S S D O ストーリー   作:トーマス・ライカー

7 / 32
ステーション攻防戦2 やまと浮上 カミュ(承前)

やまと・士官室・・・

上座に座っていた海江田艦長がコーヒーを飲み干して立ち上がった。

「・・諸君・・本艦の基本行動方針に変更を加える・・SSDOは今のところ、我々と同じ目的の基に行動しているものと思われる・・本艦は可及的速やかに浮上し、我々の存在を世界に知らしめた上で完全な独立を宣言する。その上で第一にSSDOとの間に、次には日本とオーブ首長国連邦との間に、同盟若しくは契約を結ぶ用意のある事を世界に通知する・・エンジン始動・・バラスト・ブロー・・アップトリム15°20ノットで浮上開始・・・」

士官全員が立ち上がって帽子を被った。

アークエンジェル・ブリッジ・・・・。

「・・本艦の配置までは?・・」と、マリュー・ラミアス艦長。

「・・約40秒で配置に着きます・・・全艦の配置完了までは、約90秒・・・」

「・・陽電子チェンバー起動と、ラミネート・フェイズシフトの最大出力展開を、全艦に通達して・・・」  「・・了解・・MSの発進は?・・」

「・・まだ許可は出ていないから、待機よ・・・」    「・・了解・・・」

『MAC01』司令室・・・・・。

「・・被害報告を・・」

「・・撃墜72機・・パイロットに戦死者無し・・全員転送で収容しました・・負傷者42名・・重傷者はいません・・機体大破48機・・大破機体は分解還元しました・・中破92機・・転送で回収・・小破176機・・同じく転送回収・・・艦隊に目立った被害は今のところありません・・」

「・・機体のフェイズシフトを改善しないといかんな・・・しかし、初陣でこの程度の被害で済むとは思わなかったよ・・・」

「・・・ヴァルキリー隊とZ・リゼル戦隊・ムラサメ戦隊から、変形を許可して欲しいと言って来ています・・」

「・・第一波陽電子砲掃射後に変形を許可する・・」  「・・了解・・・」

『財団』司令室・・・・・。

「・・AIの推測では、敵は攻撃隊を艦隊の軸線上に誘導しているように見えることから、敵艦隊には大規模な攻撃オプションがある可能性が高いと・・・」

「・・敵艦隊をもっと集中して観測してくれ・・・敵のパイロット・・かなり腕が良いな・・・」

「・・それが妙なんですが・・こちらの攻撃で破損した敵の機体が・・次々とロストしています・・・」

「・・消えて無くなる訳でもあるまい・・・向うもテレポートを?・まさかな・・・もっと集中観測を続行して、後で詳細に分析しよう・・」  「・・はい・・・」

アークエンジェル・ブリッジ・・・・。

「・・全艦、配置完了・・」と、ノイマン。

「・・全艦、ローエングリン起動、照準、掃射範囲調整・・発射用意! 」

「・・・・全艦、発射準備完了・・発射10秒前・・・」

「・・射線上の戦隊に退避通告! 」

「・・6・・5・・4・・3・・2・・1・・」  「撃てーーー!!」

10隻の陽電子砲搭載艦から、19本の陽電子ビームが迸り出た。

有効射程範囲に誘導され、追い込まれていたパラノイア攻撃隊は、そのほぼ総てが消滅した。ビームの光は、地上からでもはっきりと見えた。

「・・ローエングリン、掃射完了・・」

「・・全艦、最大戦速で展開! 各個に対空戦闘開始! モビルスーツ隊、全機発進!」

『MAC01』司令室・・・・・。

「・・陽電子砲第一波掃射完了・・」  「・・どのくらい墜とせた?・・」

「・・540機前後かと思われます・・・」

「・・よし! 可変機戦隊には変形を許可する! MS全機発進! クラップ艦隊も対空戦展開! 各艦各個に対空戦闘開始! ステーションまで引き寄せての挟撃も許可する! 」

