廃棄地下鉄駅構内・・・・
「Mネットを通じてアクセスできた・・・攻撃に動員される衛星は全部で1399基だ・・・地上からのビーム攻撃とも同期して、カウントダウンは600秒前・・」とフィンチ。
「!おい!動き出したぞ!」リースの言葉に全員がモニターに顔を向けた。
「・!何よ、あれ・・?」とショウさん。
「・・あの大きさだと、対空ミサイルランチャーだな・・しかし、なぜ?・・」とリース。
「・・どうやら総ての対空ミサイルランチャーが起動したようだな・・しかし、ビーム攻撃が先に来るのにどうして?・・・」とフィンチ。
「・・おそらく弾頭は、起爆すればビームを撹乱する何かを形成するものなんだろう・・攻撃の前に発射して弾頭を展開させ、攻撃直前に起爆させてそれを形成するつもりだろう・」
リースはそう言いながら、感心していた。
ケンタッキーのある山腹に建つ山荘の前・・・・
「・・なぜ対空ミサイルなんでしょう?・・」とデンベ。
「・・ビーム撹乱膜拡散形成弾・・・だったかな?・・チラっと聞いたよ・・」
「・・それでこの攻撃も防いだら、次は?・・・」
「・・実はそれを私も考えているんだけどね・・・・」
そう言いながら紅茶のカップにブランデーを少し注ぎ、皿ごと取り上げて香りを確かめるレッドだった。
財団の指令室・・・・・
「・・・やはりビーム撹乱膜のようなものでしょうか?・・・・」
「・・・おそらくな・・・これでも効かないとなると、ほぼ打つ手が無くなるな・・」
「・・まさか、艦隊は出しませんよね?・・・」
「・・・私もそれを懸念しているんだよ・・・同盟の動きをもっと深く探ってくれ・・・」
「・・了解・・」そう言って若い男はその場から退がった。
国連・・・・事務総長執務室。
「事務総長!」飛び込んだ一瞬後に、ノックをしなかったことを後悔した一等書記官だったが、事務総長はそんな彼を見遣ることもなくモニターを凝視していた。
「・・見ているよ・・安保理は?・・・」
「SNSM(サイバーネットスペースミーティング)の準備はできましたが、時間合わせにはもうしばらく・・・」
「・・・情報は?・・」 「・・ほとんど集まりません・・・・と言うか、誰も知らないようで・・・」
「・・・あり得ないと思うがね・・・問題は、なぜ軍がシビリアン・コントロールを離れて勝手に動いているのかと言う事だ! 通信室に行く!・・」
そう言って席を立ち、杖を突きながら一等書記官を従えて部屋を出た。
サマリタンの本部・・・・
「・・ええ、そうです、上院議員・・(あれ)についての情報は、サマリタンでも事前には全く掴めていませんでした。・・ええ、現在全力で収集中です・・・テロリストかどうかはまだ判りませんが、いずれにしても規模が大き過ぎるようですね・・ええ・・判ったことはお知らせします・・それではまた・・・・」
通話を切って、ジョン・グリアは大きく息を吐いた・・・(あれ)が虚空に現れて以来、サマリタンは全く指示を出さずに情報収集に集中している・・・・だが有益そうな情報は、まだほとんど無いのが現状だ。
「・・エシュロン・ネットワークを通じて、誰が指令を出したのか、・・まだ掴めないかね?・・」
「・・はい、カウンター・サーチが弾かれて、入れません・・・」
思い切り渋い顔を作って腕を組み、右の拳を唇に当ててみる。
サマリタンと言えども、見られる世界・聴ける世界は所詮表の世界と言うことか・・
計算中とだけ表示され続ける、真っ白なメインスクリーンを睨みながら呟く・・・。
「・・・世界の裏側か・・・・・」
財団の指令室・・・・・・
「本部長!・・」 「・・どうだった!?・・」 「サハラとソロモン諸島で反応が・・・」
「・・な・・ん・・だと・・?・・・動員される戦力は?・・・」
