S S D O ストーリー   作:トーマス・ライカー

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青ヶ島・・・承前・・・

米原潜・ダラス2・・・

「・・艦長・・青ヶ島まで、距離40キロです・・海底深度、浅くなります・・」

「・・よし・・減速20%・・僚艦の様子は・・?・・」

「・・ピッツバーグ2、シカゴ2、キー・ウエスト2、オクラホマ・シティ2・・共に減速中・・離れてはいません・・チャンロー、カーティス・マケイン、チョーシン2、ゲティスバーグ2、シャイロー2は・・後方450~500キロの近辺に在って、こちらを追尾しています・・・更にその後方・・100キロ~200キロにかけて・・原潜ヘレナ2、コロンバス2、パサデナ2、スクラントン2が・・深度300~450で追尾しています・・」

「・・分かった・・先行原潜5艦は、深度このままで青ヶ島を反時計回りに旋回航行する・・・本艦の後に続くよう通達しろ・・・」  「・・了解しました・・・」

「・・これより、第2級対潜水艦探査行動に入る・・これも通達・・」  「・・了解・・」

たつなみ・・・

米原潜スクラントン2の後方950、深度250を15ノットで追尾中。

「・・艦長・・先行米原潜5艦が青ヶ島を反時計回りに旋回する航行に入ります・・・」

南波水測長が報告した。深町 洋は握り飯の残りを頬張って指に残った飯粒を舐め取りながら・・「・・分かった・・チャートを見せてくれ・・」

速水副長と渡瀬航海長が海底地形図を拡げる・・・深町 洋は指で地形図を少しなぞると顔を上げた。

「・・青ヶ島から近い、深度1000近辺のポイントは・・こことここだ・・当然米艦隊も注意している・・深深度海底からの最短距離コースだし、合理的な海江田の性格からしてどちらかに潜んでいる・・と、考えているだろうな・・・」

「・・艦長は違うんですね・・?・・」

「・・ああ・・海江田はその裏を掻いて・・会見時間の直前には、ここにいると俺は思う・・」

そう言って右手の人差し指で地形図上の一点を示した。

そこは、青ヶ島から見て八丈島の向こう側の海底だった。

これには速水・渡瀬とも驚いたようだ。

「・!・ここですか・?・・しかし、かなり浅いですよ・・下手をすれば衛星からも発見されますし・・温排水が出れば、熱反応を検知されます・・・」と、速水副長・・。

「・・エンジン停止して着底したまま・・直前までマスカーを掛けていれば、何からも発見できないさ・・・それに海江田は・・もう一手、仕掛けを作ると思うな・・・」

「・・?・・何です・・?・・」と、渡瀬航海長・・・。

「・・この深々度ポイントの内のどちらかに・・シーバットの音紋を仕込んだ耐圧デコイを設置すると思うな・・だから・・本艦は、八丈島の北方から接近する・・深度450に付けろ・・速度は10ノット・・針路352へ・・八丈島の北側に入ったら、島に接近するコースを採る・・・」  「・・了解・・」 「・・分かりました・・」

『クラーケン・クラス水中艦(マンダ)』・・・

「・・艦長・・指令です・・・」

副長が差し出した指令文面をそのまま受け取って一瞥すると握り潰した。

「・・青ヶ島に向えとの事だ・・目的はシエン・ジン・グンを生け捕るか、その首・・シー・デビルとシー・サーペントも出張ると言う事だ・・この水域での警備は、クラーケンと交代する・・・エンジン始動・・深度このまま・・微速で発進・・目標、青ヶ島・・・」

