機動戦史ガンダム 双眸のガーディアン   作:アルファるふぁ/保利滝良

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第6話Bパート

 

クアロ合衆国所属のサーブル級マドラーは、目前の敵部隊に対してモビルスーツを展開した。機体は全て、アレスビーだ。

 

背中に本体と同じくらい大きな槍を携えた機体。その槍はただの槍ではなく、大推力の追加ブースターとして機能する。この槍で敵陣深く切り込み、一気に撃滅するのが、アレスビーの基本戦術だ。

 

今回も、いつもと同じようにランスブースターを点火。高速の突撃で、数に劣る敵を正面突破しようとする。

 

「いける…!」

 

連盟のパイロットが、パイロットスーツのヘルメットの下で微笑んだ。大気圏からのこのこ上がってきた敵を抵抗する余裕を与えず叩きのめす。戦争らしい非情なやりかただ。

 

青い機体が槍を背負って敵艦に突撃。だが、相手部隊は怯まない。逃げようともしない。

 

次々にモビルスーツを展開し、こちらへ向かわせて来るではないか。

 

「うっ」

「まずい、できる連中だ」

「今更止まれるかよ!」

 

むしろ狼狽えたのはアレスビー達の方である。敵は守りを固めると思いきや、こちらに対して突撃をかけてくる。攻撃は最大の防御というわけか。

 

自分達の後ろは、自分たちの母艦があるのだ。相手に突破されたら、直接攻撃される。

 

だが、ブースターは最高速度に達した。今更ブレーキは効かないし、速攻をかけなければ撃ち落とされて終わりだ。

 

「レーダーにアンノウン?敵は新型機を投入したと!?」

 

敵部隊には、未確認機が複数。おそらく新型だ。あとはアレスビーのデータベースにある。

 

得体の知れない新型機は、アレスビー達の進行方向にいた。向こうも最高速度で、こちらへ突っ込んで来る。

 

「ちぃいっ」

 

マシンガンをトリガー。だが、追加ブースターを用いた高速直進でうまく狙えるはずもなく、撃った弾のほぼ全てが外れた。

 

虚空の彼方へ消える曳光弾。狙った方向からは、ビーム物質の弾丸が迫る。

 

「しまっ…」

 

ビーム物質がかすり、ランスブースターの先端が消失。敵はこちらを狙っている。それも、かなり正確な射撃を用いている。

 

手強い。アレスビーのパイロットの一人がそう思った瞬間、ついにアンノウンが姿を見せた。

 

二本の角、二つの目。白を基調としつつ、鮮やかなカラーリングの追加装備に身を包んでいる。

 

敵機のバックパックのサブアームが蠢き、こちらに向かって何かを向けた。

 

紫電が駆ける。そして、機体の下半身が砕け散る。慣性によって機体のコントロールを失い、被弾したアレスビーは宇宙空間で転がりまわった。

 

相互スピードが速すぎて、何をされたかわからなかった。だが敵の攻撃が直撃したのは確かだ。

 

交差した瞬間、敵モビルスーツの姿を間近で見る。見たことも、聞いたこともない機体。

 

「連邦の新型は、こんなにも強力なの…かっ!」

 

下半身と加速を失ったアレスビーに、大型ビーム弾が放たれた。ガンダムと邂逅したパイロットのその意識は、死の光に飲まれて消える。

 

 

 

 

 

敵の第1陣を抜けるガンダムチーム。サブアームのレールガンで敵を無力化して、ダンシングシープは更に加速する。

 

最も速いメリーが先鋒だ。敵部隊に少しでも穴を開け、そこを抜けて、母艦を叩く。そして敵部隊に逃げ帰ってもらう。ペガリオが生き延びるにはそれ以外ない。

 

第2陣がこちらへ向かってくる。全てを相手にする必要はない。あくまでも目標は敵母艦、数で勝る敵モビルスーツ隊を相手しても、じりじり追い詰められるだけだ。

 

「前方、敵機5」

「レールガンで…!」

「サブアームレールガン、オートロック」

 

だが、少しでも数を減らしたい。この連盟部隊の狙いは、メリーの後方の母艦ペガリオだ。無傷で通せば、それだけ自分の後続とペガリオの直衛に負担をかける。

 

