機動戦史ガンダム 双眸のガーディアン   作:アルファるふぁ/保利滝良

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第7話 ガンダムオーガ、覚醒
7話Aパート


 

薄暗い大部屋の中で、壁に映し出されたプロジェクターの映像が輝く。その中では、フレーム状態になったモビルスーツの姿があった。

 

指し棒を持って壇上に立つのは、コロニー連盟技術大尉のジャムノフ・ネレンコ。特徴的な白ひげが揺れる。

 

「そもそもとして、連盟はすでにギルティスプロジェクトを始動したので、今更連邦の新型を拾ってきたところで、これを解析して量産することはできません」

「そりゃあそうだ」

「当たり前ね」

 

観客はナルカ共和国派遣艦隊のお歴々。旗艦グランガンの艦長や、親衛隊員が参加している。皆が、その場の椅子に座り、プロジェクターが写す映像と壇上の技術屋をじぃっと見ている。

 

無論、女王ソーラ・レ・パール・ナルカもこの場で静聴していた。

 

「しかし、使いではあります。ギルティスはモビルスーツのフレームに燃料電池をはじめとした様々な機器を内蔵した複合装甲を装着する新しいモビルスーツです。しかし、試験を行なった結果ギルティスの負荷に、従来のフレームは耐えられませんでした。ギルティスのパワーが内圧としてフレームを破壊するからです。このままでは、ギルティスの開発は頓挫することでしょう」

 

ネガティブな発表に、会場がにわかにざわめく。

 

前線で戦う兵士にとって、兵器の能力は火急の問題だ。ガンダムという連邦の新型が現れたことで、連盟の側にも新型モビルスーツが必要とされているのに、よもやその開発計画が頓挫しかけているとは。

 

不安に包まれる会場を制するように、ネレンコは叫んだ。

 

「しかし!そんな心配も、このガンダムが来たおかげで今!終わりを告げます。続きはオータ大尉、お願いします」

「あ、はあい…はい。マイク変わりました、クニヒコ・オータ技術大尉です…」

 

白ひげと入れ替わりに、黒アフロが登壇する。ネレンコのマイクを受け取り、クニヒコはメガネを弄りながら説明を始めた。

 

「え〜この中ではご存知の方もえ〜いらっしゃるでしょうが、え〜サブロー・ライトニング氏の持ってきたえ〜ガンダムの動力源は、え〜従来のような燃料電池ではなく、え〜核融合ジェネレータであります。…静粛にっ!え〜それで、ですね…え〜ガンダムの出力は通常のモビルスーツの約5倍!はあるとえ〜目されています。その出力に耐えるため、フレーム剛性も高いものとなっており、え〜ギルティスの負荷にも耐えうると考えています」

「回りくどいぞ!」

「そうだそうだー!」

「なにがどうなるかはっきり言え!」

 

方々から浴びせられる罵声。先程のざわめきで、外野が騒ぐ空気ができたようだ。会場が一気にざわめきに包まれ、クニヒコは二進も三進もいかなくなる。

 

その喧々囂々の最中、一人の少女が立ち上がった。青い髪、青いドレス。歳は17ほど。

 

この軍事的な集まりには相応しくないように思えるが、誰もがそれを否定するだろう。何故なら、彼女こそナルカ共和国の女王なのだから。

 

ソーラ女王はマイクを口元に持って行き、凛とした声で尋ねた。その場のすべての人間が、一人残らず、一切の例外なく、その様子を静かに見た。

 

「では、具体的にどのようにして、ガンダムを利用するおつもりですか」

 

それは、単純な文面だけなら、ただ気になったことを聞くだけの質問だ。だがソーラの佇まいと声音が、無様に騒いで時間を無駄にすることを許さぬ張り詰めた空気を作り出した。

 

怯えかねない目でソーラを見ていたクニヒコは、その言葉に震えながら答える。

 

「は、はい…サブロー氏が現在保有するガンダムの外装などを全て取っ払い、そのままギルティスのテストタイプモデルに換装…内圧や負荷のテストをして、そのデータを正式採用モデルに反映させます…そ、その場合、ガンダムの出力とギルティスの性能が組み合わさり、実戦においても十全な戦力として機能するかと思われます…」

