態で覚醒させるために・・必要な人材の内の1人なのです・・・詳しい事は直にお会いした時にお話しします・・・すみません・・・」
私はそれだけを答えた。
「・・ジュリア・マノーダ博士と言うのは・・?・・何だか話を聴いていると・・ミスター・シエンと旧知の仲のようにも聴こえるが・・?・・」
ジョン・リースが一歩前に出て言った。
「・・リースさん・・・彼女は・・もう大分以前に私達の同志でしたが・・・様々な紆余曲折があって・・・現在は同盟のBG所属の科学者で・・・NPBの責任者です・・・」
答える私の声にも、苦渋が滲む。
「・・何なのよ! それ! そのマノーダ博士って人・・あたし達の事知ってるの!?・・」
ショウさんも色めき立った。
「・・落ち着いて下さい・・・私が彼女と袂を分かったのは・・15年前です・・・それ以降、私達が開発導入したものについても・・貴方方の事についても・・彼女は知りません・・Mネットについても・・モビルスーツについても・・フェイザーやインパルスパワードライヴ・・転送技術についてもです・・・」
「・・どうして彼女と別れることになったのか・・?・・についても興味があるんだけど・・?・・」
ルートも腕を組んで前に出る。
「・・16年前に行われたプロジェクトの結果が・・その原因の一つになりました・・とだけ、今は言って置きます・・詳しくは直にお会いした時に話します・・約束します・・」
「・・分かりました、シエンさん・・次にお会いした時に、詳しく伺います・・・グリア氏は如何ですか・・?・・」
ハロルド・フィンチは冷静だった。
「・・ドクターの報告では、状態は安定しているそうです・・彼へのケアはドクターに任せておいて大丈夫でしょう・・・ドクターからは定期的に報告を受けて・・グリア氏の状態は随時確認します・・・フィンチさん・・少し変わりますが・・サマリタンのメンバーは今後、どうしますか・・?・・」
「・・はあ、まだそれは決定しておりませんが・・・」
「・・それでしたら、そちらでもう一度レベル4でのセンサースキャンを全員に掛けて頂いて、異常が無ければセンサータグを付け直して、こちらに転送で収容しましょう・・・こちらで全員の記憶を操作して・・地上に転送で戻します・・・」
「・・そうですね・・・現状では、それが最善の策なんでしょう・・・」
「・・はい・・ポイントAに対して同盟の攻撃がまだ無いと言う事は・・まだそちらの位置が知られていないと言う事ですからね・・・」
「・・分かりました・・早速始めます・・・」
「・・と、同時に統合プロジェクトを少し速めましょう・・・現在のレベルは・・?・・」
「・・レベル8のパート7です・・・15%程度なら速められますが・・?・・」
「・・それで結構です・・確実に進めていきましょう・・・」
「・・分かりました・・また連絡します・・」 「・・宜しくお願いします・・」
そう言って回線を閉じた。
一つ息を吐いてシートに座り直すと、今回得られた画像データを改めて最初からスライドさせて見始めた。
「・・うん・・?・・」 何か見覚えのある物が見えたような気がしてスライドを止めた。
止めた画像には見当たらなかったので、一枚戻した。
「・・?・・!・・コンピューター・・エリアE7を拡大してくれ・・」 「・・了解・・」
11年前に見て脳裏に焼き付いている物が、その画像には写り込んでいた・・。
たっぷり1分強、私の眼はそれに吸い付けられていた。
「・・やはり生きていたか・・・エーリッヒ・ナゾー博士・・・」
その時、私の携帯端末に着信した・・・ハロルド・フィンチからだ・・・マシーン・チームでこの端末にアクセスできるのは、彼とジョン・リースだけだ・・・。
