機動戦史ガンダム 双眸のガーディアン   作:アルファるふぁ/保利滝良

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4話Bパート

フジ基地。ここは本来、連邦軍の軍事基地であった。しかし現在は、コロニー国家アールデン共和国の電撃攻撃によって制圧され、その支配下に置かれている。

 

そんなフジ基地であるが、制圧の一週間後には連邦軍による奪還作戦が決行されていた。

 

前後から迫る対地ミサイルの嵐。砲弾の雨。

 

建造物に命中し、爆ぜる。爆ぜる。構造物が崩れ落ちる。辺りから煙が上がり、炎が基地を焦がす。

 

「ええい、連邦はこの基地が惜しくないのか!?容赦無く爆撃してきおってぇ!」

 

制圧部隊の隊長であったアールデンのリドリー・ヴィンヘルト少佐は、自分の為に用意させたモビルスーツの中で吠えた。連邦の部隊が、捕虜や基地の施設に遠慮なしに攻撃していると判断したためである。

 

実際には違う。フジ基地は元々連邦のものだったのだ。連邦側には攻撃してはいけないポイントは把握されていて、そこ以外を徹底的に爆撃されているだけ。

 

「敵の爆撃ポイントから離れろ、散れっ!纏めてやられるぞ!」

 

そして、爆撃地点からアールデンの部隊が離れたその瞬間、連邦の本命が叩き込まれる。

 

「ヴィンヘルト少佐!上空に敵反応です!」

「何?!」

 

モビルスーツによる航空降下奇襲。爆撃によって浮き足立った敵のど真ん中へ、モビルスーツが飛び込んで大暴れする。

 

降下部隊に対応する間にも前後の地上部隊は攻撃を仕掛けて来るだろう。いや、降下部隊に被害を出さぬよう爆撃ではなく突撃をかけてくるかもしれない。そうなったら取り囲まれて各個撃破されて負ける。そしてその状況は絶対に避けられない。

 

詰み、だ。チェックメイト。王手とも言える。

 

アールデンの部隊に、もはや勝ち目はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラムドはアールデン開発のモビルスーツだ。ずんぐりとした体型は被弾経始を考慮して曲線主体にした名残だ。機体内部も余計な機器を排除し、構造を単純化して耐久力の向上を実現した。

 

だが、ビームライフルを防げるほどではない。

 

「ぎゃああっ」

 

上空から胴体を狙い撃ち。一射で仕留める。

 

ダンシングシープが急降下しながら、眼下の基地へ射撃を加える。ただ闇雲に撃っているのではなく、FCSの補助を受けた高精度ロックオンを頼った狙撃。ガンダムのデュアルセンサーカメラアイとツインブレードアンテナによる恩恵だ。

 

全10発のうち8発が命中、3機を撃墜。少し離れたところで同じく降下射撃を行なっているショコラとアリスも、アールデンのモビルスーツを次々打ち倒しているに違いない。

 

制圧一週間では基地内の対空設備を掌握できなかったか、もしくは味方の砲撃爆撃が対空火器を潰してくれたおかげか、アールデン部隊からの反撃はモビルスーツによるものばかりだ。

 

着陸場所の敵を退け、やがてガンダムは地表へ接近する。

 

ブースターペダルを踏み、逆噴射。落下速度を殺して軟着陸。コクピットへ軽い衝撃。

 

ガンダムが大地に立つ。

 

「こちらメリー、基地内部に到着しました」

「こちらショコラ、同様に着陸完了」

「こちらアリス、ポイントへ到着」

「二人とも無事…よかった」

 

3人娘の報告。全員が無事であることにメリーが安堵する。

 

さて問題はここからだ。フジ基地の内部へ着陸することだけが今回の任務ではない。周辺の敵を攻撃し、撃滅。他の味方部隊と共にアールデン部隊を駆逐することが作戦目標だ。

 

それを遂行するまで、油断はできない。

 

「よし、GT-1各機は集結せよ。レーダーで味方の位置を確認しつつ、遊撃にあたれ」

「「「了解!」」」

 

他二人と合流して、手当たり次第に敵を倒せ。雑な命令だ。だが今はこうするしかない。

 

「ラビットとドッグは…」

 

メリーはレーダーを見た。他二人のガンダムを探すためだ。

 

だがその行動が、彼女の命を救った。

 

「敵反応…後ろ!?」

 