「・・了解・・」

やまと・・・

「・・艦長・・間もなく深深度海盆の東端に掛かります・・・」

「・・よし・・60秒を掛けて速度0へ・・着底する・・・」

ネプチューン・ブリッジ・・・

「・・艦長・・やまとが減速中・・停止するようです・・・」

「・・こちらも減速だ・・ゆっくり停止しろ・・・」 「・・了解・・ポセイドンには・・?・・」

「・・連絡している時間はない・・やまとを基点に海底地形を再探査・・レベル3でスキャンしろ・・・」  「・・了解・・やまと速度0・・着底するようです・・・」

「・!・艦長!・エンジン音と推進音を探知・・あのクラーケン・クラスが動きます・・」

「・!・何!・針路は・・?・・」  「・・針路・・青ヶ島です・・それに音紋を照合して判明しました・・・4番艦の『マンダ』です・・・」

それを聞いてマーカス・コーネル艦長は、藪睨みで副長を見遣った。

「・・やまとは・・?・・」  「・・着底しました・・」

やまと・・・

「・・着底しました・・」 「・・よし・・水圧を掛けて耐圧デコイを放出・・・」

「・・了解・・4番管加圧・・デコイ放出・・スタビライザー起動・・姿勢安定・・デコイ着底しました・・異常ありません・・・」

「・・デコイのプログラムは・・?・・」  「・・プログラムにも異常ありません・・・」

「・・よし・・メインタンク、僅かにブロー・・50m 浮上・・・」

ネプチューン・ブリッジ・・・・

「・・やまとが4番発射管から何かを放出しました・・・それは・・安定した姿勢で着底しました・・・続いて僅かにタンクブロー・・・ゆっくり浮上します・・・」

「・・耐圧デコイだな・・海江田艦長・・恐らく反対の方角から青ヶ島に接近するつもりだ・・・MLHM2.3を、Mネットを通じての暗号圧縮サインで、距離2000まで呼び寄せろ・・・マンダに対して防御を固めなきゃならん・・・マンダは耐圧デコイに気付いていないな・・・暫くの間、やまとに張り付くのはポセイドンに任せよう・・・それと・・ターミナル2にMネットを通じて、シードラゴンの整備状況を訊いてくれ・・・」

「・・了解しました・・」

ニューヨーク・ポイントA・地下3階・センターコントロールフロア・・・

レイモンド・レディントンが腰を伸ばすように立ち上がった。

「・・さて・・不足している部分があるのは否めないが・・基本的な事は大体判ったかな・・同盟は彼女のデータをサマリタンから盗んだんだろう・・それじゃ腹も減ったし、失礼して出かけて来るよ・・財団の悪巧みの片棒を担いでいる小悪党を捕まえて・・奴等の裏金作りに横槍を入れてくる・・・レナード・・君はどうする・・?・・」

「・・私は・・出来ればグリアの傍で、彼の回復を見守りたい・・・SSDOの技術で、彼の記憶も回復させて欲しい・・・シエン代表の許可を貰いたい・・・」

「・・それはハロルド君を通じて、彼と話してみるんだな・・・」

ハロルド・フィンチを見遣って言う。

「・・レッド・・恐らく同盟はエリザベスのデータも知っている・・・気を付けた方が良いな・・」

「・・ああ・・それは最初から分かっているよ・・彼女には既にマイクロ・タグ・マーカーを飲ませてある・・拉致・誘拐されかけたり・・生命反応が急激に低下した場合には・・転送で収容する手筈にはなっているよ・・・それじゃあデンベ・・行こうか・・・」

そう言うと、レッドはコートに袖を通して山高帽を被り直した・・。

ニューヨーク・ロングアイランド・マッカーサー空港・・・

一機のプライベートジェットがエンジン始動していた。

「・・社長! いつでも離陸できます! 」 「・・分った! ボブ! 皆乗ったか? 」

「・・はい! たった今・・全員、機材もです! 」

「・・OK! ジョナサン! GOだ! 」 「・・ラジャー! 」

機体が加速を始める・・ボブ・マッケイがセシル・A・デミルの隣のシートに着いてベルトを締めた。

「・・シスコでは・・?・・」  「・・給油に降りるだけだ・・済んだら直ぐに発つ・・」

「・・それでオアフ島に・・?・・」  「・・カラエロア空港に降りる・・本当は高速水上輸送機をチャーターしたかったんだが、空きが無かった・・代わりに高速ホバークラフトがカラエロア・フェリー・ターミナルで待ってる・・・」