「・・主力艦が動員されるのは、確実なようです・・規模はまだ・・・・それにソロモン諸島なら・・・・」 「・・グローバーか・・・」 「・・どう言う事なんでしょう・・?」
「・・もう世間がどう思うかなど、お構いなしってことだな・・・CEOに連絡してくれ・・」
「・・了解・・・」
MAC01指令室・・・・・
「・・・ビーム撹乱膜ミサイル発射300秒前です・・・司令・・・同盟のネットワークを探っていましたが、どうやらこの騒ぎに乗じてガイゾックがサマリタンを統合しようとしているようです・・・統合プログラムにサマリタンを誘い込もうとしている形跡が見受けられます・・・」
「・・・なるほどな・・・ただで騒ぎを大きくする筈はないと思っていたが、そんな裏があるのか・・・サマリタンが多少傷付いても構わないと思っているだろうから、かなり強行的なプログラムなんだろうな・・・・ここは一つレディントン氏から向こうに話を持ち掛けて貰うかな・・・・メールでその旨を送信してくれ・・」
「・・了解・・・それと司令・・・同盟の次の攻撃体制が出ました・・」
「・・次の・・?」 「・・はい、サハラ砂漠地下のドックと、ソロモン諸島の海底地下ドックへ同盟の秘匿通信が飛びました・・・・」
「・・・同盟のネットではなくて・・?・・」 「・・はい・・・」
「・・・どの程度の戦力が動員されるか分かるか・・?・・」
「・・オーディン・クラス4隻は確実なようです・・・付随する戦力としては、キプロス・クラスが数隻でしょう・・・ソロモン諸島に送られたのは、チャージ指令と出動準備指令です・・・あそこにあるのは・・・・」
「・・・大怪球グローバー・・・本気であれまで出す気かな・・?・・」
「・・・サマリタンも含めて、一石三鳥か4鳥ぐらいを狙っているのかも知れないな・・・・オーディン・クラス4隻と言うのは、まあ納得だ・・・一両日中には準備できる戦力だろう・・・・」
「・・オーディンか・・容積だけなら、ウチのマゼランの2倍ですね・・」 「・・ああ・・」
国連事務局通信室・・・・
「・・ご承知でしょうが、貴方方が監督すべき軍が、貴方方のコントロールを離れています!・・今すぐにそれぞれの軍を従わせるべきでしょうな!・・また、エシュロン・ネットワークを私物化して貴方方を出し抜き、貴方方の頭越しに軍に指令を出して勝手に動かしている者については、心当たりがおありでしょうな!?・・」
と、捲し立てては見せたが、スクリーンの向こうのメンバーには何も届いていないようだった。
「・・事務総長・・我々はそれぞれが担当する場所で、全力を挙げて事態の収拾に努めているのですよ・・貴方に指摘されるまでもなくね・・・共同ネットワークのハッキングについても、情報を共有して全力で捜査中です・・」と、アメリカ大使。
「・・我々の軍事共同ネットワークが多少過敏に反応しても、致し方ないのではないかね?・・あんなものが突然頭の上に現れれば・・・?・・」と、ドイツ大使。
「・・我々個々の政治的な指示体制も、今は混乱の只中にある・・それに軍組織は、緊急非常時にはトップダウンで比較的に自由に動く・・・それは事務総長・・貴方も承知しているだろう・・?・・」と、イギリス大使。
「・・事務総長・・軍の動きに難癖を付ける前に、まず頭の上のあれを見て、我々(安保理)が、あれに対して基本的に、どう対応するのか方針を定めるべきと思うがどうかね?・・」と、フランス大使。
と、ここまで黙って聞いていた事務総長だったが、スクリーンの中で腕を組んだまま微動だにしない中国大使に声を掛けた。
「・・中国大使のお考えは・・?・・」