だから少しでも、落とせずともせめて手傷をつけたい。射程に入ってから交差するまでのわずかな時間だけしか、攻撃のチャンスはないのだとしても。

 

ビームライフルを1発、撃つ。外れ。

 

「アリスのようには、できっこないか!」

「ロックオン補正、修正」

 

オペレートアナウンスが、次の射撃でコンピュータによる補正がかかることを伝える。

 

ならば、ともう1発ビームライフル。

 

「当たった!」

 

アレスビーはランスブースターの加速に乗ってまっすぐ進んでいる。ガンダムのFCSとコンピュータなら、ビームライフルが着弾する位置へ偏差射撃を行うのは簡単だ。

 

当てた敵がどうなったか、距離が遠くてよくわからない。だが、ダメージがあるのとないのとでは大違いだ。弱ったところを、仲間が仕留めてくれる。

 

相手の射程に入ったか、ビームや弾丸がメリーの方へ飛んでくる。

 

「うわっとっとっ!」

 

スラスターの向きを変え、右へ左へ回避機動。すれすれを通り過ぎる敵弾。

 

ダンシングシープは機動力が高い機体だ。元から高機動である素体のガンダムに、機動力を増強するフライティングユニットが接続されている。回避に専念すれば、直撃を食らうことはほぼないだろう。

 

どんな攻撃も、避ければどうということもない。だが、このまま狙われっぱなしでは、集中力が切れてしまうだろう。

 

こっちを狙う敵機複数が、交差してやり過ごすまで、正確な回避を続けられるだろうか。

 

「いや、無理〜っ!」

 

迫り来る弾幕から顔を背けたくなる。だが、目を離しては本当に死んでしまう。

 

左腕のシールドを前に突き出しながら、直線ではなく蛇行機動で動く。

 

向こうから飛んで来る無数の弾を回避するも、いくつかはシールドを叩いた。衝撃で左腕が軋む。

 

「シールド、限界です」

「やっぱ…ショコラみたいにうまくはできないか!」

 

額を汗が伝う。拭いたくても、パイロットスーツのヘルメットは脱げない。

 

コクピットが破られればそこは無重力。万全を期するために、つけっぱなしでいないとならない。

 

もっとも、このままではパイロットスーツがその役割を果たすのも時間の問題だ。もしくは、役目を果たさぬままパイロットと共に消失するかもしれない。

 

迫り来る弾幕は、自分を押しつぶそうとするかのよう。回避だ。回避あるのみ。

 

「行けーっ!」

 

シールドが破損、した次の瞬間、メリーはアレスビー小隊とすれ違った。

 

「抜けた!」

 

だが、目標は敵部隊を抜くことではない。

 

加速。このまま一気に迫って母艦を叩く。レーダーを見やれば、アダムもスリーピーラビットも生きている。

 

「このまま先行します!」

「了解した。頼んだぞ」

「ちょ、ちょっと待ってください!メリーが危険です!」

「議論の暇はない。一番速いダンシングシープを頼るしかない」

「うぅ…メリー!無茶はしないで!」

 

全ての推力を直進に回し、メリーは仲間の声に短く応えた。

 

「わかった!」

 

すっ飛んでいくダンシングシープ。それを見送る暇もなく、二人は敵機と交戦した。

 

メリーが一機落としたが、まだ6機もいる。全てを相手にする必要はないが、無視することもできない。

 

「ショコラ少尉、突破しよう」

「了解です!」

「援護する。直進してくれ」

 

スリーピーラビットが3枚の盾を正面に向け、加速。向こう側にいるアレスビーは、一斉に銃口をそちらへ向けた。

 

一斉射。ビームライフルやマシンガンが、3枚の盾めがけて目一杯撃ち放たれる。だが壊れない。撃っても撃っても破壊できない。

 

敵機部隊の意識がショコラへ向いた瞬間、アダムがスリーピーラビットの上へ出た。そして両手に携えたロケットランチャーを乱射する。弾を管理する気が全くないのが目に見えるくらいの連射具合。

 

「うぉっ」

「来るぞ、避けろ!」

「なんだ!?」

 