「わかりました。説明ありがとうございます」

「あ、はい…」

 

ソーラが座る。クニヒコの側からは、ソーラの部下に隠れて見えなくなる。

 

ざわめきは完全に収まり、クニヒコら技術士官は言いたいことを言い終えることができた。そして、周囲を一度見渡し、震え声で締めのことばに入る。

 

「え〜…以上が、今後の計画でございます。賛成の方は挙手をお願いいたします…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃいい〜…疲れたあ〜…」

 

瞼を半分落としつつ、サブローはドアをくぐる。その顔には、疲労の表情がありありと浮かんでいた。

 

サブローは今、勉強をしている。ソーラのアシスタントに任命された彼は、社会情勢を知るための用語や単語を知っておく義務がある。彼の持っていない知識は多く、その中には社会常識すら含まれる。

 

今までは、農村の外に出ることもあまりなかった為、そのような知識がなくとも十分生活できた。だがこれからは違う。社会用語すらわからない男が、ソーラ女王の補佐などできようはずもないのだ。

 

「辞典の内容全部把握しろって無茶だろぜってぇ…」

「ん!?」

「アッなんでもないっすゴメンナサイスイマセン…」

 

思わず口をついて出た愚痴。睨んでくる教師役の連盟士官。サブローは先生にペコペコする他ない。

 

複雑そうな表情で教室から離れようとした矢先、向こうの通路から何者かがこちらへ向かってきた。それが誰かは、目立つ髪型ですぐわかった。クニヒコである。

 

「おい〜っす久しぶりぃ。調子どう?」

「あぁ、久しぶり…つらいわ、勉強。やんなきゃいけないのはわかるけど」

「そうかそうかあ…ちょっと君」

 

クニヒコが近くの連盟軍人を呼び止める。先ほどまでサブローを指導していた教師役の士官だ。

 

彼が振り向くだけで、サブロー顔面は蒼白になる。

 

「なあ君、これからはぁ、サブローに軍事用語も教えてやってくれ」

「は!?」

「ああ、ガンダムを改造して連盟の戦力にするっていう計画が可決されてさ。まあモビルスーツパイロットとして今後やっていってもらう為には必要なんだよね。だから…」

「待ってくれ待ってくれ、話が全く見えな」

「じゃ、あとよろしく…」

 

必死で説明を要求するサブロー。クニヒコは全く取り合わず、一方的に話してから去ろうとする。

 

なおも呼び止めようとするサブローに、クニヒコは振り向いて言った。

 

「明日からまたガンダム弄るの手伝ってもらうから。じゃあな!」

 

スタスタ歩い去っていくクニヒコ。口を開けて呆けているサブロー。

 

その肩を、今しがた新たな仕事を押し付けられた連盟士官が叩く。

 

「15分後にまたここへ!」

「…うぃ〜っす…」

 

ソーラさんたすけて。サブローは涙をこらえつつ、心の中で助けを求めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

サブローの地獄の日々が始まった。勉強をし、整備の手伝いをし、飯を食って寝る。そんな日々が一月も続いた。

 

一日一度ソーラと会えなかったら、今頃気が狂って死んでいたであろう日々。とは言っても、そこまで複雑なことはしていない。授業の内容自体は毎日変わらない。辞書を引いて、単語を覚えて、その意味を説明させるテストをさせられる。

 

週終わりには軍事用語のテストも入ってくる。後続も牽制もわからなかったサブローにとっては、ちんぷんかんぷんなもの。単語テスト以上にひどい成績となる。

 

授業とテストが終われば、飯を食って、ガンダムの改造を手伝う。といっても、サブロー自身は技術職ではない。クニヒコらダイダロス基地の技術陣面々が提案した、ガンダムを大改造する計画にあたって、ガンダムのパイロットとして登録された彼の存在は必要不可欠なのだ。

 

装甲を外し、内部機器を抜き、フレームにまで大幅に手を加える改造に、機体ソフトウェア側からロックがかからぬはずもなく。それを見越したクニヒコは、サブローを乗せての改造を考案した。ユーザー登録者同伴なら、セキュリティ側も容認してくれるとの判断だ。

 