「・・どうしました? フィンチさん・・この端末に掛けてくるのは久し振りですね・・・」
「・・お忙しい所をすみません・・・先程送って頂いた画像データを見返していたのですが・・大変なものを見付けまして・・・」
「・・ナゾー・タワーですか・・?・・」 「・・見付けましたか・・?・・」
「・・ええ・・生きているのだろうとは思っていましたが・・NPBに彼が絡んでいるとなると・・・厄介になりますね・・・」 「・・そうですね・・・」
「・・まあ、NPBにどうアプローチするのかについては・・また改めて考えましょう・・また連絡します・・・」 「・・分かりました・・それではまた・・・」
携帯端末をしまって、コンピューターに命じて11年前の戦闘記録を呼び出させた。
『荼枳尼衆山寺』・・・
東側の縁側で、白いラフな服装の若者が座って庭を眺めていた。
視線の先には白いツリガネソウの花房が垂れていた。
傍に寄って花を茎から一つ手折り、暫く眺めていたが自分の服の胸元に飾り付けた。
「・・グロンギでも、花を愛でるのか・・?・・」
白いスーツを着て黒い手袋を着けた、壮年の男が縁側の角から現れて言う。
「・・君達はグロンギを下に観てるけど、高位グロンギの感じ方は君達と変わらない・・・あまりナメない方が良いね・・・」
そう言って若者は壮年の男を冷やかに下から見遣った。
「・・フン・・」 男はそれには応えずに同じツリガネソウの花房から一つを手折ると、目の前で回しながら見ていたが、花はみるみる生気を失って萎れ、黒く変色して朽果てた。
「・・ところで、凶皇仏をどう観る・・?・・」
「・・凶皇仏・・?・・ああ、あれか・・・あれはグロンギだね・・・リントであるとも言えるけど・・・グロンギとリントは・・・本質では変わらないからね・・・あれはね・・・リントがリントの力と術で・・リントをグロンギに変えただけのものだね・・・僕にとっては・・あまり価値のあるものじゃない・・・随分と手間暇を掛けて創ったみたいだけど・・・僕なら30分で創れるね・・・もっとも・・もう一人の『ン』なら・・もっと速く創れる・・・」
「・・もう一人の『ン』・・?・・」
「・・近い内に遭えるよ・・・『ン・ガミオ・ゼダ』にはね・・・」
「・・遭った事があるのか・・?・・その・・もう一人の『ン』に・・?・・」
「・・僕も遭った事は無いよ・・・僕が『ン』になったのは・・850年前だし・・彼が『ン』になったのは・・250年前だからね・・・2人の『ン』が同じ時代か・・同じ場所にいると言うのは・・あり得なくはないけど・・まず無い・・・いればほぼ確実に殺し合いになるからね・・・でも『ガミオ』の事は知ってる・・・あの(塔)を地の底に繋ぎ留める為の人柱役を・・・自分から買って出た物好きな奴だったからね・・・・」
「・・伏魔塔の事か・・?・・あれはアテナが書いて貼り付けた封じの護符の力で、地下に引き込まれているのではないのか・・?・・」
「・・アテナ・・?・・ああ、あの娘か・・面白い娘だね・・グロンギでもリントでもない・・強い力を持っていた娘だったよ・・・光の神格を持って生まれて来たような・・そんな感じの娘だったね・・・」
「・・アテナに遭った事があるのか・・?・・」
「・・780年前だったかな・・?・・もう少しで殺せるところだったんだけど・・クウガにアギトにヒビキにザンキもいたな・・・あともう一人・・変な乗り物に乗って来た、変な奴がいてさ・・そいつらに邪魔されて逆に僕の方が封じられちゃったんだよね・・・あの時もあの娘に従っていた・・・セイント・・って言うんだっけ・・?・・30人ぐらいいたかな・・?・・5.6人ぐらいまで減らしたけどね・・・確かにあの娘の力は強いけど・・それだけで塔を地の底に封じ続けるのは無理だよ・・・塔の底の中心に、強い力を持った人柱を仕込まないとね・・・」