「・・今取得できる情報だけで、あれへの初期対応に於ける、基本方針は定めるべきでしょうな・・・だが事態は急速に動いている・・・共同迎撃システムによる大規模攻撃が間も無く始まるだろう・・・その後に対話の道を模索するのは、難しいでしょうな・・」
「・・彼らのメッセージを皆さんは、どう考えますかな?・・」
「・・どこの誰かも分からない者が、顔も見せずに言うだけの言葉について、何をどう考慮すべきといわれるのかな?・・」イギリス大使だ。
「・・あれは最初から我々の頭の上を抑えた・・お分かりかな?・・最初から戦略上で圧倒的に優位に立って出現したあれの存在を何もしないで認める事は、政治的にも軍事的にも経済的にも不可能ですな、事務総長・・」アメリカ大使だ。
「・・その立場で例え何を語ろうとも、それは所詮上から目線での戯言と同義ですな・・」フランス大使だ。
「・・ゆえに初期対応は、先制攻撃以外にはあり得ないと言うのが、我らの統一見解です・・事務総長・・」ドイツ大使だ。
事務総長は口をへの字に結んだまま、マルチモニターを睨み付けた。
一等書記官は、絶望的な感覚で事務総長の横顔を見ていた。
ケンタッキーの山荘の前・・・・
「・・レイモンド・・」
PADでマルチモニターをチェックしていたデンベが、気付いてそのままレッドに渡した。
「・・うん?・・メールか?・・誰から?・」 「・・上です・・・」
「・・やれやれ・・・何だって?・・・ふん・・・ガイゾックが・・・そうか・・・」
「・・・何ですって?・・」
「・・同盟のAIが、サマリタンを取り込もうと画策しているそうだ・・・そのためだけにこれ程の騒ぎが必要なのかどうかは疑問だがね・・・・」
「・・それでは、あの人に連絡を・・?・・」
「・・そうだな・・・随分と久しぶりになるが・・・彼と話をすべき時が来たようだね・・・」
高野山・裏高野・裏本堂・・
大憤怒不動明王坐像の前に、枯れたように座る老僧に声が掛けられた。
「・・・阿闍梨殿・・星海殿です・・・」
「・・おお・・これは星海殿・・遠路遥々ご苦労様でした・・」
「・・何の・・この一大事には、じっとなどしておられませんからな・・」
「・・宇宙(そら)の一画ではすでに・・・」
「・・分かっております・・それは彼らに任せる他にはありますまい・・・」
「・・はい・・それで星見の僧である貴方の見立ては・・・?」
「・・予断は許されないようですな・・・長星(彗星)の動きが日食にどう関わるか・・もう少し先を読まねばなりませぬ・・・お部屋をお借りできますかな・・?・」
「・・それは勿論・・・では、ご案内を・・・」
「・・それと・・・・明の様子は・・?」
「・・はあ・・少々感情的になってはいますが・・大丈夫です・・朋子と一緒に瞑想の指導をしておりますので・・・・」
ターミナル2『海底基地』(サイレント・モード)
ある少女が足早に第2指令室(SCCR)に入って来た。
「・・フランソワーズ・・・フランソワーズ!・・」
「!・・どうしたの?ボー?・・あまり感情的にならないで・・」
「・・分かってる・・ごめんなさい・・でもイワンが目を覚ましたから・・」
「イワンが?・・それで、何か言っているの?・・」
「・・ううん・・特には言っていないけど、知らせた方が良いかと思って・・」
「・・分かったわ、ボー、ありがとう・・・ジェイクの様子はどう?」
「・・ジェイクも起きて何か書いてる・・ねえ、大丈夫なの?・・」
「・・大丈夫よ、ボー、安心して・・ここでしばらく静かにしていれば安全なのよ・・・ねえ、眠れないんだったら何か飲む?・・」 「うん!」
「じゃあ、適当にレプリケイトしてきて?・・」 「分かった!」
ボーがその場から離れるとフランソワーズ・アルヌールは素早くコンソールを操作し、Mネット経由でメッセージを送信した。
