機動戦史ガンダム 双眸のガーディアン   作:アルファるふぁ/保利滝良

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7話Bパート

 

遠い国の森の中に、羊の兄弟がいた。羊たちは貧しいけれど、何不自由なく暮らしていた。

 

そんなある日、森の向こうから恐ろしい化け物が現れた。真っ黒な体に、金色の二本角と、炎のように燃える両目を持った、大きな鬼。

 

その名はオーガといい、それは人間の街を一晩で平らげ、岩をも砕く膂力を持っていた。羊達の森はたちまち破壊され、羊の兄弟は食い殺された。

 

ただ一人生き残った末の羊は、他の動物を守るため、家族の仇を討つため、知恵や罠を使って黒い鬼に立ち向かった。黒い鬼は羊の罠を正面から打ち破り、その知恵で建てられた作戦を壊していった。

 

だが羊は諦めなかった。全ての力でもってオーガと戦い続けた。そして、ついにオーガと一騎討ちをする時が来た。

 

双方一歩も譲らず、だがオーガは最後に仕留められた。こうして、邪悪な黒い鬼は退治され、平和が戻ったのであった。

 

 

 

 

 

「…と、そんな感じかな」

「すげえな、シャーマン。ソラで読めるなんて」

「さすが、娘が好きな本だもんなあ?読み聞かせるうちに、すっかり覚えたか」

「いやいや、俺も昔から好きな本だったし?なんかこう、覚えちゃうんだよな」

 

月面、ダイダロスクレーターから数百キロ離れた地点。Sサイズ突撃艦サバナ級トゥエルベ。

 

格納庫内部で、モビルスーツ部隊員が緊張をほぐすために会話をしている。彼らは今作戦待機中で、この作戦は激戦になることが予想されていた。

 

会話の内容は、とある絵本だ。題名は、黒い鬼オーガ。隊員の一人の娘の話から、その子の好きな絵本の話題に移り、そして父親が暗記の成果を発揮した。

 

隊員は大盛り上がり。会話が弾み、余計な緊張がほぐされていく。

 

「お〜い、そろそろ作戦開始だぞ!駄弁るのもそこまでにしとけ」

「うっす」

「了解です」

「了解」

 

だが、緩みすぎもよろしくない。隊長の言葉に、隊員たちは気を引き締めた。なにせこれから作戦である。何が起きて、どう死んでもおかしくないのだ。

 

だから、せめて長生きするために、集中して挑まねばならない。家族に会うためにも、全力で挑まねばならない。

 

「時計合わせ!3…2…1!作戦開始3分前!」

 

トゥエルベをはじめとして、地球連邦の大部隊が、月のダイダロスクレーターへと進路を取る。狙うはその先の連盟基地。速攻が命のスピード勝負となるだろう。

 

「作戦…開始!」

 

全ての艦が、月面上空を全速力で駆け抜けた。高速で飛んでいくそれらのフネは、川を下る魚の群れのようだった。

 

連邦宇宙軍の月面攻略が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイダロスクレーター基地中に響き渡る、サイレン。

 

そのやかましさは尋常ではなかった。そしてそれは、伝えるべき事態が急を要することを意味していた。

 

「敵襲、敵襲ー!大規模な連邦部隊が、この基地へ突撃してきます!」

 

オペレーターによる放送。その言葉は、短いながらも状況を一瞬で聴衆に理解させた。

 

敵が、来た。たった今から慣らし運転が始まるこの時に。

 

「…やばくね?」

 

真っ黒なパイロットスーツの中で、サブローは脂汗をかく。彼が今乗っているのは、今日初めて動かす試作機だ。たった今ソフトウェアの立ち上げが終わって、これから稼働試験を行うという時だったのである。

 

だが、その最悪なタイミングで敵は来た。地球連邦軍だ。大部隊が、彼が今いるクレーター基地に雪崩れ込もうとしている。

 

クニヒコは通信機に怒鳴りつけ、ソーラは手持ちの端末で臣下に令を下す。

 

「最悪だぁ!敵の数は!?防衛部隊の展開は!?」

「こちらナルカ共和国女王ソーラである。ダイダロスクレーター基地に滞在中のナルカ共和国部隊は、準備を済ませて速やかに基地防衛隊を援護せよ。長居の恩を返す時が来た、各員奮戦を期待します」