『財団』司令室・・・・・。

「・・・何だ、今のは? 拡大してリプレイしてくれ・・・」 「・・了解・・」

「・・加速荷電粒子ビームとは違うようだな・・推測させてくれ・・どのくらい墜とされた?・・・」  「・・520機は消滅したようです・・・」

「・・まだステーションに取り付けていない状況でこれでは、こちらが明らかに不利だな・・・再度のテレポートがあるかどうか、探ってくれ・・・」

「・・了解・・それとこれは、敵の対空戦力の新手です・・」

そう言いながら撮影したビデオを拡大してリプレイさせた。

「・・!・・何だ?・・可変機体があるのか・・人型に変形した!・・それにこっちは、元々人型の機動兵器か?・・・機動兵器の技術力では、向こうがかなり上のようだな・・・パイロットの腕が良いのも納得だ・・・これらの機体もデータを取ってくれ・・・」

「・・了解・・推測が出ましたが、艦搭載型の陽電子砲である可能性が高いと!・・」

「・・ビームパワーを拡大強化した、加速荷電粒子ビーム砲ではないのか・・・これがもしも正しいなら、艦隊攻撃もグローバーでの攻撃も、有効かどうか分からんぞ・・」

「・・調べましたが、残りの攻撃部隊に準備指令は出ていません・・」

「・・やるなら、もう出していないと間に合わん・・この作戦・・どうやら失敗だな・・また同盟の失態だが、戦果があるとすれば・・敵の保有戦力の一端を暴露できたことだな・・・」

確かに、540機のパラノイア攻撃機を1度の攻撃で消滅させてから、MAC01ステーション周辺宙域での攻防戦は、SSDOの側に有利に傾いていた。

MS、可変MS、ヴァルキリー、非変形戦闘機隊の連携、コンビネーションアタックは巧みで効果的なものであり、局面の要所でパラノイア攻撃隊を効果的・効率的に撃破していった。時折行われた、ステーション自体が持つ対空火力を利用した水際での挟撃戦も効果的なものであり、敵攻撃隊を効率的に撃ち減らしていった。

『MAC01』司令室・・・・・。

「・・戦況は、こちらに有利です・・」

「・・ああ、ストライク、バスター、フリーダム、ジャスティス、暁、インパルス、ザク・シリーズ、グフ・シリーズ、デルタ・プラス、リガズィ、ドム・トゥルーパーはもう収容させてくれ・・あまり人目に晒させたくない・・」

「・・了解しました・・敵攻撃隊の攻撃目標が艦隊に移りつつあります・・・」

「・・そうか・・艦隊を対空戦陣形のままで後退させよう・・こちらの対空火力と、迎撃戦闘隊とで、トリプル・クロスファイヤ・アタックを仕掛ける・・それと、直援迎撃戦闘隊の50機を発進させてくれ・・・詰めに入ろう・・・敵は数が減ると体当たり攻撃に移行する可能性が高い・・その場合には直ちにシールドアップ!・・」 「・・了解・・」

『財団』司令室・・・・・。

「・・やはり形勢は不利です・・・今から逆転するのは非常に困難です・・・」

「・・同盟から何か言って来るだろう・・チャンネルだけ開けておけよ・・・」

ネプチューン・ブリッジ・・・・・・。

「・・やまと・・海面まで30秒・・距離12500・・こちらの深度は650です・・ポセイドンは反対側・同距離・同深度にいます・・半径150Km圏内に於いて、海中・海上ともに艦影ありません・・200Km圏内に於いて、機影もありません・・」