飛んで来る沢山のロケット弾。当たったらどうなるか、誰かに聞かなくてもわかる。

 

だが、3機のアレスビーはその直撃を受けてしまった。突撃のための機体には、単調な回避機動しかできない。ガンダムのFCSがそれを逃すはずもなく。

 

「ぐわぁぁ…!」

「やられた!火が、わぁあああ!」

「なん…うわっ!」

 

そしてまた、一瞬でやられた仲間の方へ余所見をしていたアレスビーも、ショコラ機のビームガンの連射を受けた。

 

「このぉおおお!」

 

猛攻の対象から外れた一機が、ランスブースターを背中から外し、手に握ってスリーピーラビットへと突貫する。

 

ランスブースターはただの追加ブースターではなく、形状そのままに槍として使える。鋭利な先端と質量と速度で、敵の装甲を貫く武器だ。

 

その槍は、真正面からガンダムへと向かう。

 

その眼前に立ちはだかる、巨大な壁。否、それは盾だ。モビルスーツの全身を覆うほどの大きさの盾だ。

 

アームズシールドにビーム膜が張られ、ランスブースターの先端を消滅させた。高熱で溶けていく大槍。加速そのままに、死のカーテンに突っ込んでしまうアレスビー。

 

「うわぁあああああっ!」

 

アームズシールドを持ったサブアームがスライドした。敵機の前面装甲を撫でる形だ。ビームの膜を押し付けられたアレスビーは、機体の前半分を失ってしまう。

 

加速の速度そのままで、アレスビーの残骸が流れていく。宇宙空間の慣性は、逆噴射をかけねば速度そのままで進んでしまう。動けなくなった彼らは、永遠に宇宙を放浪する。

 

「よし、受け流した…ショコラ少尉、メリー少尉に追いつくぞ」

「了解です!」

 

敵機を大いに叩きのめし、二期のガンダムはメリー機を追った。

 

 

 

 

 

 

 

宇宙空間では、速度の表記はあまり意味をなさない。重力や大気といった制約を受けない宇宙では、推進剤や強度といった制約はあれど、加速すればするほどに無限に速くなっていける。

 

クアロ合衆国のアレスビーはその摂理に従ったような機体だ。細長い全体シルエットに刺々しい頭部。各所のブースターは直進移動で大きなスピードを生む。ここに、追加装備のランスブースターによる高速加速を乗せれば、コロニーセンチュリーのスピードキングの誕生だ。

 

今だって彼らは、多少の攻撃は受けこそすれど、加速力を伴った突撃で敵の懐に潜り込もうとしている。レーダーに表示されるおは、連邦のLサイズ軍艦たった一隻。

 

アレスビーの一機がランスブースターを取り外し、手に持った。そして、鈍重な敵モビルスーツへと目標を定め、突進する。

 

一直線に迫る、連盟の機体。鋭利な槍を構え、高速で迫り来るとなれば、それは最早巨大砲弾。

 

レーダーを見たか、もしくは勘か。狙われたペガリオアルファ隊のブリジットが敵機を見やる。

 

だが、回避は間に合わない。装甲重視のブリジットでは、自分を狙った砲弾が飛んできた時点で回避はできない。

 

「敵が!?」

「とった!」

「ぐぅおおっ…」

「落ちろ…!」

 

貫かれるブリジットの脇腹。押し込むアレスビー。持ち主を衝撃から守るために、設計上の機構で自壊するランスブースター。

 

「ま…だ…」

 

装甲重視は伊達ではない。この一撃を受けてもブリジットは機能を停止していない。

 

だが、別方向からのもう一刺し。ついにブリジットが沈黙した。追撃で叩き込まれるビーム弾。爆裂する連邦モビルスーツ。

 

「次だ」

「ああ。母艦を狙う」

 

一斉に突撃し、一斉に防衛網を突破し、一斉に母艦を攻撃。これで完璧だ。

 

少々痛手を負わされたが、母艦を叩き潰せばこちらの勝ちだ。アレスビーのブースターに火が灯る。その瞬間である。

 

巨大なビーム物質の塊が、片方の上半身を消した。通り過ぎたビームキャノンの弾。

 

「なに…」

 