「はぁ!?月面スレスレを飛んで来たから地平線に隠れてレーダーが効かなくて…んなこたどうでもいいんだよぉ!相手は止められるの!?防衛部隊は出てこれるのかって…えぇえ!?もう交戦してる?!」

「オータ技術大尉、ガンダムオーガの試験はどうするのです」

「ふぇっ?あ、ああ、中断だ!中断させていただきますとも。攻撃を受けても問題ないけど、貴重な実験機を失うわけにはいかない。この試験場は外周に近いから、トーチカ群を抜けられた敵にやられるかもしれない」

「わかりました。聞こえますか、サブロー。オーガを動かしてその場から離れなさい…サブロー?」

 

通信機の向こうから流れてくる騒ぎ。最前線と変わらぬ慌ただしさ。その渦中にあって、しかし黒いモビルスーツは少しも動かない。

 

動けないのだ。

 

「クソッタレ!なんで…動けよ!おい!どうなってんだよ!!」

「機体のエネルギー供給が滞っています。現在、30%」

「ハァ!?おい、ふざっけんな…おい!」

「31%」

 

オペレートアナウンスの無情な宣告。やはり連邦機体のフレームに連盟の外装を取り付けたのは無理があったか、はたまたオーガという機体そのものが特殊すぎるのか、機体全体にエネルギーが循環していないという。

 

これでは指一本動かせない。敵部隊の攻撃から逃れるどころか、半歩歩くのも不可能だ。

 

現在、ガンダムオーガは月面の上に直立している。周囲には監視塔や様々な施設がある。ここは一月前にショーンと一騎打ちした訓練場だ。モビルスーツ4機がかりで運ばれて来たのだ。

 

そこでソフトウェアを立ち上げて、それから起動試験を行うつもりだった。だが、連邦が基地を襲ってくるという特大のトラブル。そして、機体が動かないというこれまた大きなトラブル。

 

「サブロー、どうしましたか」

「オーガは動けないっすよ!エネルギー供給がダメとかって…」

「機体から出て監視塔の方へ!宇宙艇でこの場を離れます」

「ちょちょちょちょっと待って下さいよ!折角の試験機をまさかこのまま破棄するんですか!?」

 

ソーラとクニヒコは、訓練場の外周にある建物から、脱出用の小型宇宙艇に移っていた。近くのシェルターに避難し、地球連邦の攻撃から身を守るためだ。

 

この場にはサブローはいない。彼はまだオーガの中にいる。このままでは、オーガの中で連邦の攻撃が来るのを黙って待つばかりだ。

 

ソーラはそれを良しとしなかった。だが、クニヒコはオーガを諦めきれなかった。二人は満員の脱出艇の中で、他の乗員に押しつぶされそうになりながら口論を交わしていた。

 

「人命優先です。いずれにせよ、動けないのであればガンダムオーガは敵の攻撃に巻き込まれて喪失するでしょう。なら私のアシスタントを回収して離脱するのが最善です」

「ダメです、アレはそうそうない傑作ですよ!失われたら人類全体の損失につながります!!そうでなくてもコロニー連盟の次期主力機開発には絶対必要不可欠な…」

 

その時、脱出艇の操縦士が叫ぶ。

 

「連盟の攻撃が来ましたぁっ!!」

 

その発言が終わって、数瞬。ビーム物質とミサイルの雨がその場を蹂躙した。

 

弾が、ビームが、弾頭が、月面に建設された建築物に突き刺さり、潜り込み、突入し、尽くを粉砕する。爆発、蒸発。破片と爆発が二次災害として無事な施設を蹂躙していく。

 

影響を食らったのは施設だけではない。動けずに突っ立っていたオーガも、直撃は受けていないが破片や爆発の煽りを受ける。

 

「うわわーっ!?クソッタレぇえええ!!」

「サブロー!」

 

ソーラの叫びも虚しく、彼女の乗る脱出艇は動き出す。敵弾の嵐に巻き込まれぬため、何よりも要人二人を守るため、その場から離脱しなければならなかった。

 

カステラの箱にスラスターを幾つも付けたような小型宇宙艇は、スラスターから炎を吐きながら、戦場と化した訓練場から離脱する。

 

「95%」

「くそ、動けよ動けぇ!こんなとこで死ねないんだよ!」

「96%」

「イチローが死んだ意味がねえだろが!ソーラさんに口笛聞いてもらった意味がねえだろが!動け!」

「97%」

 

