機動戦史ガンダム 双眸のガーディアン   作:アルファるふぁ/保利滝良

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第6話 飛翔、大空の向こうへ
第6話Aパート


 

「イヴが強奪された…?」

 

困惑した様子で、セイヴが言った。

 

彼が今いるのは、地球連邦の軍事拠点であるフジ基地。ここには、テストベッドとしての役目を終えたプロトタイプのガンダムがあった。

 

次世代の主力モビルスーツの試作機。それを連盟に強奪されては敵わないと、奪還作戦を急いだわけだが、一足遅かった。

 

「ええ、申し訳有りません。連盟の襲撃前に、大規模な武装テロリストに襲撃され…」

「バカな…」

「我々の力不足です…責任は甘んじて受けます」

 

連盟に強奪されたならともかく、テロリスト相手に保管していた試作機体が強奪される。この基地はその程度の防衛戦力しかないというのか。

 

だが、不思議な話でもない気がする。そもそも地球連邦には、モビルスーツをはじめとした最新鋭技術の運用に必要な新資源の貯蓄量・採掘量が、コロニー連盟と比べ少ない。よって、総戦力には限りがある。

 

フジ基地に配備されるはずの戦力も、他の激戦区に優先的に回されたのなら、フジ基地は少ない戦力でやりくりするしかない。

 

その辺りの事情も鑑みれば、百歩譲ってテロリストにガンダムを強奪されたのも頷ける。それに、フジ基地はテロリスト襲撃後のすぐ後に反撃で相手を撃滅せしめている。アールデン部隊さえ来なければ、ガンダムの奪還を行う余裕もあっただろう。

 

「いえ、我々がイヴを奪還すれば済む話です。それより今は、基地の復興に尽力してください」

「了解しました、特務大尉。今はこの基地を立て直すのに専念しましょう。こちらも、あなた方GT-1のご武運をお祈りします」

「ありがとうございます、基地司令。それはそうと、あれは…?」

 

セイヴの、サングラスに秘められた視線の先、一台の自動二輪があった。黒いカラーリングで、大型のアメリカンタイプである。

 

「ああ、あれはテロリストのものと思われます。ガンダムを秘蔵していた格納庫の近くに泊めてありました。もしかすると、強奪犯のものかもしれません」

「ふむ…」

「どうかしましたか?」

 

バイクにはまだキーが刺さっていた。キーには、持ち主の名前を示す名札が、キーホルダーとしてチェーンで繋がれている。

 

セイヴの位置からは、その名前が読み取れた。

 

「サブロー…サブロー・ライトニングか」

「身辺情報がわかり次第、指名手配を行う予定です」

「捕えればガンダムの行方もわかるかもしれません。サブロー…初めて聞く名前です」

「日系の男性でよく使われる名前です。フジ基地はニホンの管轄ですから」

「なるほど、そうですか」

 

セイヴの表情は、サングラスに遮られてよくわからない。フジ基地の司令は、今、彼が何をどう考えているのかを測りかねている。

 

これから、強奪されたガンダムを奪還するため行動するのか。それとも、初実戦を終えたGT-1を休息させるためにフジ基地にしばらく残留するのか。もしくは、ケルンテン基地に一旦戻るのか。

 

染料でも使っているのか、不自然に光る金髪。目の周りを覆い隠すサングラス。セイヴ・ライン特務大尉は、同じ連邦軍人であるのに、その雰囲気はどこかおかしい。

 

「司令」

「なんでしょう」

 

返答したフジ基地司令へ、セイヴは問うた。

 

「近くのマスドライバー基地はどこでしょう。なるべく大型な施設がいいのですが」

 

地球圏の大ヒット作業用モビルスーツ・ワトソンが、砲撃で吹っ飛ばされたコンクリート片を片手に、彼らのそばを通り過ぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タネガシマ・アイランド基地。旧世紀では宇宙センターがあったこの地には、レール型マスドライバーが存在している。

 

無論、宇宙船をはじめとした艦船を大気圏外へ飛ばすためのものだ。大気圏外での戦闘も多くなったコロニーセンチュリーにおいては、マスドライバーによる軍艦や軍事物資の射出が頻繁に行われている。

 