「・・それじゃギリギリですね・・」  「・・間に合わせて見せるさ・・・」

その時、ランディング・ギアが路面を離れた。

トーマス・キールとマシーン・チームの5人は、それぞれアシスタント・ディレクター、サウンド・コーディネーター、ライティング・スタッフ、衛星中継エンジニア、VTRスタッフとしての身分と偽名をマシーンから割り振られて、後ろのシートに座っていた・・。

デミル社長は数種類のサングラスと眼鏡を携行して乗っていたが、その総ては全く同形の物をMAC 01で予めレプリケイトしたもので、そのフレームにはレベル5のパーソナル・フォース・フィールドシステムと、パーソナル・ライフ・センサータグが内蔵されている。

「・・これまでに怪しい奴を見ましたか・・?・・」

サウンド・コーディネーター役で一緒に乗り込んたオマール・アレンが、トーマス・キールに小声で訊いた。

「・・2人は見たな・・・他にもいたかも知れないが・・確信は無いよ・・目立ったアクションも無かったしね・・・」

「・・一番警戒すべきは、オアフ島なんでしょうけど・・シスコでも何があるか分かりませんね・・」

「・・一番の警戒地は青ヶ島だよ・・・フェイザーはいつでも出せるようにしておけよ・・・レベルは6で固定だ・・・」

地球から36000キロの高高度周回軌道・・コントロール艦・センテ・ナリオ・・・

「・・コロンブス37! こちらセンテ・ナリオ! 応答せよ! コースから外れている! コロンブス37! どうした! 応答せよ! 」

「・・こちらコロンブス37・・センテ・ナリオへ・・サイド・スラスター2基が不調・・現状での調整は困難です・・所定のコースを維持できません・・申し訳ありませんが、停船します・・救援船の派遣を要請します・・繰り返します・・こちらコロンブス37・・サイドスラスターが不調のため、コース保持不能・・停船して救援を待ちます・・どうぞ・・」

「・・コロンブス37・・こちらセンテ・ナリオ・・要請は了承した・・停船してポイント・マーカーを起動せよ・・回線は閉じないように・・どうぞ・・・」

「・・こちらコロンブス37・・了解しました・・ポイント・マーカー起動・・回線は閉じずに停船して救援を待ちます・・・以上・・」

「・・どうしたの? リーゼ・・?・・」

「・・ああ、アグネス船長・・また一隻離脱しました・・・」

「・・3隻目ね・・これで2%の遅れだわ・・コロンブスの整備体制を強化するよう、要請を出して頂戴・・・4時間で6交代にするようにと・・・ミラーを降ろしたコロンブスを救援に向かわせて・・・」

「・・了解・・帰還途中のコロンブス16と・・ミラーを降ろし終えたばかりのコロンブス27を救援に向かわせます・・・」

「・・そうね・・直ぐに治らないようなら、ミラーをその場で移し替えて持って来て・・推進剤が足りないようなら、37から補給するようにと・・・」

「・・了解しました・・・」

「・・リゼット・・進捗状況は・・?・・」

「・・2%の遅れは確定ですね・・他のスケジュールは概ね順調です・・・やはりミラーの展開は、最後までしないのですか・・?・・」

「・・リゼット・ラスニックオペレーター・・それは基本方針よ・・展開したら防空探査網に掛かる可能性が高くなるから・・・展開してもミラー同士が接触しないように、余裕を持たせて配置を続行して頂戴・・・」   「・・了解しました・・・」

MAC01・指令室・・・・

中央指令室の後方に、私専用とされているデスクがある・・そのデスクで私専用とされているモニターで、過去の戦闘記録を閲覧していたのだが・・後ろで気配を感じたのと同時に・・・「・・司令・・お忙しい所を済みませんが、少しお時間を頂けませんか・・?・・」