飛んでくるビームの弾。必死に避けつつ、もう片方のアレスビーがブースターで逃げようとする。

 

「ぐわっ!うわぁっ!」

 

だが敵の攻撃は正確だった。直進していたのもあって、避ける間も無くアレスビーにビームが叩き込まれる。ビームライフルを持った右手が吹き飛ばされ、左手も同様に溶断。

 

「だめだぁあああ!」

 

胴体にもビームが着弾し、重要機関を焼かれたアレスビーはピクリとも動かなくなった。

 

「またやられた!」

「連邦が…わぁーっ!」

「リリィ少尉ーっ!」

「母艦から対空砲火!直衛に狙撃型もいる!」」

 

アレスビー部隊が目指す先、母艦ペガリオとペガリオブラボー、そしてガンダム第2世代3号機スマイリードッグが延々と遠距離砲撃を行っている。

 

スマイリードッグはその砲撃力を遺憾なく発揮し、定点砲撃でアレスビーを吹き飛ばす。

 

一方のペガリオブラボー隊は、全員に連邦の狙撃特化機ラケシスとビームスナイパーライフルが配備されている。ラケシスは頭部そのものが狙撃用スコープとなっており、精密射撃を得意としている。

 

ペガリオも、母艦といえど負けてはいない。

 

「各砲門、攻撃を開始せよ!」

「こちら副艦長のシャープだ。味方には当てるな、それから観測班はペガリオブラボーに引き続きデータを送り続けるように」

「了解、主砲ビームキャノン発射!」

「側面部、下部、後部ミサイルランチャー、アクティブです」

「全対空機銃、準備できています!」

「弾は惜しむな、補給はこのあとすぐだ!」

 

敵の母艦から放たれる無数のビーム、ミサイル、機銃弾。所詮は固定砲台からの乱れ打ちだ、機動兵器であるモビルスーツにそうそう当たるものじゃない。離れている場合は。

 

「なんだよあの弾幕!?あんなに艦載機を載せておいて、こんなに火砲を…?!」

「うっ…やべえ、どうする?」

「このまま引き下がれるか!突破して手傷を…あぁ!当てられた!」

 

敵の防衛網は完成している。直衛機の狙撃砲撃を抜けても、弾幕を避けつつ攻撃を敢行できるのか。その上で生きて離脱できるのか。この損耗した部隊で。

 

後続が来てくれる。その考えも、さっきすれ違った敵新型機の前では脆くも砕け散る。

 

正面からアレスビー隊を抜けて味方母艦を叩きに行った敵部隊は、その性能で持ってアレスビー隊に大なり小なりダメージを与えた。無傷でたどり着けば、まだ直衛と母艦の弾幕を突破して敵母艦を叩く余裕はあった。

 

その余裕を、あの3機の新型機は根こそぎ奪って行ったのだ。

 

ペガリオの後部と側面と下部、16発内蔵のミサイルランチャーが合計8つ。それらが一斉に自動追尾弾頭を吐き出した。

 

「ペガリオは絶対にやらせない…!」

「マルチロックオン完了。脚部ミサイルランチャー、全弾発射…残弾ゼロです」

「行けっ!」

 

アリス・サカモトが感情的に呟く。コンソールを叩き、武装選択。トリガー。

 

ペガリオのミサイルと、スマイリードッグのミサイルが、ミサイルの壁となってアレスビーへと迫る。アリスの仲間によって勢いを削がれた敵は、その攻撃をその身に浴びることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンシングシープは、ついに目前に敵艦隊を捉えた。数は想定通り3隻。艦種も、作戦前の報告と一致する。

 

さらに加速をかけ、一気に迫る。Gがパイロットスーツに包まれた肢体を苛んだ。だが、大気圏突破に比べれば幾分と楽だ。

 

弾がガンダムへ向けて放たれる。一つ二つではなく、もう数えるのも馬鹿馬鹿しい数。その多くが、機銃弾だ。数撃てば当たるの精神だろう。

 

だが侮れる威力ではない。シールドを失ったダンシングシープでは、連続被弾は死を意味する。

 

蛇行起動で、前進しつつも弾を避ける。向かってくるミサイルを、頭部機関砲で撃ち落とす。

 