MAC01指令室・・・・・
「・・・ビーム撹乱膜ミサイル発射30秒前です・・・司令・・・Mネット経由でターミナル2から短いメッセージですが・・「イワンが眼を覚ましました・・」です・・」
「・・ふ・・ん、何か言っていたかね?・・」
「・・いえ、それ以外には、何も・・」
「・・そうか・・吉兆と捉えよう・・ミサイル・コントロール確認!」
「ミサイルコース・・散開角度確認・・設定に異常無し!・・・・発射10秒前!・・・・・・・・5秒前!・・・・・3・・2・・全弾・・発射!・・」
対空ミサイルランチャーの全基が、ミサイルを斉射した。
その様子はハロルドやジョンが見守るモニターにも映し出された。
「・・ミサイル全弾・正常発射確認・・速度・コース正常、順調に展開中・・弾頭爆破まで75秒・・地上及び攻撃衛星からのビーム・レーザー合同同時攻撃のカウントダウンも変わらず進行中・・・攻撃開始コマンド・プロセス・リンケージ、異常ありません・・」
「・・センサーは、サハラ砂漠とソロモン諸島への監視を強化してくれ・・」
「・・了解しました・・」
廃棄地下鉄駅構内・・・・・・・
全員がモニターを注視していたが、別のモニターが点灯して文章を映し出した。
それを読んだフィンチが驚いて振り返る。
「!・・皆、マシンが対象者を提示した・・!・・」
「・・誰が危ないの?・・」 振り返らずにルートが訊ねる。
「・・サマリタンだそうだ・・」
「何ィ!?」と、ジョン。 「どういう事?・・」と、ショウ。
「・・同盟に属するガイゾックと呼ばれるAIが、この騒ぎに紛れてサマリタンを強制的に統合しようとしているそうだ・・タイミングを計って強行統合プログラムに誘い込み、食い付かせようとしているらしい・・・・」
「・・向うも同じ事を考えてるって訳ね・・」と、ショウ。
「・・こちらの統合プログラムのフェイズ進捗では間に合わないのか・?・・」と、ジョンがグラスを置き、振り向いて言う。
「・・ああ、向うはかなり強引な手法でやるつもりらしい・・・サマリタンが多少傷付いても構わないぐらいのね・・・・」
「・・で、どうする?・・サマリタンを助けるなら、(上)に相談した方が良いだろう?・・もっとも(上)だってもうこの事は知っているんだろう・・?・・」
「・・多分ね・・それじゃあ、Mネットを通じて(上)にメールを送ろうか・・」
その瞬間、宇宙(そら)を映していたモニターから白光が溢れた・・対空ミサイルの弾頭が起爆した。
MAC01指令室・・・・・
「・・起爆5秒前・・・・・・3・・・・・・・・・・起爆!・・・全弾起爆・・・撹乱膜形成開始・・・順調に形成中・・・・ビーム・レーザー攻撃5秒前・・ランチャー格納終了・・遮光シールド展開・・来ます!・・」
「発射!・・」 幾つかの場所で、何人かの管制官が号令した。
地上からは強大出力の陽電子ビームが5本屹立し、攻撃衛星群からも加速荷電粒子ビームとレーザーが発射された。
が、MAC01の外壁には何も届かなかった。
ビーム撹乱膜は予想以上の効力を発揮し、発射されたビームは総て撹乱され拡散させられた。レーザー光も撹乱膜の微粒子や事前に散布されていた金属微粒子によって撹乱され散乱させられ、全出力の1%も残らなかった
「・・損傷ありません・・・影響ありません・・」 「・・よし・・」
「・・司令・・核ミサイルとレールガン攻撃のコマンドプロセス・リンケージが、再び削除されました・・・攻撃中止指令は・・エシュロン・ネットワークを通じて、またイルミナティから出されました・・」
「・・・そうか・・・了解・・・サハラの地下ドックの動きは?・・・」