やまとが再び海面を割って浮上した。

艦橋に出るハッチが開き、一人の男が現れて艦橋に立った。海江田四郎であった。

帽子の上からマイク・レシーバー一体のヘッドセットを着けている。

「・・・こちらは、原子力潜水艦シーバット・・私は艦長の海江田四郎です・・現在・・3MHzにて国連本部・・国連安全保障理事会・・国連に加盟する総ての国に向けて発信しています・・本艦は今ここで、完全な独立を宣言します・・新たな名称は、独立戦闘国家やまと・・私は艦長であり、国家元首の海江田四郎です・・我が国の存在意義は・・全世界の政治体制・政治組織から、軍事体制・軍事組織・軍事力を完全に分離するための、大いなる前哨です・・世界はかつて既に、政治から宗教を分離しました・・そしてこれからの世界は、政治から軍事力を分離する事が求められています・・それができなければ世界は、より危険で不安定で、急速に流動的で非常に予測困難な状況・状態に入らざるを得なくなります・・改めて世界に対して通告します・・本艦を軍事力を以て殲滅する事は、何者にも不可能です・・これから我が国は、自らを先駆けとして全世界の政治から軍事を分離するための活動を開始します・・また我が国はこれより、世界の他国・地方自治体・地域・団体・個人を問わず、それらに対して我が国が持つ防衛力を提供する代わりに、我が国が必要とする物資を貰い受けると言う、同盟若しくは契約を結ぶ用意があります・・その為、3・5・7・9MHzの周波数による通信回線を、我が国と外部との交渉用の回線として常に開放する事を確約します・・そしてこのファーストメッセージの最後に・・我が国はSSDO・日本・オーブ連合首長国との間に・・先に申し上げた趣旨での同盟若しくは契約を結ぶ用意があると言う事を、全地球圏に向けて表明します・・」

話し終えた海江田艦長はカフを取り上げた。

「・・溝口・・今のメッセージを10分のインターバルで30回、リピート発信してくれ・・続けてエンジン始動・・コース257・・速度10ノット・・艦橋深度まで潜航して発進・・」

ネプチューン・ブリッジ・・・・・・。

「・・やまとからの、ファーストメッセージですね・・」

「・・予想より早かったな・・Mネットを通じて文面と音声を各方面に送ってくれ・・それにしても海江田艦長・・やはりニュータイプとして間違いないようだな・・・」

「・・了解・・しかし、『上』はまだ即応できないでしょう・・・」

「・・別に即応する必要もないと思うが・・本艦とポセイドンとで各国の軍の動きと、やまとに接触しようとする様々な動きをモニターしよう・・それに、やまとがこのコースで進み続けるなら・・まず日本と接触する、と言う事になるのだろう・・アメリカやロシア・・同盟に属する組織も黙って見てはいないだろうな・・・」

中国・五老峰・三千間滝に迫る断崖の上・・・・

枯れ切ったような小柄な老人が、笠を被って座っている。

「・・ほう・・今日はいつにも増して滝飛沫の輝きが美しい・・虹の色にもよく映えておる・・・水の聖衣(クロス)が近くにあるお陰かな・・・」

「・・老師・・お久し振りです・・・」

カミュが聖衣(クロス)の箱を担いで断崖の上に現れた。

「・・おお・カミュ・・久し振りじゃな・・」  「・・シャカに言われて来ましたが・・・」

「・・ああ・・先のハーディアスとの戦いの後で・・儂は先代のアテナに具申した・・アクエリアス(水瓶座)の宿命の輪は・・時を超えて・・代を替えても・・立ち顕れる・・新たな宿命の輪に立ち向おうとする者が顕れた時・・ライブラ(天秤座)の聖衣(クロス)に采配させて欲しいと・・」

「・・それで・・先代のアテナは・・?・・」

「・・涙を流して・・儂の肩に手を置き・・同じ内容を命じられた・・カミュ・・シャカから渡された珠数を貸してくれ・・そして、箱を置いたら断崖の先に立て・・・」

カミュは黙って箱を置き、老師に珠数の入った箱を手渡した。そして、居住まいを正すと10歩ほど歩いて断崖の先に立った。

見てはいなかったが老師は、カミュから受け取った瑠璃瑪瑙の珠数を手に合掌し、脚を組んで座った・・すると、みるみる老師の中で小宇宙(コスモ)が急速に増大と凝縮を繰り返していくのが感じられた・・・8mほど離れているが、老師のコスモは自分を目の前の滝壺に叩き落すほどの勢いで高まり続けている。