進むしかない。立ち止まれば、集中砲火でやられてしまう。だが、3隻からの一斉攻撃はその前進を大きく遅らせる。

 

一定の距離まで迫った途端、砲撃の中にビームが混じり始めた。敵の、主砲。

 

「当たったらやばいってえぇ」

 

ついにメリーは前進を止めた。進行方向から見て下へ急速方向転換。幾何学的な軌道を描きつつひたすら避けるのに集中する。

 

「この!」

 

ただその場でウロウロするだけではない。隙あらばビームライフルやレールガンを敵艦へ撃っている。避けるのに集中しながらの射撃なので、致命的な部分に当てられず。いくつかは大きい的相手に外してしまう始末だ。

 

ミドルサイズ巡洋艦ブルガー級は、連盟全体で運営できる護衛艦として建造された。山の字の艦体には火器が満載されており、モビルスーツを寄せ付けない。それが2隻もいるとなれば、さしものガンダムでも単騎突破は不可能。

 

そう、単機ならどうしようもない。では、後続の味方が到着したらどうだろう。

 

レーダーを見やれば、すぐ後ろにスリーピーラビットが来ていた。アダムも一緒だ。

 

「メリー、おまたせ!」

「待ってたよぉ!」

「行け、ショコラ少尉!メリー少尉!」

「了解です!後ろに着いて来て!」

「おっけぇショコラ!」

 

ダンシングシープが機動を変え、急加速でスリーピーラビットの後ろへ回り込む。スリーピーラビットは全速前進。未だ破られていない3魔のシールドを構え、弾幕を突っ切っていく。

 

それを支援するのは、セイヴ特務大尉のアダム。使い果たしたロケットランチャーを捨てて、ビームライフル一本で身軽に立ち回る。FCSとデュアルセンサーカメラアイの機能を最大限に生かし、敵艦隊中央、要となるミドルサイズ空母サーブル級を狙う。

 

「ミサイル群接近」

「避けるしかないか!」

 

ビームライフルによる簡易狙撃。前方から何発も来たるミサイルを避けながら正確に敵を撃ち抜くことは難しい。だが、今はそれで好都合だ。

 

空母を沈めてしまったら、帰る場所をなくしたモビルスーツ隊は決死の抵抗に出るかもしれない。今回の作戦は、敵艦隊にお帰りいただくのが目的だ。少し痛めつけるくらいで十分だろう。

 

ミサイルを避ける。少しブースターを吹かして移動し、着弾寸前に自分の位置をずらす。敵のミサイルは寸前でアダムを外れる。

 

その一瞬で、ビームライフルを木偶の坊のサーブル級に打ち込む。ビーム物質は鍋をひっくり返したような形の宇宙空母に命中。

 

「さて…後は頼むぞ、二人とも」

 

迫るミサイル。身軽になったアダムに当たるはずもなく、避けられ、頭部機関砲で撃ち落とされ、無力化されていく。

 

一方のメリーとショコラは、一隻のサーブル級へと向かっていた。ミサイル攻撃はアダムへと向けられ、機銃とビーム砲にのみ注意すればいい。初陣を生き延びた二人には、簡単なことだ。

 

機銃ではスリーピーラビットの盾を抜くことは叶わず、ビーム砲は着弾前に避けられる。スリーピーラビットは、未だに健在。

 

機動力の高いダンシングシープは、スリーピーラビットの機動に完全に追従する。機銃は防ぎ、ビームは一緒に避ける。

 

「撃ち落とせ、早く!何をしておるか!砲手はサボっているのでは…」

「艦長、敵に肉薄されましたぁ!」

「下に、下に、真下に敵機が…」

 

そして二人は一直線に、ブルガー級の真下へ潜り込む。ダンシングシープが、スリーピーラビットに追従しつつ、腰から一本の棒を取り出す。

 

ハイパービームサーベルだ。

 

「メリー、今!」

「せぇああああああ!!」

 

左腕に握ったハイパーサーベルから長い光の刃が伸び、ブルガー級の腹を切り開く。二機のガンダムが進むにつれて、その切り傷は大きく大きく広がっていった。

 

「くふぅ!?総員退艦を…ぬぁあああああああああ!!」

 