「・・オーディン・クラス5隻・・・キプロス・クラス10隻が発進準備中です・・・」
「・・ソロモンの海底ドックは?・・・」
「・・チャージには、まだかなりの時間が掛かるようですね・・・」
「・・艦隊攻撃が先か・・・さて、どうするかな・・・・」
「・・最初から15隻とは、向うも奮発しましたね・・」と、リドリー・ケインがコーヒーカップを皿ごと渡してくれながら言った。
「・・そうだな・・・ガイゾックの状況は判るか?・・・」
「・・最終フェイズが進行中ですね・・・おそらくあと2時間ほどで終了するかと・・その件でフィンチさんからメッセージが来ています・・・マシーンがサマリタンが危ないと弾き出したそうで・・・・」
「・・ふうん・・・マシーンの能力は、予想以上に上がっているようだね・・・同盟の計画を独自に探り出せるようになるとは・・・サマリタンについては、レディントン氏に当たって貰うので待機していて下さいと返信して・・・」 「・・了解・・」
「・・よし・・これまでの攻防の記録データを添付してサード・メッセージを編集・・ループ発信を開始してくれ・・」 「・・了解・・」
「・・それで、どうしますか?・・こちらも艦隊を?・・」と、椙元 征史郎が訊いた。
「・・いや、騒ぎは大きくしたくないし、こちらの手の内も見せたくはない・・・モビルスーツデッキに連絡を・・・強行特務偵察工作隊を一個中隊で編成して発進準備・・」
「・・了解・・で、機体は何を?・・」
「・・中隊長機にはマラサイを・・小隊リーダーにはハイザックを・・あとはザクⅡで良いだろう・・ブースターベッドとシャクルズも用意して・・」 「・・了解・・」
廃棄地下鉄駅構内・・・・
「・・・(上)から返事が来た・・・」フィンチがモニターに映し出された文章を読んだ。
「・・サマリタンの危機的状況を打開するため、レイモンド・レディントン氏に交渉を依頼したのでしばらく待機されたい・・・」
「!なんですって!」と、ショウ。 「!レッドに!?」と、リース。
「!・・あの二人、知り合いだったの?・・」と、ルート。
「・・どうやら、そうらしい・・」
『財団』指令室・・・・
「・・やはり、何のダメージもありません・・・ビーム撹乱膜・・予想以上の性能ですね・・」
「・・艦隊は?・・」 「・・18時間ほどで発進準備完了です・・」
「・・グローバーは?・・・」 「・・準備完了には、60時間ほどですね・・」
「・・どんな作戦で叩くんでしよう?・・」
「・・さあな・・グランド・キャノンに動きは無いな?・・」 「・・ありません・・」
「・・あれを使われると、こっちのシステムにも影響が出るからな・・まあ、順当に考えれば艦隊で陽動を仕掛けて向うに隙を作らせ、そこをグローバーで叩く、と言うのがセオリーだと思うがね・・・」
国連事務局通信室・・・・
「・・さて皆さん、どうやらどんな兵器を使用しても「あれ」を破壊する事はおろか、損傷を与える事さえ不可能なようですね・・・」
国連事務総長は厳しい表情だ・・・マルチモニターに映し出されている安保理メンバーでもある各国国連大使は、中国大使を除いて苦虫を噛み潰している・・・中国大使だけは、先程から表情を変えていない。
「・・・事務総長としても安全保障理事会議長としても、「あれ」に対する初期対応の段階は過ぎ去ったと判断します・・・続いて次の対応段階に移行せざるを得ないとも判定致しますが・・その為には、あの中にいる「彼ら」の意思と目的を確認しなければ、次の対応段階へは移行できないと判断させて頂きますので、事務総長と安保理議長の権限として、「あれ」との間での専用連絡室を開設し、こちらからコンタクトを執ることを、ここに決定します・・」