「・・成程・・凶皇仏の特性を利用して増幅させた闇の力で・・その人柱をどうにかして伏魔塔を地上に出現させようと言うのが狙いか・・・」
「・・そう・・その後で紙を剥がせば、星が解き放たれるって訳だね・・・」
中国・五老峰・三千間滝に迫る断崖の上・・・・
深く瞑想していた老師だったが、ふっと眼を開けると少し訝しげに左上を見上げた。
「・・なぜ牡羊座(アリエス)が揺動れる・・?・・」
そう呟くと再び眼を閉じて観相に入る・・・10分ほど静止していたが、また眼を開けた。
「・・ふむ・・聖域(サンクチュアリ)とジャミールで動きがあったか・・・」
そう呟くと真っ直ぐに座り直して眼を閉じる・・・程無くして老師の存在が透明度を上げて内側から白く光り始めた。
ギリシャ・聖域(サンクチュアリ)教皇の間・・・・
元教皇『(牡羊座)アリエスのシオン』の前に、3人のゴールド・セイントが立っている・・魚座(ピスケス)のアフロディーテ・・山羊座(カプリコーン)のシュラ・・蟹座(キャンサー)のデスマスクだった・・・。
「・・今話した通りに聖域(サンクチュアリ)も臨戦態勢に入る・・・出来れば両方共に参加して欲しいが・・どちらか一方でも構わない・・だが、どちらかには参加して欲しい・・・どうだ・・?・・」
「・・私は青ヶ島に行きます・・海が近い方が魚座(ピスケス)には都合が良い所もありますので・・・」そうアフロディーテが告げた。
シュラとデスマスクはお互いを見遣って頷くと、シュラが口を開いた・・。
「・・我等はパミールに参りましょう・・・彼の地での戦いが、過激なものになる事は明らかですので・・・」
「・・3人ともありがとう・・・心から礼を言わせて貰おう・・・」
『・・シオンよ・・』
いきなり中空から声が響いたので、4人ともぎょっとして聴こえてきた辺りを見遣った・・。
その中空で光が溢れたかと思うと、それが老師の形を採ってそのまま中空に浮んだ。
「・!老師!・」 「・!五老峰からテレポートで?!・・」
「・・いや・・これはフェイズシフト・テレポートだ・・瞑想に熟達した者なら使えるようにもなる技術だ・・・実質の肉体は、まだあの大滝の前で座っている・・・久し振りだな、童虎・・・お前のその技を見るのは随分と久し振りだ・・・そんな技まで使って、何か火急の要件か・・?・・」
『・・シオン・・なぜ教皇の座から降りた・・牡羊座(アリエス)が揺動れている・・まさか牡羊座(アリエス)を割る気なのか・・?・・』
「・!・まさか・・童虎・・私はもう年だ・・時間的には260才以上になるんだぞ・・・そんな私がムウの向こうを張って、アリエスのクロスを争えると思うか・・?・・そんなつもりはないし・・そんな暇もない・・確かに牡羊座(アリエス)は少々揺動れているようだが、割れるほどじゃない・・・現にクロスは1ミリも動いていない・・・アリエスのクロスはムウを選んでいる・・・守護星座を割って新たな宿命を創るような、バカな真似はせんよ・・・教皇から降りたのは・・・少しでも抗える力になれればと思ったからだ・・・それだけだ・・同盟の力は強大なのに・・聖闘士はまだ少ない・・どの道我等だけではここを守り切れない・・・これまで同盟がここに攻め込んで来なかったのは・・アテナの降臨時を狙って一挙に殲滅する肚だったからだ・・だからSSDOとは、全力で共闘する・・・でなければ我々もここも生き残れないだろう・・・・」
「・・私も賛成ですね・・・その・・『全力で共闘しなければ、守り切れないし、生き残れもしない』・・と言う考えにですがね・・・」