そして、一条のビームが、オーガの目の前にあった監視塔を射抜いた。溶断されたタワーは、地球の6分の1の重力とは思えぬ速さで倒れていく。その方向には、未だ動けぬガンダムオーガ。

 

その様子は、デュアルセンサーカメラアイによってサブローにしっかりと把握されていた。

 

「嘘だろ…ッ!?」

 

巨大なタワーの残骸が、その上に倒れこんだ。

 

 

 

 

 

 

迎撃部隊を飛び越え、固定トーチカの砲撃の嵐を抜け、ダイダロスクレーター内部へ潜り込むSサイズ突撃艦サバナ級トゥエルベ。腹に抱えたコンテナが開き、中からモビルスーツ部隊が現れる。

 

5機のレガストが、トゥエルベに追従しつつ加速。ブースター移動で月面上空を滑るように飛ぶ。

 

「トゥエルベより艦載機全機へ。敵の施設を発見、攻撃に移る。追従してミサイル攻撃を行え」

「トゥエルベ・アルファ了解」

「ブラボー了解」

「チャーリー了解」

「デルタ了解」

「エコー了解」

 

つい数時間前まで談笑していたとは思えないほど、彼らの行動は正確かつ迅速だ。今回の作戦はスピード勝負で、大規模な敵基地をどれだけ蹂躙できるかにかかっている。ダイダロス基地全体を満遍なく焼き払えるように、連邦部隊はあえて戦力分散を行なった。

 

前線を抜けた部隊から順次別れ、モビルスーツ部隊を展開しつつ基地を破壊する。弾が切れたら各自撤退。それが作戦の内容だ。これは一次作戦であり、この作戦が終了したのち、別艦隊が弱ったダイダロスクレーター基地を制圧する。

 

できるだけ重要そうな施設を破壊したいところだが、トゥエルベが見付けたのは開けた空間とポツポツと建つ建造物だった。訓練場だろう。

 

「主砲用意、撃て」

 

だが、この基地の施設には違いない。主砲をセット、照準合わせ。艦首に備えられたビームキャノンが光の塊を吐き出す。

 

「全機、ミサイル発射」

 

レガストも、バックパックに増設された遠距離ミサイルを撃ち尽くす。ビーム物質とミサイルの雨が訓練場を蹂躙した。

 

弾が、ビームが、弾頭が、月面に建設された建築物に突き刺さり、潜り込み、突入し、尽くを粉砕する。爆発、蒸発。破片と爆発が二次災害として無事な施設を蹂躙していく。

 

一番目立つ白い塔が、トゥエルベの主砲によって倒壊する。抵抗は少ない。というか、全くない。

 

外れか。これでは大きな効果は期待できない。

 

レガストのコクピットに、ボロボロになった敵施設が映りこむ。正確な爆撃と砲撃によって原型を留めていない。倒れたタワーが、戦争の痛々しさを演出している。

 

「レーダーに反応。小型の脱出艇が複数」

「撃つな、追え。重要な施設の方へ逃げるかもしれない」

「りょうか…ん?」

「なんだ、エコー。異変でもあったか」

「倒れたタワーが…浮き上がってないか」

 

エコー、と呼ばれたパイロットの視線は、倒壊したタワーの方に釘付けとなった。彼の目がおかしくないのなら、倒れて動かないはずの塔が、ゆっくりと動き始めているのがわかったからだ。

 

そして、エコーの言葉に、その場の全員が視線を塔へ向けた。エコーの目は正しかった。今から通過しようとしている訓練場、今向かっている場所、そこに倒れこんだ白い塔が、徐々に浮き上がっているのだ。

 

弱いと言っても、月面には確かに重力がある。あんな重いものが勝手にフワフワ浮くはずがない。では、どうして塔が浮き上がる。なぜ動いている。

 

「おい、何かいるんじゃ…」

 

部隊長が何か言いかけた、その時。塔の残骸が上に押し上げられた。持ち上がったのだ。

 

破片と埃を撒き散らして、大きな大きな塔がスッと持ち上げられた。何が、どこのどいつがそんなことをしたのか。

 

疑問に思う暇もなく、今度はタワーが放り投げられた。まっすぐ、トゥエルベの方へ。

 

「まずい、撃ち落とせーっ!」

 

その場の誰かが叫んだ。誰か判明する前に、皆がトリガーを引いていた。レガストの両腕部機関砲の引き金を、思い切り押していた。

 