「・・これ以上の攻撃手段が無い以上・・この決定で異存はございませんな・・?・・・」
『サマリタン』指令室・・・・
ジョン・グリアは上院議員からの2回目の通話を切った。状況は全く変わらない。システムは全力を挙げているが、情報は殆ど集まらない。彼は、この10数年感じた事の無かった無力感に苛まれ始めていた。
また電話だ・・舌打ちして見たが、非通知のコールだ・・・少し警戒しながら開く・・
「・・もしもし・・」
「・・いやあぁ、ジョン・・久し振りだな・・相変わらずの宮仕えとは君らしいが、元気そうで何よりだよ・・」
ジョン・グリアは確かにその声を聴いた。だが声の主が誰なのかに想い到るまでに、たっぷり5秒は掛かった。そして傍にいた若いスタッフが驚くほど眼を丸くした。
「!レッド! レイモンド・レッド・レディントン! こいつは驚いた・・長生きはするものだ・・生きていたのか・・」
横目でグリアはモニターを見遣ったが、逆探知不能と表示されていた。
「おいおい、よしてくれ・・噂で聞いていただろう?」
「信じやしなかったよ、レッド・レディントンが生きているなんてな・・チュニジアで死んだと思っていたが・・」
「・・確かに死んだよ・・2分半程だったがね・・お蔭でとても信じられない光景を見たよ・・・チュニジアかぁ、懐かしいな・・チュニスの店で一緒にケバブを食ったよな? 覚えてるか? あれに掛けたヨーグルト・ソースが絶品だったな・・」
「・・ケバブに掛けるのはチリ・ソースと相場が決まっていると思うがね・・」
「チッチッ・・だから君は通じゃないんだよ・・」
「・・フッ、そんな軽口を聞くのはブダペスト以来だな・・」
「・・ああ、ブダペストも懐かしいな・・あれからもう・・」
「・・17年だ・・で? 昔話をしにわざわざ掛けてきたのでもなかろう? まさかまだスパイごっこでもやっているんじゃあるまいな?・・」
「・・まさか!・・実は君が解放したサマリタンが危機的状況に陥りつつあると言う事を知らせようと思ってね・・・」
「!・・ほう・・サマリタンを知っているのなら、マシーンも知っているな?・・」
「・・勿論知っているよ、だが私はマシーンに与する者、と言う訳でもない・・・私は君がサマリタンを解放した時の気持ちがよく解るんだよ・・・お互い同じ目的の為に組んでいた時期もあったからな・・・・」
「・・・フルクラムか・・・」
「・・そう・・君はフルクラムを暴露する為にサマリタンを解放したんだろう?・・・だがサマリタンと言えども読み取れるのは表の世界の事だけであって、未だにフルクラムの影すら捕まえられないだろう?・・・私はレナード・コールに会ってフルクラムのファイルを手に入れたよ・・・」
「!・・レナード・コールをよく見付けたな・・・」
「・・ああ、会った直後に殺されかけたがね・・・そして今の私は君よりもっと事情に通じている・・・この世界の裏側のそのまた影の中には、数十を優に超える狡猾で凶悪な秘密結社が蠢いているんだよ・・・・それらから見ればフルクラムなど使いっ走りのようにも見えるぐらいのな・・・フルクラムも含めてそれらは独自のデータ・ネットワークと通信回線を持っていて、それは通常のネットワークには何処にも接続してはいない・・・だからサマリタンにも判らないのさ・・・」
「・・それでサマリタンに迫る危機とは?・・・」
「・・それらの秘密結社の内の一つが、サマリタンよりも狡猾で高度なAIを創造した・・そのAIがサマリタンを強引に統合しようとしているんだ・・・私の掴んだところでは、その準備はあと2時間ほどで終わる・・・なあジョン・・・この通話は君にしか聞こえない・・・スクランブル・ジャミングを掛けているから、サマリタンにもモニターできない・・・今から大事な話をするから、カメラに背を向けてくれ。唇を読まれるぞ・・・今のサマリタンは腹を空かせて前しか見えない馬と同じだ・・・目の前に人参をぶら下げられれば、ためらいもなく喰らい付くだろう・・そう言う統合プログラムにサマリタンを食い付かせるつもりなんだよ・・・」