シールドを投げ捨て、サーベルを引き抜き、振り向く。ずんぐりとしたシルエットがブーストダッシュで接近してくる。味方ではない。

 

敵がサーベルを振り下ろすのとシンクロするように、ダンシングシープは左腕を突き出す。その手にはアクティブ状態のビームサーベルがあった。

 

ぶつかり合うビームの刃。

 

「くぅう…っ」

「こいつ…こんのっ!」

「負けるかぁ!!」

 

磁力線などによって大量に集められたビーム物質は、その周囲に不可視の力場を発生させる。この力場同士をぶつけた場合、その力場は金属をぶつけ合わせたように振る舞う。これがビームサーベル効果だ。

 

ビームサーベル効果によって、質量が低いビーム物質の刃でも鍔迫り合いが起きる。ロムドとガンダムが、お互いへサーベルを押し付けようと腕を押し込んだ。

 

「ふぅっ!」

 

だが、相手の刃が穿ち抜けぬのではいくら刃を合わせても無意味。仕切り直しとばかりに二機は後ろへ下がった。

 

「連邦の新型か!?」

 

ロムドはビームサーベルを上段に振り上げ、先程と同じようにブーストダッシュで接近する。一気に近づいて叩っ斬るつもりだ。

 

ここで得策なのは、リスクの高い斬り合いに付き合わずに距離を取ることだ。だが、そんなことに気付ける経験もないメリーは、別の手で対抗した。

 

「いっ…」

 

ブースターペダルを限界まで踏み込んだのである。

 

「けぇえ!!」

 

ラムドがサーベルを振り下ろす寸前に、ガンダムの白い影が通り過ぎる。メリーはその一瞬に、ガンダムの左腕を動かした。サーベルを持った左腕を。

 

「なにぃ…?!ぐわあ!!」

 

すれ違いざまの一閃。刹那で勝負は決した。コクピットにまで到達する深々とした切れ込み。

 

速度を強化する追加装備を手に入れたダンシングシープの推力で、ラムドの一太刀より早くその懐へ突っ込んだ。

 

後ろで動かなくなったラムドの一機を尻目に、メリーは深呼吸する。こんな一勝に喜んでいる場合じゃない。

 

「ショコラ、アリス、今どこ?」

 

二人と合流して、作戦を遂行せねば。作戦は始まったばかりなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フジ基地の中央、第2兵舎棟。その周りで、ヴィンヘルト少佐率いるモビルスーツ隊は数秒の休息を取っていた。

 

休息といっても、モビルスーツに乗ったまま呼吸を整えるだけだ。余裕のある者でも、一口水を飲む程度。

 

戦闘はまだ終わっていないし、そも辺り一面火の海で、本格的な休息などとれようもない。

 

「畜生…こんな、こんな場所でぇ…!」

 

ヴィンヘルトは恨み言を言いつつ歯を食いしばった。眼帯の周りに深々と皺が生まれる。顔中にびっしり浮かぶ汗は、死への恐怖によるものか。

 

「こんな場所で死んでたまるか、私は…!おのれドラクル公!」

 

ヴィンヘルトの眼帯の奥には、眼球がない。代わりに人工の生体組織で作られた精巧な義眼が入っている。それは失われた片目の役割はしてくれなかった。

 

ヴィンヘルトは、ダーリックの腹心の部下として、出世のために多くを捧げた。片目を失うほど過酷な作戦も黙々とこなしてみせた。

 

だが、ダーリックはそんなヴィンヘルトに労いの言葉一つ送ってこない。もしや、竜公は自分を捨て駒の一つとしてしか見ていないのか。彼の予感は的中していた。ダーリックはヴィンヘルトに、大した期待も深い信頼も向けていないのである。

 

ヴィンヘルトの不安は、ダーリックへの隠された憎悪に変わった。いつかあの男を、赤い執務室で踏ん反り返るあのドラクル公を、絶頂から引きずり落としてやる。最近は、そんな考えがヴィンヘルトのモチベーションであった。

 

だが、そんなものは、今のこの状況をひっくり返す助けにならない。

 

「少佐、北西から敵です!敵モビルスーツが接近しています!」

「4機は兵宿舎に向けて武器構え!残り全機、敵機を取り囲め!」

 