「・・儂には何らの意思も意図もない・・ライブラ(天秤座)の采配は、ライブラのクロス(聖衣)そのものの意思により決定される・・さあ、アクエリアス(水瓶座)のセイント(聖闘士)よ、ライブラの采配を受け取るが良い・・・」

白光が内側から溢れ出るかのように老師の身体が光に包まれると、地響きがして滝壺からひと際大きい水飛沫が吹き上がり、ライブラ(天秤座)のレリーフが施された、クロス(聖衣)の箱が跳び上がった。

それはカミュと同じ高さにまで上がると、回りの6面を総て弾き飛ばして光り輝く本体を顕した。

「・・さあ!ライブラ(天秤座)のクロス(聖衣)よ! 采配を示せ! オーン!!・・」

その瞬間、クロスを構成するパーツが総て分離して弾け飛び、その中の一つがカミュに向って跳んだ。

カミュは両手でその一つを受け止めた。他のパーツはどこまで跳んで行ったか分からない。

「・・何を受けた?・・」と、珠数を手に立ち上がった老師が訊いた。

「・・左の・・ソーサー・シールドですね・・これには、どのような意味が・・?・・」

「・・左のソーサー・シールドなら、防御の意味合いが強いな・・それを頭の隅に置いて使うが良かろうよ・・それと、これには儂の小宇宙(コスモ)も込めた・・一緒に使えば、相乗効果もあるじゃろう・・」と言いながら老師は珠数を箱に納めてカミュに手渡した。

「・・ご配慮・・痛み入ります・・」

「・・教皇やシャカにも言われたじゃろうが・・生きて還れよ、カミュ・・聖域まで戻るのが厳しいようなら、ここまでは戻れ・・あとは儂が送ってやる・・・」

「・・重ねてのお気遣い・・恐縮です・・」

「・・急いだ方が良いな・・日が落ちれば、奴らは動くじゃろう・・」

カミュは自分の箱を担ぐと、老師に向き直った。

「・・はい・・それでは、参ります・・」  「・・気を付けてな・・」

そのまま踵を反したカミュは、断崖を下って行った。

『財団』司令室・・・・・。

「・・本部長・・推測が出ました・・」  「・・どう出た?・・」

「・・可能性が未知数である上に想像もしにくいのですが・・既存のインターネットは勿論・・あらゆる通信回線・・信号のやり取り・・総てのデータストリームを包含して・・しかも包含している事を気付かせない・・全く異質な・・次元の違う通信ネットワークを使っているのではないかと・・・」

「・・フン・・・敵の艦と戦闘機・・それに機動兵器の分析を始めてくれ・・数が減ったから特攻に移るかもな・・焼け石に水だが・・・カウントダウンは続いているのか?・・」

「・・・続いていますね・・」  「・・それじゃ、次の手があるのか?・・探ってくれ・・」

「・・了解・・次の手があるなら・・これは陽動ですか?・・」

「・・高くついたな・・うん?(彼の携帯端末の呼び出し音)・・私だ・・はっ、これは失礼しました・・はい・・ええ・・はい・・いつですか?・・・!・・はい・・分かりました・・伺います・・それでは・・はい・・失礼します・・はい・・」

「・・CEOからだ・・たった今同盟から連絡が入ったそうでな・・・12時間後にサロン・ミーティングを開くそうだ・・・」  「・・12時間!・・」

「・・ああ・・これは異例中の異例だな・・・推測と分析を詰めてくれ・・ある程度の資料にして持って行く必要がある・・・」  「・・了解しました・・」

『MAC01』司令室・・・・・。

「・・被害報告!・・」

「・・敵機の体当たり攻撃により、クラップ7隻が小破・・4隻が中破・・ともに後退しました・・戦死者ありません・・軽傷者48名・・艦内で治療中です・・残りの艦隊はシールドパワー平均80%を維持・・ステーションについては問題ありません・・敵機の残数は250ほどです・・・」  「・・カウントダウンは続いているのか?・・・」