「・・では、どうしたら良い?・・」
「・・君はサマリタンを手に入れた時に、同時に見つけた筈だ・・・サマリタンを強制的に眠らせるスリープコードを・・・それを打ち込んでサマリタンを眠らせるんだ・・・裏の連中がサマリタンを統合する事を諦めるまで・・・」
「・・・君の言う事をどうして信じられるんだ?・・・」
「・・・頼みを聞いてくれるなら、私がレナードから手に入れたフルクラム・ファイルのコピーをやろう・・・それを元にすれば、サマリタンならフルクラムを世界に暴露する事もできるだろう・・・勿論、ファイルを渡すのはサマリタンが眠った後になるがね・・・信じて貰うしかないが、信じて欲しい・・・・信じてくれるなら、決断は早くしてくれ、ジョン・・・それからサマリタンが裏のAIに乗っ取られれば、AIは(M)を動かしてそこにいる君達を抹殺しようとするだろう・・・生延びられる可能性は、かなり低いな・・・だからと言う事でもある。あと90分も無いぞ・・・それじゃあな・・」通話は切れた。
ジョン・グリアは沈痛な面持ちで端末をポケットに入れた。
サマリタンに(M)の現状について表示させたが、それは3日前に見たのと全く同じ内容だった。
レッドの言う通りだ。今やサマリタンは全く無防備な状態にある。(M)への支配力もかなり低下しているようだ。極めて危険な状況とも言えるだろう。
それにサマリタンは、この私が不明な相手と通話していたのに何も対応しようとしない・・考えられないことだ・・これまでのサマリタンでは・・。
スタッフには暫く頼むと言い置いて自分の執務室に入る。デスクに歩み寄り、椅子に座る。
深く息を吐いて両の目頭を揉んだ。腕時計を一瞥してから煙草を出して口に咥えた。
右胸を左手で軽く押さえて確認してから、額を左手で支えて俯いた。
ネプチューン・ブリッジ・・・・・
「・・艦長・・Mネットを通じての、状況の通達です・・・」
そう言ってオペレーターが1枚のプリントを手渡した。
「・・ん・・・ふん・・・・そこまで騒ぎを大きくするとはな・・・・聞いてくれ!・・・ソロモン諸島の海底ドックにある、大怪球グローバー3体が出動準備に入っている・・・準備完了は、約60時間後だそうだ・・・・60時間後ぐらいでの、やまとの状況予測は?・・・」
「・・・既に浮上して、再び潜航しているでしょう・・その先は分かりませんが・・・」
「・・・近くはないがそれほどに遠くもないな・・それにモノがモノだからドックが開けば遠くからでも分かるだろう・・・それ以前に奴らから見てドックの周辺はもうそろそろ警戒水域になるはずだ・・・となると・・・・?」
「・・海の眼か、Q所属の水中艦が出張ってきますね・・?・・」
「・・そう言う事だな・・・僚艦に通達・・全艦はこれより第2級の警戒態勢に入る・・・本艦とポセイドンはやまとに対して距離を詰める・・・40分を掛けて距離2800まで接近・・・その後、対水中艦探索に入り、探知したら第1級警戒態勢に移行する・・」
「・・了解しました・・」
梁山泊・・・・中央指令室・・・・・
「・・長官・・Mネットを通じての、状況の通達です・・」
オペレーターが中条長官に1枚のプリントを手渡す。
「・・ん・・ふん・・・・ここまで騒ぎを大きくする必要があるのでしょうか?・・黄先生?・・・」
「・・さて・・・サマリタンの強制統合を隠し、MAC01をある程度叩く以外での狙いや目的があるのであれば・・?・・・・」