と、声を掛けられたので振り向くと・・高野 由明・芳邨 恭輔・ジョン・フランツ・ティナ・ヒートン・河邨 義之・蛎崎 憲治・枦山 正史郎が揃い踏みで、私を取り囲んで立っていた・・・・・。

「・・ああ・・控室で良いか・・?・・」そう言いながら立ち上がると、先に立って歩き出し、司令官控室に向った・・・。

控室に入ると私は、デスクを背にしてソファに座った。皆もそれぞれ思い思いに座る。

「・・それで・・?・・何の話かな・・?・・」

「・・青ヶ島の件ですけど・・やはりどうしても降りる・・?・・」

高野 由明が、腕を組んで訊いた。

「・・降りるよ・・約束しているし・・必要な事だからね・・・」

「・・アーク・エンジェルだけでは危険です・・」と、ティナ・ヒートン・・。

「・・ムーンライト・シリーズが12隻で守ってくれる・・・」

「・・アメリカやロシアの海軍も来ますし、同盟がどれ位の規模で貴方を狙って来るか分かりません・・・何しろ名乗りを挙げて直ぐなんですから・・大喜びで撃って来ますよ・・・」

と、ジョン・フランツ。

「・・そいつ等を掃除する為にも、ソーラーシステムが準備されている・・・」

「・・それでも物凄く危険です・・いくらムーンライトシリーズが守りを固めても・・必ずアークエンジェルに攻撃は集中します・・そんな状況になるのに、どうやって海江田艦長と話をするつもりなんですか・・?・・こちらの最新技術は見せられませんよ・・?・・」

と、芳邨 恭輔が言った。

「・・会見を始める前に、奴等をまとめて掃除してしまえば良いだろう・・?・・」

「・・それをやってしまったら、我々の最新技術を同時に幾つも公開してしまう事になりますよ・・その時の青ヶ島に・・どれ程の眼が集中していると思います・・?・・」

と、河邨 義之が言った。

「・・やまとは一隻だ・・私が何隻も連れて降りるのはマズイだろう・・?・・」

「・・榎本さん・・我々はアークエンジェルとやまとを、最後まで守り切り・・且つ貴方と海江田艦長との会見の安全を保障して・・それも最後まで守り切らなければなりません・・それなのにこれでは戦力が少な過ぎます・・アークエンジェルとやまとは、例え一発でも被弾は許されません・・・許してしまえば、この作戦は失敗に終わります・・・そして二人の会見も・・半径300m以内に被弾を許せば、失敗に終わります・・・」

と、蛎崎 憲治が言った。

「・・分ったよ・・それじゃ、どうする・・?・・」

「・・アークエンジェルは勿論ですが、ドミニオン、ディファイアント、ミネルヴァも修理・補修・整備は終了しています・・補給・補充もあと数時間で終わります・・・4隻で降りて下さい・・・」と、枦山 正史郎が言う。

「・・衛星や地上からの攻撃には、どう対処する・・?・・」

「・・攻撃衛星群は、何時でもこちらからハッキングして制御出来ます・・・地上からの高射狙撃ですが・・4隻いれば、独自の回避操艦で狙点を撹乱できます・・・アークエンジェルだけで降りるよりは、遙かに狙われません・・・」