「・・カウントダウン続行中・・ミサイル発射まで、9分・・」

「!・・じゃあこれは陽動作戦か!・・周辺の小惑星をチェック!・・全艦・全ステーション、ディフレクターシールド・構造維持フィールドフルパワー!・・予定通り3分前で総ての衛星に侵入して同期!・・ショックカノンとゴットフリートを起動!・・狙える敵機は狙撃しろ!・・100ml入りのスパイナーカプセルを20個用意してくれ・・・」

「・・・了解・・ですが、スパイナーの備蓄量からすると、用意できるのは10個です・・」

「・・仕方がない・・それで頼む・・・」  「・・はい・・まさか小惑星をテレポートでここにぶつけようって?・・」  「・・そういう事だね・・ぶつけられてもステーション本体は何とか無事だろうが・・稼働中のシステムや人間がどうなるかは判らん・・対空ミサイルランチャー全機、格納してくれ・・最悪の場合、ビーム撹乱幕拡散弾は転送で配置しよう・・・ミサイル発射5分前を特に警戒してくれ・・・」  「・・了解・・」

国連本部・事務総長執務室・・・・

クレイグ首席書記官がノックして入った。

「・・失礼します・・お呼びで・・?・・」

「・・シーバットの事は知っているな?これは日本、アメリカ、オーブに宛てた公開質疑書簡だ・・至急テレックスにて発信してくれ・・それから、今言った3ヶ国の大使を呼んでくれ・・それと緊急安全保障理事会の開催通告を出してくれ・・・」

「・・了解・・・SSDOとシーバット・・関連があると思われますか?・・」

「・・さあな・・むしろ関連は・・これから作られると思うね・・急いでくれよ・・」

日本・横須賀・アメリカ太平洋艦隊所属・第7艦隊揚陸指揮艦ホワイト・ベンフォールド・・・

「・・ドラン中将・・ドール統幕議長から、コールです・・」

「・・うん・・回してくれ・・」  「・・はい・・」

ブリッジのメインビューワが、ヘンドリック・ドール統合幕僚本部議長の姿を映し出した。

「・・ヘンリー・ドラン司令・・シーバットのメッセージは見たかね?・・」

「・・先程、見ました・・」  「・・第7艦隊司令部としての対処は?・・」

「・・哨戒機3機に離陸指令を・・加えてロサンゼルス級5隻に出航・変針を命じました・・武装解除の上、拿捕して連行します・・」

「・・よろしく頼む・・日本との関係もあるから慎重に対応してくれ・・現時点に於いて、威嚇以上の対応は許可しない・・」

「・・了解しました・・日本の海上自衛隊も動くと思いますが・・・」

「・・ロシア海軍もだろ・・日本のディーゼル潜なら協力して貰っても良い・・ただし、抜け駆けは許すなよ・・ロシアの艦を探知したら連絡してくれ・・こちらからもコンタクトしてみる・・」  「・・了解しました・・」