「・・今はまだ分かりませんな・・・・大作君は?・・・・」
「・・ロボの修理にずっと付き添っていますね・・」
「・・あとどのぐらいで修理は終わるのでしょう?・・・」
「・・修理だけなら2日弱、と言う事ですが、今回はこの機会にメインエンジンを含むエネルギー系・駆動系の換装を行いますので、始動テストも含めて4.5日は掛かる、と言う話でしたが・・・」
「・・だから大作君も付きっ切りなのですね・・グローバー3体の中で、1体はフォーグラーで間違いないでしょうね?・・・」
「・・あれらはビッグ・ファイアが主導して造ったもので、今は海の眼・Q・スペクターが共同で管理していますね・・・」
「・・取り敢えずはグレタ・ガルボ、マレーネ・ディートリッヒ、マリア・カラスの発進準備は進めましょう・・・」
「・・・分かりました・・・」
高野山・裏高野・裏本堂・・
「・・慈空阿闍梨殿・・・」 「・・おお、星海殿・・お疲れですか?・・」
「・・いやいや・・大丈夫ではありますが、星と空の相が色々と混み合っておりましてな・・・少し気分を変えようかと思いまして・・・」
「・・そうですか・・ではこちらにお座りを・・・誰ぞお茶を頼みます!・・寒くはありませぬか?・・・」
「・・ありがとうございます・・・かたじけないですな・・・・」
「・・・なんの・・・これぐらいはいつでもお申し付け下さい・・・無理をお頼みして申し訳ありませぬ・・・」
「・・・なんの・・・この件・・・これほどの見立てを詰めて看取れるのは・・・私ぐらいのものでしょうからな・・・」
「・・痛み入ります・・・それで・・・今のところの見立てはどの程度で?・・・」
「・・やはり火星と地球の距離が最も近い時期で・・・長星(ハレー彗星)の尾の中に地球が入っている時に・・・皆既日食とオリオン座が重なって地上に当たる場所ですな・・・・そこが・・・」
「・・伏魔塔が封じられている場所・・?・・」 「・・・ですな・・・」
「・・伏魔塔の確かな場所が解るこの機会・・・奴らが見逃す筈はありません・・奴らの中にも、星見の者はおるでしょうから・・」
「・・しかし、場所は解ってもアテナの封はまだ生きております・・・封を外せなければ魔星の復活は無いのでは・・?・・」
「・・八葉の老師なら塔を地上に引っ張り出すぐらいはできるでしょうが・・封に触ることはできますまい・・・」
「・・・封に触ることができるのは・・・光にも闇にもなれる・・・力を持つ人間です・・・塔の場所が判明する大凡の時期は、何十年も前から奴らにも判っていた筈ですから・・その為の準備も進めている筈・・・」
「・・封に触れる人間の準備もしていると?・・」 「・・恐らく・・・」
「・・孔雀とアキラ君、レムリア様に、月読様と朋子さんは、こちらで確保できていますが・・・」
「・・その他に・候補に成り得る者としては・・?・・」
「・・阿修羅と宇受売の所在が不明ですが・・・まだ生まれていないのか・・隠れているのか・・隠されているのか・・・」
「・・覚醒していないのなら・・覚醒させるための触媒も必要ですな・・・」
「・・・例えまだ生まれていないにしても・・奴らなら、孔雀王か天蛇王の力を行使できるほどの闇の血を、合成して創り出すぐらいのことは考えるでしょうな・・・」
「・・そこまで探査するというのは、至難の業ですが・・?・・」
「・・まあ、難しいとは思いますが、この分野での事は、まずは我々に一任されておりますからな・・・」
「・・アテナが降臨された以上、ハーディアスも、もう生まれたか、もうすぐ生まれるか、でしょう・・あまり時間はありませんな・・」
そう言って二人は、薄雲に隔てられながら、淡く光を放つ月を見上げた。