こうなったらどんな手を使っても生き延びてやる。ヴィンヘルトの残った方の目が、妖しく光った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レーダーには敵の集団。メリーは間違えてそこへ突っ込んでいってしまう。ダンシングシープの推力ならいざとなれば急速離脱できるのも油断を助長したのだろう。

 

が、メリーは思わず足を止めてしまう。敵の数に驚いたのではない。敵が何かを取り囲んでいるのに驚いたのだ。

 

「何…?」

 

取り囲まれているのは兵宿舎だ。メインディスプレイに表示される、生体反応。あそこにはフジ基地の捕虜が捕まえられている。

 

敵がそれを取り囲んでいるというなら、その目的は一つだろう。

 

「人質!?」

「連邦のモビルスーツ!動くなよ…こちらはアールデン帝国第6モビルスーツ師団だ!こちらにはこのフジ基地の指令を含めた約2000名の捕虜がいる!大人しくしなければ…」

 

敵のモビルスーツからの拡声器による通告。というよりは、好き勝手な言い分だろう。このあと、人質の安全をダシに何かしらの交換条件を要求してくるはずだ。

 

「こちらの捉えた捕虜はここにいるだけが全てではない!貴様らが妙な動きをすれば、ここの人間は容赦なく死ぬだろう、貴様らの軽率な行動によってな…!

「メリー少尉」

「セイヴ特務大尉…どうしますか?」

 

ダンシングシープはその場に縫い付けられたように動かない。人質をとられて動きが取れないのだ。だが、このまま停止していたら敵に取り囲まれて二進も三進もいかなくなってしまう。

 

こっちが人質のいる兵宿舎を目視できているなら、向こうもこちらのことをレーダーか何かで認識しているはずだ。攻撃を受けるのは時間の問題か。

 

「言っただろう、君は一人なんかじゃない」

 

メリーはハッとした。昨日の夜に言われた檄の言葉。

 

レーダーを見れば、こちらに遠足力で向かう二つの点。メリーは一人で戦っているのではない。彼女には、仲間がいる。

 

「合図を出したら突撃して撹乱、いいか?」

「はいっ!」

「3…2…1…ゴー!ゴーゴー、ゴーッ!」

 

全てのスラスターが後方を向き、脚部のホバーユニットが起動する。モビルスーツには、ブーストダッシュの際に足を引きずらないよう、ホバーユニットが標準装備されている。

 

全速力、時速900キロを超えるスピードで突貫するガンダム。唐突な単騎突撃に、ラムドたちの動きが一瞬遅れた。

 

バックパックから伸びるサブアームが鎌首をもたげ、先端のレールガンを発射。2本のレールから電磁投射された特殊弾は、曲面装甲を食い破って内部へ突入。ぼーっとしていた一機をすっ転ばせながら仕留める。

 

目前の3機のうち、一機が倒れた。もう一機がビームライフルの正確な一射でコクピットを焼かれた。もう一機がダンシングシープの前に立ちはだかる。

 

「メリー、右へ」

「了…解っ!」

 

スラスターの向きを変更、右側に行くダンシングシープ。一瞬前まで胴体があったところを、ビームの弾が通過する。ビーム弾はガンダムの胴体ではなく、ラムドの胴体に着弾した。

 

アリスのスマイリードッグだ。この攻撃はビームスナイパーライフル。砲身を延長したビームライフルの遠距離用モデルによるもの。

 

ガンダムのデュアルセンサーカメラアイとFCSを同期させ、遠距離狙撃を敢行したのである。

 

「またやられた!連邦の新型だ!」

「チィ!撃て、宿舎を撃てえ!」

 

アールデンの部隊が、報復をせんと武器を人質たちの詰所へ向けた。だが、宿舎とラムド達の間に、3枚の盾が舞い降りる。

 

「撃てぇ!」

 

ヴィンヘルトの命令に従い、5機のラムドが集中砲火を行う。マシンガン、ロケットランチャー、ビームライフル。それらはシールドに阻まれて、兵宿舎に傷ひとつ負わせられない。

 

空から落ちてきた3枚の盾は、ガンダムだ。ショコラのスリーピーラビット。両腕には通常のMS用シールドを、真ん中にはサブアームで『アームズシールド』を持っている。

 

アームズシールドは一見巨大な実体盾だが、表面にビームサーベルの膜を展開することで敵の弾を無力化する。ある程度のビーム弾はビームサーベル効果によって搔き消え、実体弾は表面の膜によって大きく劣化する。そして大きく威力減衰された敵弾を、物理的強度の高い盾本体で防ぐのだ。