日本・横須賀・海上自衛隊・第2潜水隊群・「たつなみ」艦橋・・

艦長の深町 洋が甲板上の渡瀬 悟郎航海長に声を掛けた。

「・・航海長!・・給油はあとどの位で始まるんだ!?・・」

「・・30分ちょっとですね・・」  「・・少し早目に始めてくれ!・・」

「・・また何かのカンか虫の知らせですか?・・」

「・・余裕があるならやれよ!・・」  「・・了解・・・」

その時、深町の頭上をアメリカ海軍の対潜哨戒機が3機、あまり間隔を空けずに飛び過ぎた。   「・・ありゃあ、定時の離陸じゃないな・・・」

艦内から副長の速水 健次三佐が声を掛けた。

「艦長! 山之内幕僚長からです! つないでますよ! 」

「・・何だ? 田所司令じゃないのかよ? 」 「・・知りませんよ! 」

やり取りしながらマイクレシーバー・ヘッドセットのジャックをポートに挿し込み、帽子の上から被ってチャンネルを開く。

「・・こちらは『たつなみ』・・深町です・・」

「・・山之内だ・・急ぎで済まないが、可及的速やかに調えて出航してくれ・・命令の詳細は出航してから送信する・・・どの位で出られる?・・」

「・・今から給油しますんで、少なくとも終わってからですね・・」

「・・分かった・・悪いが急ぎでな・・」  「・・了解しました・・」

通話を終えると、切り換えて副長を呼んだ。

「・・聞いてるな? 速水・・南波から連絡は?・・」

「・・ありません・・水測長は、携帯の電源を切ってます・・・」

「・・研究所には、入ってるはずだ・・・南波が捕まれば、ダビングの件はバレるな・・・この動きからすると・・海江田のヤローが生きてるってのは、どうやら確実なようだ・・だがまあ、取敢えず最高速で出港準備だ・・」  「・・了解・・・」

通話を終えてヘッドセットを頭からむしり取ると、さっきより大声で航海長に怒鳴った。

「・航海長! 最高速で給油を終えろ! 虫の知らせが当たっちまったぜ! 」

そのまま返事を聞かずに艦内に降りて行った。

オーブ連合首長国・首都オロファト・内閣府官邸・代表首長執務室・・・

首席秘書官がノックして入った。

「・・ウズミ様・・お呼びで・・?・・」

「・・ああ・・最高評合議委員会の見解は出たかね・・?・・」

「・・出ました・・こちらです・・」封筒を手渡す。

ウズミ・ナラ・アスハは、受け取ると封を開けて書類を出し、内容を一瞥するとペンを取って手早く数行書き込んで封筒に入れた。

「・・これが決定だ・・国連からのテレックスへの回答と、我が国の国連大使にもこの内容で送信してくれ・・」 「・・分かりました・・・」

秘書官は封筒を受け取ると、そのまま退がった。

一分ほどして執務室の奥のドアが開き、五大首長の1人、コトー・サハクが入ってきた。

「・・ウズミ殿・・シーバットの艦長は、オーブと何か所縁があるのか・・?・・」

「・・彼の父親が現役時代・・武官として駐在していた時期があったそうだな・・・」

「・・しかし、それにしても・・・」

「・・ああ・・このオーブの事は、調べればある程度の事は判るからな・・・」

「・・SSDOはどう見る・・?・・」

「・・今は静観するしかあるまい・・・力と力のぶつかり合いが静まれば・・目と耳と口が動き始める・・我等が動くのは、それからでも良かろう・・・」

「・・そうだな・・・この前、日本会議と交信したのは何時だったかな?・・・」

「・・・八ヶ月ぐらい前だったかな・・・」     「・・内容は・・?・・」

「・・別に何も・・・一年に一度の定時交信だったからな・・・・」

『MAC01』司令室・・・・・。

「・・敵攻撃隊は・・残り100機前後です!・・・!・・テレポート精神波を検知!・・ここにではありません!・・」

「・・精神波の集約ポイントを割り出せ!・・全攻撃衛星に侵入して同期しろ!・・全機、全艦はステーションから距離を取れ!来るぞ!・・スパイナーカプセル全数ロックして転送準備!・・」

「・・ポイント判明しました!・・小惑星シルヴィアの衛星、ロムルスです!・・平均直径、21km・・」

「・・ロムルスのデータを出して構造的に弱いポイントを10ヶ所選定してくれ・・・そこにスパイナーカプセルを転送配置する!・・」

「・・了解・・全攻撃衛星同期完了・・カウントダウンプロセスリンケージをリセット・・リモートコントロールアレイを暗号化・・こちらのコントロールグリッドを設置しました・・!・・ロムルスの反応が消えました!来ま・・!・・」