この試みはまさに正しかった。サブローが乗っていない状態で重要機器を弄ろうとした結果、核融合ジェネレータが臨界寸前までオート稼働したのだ。その後すぐサブローがパイロット認証を行なって事なきを得たが、以降サブロー同伴によるガンダムの改造は鉄則となった。

 

そして、一日の終わりにソーラに一日の報告を行う。報告というと堅苦しい雰囲気に聞こえるが、実際はただの他愛のない雑談だ。授業の内容はどうだとか、改造はどこまで進んだのかとか。

 

たまに、地球圏のことや農業の知恵の話もする。これが、授業でストレスを溜めたサブローに多大なセラピー効果を与えた。鼻の下が伸びていたのがバレていないのは本当に幸運だった。

 

そんな中のある日、一通り報告が終わったとき、サブローが口笛を吹いた。物悲しいメロディでありながら、力強さを感じさせる曲。

 

書類作成のためにタイピングをしていたソーラは、目を閉じてその曲が終わるまで聞き入った。

 

「いい曲ですね」

「あぁ…これ。父ちゃんに教えてもらったんすよ。兄弟みんなで吹いてて…」

「思い出の曲、なんですね」

「まあ、これしか吹けないんすけど…」

 

謙遜気味に笑うサブロー。その顔を眺めながら、ソーラは微笑んで言った。

 

「あなたの口笛は癒されます。また、聞かせてくれませんか」

「あ…いいっすよ!俺なんかでよかったら何時でも!」

「ありがとう、サブロー」

 

その言葉通り、その日からサブローは、報告が終わった後に口笛を吹いた。父親に教えてもらった曲を。

 

だが、自身の口笛から紡がれるその曲を聞くたびに思い出すのだ。あの家を。あの畑を。あの家族を。

 

もう戻らない日常を、思い出すのだ。

 

 

 

 

 

 

 

月面、ダイダロスクレーター基地。第4ガレージ。

 

サブローが軍事用語を学び始めてから一月が経った。その頃にはもう、その機体は出来上がっていた。ガンダムを素体にして大幅改造した、もはやガンダムの面影がまったくこれっぽっちも残っていない機体。

 

サブローが見上げる。クニヒコが見上げる。その場の全員が見上げる。

 

「いやー、出来上がったね。ついに」

「そうだな〜」

「反応悪いね。ついに完成だよ?大完成だよ?君の機体が大きく生まれ変わったんだよぉ?」

「いや生まれ変わったって言っても、めっちゃ近くで毎日見てたから…」

 

そう言いつつもサブローは、その機体がこの前まで乗っていたガンダムとは別物のように感じている。もはや、ガンダムの姿を思い出せない。

 

曲線を主体にした強固そうな黒いボディ。金色の二本角。赤々と燃えるカメラアイ。

 

威圧感を感じるほどの凶相。フレームにまで手を加えたからか、その全長は18メートルから22メートルに伸びていた。

 

細身でヒロイックだったガンダムとは、もう印象からして真逆の代物となっている。

 

「…すげえな」

「だろ?」

「あれ思い出す。絵本の…黒い鬼」

「ああ、あれね。黒い鬼オーガ。僕も好きだったよ。地球にもあるのかい?」

「ああ…まあ、うん」

 

目の前の機体から、サブローはおとぎ話の怪物を想起した。会話に出しておいて、コロニーの人間が知っていたのは意外ではあったが。

 

「あれ、地球連邦が生まれる前から出版されてたらしいんだよ」

「へぇ〜…」

 

それは初耳だった。連邦が生まれる前ということは、コロニーの人間と地球の人間の差異は少ない頃だ。同じ絵本くらい読んでるかもしれない。それが後の世に伝わっていることもあるかもしれない。

 

「黒い体と金色の二本角を持つ、赤く燃える両目の鬼…これは作者が人類の宇宙進出において生まれるであろう社会問題を暗示していて…」

「言われれば言われるほどそれだな。わざとそう作ったんだろ?」

「バレた?」

「バレたっつったって…あ、ソーラさんだ!」

 

サブローの目は良好だった。会話の最中、ソーラが親衛隊員2人を引き連れて歩いてくるのを見逃さぬほどに。

 

三人はまっすぐサブローの方へ向かってくる。それを確認して、クニヒコは姿勢を正してソーラと向かい合う。アフロがしつこく揺れる。

 