と、ティナ・ヒートンが締め括るように言った。

「・・了解したよ・・それで行こう・・それで頼む・・」

ニューヨーク・マンハッタン・・・

エリザベス・キーン、サマル・ナヴァービ、ミーラ・マリクの3人は、ニューヨーク市警の5人の刑事達と一緒に、聴き込みに走り回っていた。

ニューヨーク市警のCSIチームも動員され、現場一帯での鑑識・採取作業が、改めて徹底的に行われていたが、状況は芳しくないようだった。

「・・どうだった・・?・・」

交差点で顔を合わせた時に、エリザベスが他の2人に訊いた・・・。

「・・ダメね・・皆違う事を言っていて証言がかけ離れているわ・・」

サマルが疲れたような顔で答えた。

「・・同じ時間に現場にいた人でも、証言が違うなんてどう言う事なのよ・・訳が分からないわ・・・」マリクが肩で息を吐きながら、顎に伝う汗を手の甲で拭った。

「・・こっちもダメ・・通報した5人もその時とは違う事を言っていて、全く要領を得ないわ・・・」エリザベスもそう言って髪を掻き揚げた・・・。

ニューヨークCSIチーフが傍に来た・・疲れた顔で、途方に暮れているようだった。

「・・芳しくありませんね・・銃弾・薬莢・弾痕・破壊痕・血痕も指紋もありません・・毛髪や体毛のようなものは採取しましたが、それがこの事件にどう関わるのかは調べてみないと・・」肩を落としてそう報告する彼の、肩を叩いてサマルが労う・・。

「・・ありがとう・・ご苦労様・・申し訳ないけど、引き続き頼むわね・・」

交差点の反対側と、道路を渡った向う側からニューヨーク市警の刑事が2人、辺りを見廻しながら歩いてくる・・。

「・・どうも訳が分かりませんね・・証言の内容に共通する部分が全くありません・・また・・同じ人に時間を置いて訊いた場合でも・・内容に違いが出てきます・・・」

「・・共通する内容が無いので、手掛かりどころか取っ掛かりも分かりません・・この先、捜査をどう進めれば良いんでしょう・・?・・」

「・・とにかく今日は・・もう一回りしたら切り上げましょう・・何かがあっても無くても、あと一回りで上がりましょう・・鑑識も、もう少しで終わるみたいだから・・・」

サマルがそう言って皆を促す・・辺りを見渡すようにして振り向いた時に、エリザベスの携帯に着信が来た・・・レッドからだった。

サマルとマリクにレッドからだと伝えて電話に出た。

「・・どうしたの・・?・・この3日間は、掛けても繋がらなかったけど・・?・・」

「・・私も君と同じように、自分の仕事に従事していただけなんだがね、エリザベス・キーン捜査官・・君は朝から外で捜査か・・?・・」

「・・ええ、マンハッタンで聞き込みしてるんだけど・・貴方はどこにいるの・・?・・」

「・・奇遇だな・・私も今ニューヨークにいるんだよ・・仕事が丁度一段落したものでね・・」

「・・へえ、そうなの・・?・・それで・・何か用事・・?・・」

「・・久し振りなのにつれないね・・また君達と一緒に悪党を捕まえられれば、と思って電話したんだよ・・勿論、君達さえ良ければ・・の話なんだがね・・?・・」

「・・OK・分かったわよ・・どこで会う・・?・・」

「・・この前に会ったのと同じ場所・・パーク西南の『あの』ベンチでどうだ・・?・・」

「・・OK・・ドッグにマフィンとカプチーノも買って置いて・・朝から何も食べてないから・・」

「・・了解・・空腹で仕事するなんて、美容には大敵だぞ・・」 「・・うるさいわよ・・」

それから30分後・・レッドとリジーは『その』ベンチに座っていた。

デンベが紙袋と箱をリジーに手渡す。

「・・お早う、デンベ・・久し振り・・元気だった・・?・・」

デンベは言葉では答えずに、エリザベスに笑顔を向けた。

「・・ねえ、ニューヨークに居たのなら、今日の未明にマンハッタンで何が起きたか知らない・・?・・」ドッグを3分の1程頬張り・・カプチーノで呑み下しながら訊いた・・。