ブルガー級のダメージは下部から全体に伝わり、動力炉に達する。核融合ジェネレータが炸裂し、艦全体が火花を散らして爆発四散。

 

宇宙に大きな光の花を咲かせた。

 

「セイヴ大尉、やりました!」

「よし、撤退!」

「了解!」

「了解っ!」

 

残ったビームライフルすら投げ捨てて、アダムが踵を返してその場を離れる。それに着いていくように、二機のガンダムが敵艦隊から遠ざかっていった。

 

生き残った2隻は、それを追うことも攻撃することもしなかった。要の空母が損傷を受け、味方艦を一隻失い、満身創痍だったからだ。

 

「ラブールより全部隊へ、撤退する。ラブールより全部隊へ、全速撤退」

 

全ての味方機に、撤退命令が下された。だが、彼らのレーダーには、大きく減ったモビルスーツ隊が映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペガリオを襲った敵部隊は、来た道と同じようにまっすぐのルートを取って帰還したため、迂回した三機のガンダムは鉢合わせずに済んだ。ペガリオの前面ハッチから中に入り込み、格納庫内に期待を固定。ガンダムチームはようやくガンダムを降りることができた。

 

ペガリオアルファ隊も、ペガリオブラボー隊も、各自生き残った機は無事着艦できた。ペガリオ自体は無傷だった。

 

対して敵は大損害を受けて撤退。彼我の戦力差、ダメージ差で言えば、大勝利といえよう。

 

「こちら艦長のテルミットだ。今作戦の状況は終了した。本艦はこれより、コロニー・アレッサへ向かう」

「オーライ!オーライ!ブラボーのラケシスはこっちだ!」

「ペガリオアルファは損傷がひどい!こっちに数班回してくれ!」

「冗談じゃない、ガンダムの整備にかかりっきりなんだ」

「そして、本作戦で命を落としたパイロット、スタンブル・ロチェット少尉とカナ・シェービー少尉に、哀悼の意を捧げる。以上だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回も、生き残れた…ね」

 

パイロットスーツを洗濯室に預け、シャワーを浴び、自室に戻り、着替えたメリーはベッドに腰掛けた。ベッドの上には、絵本がある。

 

題名は、『羊の兄弟と黒い鬼オーガ』。故郷から持って来た、幼い頃からの宝物だ。彼女の私物である。

 

故郷のことを思い出しては、この本に語りかける。嬉しい事、楽しいこと、辛いこと。それが日課だ。

 

だから今日も、この絵本に思い出を伝えよう。そして、作戦のさなかで混乱した頭の中を整理しよう。そう思った時だった。

 

チャイム。彼女の自室に来客である。

 

「あ…はい!今開けます」

 

ロックを解除し、ドアを開く。そこにはセイヴ大尉がいた。

 

「ご苦労様だね、少尉」

「あ、セイヴ大尉…」

「いや、大した用事じゃない。労いの言葉を送りたいだけだ。今回の作戦もよく戦ってくれた、君の奮闘に敬意を表する。引き続き、GT-1のガンダムチームとしてその実力を発揮し続けてくれ」

「ありがとうございます!でも、なぜわざわざ自室に?」

「いや、労いくらい自分で直接言いたい。ショコラ少尉とアリス少尉の部屋にも出向いたんだ、君だけ通信じゃ不公平だしな」

「あ…ありがとうございます!」

「礼を言いたいのはこっちの…その本は?」

 

言われて初めて気付いた。いま、メリーは思い出の絵本を握っている。

 

顔が真っ赤になる。こんな子供向け絵本を私物として持ち込んで、セイヴは幻滅しただろうか。

 

「『黒い鬼オーガ』か、懐かしいなあ。好きだったんだ、その本」

「え…?あ、は、ああ!セイヴ大尉も読んでらしたんですか?」

「ああ!昔っから大好きだったんだよ。やっぱ、変かな?」

「いや、そんなことはないと思います!だって、いい作品ですもん!」

 

絵本を両手でギュッと握る。銀髪ポニーテールは揺れ、深紅の瞳に映る彼。

 

軍艦を初めて撃墜してから一時間。メリーは、またセイヴ大尉に近付けた、気がした。

 

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