トゥエルベも、機銃や主砲など、持てる火力全てを迫る巨塔に叩き込んでいた。複数の火線が、飛んできたタワーに突き刺さる。破片が飛び散り、割れ、砕けた。

 

トゥエルベに無事到達することなく、白い塔は大小複数の壊れたパーツとなって後方へ消えていった。レーダーを確認、隣に一機いない。

 

「エコーが破片を食らって落ちた!」

「敵はなんだ、レーダー!」

「迎撃するのか!?やるのか!?」

 

錯乱し始める部隊員。彼らは今さっき把握したのだ、これから戦う相手の力量を。体感したと言い換えてもいい。

 

レーダーには、向こうに一機のモビルスーツあり、とある。それが、倒れた巨塔を放り投げてエコーを叩き落とした相手だろう。

 

モビルスーツが、一機で、あの塔を放り投げた。冗談じゃない。レガストが何機いたってあの巨塔をぶん投げるなんて出来やしない。だが、相手はそれをやってのけた。

 

前進し続ける彼らの目に、ようやく敵の姿が見えた。巻き上げられた砂埃によって所々隠れてはいるが、その全容はほぼ把握できた。

 

「全身が黒く、金色の二本角、炎のように赤く燃える両目…っ!」

 

そこにいたのは、おとぎ話の怪物そのもの。殺戮の限りを尽くした恐怖の象徴。

 

黒い鬼、オーガ。

 

「モビルスーツ隊は先行!トゥエルベを守れ!」

 

固まりかけた全身を、隊長が一喝。生き残った部隊員は、加速して前進する。全機でかかって倒す。

 

おとぎ話はおとぎ話。相手は現実のモビルスーツだ。そのはずなんだ。

 

視界の先のオーガと目が合う。シャーマン中尉の背筋が凍りついた。

 

相手の左腕には、奇妙な形の銃器がある。軍の教科書で見たことがある、あれは旧世紀に運用されていたポンプアクションショットガンだ。モビルスーツ大に拡大されたものであろう。

 

それが、こちらへ向けられる。マズルフラッシュ。

 

「なん…うわっ」

 

当たったのは自分じゃない。視線を横に向けた。

 

消える味方機。消えた。誰が。隊長だ。

 

腹に大穴が開いて、機体中に亀裂が走って、粉微塵となって、消えた。その痕跡も残さず、彼らの隊長機は消え去った。

 

この威力は、やばい。相手はそれを片手で撃った。片手だ。固定砲台よりも強力そうな代物を、片手で何の気もなしに撃ったのだ。

 

黒い機体は、さっき撃った銃の銃身下部をスライドさせる。すると銃の右側から何か小さいものが排出された。そして腰から弾丸を取り出し、後部の穴へとねじ込む。

 

リロードの動作に違いない。もう一度撃たれたらまずい。絶対にまずい。

 

「いっ…一斉射ァ!」

「うわぁあああああ!」

「おちろ、おちろよぉ!

 

レガストの両腕は機関砲となっている。他の武器を持つことができないが、精密なマニュピレーターを排除したことでコスト削減に一役買っていた。

 

それらが全て、敵に向かって火を吹いた。3機のモビルスーツが、両腕の機関砲を連射。6つの銃口が分厚い弾幕を形成する。おとぎ話の化け物は、一歩も動かずその奔流を受けた。

 

奴は一発も避けていない。3機のレガストの総火力、その全てを浴びた。だが、傷ひとつない。かすり傷は無数についているが、それだけだ。

 

あんな弾幕をもろに浴びて、まるで平気そうに立っている。銃を腰のハードポイントに移し、赤く燃える両目でこちらを睨んでいる。

 

動じてもいない。ピンピンしている。

 

「嘘だろ…」

 

恐怖に引き攣る表情筋。恐怖で冷え切る体。恐怖で震える下半身。

 

身体中が、自分の無意識が、理性が、最大音量で警告する。逃げろ、こいつの前から逃げろ、と。

 

「う、うぉぁわあああああああ!」

 

トリガーを引き続ける。全ての弾を撃ち尽くすつもりで、相手に機関砲を浴びせる。だが効かない。かすり傷だけ。

 

この火力に耐える相手に一体どうやって戦えと言うのか。その疑問を、奮い立たせた闘争心で頭から消す。どうやっても何もない、戦う以外ないのだ。

 