「・・もう少しゆっくり食べなさい・・食べ物は逃げないから・・それで・・何が起きたのかな・・?・・エリザベス・キーン捜査官・・?・・」

「・・大規模な撃ち合いがあった・・のだけは確実らしいんだけどね・・・」

「・・へえ・・見たところ、そんな事があったようには見受けられないがね・・・」

「・・まあ良いわ・・貴方とは、関係無さそうだし・・でもね・・アレを知らないなんて事は無いわよね・・?・・」

そう言いながらエリザベスは、右手の人差し指で『上』を指差したのだが、惜しくもレッドはその時彼女を見ていなかったので・・・。  「・・アレッて何だい・・?・・」

そう答えたので、エリザベスはレッドの顎を摘まんで自分に向けさせると・・・。

「・・アレよ・・」と、言った。

「・!・ああ! ニュースでやってた、あの宇宙ステーションの事か・・詳しくは知らないけど、たまげたね・・さすがに・・あんなに大きなものを、いつの間に造っていたんだろうね・・・」

「・・レッド!・・貴方知っていたわね・・?・・あのステーションの事を・・あそこに顕れる前から・・?・・」

「・・おいおい、エリザベス・キーン捜査官・・私があのステーションの事を・・あそこに顕れる以前から知っていたのだとしたら・・今ここで君と話していると思うか・・?・・ブラックリストの悪党共を片付けるのに・・わざわざ君達の力を借りたりなんかしないよ・・それに私が・・あのステーションの事を事前に知れる程の大物に見えるか・・?・・」

「・・確かに貴方は・・あのステーションの建造には関わっていない・・あのステーションの運営にも関わっていない・・でも貴方は・・私達の知らない事を知っている・・それは貴方の話し方と態度で分かるわよ・・そして・・何らかの繋がりがあるだろうって事もね・・・」

「・・エリザベス・キーン捜査官・・その事については・・また後で話をしようか・・?・・」

「・・貴方には・・幾つか貸しがあるわよね・・?・・この件ではいずれ返して貰うわよ・・?・・」

「・・分ったよ・・その事は、心には留めて置くから・・取り敢えず・・仕事の話をしようか・・?・・」  「・・そうね・・それで今回は・・誰を捕まえるの・・?・・」

「・・今回、私が提示するのは・・個人が一人と、法人が一つだ・・・」

「・・法人・・?・・会社か何かの団体・・?・・」

「・・聞いた事無いか・・?・・『世界救福教会』って・・?・・」

そう言って、レッドはエリザベスに一冊のファイルを渡した。

「・・『世界救福教会』・・?・・知らないわね・・カトリック系なの・・?・・」

「・・ああ、カトリック系の振興団体だよ・・設立は2年ほど前なんだが・・1年ほど前から急に羽振りが良くなったようでね・・この半年の間に・・20ヶ国の首都で支部の教会を設置している・・しかも新築でだ・・このアメリカでは既に、DC・ニューヨーク・サンフランシスコ・ロスアンゼルス・シカゴ・ラスベガス・マイアミの7ヶ所で教会を新築している・・そしてここからが本題なんだが・・それらの周辺では、ここ7ヶ月の間で・・麻薬絡みでの殺傷・暴力事件・・失踪事件が急増している・・そしてそれらに・・深く関与しているのではないかと思われるのが・・この男だ・・・」

そこまで言って、もう一冊のファイルを渡した。

「・・名前は、『モーゼ・ギルガット』・・『第2のシュバイツァー』とも呼ばれている男で・・ローマ法王にも謁見した事がある・・植物系の生分子化学と生分子神経学の博士号も持っている、医学博士だ・・ジブチ・コンゴ・ソマリアの研究所で・・何かの植物種に於ける・・品種改良の研究を行っていたようだが・・今はそこにも・・アメリカ国内のどこにもいないようだね・・・」

「・・それじゃあ先ずどこの何から・・?・・誰からあたるの・・?・・」

そう言いながらエリザベスは、空の箱と紙カップを袋に入れて小さく潰した。

「・・まあこのニューヨークにもその支部教会はあるから・・取り敢えずそこの神父にでも、話を訊いてみようじゃないか・・・」 そう言って、レッドは立ち上がった。

 


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