その岩塊は、いきなり目の前に顕れた。司令室にいる全員の眼がメインスクリーンに吸い付けられる。

「・・!・・!・衝突までは!?・・」   「・・・!?・・130秒!・・」

「・・ポイントは?!・・」   「・・10ヶ所選定しました!!・・」

「・・カプセルと同じ体積を先に抜き出してから設置だ!開始!!・・」

「・・作業中・・・全カプセル・・・・設置完了!・・」

「・・直ちに爆破!!・・」

ロムルスのあちこちにある割れ目から光が漏れる。2秒ほど全体を震わせてから、ガスと細かい破片の噴出を伴って、幾つかの岩塊への分裂が始まった。

「・・総ての分裂岩塊をロックしろ!・・幾つに割れた?・・」

「・・8・・9です!・・」 「・・衝突コースにある大きい岩塊は?!・・」

「・・4です・・」  「・・よし・・光子魚雷4基・・起爆モードでロック! 転送設置後直ちに爆破する! ぶつかる前にやるぞ!」

「・・はい!・・最短M1、衝突まで28秒・・魚雷モード確認、ロック・・・転送設置・・・・完了!・・爆破します!・・・」

更に接近中だった4個の岩塊は、ほぼ寸前と言っても良いほどの距離で、その内側から光を溢れさせた。光子魚雷弾頭の破壊力は、設置された岩塊の規模から見れば、かなり大きなものであったので、爆破された後に残るものはあまり無かった。

「・・岩塊排除・・残りの5個は遠ざかります・・ステーション、全機・全艦ともに影響ありません・・敵機の残数は数十・・陽電子砲台のカウントダウンは続行中・・・」

「・・残り5個のロックはまだ解くな・・テレポート精神波を検知したら遠方に転送・・ステーションの防御態勢は維持・・敵機はあと10分で掃討しろ・・光子魚雷を使ったのはマズかったかな・・手の内を見せ過ぎたか・・・」

「・・了解・・止むを得ないのでは・・?・・」   「・・うん・・仕方ないな・・・」

『財団』司令室・・・・・。

「・・・・かわされました・・・・・攻撃隊も・・・もう掃討されます・・・・」

「・・最後まで記録は取り続けろ・・・最初の爆破と次の爆破では、違うものを使ったようだったな・・・・陽電子砲台のカウントダウンは続いているのか?・・・」

「・・・止まりました・・・」  「・・そうだろうな・・・あれだけやって全くの無傷なんだからな・・・精神波もかなり使ったし・・・もう続けては使えまい・・・艦隊やグローバーの作戦も見直されるだろう・・・パミール高原の作戦は動かせないから、また陽動の作戦を考えないといかんな・・・・その辺のところも、サロン・ミーティングで話に出るだろうな・・・分析と推測を出来るだけ詰めよう・・・」

ニューヨーク・ポイントA・・・・・。

「・・・かわしました・・・・何とか・・・・」

トーマス・キールが大きく息を吐いて背もたれに上体を預けながら言った。

「・・さすがシエンさんね・・・」  ルートが感嘆した。

「・・陽電子砲台のカウントダウンは?・・」と、フィンチが訊く。

「・・少し前に止まりました・・」キールがモニターを確認して言う。

「・・あれだけ派手にやって結局ステーションにはダメージ無しだったんだから、無駄だと思ったんでしょう・・?・・」と、ショウさんが髪を掻き揚げながら言う。

「・・これで同盟も、暫くは打つ手無しってところじゃないかな・・?・・予定されている攻撃計画も見直されるだろう・・・」ジョン・リースはそう言いながら、ほんの少ししか残っていなかったウィスキーグラスを干してテーブルに置いた。

「・・どうかな?・・パミール高原での作戦までにはまだ時間がある・・・新しい陽動作戦を複数用意するのに・・不都合は無いと思うよ・・」フィンチはそう言って紅茶のカップを取り上げた。

トーマス・キールがまたモニターを覗き込んで言う。

「・・ああ・・どうやら・・敵の攻撃隊は総て掃討されたようです・・戦闘の反応が急に弱くなって・・今はありません・・・」

急にショウさんが座っていたデスクから降り立ち、思い出したように言う。

「・・それはそうと・・何だっけ?・・あの・・潜水艦・・ああ!そう、シーバットだっけ?・・あれは、あたしたちと何か関係があるの?・・」

「・・どうなんだろうね?・・私は何も聞いていないがね・・・」

そう言いながらフィンチは紅茶のカップを置いた。

「・・あの艦長が言ったメッセージは、なかなか面白いものだったがな・・・・」

リースも立ち上がって、軽く首を回して言う。

「・・Mネットを通じてあの潜水艦の事を調べたが・・あの艦が出航した当時、まだステーションはフェイズ1を起動していなかった・・・にも拘わらずのあのメッセージは・・私も興味深いがね・・・恐らく『上』は、あの潜水艦の事を以前から知っていたのだろうな、とは思うよ・・・マシンは何か言っているかね?グローヴスさん・・・」