青い空と青い海という自然の景観の中にそびえる大きなレールは、視覚的アンバランスさを醸し出す。

 

そんなタネガシマのマスドライバーレールのスタート地点に、GT-1の母艦であるペガリオ級ネームシップ・ペガリオはあった。筆箱のような船体の後ろに、加速用のブースターが固定されている。

 

ペガリオの隣には、打上げカウントダウンを示す電光掲示板。空中投影型モニターが存在するコロニーセンチュリーではあるが、自然光が存在する解放された空間では空中投影型モニターはうまく映像を表示できない。よって実体型モニターも多く運用されている。

 

そして、実体型モニターのカウントダウンを、室内で空中投影型モニターを使って眺める女がいた。GT-1ガンダムチーム1番機担当、メリー・アンダーソン少尉である。

 

彼女は今、自室にいる。整備員のような数ありきのクルーは合同の大部屋で共用生活をさせられる。が、モビルスーツパイロット、それも試作機のテストパイロットともなれば、狭くはあれど個室をもらえる。

 

プライバシーが尊守されて一人でくつろげるので、嬉しいような、仲間と一緒にいたいメリーにとっては、少し残念なような。

 

「打ち上げまで、あと五分かあ」

 

もうすぐペガリオは、マスドライバーを使って宇宙へ飛ぶ。クルーは、館内通信を制限され、大気圏離脱のための耐ショック姿勢を取らなければならない。

 

メリーも、部屋の隅に存在する固定式シートに座って、幾重ものシートベルトで体を固定していた。多少胸がきついが、衝撃で投げ出されて部屋中を跳ね回るよりはマシだ。

 

「久しぶりだなぁ、宇宙」

 

想いを馳せるのは、故郷のコロニー。地球へ降りて以来、ずっと地球で暮らしていた。連邦軍のモビルスーツパイロットでいる以上、宇宙に出る可能性は有った。それが、初陣を終えてまだ3日の今日だとは思わなかったが。

 

「カウントダウン。10、9…」

「始まった!」

 

電光掲示板のカウントが十秒を切った。空中投影型モニターの電源を切り、固定された引き出しに押し込み、その引き出しにロックをかける。

 

「5、4、3…」

 

シートの手すりを柔らかく握る。強く握ると、余計なGで手が潰れてしまうためだ。

 

緊張でメリーの心臓が高鳴る。大気圏突入は経験したことがあるが、大気圏突破は初めてである。実のところ、まるで遊園地のアトラクションに乗っているような気分だ。

 

「2、1、0…イグニッション!」

 

外部ロケットブースターに火がついた。マスドライバーのレールの上を、ペガリオが進んでゆく。ブースターの火が大きくなって行くにつれ、進む速度は速くなる。

 

ブースターが点火された最初は、衝撃も何もなく拍子抜けなくらいだった。だが、ペガリオの速度が上がるにつれ、体にGがかかり始める。

 

大きな手で、押し付けられているような感覚。ペガリオの加速が増すと、Gの係数が大きくなり、押し付けられる感覚は押しつぶされる感覚に変わる。

 

「う…くく…」

 

苦しさに耐えかねて変な力を体にかければ、そこへ大きなGがかかって本当に潰れる。このGを耐えるには、無駄な力を使わずに体全体をリラックスさせるのが一番だ

 

だが、深呼吸しようにも肺へかかるGが大きくて息苦しい。シートベルトを解放して楽になりたい衝動に襲われる。

 

ペガリオがレールを滑って行く。後部ブースターの吐き出す炎は最高潮を迎えた。加速ももうじきトップスピードに移るだろう。

 

レールの切れ目へ到達し、ペガリオが飛び立つ。マスドライバーのレールから離れる瞬間に重い衝撃が走った。

 

10分かけて雲を越え、青空を越え、その向こうの黒い空間へ。光の尾を引きつつ、地球の重力圏を飛び出す。

 

重力制御が働く。メリーの体を苛んだGは解除され、一気に体が軽くなる。

 

「こちら、艦長のテルミットだ。ペガリオは大気圏突破を終了。G緩和後、各自耐Gショック姿勢を解除。怪我をした者は速やかに医療班に報告せよ。以上だ」

「おっ、待ってました」

 