 

「ぐぅうっ!」

 

ショコラが呻く。彼女の機体は非常に高い防御能力を持つが、それでも敵部隊からの集中砲火を受け流すには、ただ盾を構えるだけでは不足だ。斜めに構えて弾くようにし、わずかに動かして盾の壊れた箇所に当てないようにする。

 

ただ相手に盾を向けただけなら、この集中砲火で両側のノーマルシールドは破壊されていただろう。その場合は攻撃を本体が受ける羽目になる。だが、スリーピーラビットのシールドはどれも健在だった。

 

「何!?」

「耐えただと、そんなバカな!」

「リロード、急げ…うわぁっ」

「敵がこっちにきたぁ!」

 

結局弾切れまで撃ち尽くしても尚、ショコラは倒れなかった。スリーピーラビットが健在である以上、兵宿舎には指一本触れない。

 

「ショコラ、大丈夫!?」

「自分の心配しなさい!」

「援護する」

 

ショコラ機を取り囲んだ敵は、駆けつけたメリーと遠方のアリスが次々に散らしていく。ビームが一機の頭を吹っ飛ばし、サーベルが一機を切り捨てる。

 

人質のいる兵宿舎から敵の注意が逸れた瞬間、ショコラのガンダムがついに大きな動きを見せた。

 

「よくもやってくれたわね…」

 

スリーピーラビットが全てのシールドの下端を敵に向ける。そこには、ビームガンがあった。通常シールドが接続された腕に一丁ずつ、アームズシールドにはデフォルトで二門のビームガンが内蔵されている。

 

計4丁のビームガン。その一斉発射。1発だけでなく、全て撃ち尽くしてやると言わんばかりの連射。

 

ビーム弾の弾幕に、二機の敵が巻き込まれる。

 

「ぐわあぁ!」

「わーっ!」

 

ずんぐりむっくりなボディを蹂躙するビーム物質の乱射攻撃。そのいくつかがコクピットを貫通し、二機のラムドの内部で、パイロットが焼け死んだ。

 

「ロック…発射」

 

スマイリードッグには多くの火砲がある。脚部ミサイルランチャーもその一つだ。小型ながら威力が高く、当たりどころによっては軽量級モビルスーツも仕留めることができる。

 

そんなミサイルが雨あられと降ってくる。アールデンの兵士はたまったものではない。足を止めればミサイルの奔流に飲み込まれ、爆散は必死。

 

「くぉおお、まだ来んのかよぉお!」

「うわっ足に当たった…あぁっ!」

「反撃ができねえ、する暇もねえ!」

 

回避機動を取り続ける3機のラムド。ミサイルをひたすら避ける。

 

だが、大量のミサイルは本命ではない。

 

「ビームキャノン、シュート」

 

スマイリードッグの右肩、大口を開けたビームキャノンが光の塊を吐き出す。大きなビーム弾は正確な狙いでまっすぐ飛んでいき、ミサイルを避けるのに集中していたラムドを捉えた。

 

「母さ…」

「…これで2機」

 

アリスは、ビームキャノンを確実に当てられるようミサイルで敵の動きを抑えていた。自由に飛び回られては当てられない、ならば、動きをこちらの思う通りに誘導すればいい。予測された回避機動の先へ、ビームキャノンを撃ち込んでやればいい。

 

二射目。ミサイルで足をやられたラムドへ、左肩のビームキャノン。

 

「ぐわぁああああっ!」

 

ラムドの胴体部が消失する。スマイリードッグのビームキャノンの威力は、Mサイズ巡洋艦の主砲に匹敵する。そんなものの胴体直撃を受けて、モビルスーツが耐えられるはずはない。

 

「なんだ、なんだあいつはよ…!あわっ!」

 

倒れる2機の同胞。ミサイルの雨は弾切れにより止んだ。今なら、遠距離からこそこそ攻撃してきたスナイパーに近付ける。

 

だが、そうは問屋が卸さない。ミサイルが止んだ瞬間に気を抜いたラムドのパイロットは、コクピット狙いのビームスナイパーライフルを受けて沈黙した。

 

「これで、4機」

 

アリスは、スマイリードッグは動いていない。砲撃ポイントでじっと敵を見据え、正確な定点狙撃を続けていた。

 