言いながらムウが入室した・・牡羊座(アリエス)の聖衣(クロス)をその身にまとい・・マスクを左手に持っている・・・。
「!・ムウ!・お前も来たのか・・?・・」
「・・お久し振りです、わが師・シオン・・老師に於かれましても・・・」
そう言ってムウはシオンに向って頭を下げ、中空の老師に対しても頭を下げた。
「・・お前も私が教皇の座から降りた事に難色を示すのか・・?・・」
「・・その通りです・・教皇の座にお戻り下さい・・アテナはまだ幼いですが、いずれ必ずここに戻られます・・その時までこの聖域を統轄し、戻られたらアテナを補佐すべき教皇がいなければ、ここも我等も立ち行きません・・これよりは、この私も参じます・・先程からのお話を耳に挟んでおりましたが・・私は青ヶ島に参じたいと思います・・シエン氏本人が地上に降りられますので・・警護を強化すべきと考えます・・・」
「・・参加して貰えるのは有り難いがな・・・ジャミールの方はどうする・・?・・」
「・・聖衣(クロス)修復の仕事でしたら、暫く貴鬼に任せても大丈夫です・・・」
『・・それになシオン・・いざとなれば・・儂も征くぞ・・・』と、中空の老師も告げた。
「・・お前も私と同じ歳だろうが・・?・・」
『・・忘れたのか、シオン・・?・・前聖戦の後で先代のアテナが儂に、MISOPETHA‐MENOS(ミソペサメノス)の法術を掛けられたのを・・?・・以来儂の心臓は1日に1回しか拍動しなくなり・・肉体の新陳代謝レベルが極限にまで抑えられ・・そのお陰で儂の肉体の年齢は・・未だ20才にも達しておらん・・それにこの法術は・・儂自身の意思と小宇宙(コスモ)で解除できる・・シオンよ・・この聖域がいよいよと言う事になれば・・儂も若かりし頃の姿に戻って参じよう・・それは約束させて貰う・・だから教皇に戻ってくれ・・先程ムウも言ったが・・ここには教皇が必要なのだ・・今も・・これからもな・・・』
「・・お前達はどう思う・・?・・」
老師とムウの気魄に圧されていたのか・・その場で立ち尽くすままでいた3人に訊いた。
「・・私も、教皇は居た方が良いと思います・・守護星座が揺らされるのは気持ちの良いものでもありませんし・・いざとなればシルバー・セイントもブロンズ・セイントもおります・・それにSSDOの方々も助勢して下さるでしょう・・ですから・・教皇にお戻り下さい・・」 アフロディーテはそう答え、3人一緒にシオンに向って会釈した。
「・・そうか・・皆がそこまで言うのなら、教皇に戻るとしよう・・・心配を掛けて済まなかった・・他のゴールド・セイントにはお前達から伝えてくれ・・ムウは白羊宮で待機していてくれ・・童虎・・済まなかったな・・戻ってくれ・・じきに大事になる・・身体を厭えよ・・・」 そう言って笑顔を見せた。 『・・お前もな・・・』
そう応えて、中空に浮ぶ老師の姿は薄れて消えた。
「・・では、我等はこれで・・」 シュラがそう告げると、3人一緒に退室した。
残ったムウにシオンが改めて顔を向けた。
「・・久し振りだったな・・ムウよ・・元気そうだ・・・」
「・・はい・・シオン様も・・・」
「・・ときにムウよ・・カミュを一人で日本にやらせたのだが・・それで良かっただろうか・・?・・」
「・・それで宜しかったと思います・・第一にこれはカミュの宿命であり、彼にしか対峙できない事です・・・我等から余計に助勢を廻せば・・カミュのプライドも・・裏高野の方々の面子も傷付けます・・カミュの参戦は特別に赦されたものですので・・これ以上の介入は許されないでしょう・・それにSSDOからも多数参戦されますので・・サポートとしては充分であろうと思われます・・大丈夫です・・カミュならケリを付けます・・」
「・・そうだな・・私もそう思うよ・・・」