アナウンスを聞き終えて、シートベルトを次々解除するメリー。全身が解放され、座っていたシートを蹴ってジャンプする。

 

ふわっと浮く体。エネルギーを多く使う重力制御はG緩和のためにのみ使われ、今のペガリオは無重力状態だ。

 

「このふわふわ、懐かしいなあ。ふふっ」

 

無重力体験は、子供の頃大気圏突入カプセルに乗った時以来か。よくそんな昔のことを覚えているなと、苦笑する。

 

久しぶりに、星々が瞬く宇宙を見たくなった。通路脇のモニターなら、外部の状態を写しているだろうか。

 

メリーは、床を軽く蹴って自室を出た。自動ドアが開き、閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブリッジルーム。複数のモニターやコンソールが一体化した専用デスクが並ぶ前半分に、その様子を見ることのできる艦長席、副艦長席がある後ろ半分。今は、そのほぼ全てに人員が座っていた。

 

ガラス張りに見える壁面は、それら全てが実体型モニターである。ブリッジの外側に備えられたカメラが撮ったリアルタイム映像が表示されている。

 

艦長席の真後ろ、ブリッジルームの出入り口から、セイヴ・ラインが現れた。サングラスの上の眉毛をやや歪めつつ、早歩きで艦長の元へ歩み寄る。

 

「テルミット艦長、状況はいかがですか」

「セイヴ大尉か。あまり芳しくない」

 

お目当の人物に、セイヴは声をかける。テルミット・ガンマ中佐。いかつい顔とスキンヘッドが特徴的な、髭面の黒人系男性だ。

 

このペガリオの艦長をしている。

 

「まさか出た場所の目と鼻の先に、敵機がいるとは」

「待ち伏せ…でもなさそうだ。パトロール艦隊と鉢合わせたらしい」

 

ペガリオは現在、あまりよろしくない状況に立たされていた。大気圏突破して到着したポイントで、連盟の衛星軌道巡回部隊と鉢合わせたのだ。

 

レーダーでお互いのことはもうバレているだろう。こちらは単艦、向こうは3隻。攻撃を受けるのは必然的だ。

 

「監視衛星は破壊されたのでしょうか」

「そのようだ。我々も運がない」

「いえ、絶望するには早いでしょう。彼我の戦力差は少ない。交戦したとしても十分退けられます」

「…正気か?」

 

セイヴの顔を見るテルミット。だが、セイヴはあっけらかんと、その根拠を言ってみせる。

 

「データを信用するなら、敵艦はサーブル級が一隻にブルガー級が2隻。サーブル級を運用していることから、敵の艦隊はクアロ合衆国のものだと思われます」

「それで、連盟のどの国家かわかって何になる?」

「コロニー連盟は国家によって運用する機体が変わる場合があります。クアロ連邦なら、恐らくアレスビーを出してくる。アレスビーは正面突撃能力が高く…」

「こちらから仕掛けられるのに弱い、と」

「その通りです。防衛戦には向かない機体です。こちらから打って出て、速攻でカタをつけ、撃退する。いずれにせよこの距離では交戦は免れません」

「わかった、作戦開始を許可しよう。副長、モビルスーツ全機にスクランブル発進命令」

「了解です」

「ありがとうございます、艦長」

「私も長生きしたいのでね…どこへ行く?」

 

踵を返して出入り口の方へ向かうセイヴ大尉を、テルミット艦長が呼び止める。セイヴは振り向き、笑みを浮かべた。

 

「私も出撃します」

 

 

 

 

 

 

 

 

ペガリオが回頭し、敵部隊の方へ船首を向ける。大気圏離脱に使用したブースターは切り離され、既にない。

 

ペガリオの前面ハッチが開いた。前面3つの格納庫のハッチが開き、3つの口からモビルスーツが次々、カタパルトで射出されていく。

 

ガンダム三機が発進し、その後に、別のガンダムが出てきた。

 

「…?あれ、ペガリオのガンダムは三機じゃ…」

「ガンダムチーム、聞こえるか」

「セイヴ大尉?!」

 

メリーの疑問の声に被せるように、4機目のガンダムから通信が入る。声の主は、なんとセイヴ・ライン特務大尉だ。

 