「…もう一機で、エース」

 

そしてアリスは、無慈悲な狙撃を続行する。ビームキャノンが炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしたことだ、なんてことだ。ヴィンヘルトの企みは無情にも砕け散った。

 

人質作戦は無力化され、敵モビルスーツは眼前にまで迫っている。用意させたラムドも、相手には1スコアでしかない。

 

冷や汗をかく。このままではダーリックも何もあったものではない。いったん逃げ出して立て直しをしなければ。

 

「敵かっ!空から!?」

 

ラムドのコクピット内、メインモニターの右斜め上、スラスターの光が一瞬瞬いた。レーダーの情報が真実なら、飛んでくる敵がいる。地上攻撃機か。

 

いや違う、モビルスーツだ。モビルスーツが単独で空を飛んでいる。ヴィンヘルトの脳裏にナルカ共和国の機体が浮かんだ。だがナルカは味方だ。

 

連邦のモビルスーツが、単独で飛行。何のためにといえば、自分を殺しにだ。

 

「くるなぁあああっ」

 

空へビームライフルを放つ。大空を舞う敵機は、それを右に左に華麗に避けた。前後左右の二次元機動しかできないブーストダッシュとは違い、上と下の概念もある三次元機動。空を飛べる機体のアドバンテージだ。

 

接近してくる敵モビルスーツ。それは腰からビームサーベルを取り出した。

 

馬鹿め、このリドリー・ヴィンヘルトに、剣術の段位を持つ自分にサーベル勝負とは。自信満々にサーベルを取り出すラムド。だが、一つの疑念が頭をよぎる。自分はなぜ、あんなに遠くの敵がサーベルを抜いたと気付けたのか。

 

ラムドのカメラアイに望遠能力はない。ヴィンヘルトの目が特別がいいわけでもない。

 

敵のサーベルが巨大なのだ。

 

「なっ…」

「はぁあああああああッ!」

「何だとぉおお?!」

 

通常のビームサーベルが刃渡り7メートルほど。敵機が振るったのはその3倍はありそうな長さのサーベルであった。

 

剣で迎え撃とうとしたヴィンヘルトは足を止めてしまっていた。現れた二つ目のモビルスーツがその胴体に21メートルのサーベルを叩き込むのに、苦労はなかった。

 

光に包まれる視界の中で、アールデン帝国少佐リドリー・ヴィンヘルトは死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから十分しないうちに、戦闘は終息する。ヴィンヘルトが戦死した段階で、指令を失ったアールデン兵は一気に戦意を喪失。砲撃を行っていた地上部隊が基地へと突撃したのもあり、大勢が決して作戦は終了した。

 

連邦の捕虜を取っていたアールデン部隊は、生き残りのほぼ全てが捕虜となった。先程フジ基地の隊員が入っていた宿舎に、今度は彼らが入る番となる。

 

砲撃ポイントは、訓練場など被害が少ない地点に絞られた。おかげでフジ基地の復旧が滞ることはない。

 

完璧な作戦運びであると言える。ガンダムパイロット3人も、これで大きな自信と経験を手に入れたであろう。セイヴはホッと息を吐いた。

 

メインブリッジも静寂を取り戻している。ペガリオはこのままフジ基地に降下、着地するようだ。窓から空を見る。

 

絵に描いたような青空。降りる際に見下ろしていた雲が、今は遥か頭上にある。下を見れば惨状。味方の基地は穴だらけ火だらけだ。

 

ふと、横を見る。何かが近付いてきた。

 

「敵機か?」

「レーダーでは、味方だと」

 

艦長とオペレーターのやりとり。他のブリッジクルーにも見えているようだ。

 

それがだんだん近付いてくるにつれ、シルエットがはっきりしてきた。モビルスーツだ。

 

「メリーか…ふふっ」

 

こっちを向いて手を振っているように見える。恐らく、初実戦で金星を挙げてはしゃいでいるのだろう。

 

昨日の夜に相談をした甲斐があった。彼女はこれからも、大いに活躍してくれるに違いない。

 

ペガリオから遠ざかるダンシングシープのコクピットで、メリーは叫んだ。

 

「5機以上撃墜、これでエースだね!」

 

初陣を戦い、生き残った。その価値は、非常に大きい。

 

勝利の味を噛み締めて、メリーのガンダムが大空を遊覧飛行していた。

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