「ご苦労です」

「ソーラさん、今日はまたどうしてここへ?」

「この機体が動く所を確認しにきました。その予定でありますよね、オータ技術大尉」

「は…はい!そうであります」

「もしも酷いものであったなら、これはここに置いていきましょう。そんなものにサブローを乗せて、実戦に出すわけにはいきません」

「ヒィッ」

「報告を連盟評議会へ提出するためにも、私が直に赴いて評価する必要があります」

「ヒィイッ」

 

クニヒコの怯える声を余所に、サブローは呆けつつ機体を見た。

 

「どうしました、サブロー?」

「あ、いや、俺が乗るんだな…と思って」

「そうなんだよ。素体のソフトウェアは結局抜けずじまいで、セキュリティかかってるから君以外にその機体は使えない」

「やっぱ、そうなるか。そうだよな…」

「いやですか?これに乗るということは、戦場に立つことになる可能性があると、いうことになりますが…」

 

微妙な空気。申し訳なさそうに言葉を紡ぐ、ソーラ。

 

正式に雇ったはいえ、元民間人を戦いに巻き込む。あまり褒められたことではない。

 

これが最善とはとても言えない。もっと自分にできたことがあるはず。そう思ってしまう。

 

「非常に辛い…苦しい今後となるでしょう。乗らない選択肢も、あります」

「大丈夫っす!俺、アシスタントで雇ってもらったんで!」

「サブロー…」

「もう二度と戦いたくないとも、二度とガンダムに乗らないとも言ってないし…乗った方がソーラさんのためになるんなら、俺は乗ります」

 

その気持ちを知ってかしらずか、サブローはあっけらかんと言い放った。授業が彼の心構えを変えたのか。

 

頭をボリボリかいて、サブローはソーラを見て、気恥ずかしそうに言う。

 

「なんで、また聞いてください、俺の口笛!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒い機体の中、コクピットに次々灯るセンサーとモニタ。その多くが連盟タイプに交換されてはいるが、機能は連邦のインターフェースと変わらない。

 

「指紋、声紋、顔認証確認。お帰りなさいパイロット。ガンダム、起動します」

 

オペレートアナウンスがなんの故障も見せずにいつもの定形ワードを言ってくる。これで多分、改造が原因の動作不良とかがない限り、この機体は動いてくれる。

 

大改造をしても、ソフトウェアは変わっていない。先ほどクニヒコが言っていた言葉。

 

パイロットスーツのグローブをはめる。指紋認証が終わったなら脱いでいる意味はない。

 

「ああそうだ」

「え?」

 

クニヒコからの通信。唐突なそれに困惑する。

 

「その機体、名前つけてないじゃん」

「名前って…ガンダムでよくないか」

「それじゃつまんないじゃん。せっかく改造したし」

「そうか、それなら…」

 

サブローの脳内に、ネーミング候補が浮かんでは消える。頭がよろしくないサブローは、連盟士官を教師とした授業を経ても、かっこいい名前をすぐ思いつくボキャブラリーがない。

 

だが、最終候補を出すのにそう時間はかからなかった。

 

「ガンダム…オーガ」

「え?」

「ガンダムオーガ…なんてどうだよ」

「いいね。じゃあその機体はたった今から、ガンダムオーガだ!」

 

これ以外思いつかなかったし、これにして納得できた。おとぎ話に出てきた化け物に似てるから、その名前をつけた。

 

先ほどまでそいつの話題が出てきたので、それもあるだろう。開発者があえて似せたのが最大の要因かもしれない。

 

「よし、ガンダムオーガ、きどっ…」

 

名前を宣言して起動、しようとした瞬間。その言葉は遮られた。大きなサイレン音にかき消されたからだ。

 

サイレンのやかましさは尋常ではなかった。そしてそれは、伝えるべき事態が急を要することを意味していた。

 

「敵襲、敵襲ー!大規模な連邦部隊が、この基地へ突撃してきます!」

 

オペレーターによる放送。その言葉は、短いながらも状況を一瞬で聴衆に理解させた。

 

敵が、来た。たった今から慣らし運転が始まるこの時に。

 

「…やばくね?」

 

クレーターの陰が、真っ黒なガンダムオーガを隠す。その中で、赤い目が煌々と輝いていた。

 

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