そう言ってもう一度ティーカップを取り上げた。

「・・ルートで良いってば・・『彼女』もMネットを通じて、あの潜水艦の事をモニターはしていたけど・・・何の判定もしていなかったわね・・・」

「・・それじゃあむしろ関係は・・・これから作られるんだろうって事だな・・・」

リースがショウさんを見遣って言った。

その時、右側のモニターの右下の隅が2回点滅した。キールが操作して言う。

「・・ああ・・デンベさんからメールです・・ジョージ・ワシントン空港で、レナード・コールさんと合流したそうです・・車でここに来ます・・」

「・・対応するSRを伝えてやって・・」と、フィンチが言った。

『MAC01』司令室・・・・・

「・・・敵攻撃隊・・・掃討完了・・・・」

「・・了解・・全機、全艦並びに全セクションへ・・・ご苦労さん・・・対応に感謝する・・・全機、全艦は帰投せよ・・・要撃増援隊も全機、こちらで収容して修理・整備・補給を行う・・・全ゲートは開放・・・誘導を開始してくれ・・・代わって高速パトロール中隊を発進させ、周辺宙域を確認させてくれ・・・ステーションの防衛体制は今後3時間は現状を保持する・・・改めてステーションの外殻を確認・・・恐らく敵が付けた何某かの付着物がある筈だ・・・それと、時間が掛かるからスパイナーの合成を開始してくれ・・・あとは、何かニュースはあるかな・・?・・・」

「・・了解しました・・・先ず、陽電子砲台のカウントダウンは少し前に止まりました・・・発射プロセスはシアー解放まで進んでいましたが、停止しました・・・サハラ砂漠の地下ドックと、ソロモン諸島の海底ドックでの準備作業は停滞しています・・・明確な中止指令は出ていませんが、停滞しています・・・それと関連して・・かと思いますが、同盟と財団のトップグループ同士による会合が12時間後ぐらいに開かれます・・・例のサロン・ミーティングですね・・・それもあって今後の攻撃計画も、見直されるのでは、と言う憶測が双方のネットの中で流れています・・・そしてこれが、『やまと』のレポートです・・・」

そう言って10ページのレポートが手渡された。私はレポートを左手で持ったままで、

「・・サロン・ミーティングの開催場所は、まだ特定できないかな・・?・・」

「・・毎回全力で探査していますが、今以てできません・・・」

「・・分かった・・そちらの探査は、引き続き続行しよう・・・強行偵察工作中隊とファントムペインにMネットを通じて連絡をとり、一時的に中隊を収容して貰おう・・・それと攻撃衛星群の制御を向うに返してやろう・・暗号化したリモートコントロールアレイは元に戻すが、こちらで設置したコントロールグリッドは暗号化して残すように・・ハッキングを解除してくれ・・・」

「・・了解しました・・・」

私は近くのシートに座り、レポートを読み始めた。コーヒーが欲しい。

3分30秒程を掛けて10ページを読み終えた私は、レブリケーターにコーヒーを出させると自分の席に戻った。そのまま2分程考えた私は、コマンダー・シートに座っている男に声を掛けた。

「・・高野・・・セカンド・サブ・スペース・フィールドを利用しての、ディープ・ネットワークミーティングを開く・・・対象は、総てのセクションリーダーだ・・開始は2時間後と言う事で、手配を頼む・・・」

「・・分かった・・日本はそろそろ夜明けだ・・・」

「・・ああ・・今日は、忙しくなりそうだな・・・・」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。