GT-1の責任者がどうして前線へ行くのか。3人娘が困惑する。

 

「ど、どうして出撃を?それに、その機体は…」

「あ、GT-1入隊式のガンダム!」

「その通りだ。第一世代1号機アダム…の実戦仕様と言ったところか。作戦の際の戦力不足対策に持ってきた」

 

セイヴ大尉が乗っているのは、メリー達がケルンテン基地で初めて見たガンダムだった。だが、メリー達が見たあの時の状態とはやや違う。

 

一部むき出しにされていたフレームは装甲で覆われ、白の多かった機体色は一部黒く塗り直されている。両手にロケットランチャーを持ち、腰部後ろにビームライフルを携えて、完全な実戦仕様といった風情だ。

 

「だ…大丈夫…ですか」

「足手まといにはならないつもりだ。それより今は…」

 

アダムが前方を向く。その方向には、三つの光点があった。敵の衛星軌道巡回艦隊。

 

大気も障害物もない宇宙空間なので、ガンダムの眼はいつも以上によく見える。レーダーに表示されているなら、望遠でほぼ目視可能だ。

 

「あれを、攻撃ですね」

「ああ、速攻戦だ。先に仕掛けることのできた方が勝つ。だが、万全を期すようにしたい」

「と、言いますと…?」

「2回目の戦闘なのに申し訳ないが、ガンダムチームのフォーメーションを崩す」

 

セイヴは、パイロットスーツのヘルメットの中で、口角を吊り上げた。

 

「アリス少尉」

「はい」

「君はペガリオブラボーと合流し、ペガリオに向かってくる敵機を撃ち落として欲しい」

「了解です」

「アリス少尉のポジションには私が入る。二人とも、存分にやってくれ」

 

メリーはモニターの中のアダムを見た。彼女の心の中には、初陣の時と同じく不安があった。

 

いきなり作戦に参加したセイヴ大尉の腕を不安視しているわけではない。彼はGT-1の隊長だ。モビルスーツの操縦もある程度心得ているに違いない。

 

不安なのはむしろ自分自身なのだ。メリーはコロニー出身だが、だからといって宇宙におけるモビルスーツ戦闘が得意なわけではない。

 

むしろ初経験だ。地上で訓練を積んで来た彼女にとって、宇宙戦闘は初。初陣をもう一度やっている感覚である。

 

モビルスーツ訓練で、シミュレーションにおける宇宙戦闘は一応習った。だが、一応、である。宇宙に出て来て慣熟飛行もさせてもらえず戦闘に駆り出されてしまった。

 

今度こそ、死んでしまうのでは。

 

「また怖くなったか、メリー少尉?」

「あっ、あはははー…はい」

「まあ、地球での戦闘はしたことがあっても、宇宙ではないものな」

「すいません…」

「謝る必要はない。そして、不安を持つ必要もない。君はエースだろう」

「あっ…!」

 

メリーの脳裏に浮かぶ、初陣における撃墜数。彼女は敵機を多数撃墜し、初実戦においてエースの称号を手にした。

 

それは紛れも無い事実であるし、彼女の自信を大いに助けた。次の戦場も上手くやれる。そう確信できた。

 

「君は一人じゃ無いんだ。仲間と共に、落ち着いて…いいね?」

「はっ、はい!がんばります!」

「その意気だ。ショコラ少尉、アリス少尉、君達もそうだ。仲間と共に、落ち着いて…そうすれば生き残れる」

「りょ、了解です」

「了解しました」

 

3人娘が応答する。つくづく、このガンダムチームは優秀だ。

 

これなら、この戦いも危うくない。

 

「こちらアダムのセイヴ・ライン。各機へ、作戦を開始せよ」

 

セイヴの号令と共に、ペガリオクルーの全てが臨戦態勢に入った。ブリッジルームは色めき立ち、格納庫ではスペーススーツを着用した作業員が緊急着艦の準備を進める。

 

パイロットも負けてはいない。3機のガンダムが前へ。1機のガンダムが後ろへ。その周囲を別の連邦モビルスーツ。

 

敵の3隻はこちらへ向かってくる。戦いは絶対に免れない。

 

ペガリオとそのクルーの、たった一隻の戦いが始まろうとしていた。

 

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