家族の下へ帰るには、こいつと戦うしかないのだから。

 

だが、攻撃が致命的なものでないと気付かれたか、黒いモビルスーツは飛び上がった。速い、なんという直進加速。ブラボーの方へ寸分違わず突っ込んでいく。

 

「ぐわぁああっ、離せぇええ!」

 

ブラボーのレガストは、オーガの両腕によって捕まえられた。もがくものの、全く身動きが取れない。パワーの差がはっきりと出ているのだ。

 

そして、シャーマンらが何か行動を起こす間も無く、レガストの肩が捥ぎり取られた。モビルスーツが、モビルスーツの一部分を、素手で、捥いだ。

 

オーガは千切った腕部を手放し、その断面に空いた手を突っ込んだ。右肩から先を失ったレガストの胸部に、敵の腕が、モビルスーツを素手で引き裂けるだけのパワーを持った機体の腕が入り込んだ。ブラボーの機体の内部は無造作にかき回される。

 

「助けて、助けてくれっ、誰か!」

「やめろォオオオオ!」

「脱出しろ、早く!ディアン!」

「あがごっ」

 

チャーリーがブラボーの本名を呼んだ、その瞬間、ひたすらもがいていたレガストが動きを止めた。オーガは腕を一気に引き抜き、その勢いのまま手に握っていた物を投げた。

 

丸めたちり紙のようになっているあれは、コックピットブロックじゃないのか。

 

「ちくしょおおおお」

 

月面に重力落下する、ブラボー機だった残骸。突撃するチャーリー機。動かない黒いモビルスーツ。

 

レガストは、機関砲の銃口下部からビームサーベルを発生させることができる。チャーリーはそのビームサーベルに全てを懸けたのだ。バヨネットとなったビームの刃が、黒い機体へ向かっていく。

 

ブラボー機に飛びかかった時とは逆に、オーガは動かない。レガストのサーベルは、吸い込まれるように突き立てられた。

 

決まった。ビームサーベルの温度は摂氏1万度だ。これを胴体に食らって無事で済むモビルスーツはいない。

 

「やった…!」

 

シャーマンが、恐らくチャーリーも、勝利を確信した。脆くもその喜びは打ち砕かれる。オーガの左腕がぐわっと動き、レガストの頭を握りつぶした。

 

ビームサーベルは、貫通していない。その黒い装甲を溶断できていない。効いていない。モビルスーツ最強の威力を誇るビームサーベルは、あの化け物に効いちゃいない。

 

「うぁぎゃああああああああああああああああああ」

「なっ、おいやめっ…」

 

その事実を認識した途端、シャーマンは恐怖によって発狂した。あの黒いモビルスーツを消し去りたい、その一心で引き金を引いた。オーガに捕まったチャーリーのレガストも御構い無しに。

 

装甲の薄いレガストは、味方によって蜂の巣になる。だがオーガには効かない。奴は味方の攻撃でやられた連邦機を投げ捨て、左肩の装甲から何かを引き抜いた。

 

「わあああああああああああああああああああ」

 

そして、家族のことすら忘れて乱射を続けるシャーマンに、ブースト加速で突撃。機関砲の掃射を浴びつつ正面から突っ込む。そして引き抜いたもの、ビームサーベルでその胸部を切り裂いた。

 

オーガが振ったサーベルは、コクピットに到達。娘に絵本を読み聞かせていたシャーマン中尉は、恐怖に狂ったままビーム物質の熱で蒸発した。

 

機関砲も、ビームサーベルも、レガストには効いた。普通のモビルスーツには効いたのだ。だが、オーガは普通ではなかった。

 

動きを止めて月面に倒れ臥すレガスト。その残骸に目もくれず、オーガは腰にマウントした銃を握った。

 

銃口向ける先は、トゥエルベ。オーガの脅威を図りかね、様子見をしようとその場に留まっていたのが仇となった。

 

コッキング。そして遠くにいる目標へ向ける。

 

「モビルスーツ隊、全滅!」

「敵が本艦を狙っています!」

「うっあっ」

 

突撃か、回頭しての退避か、いっそ撤退か。それを決めるだけの時間は、トゥエルベの艦長、そしてクルー一同には与えられなかった。オーガの握る銃が、トゥエルベを撃ち抜いたからだ。

 

放たれた弾丸は刹那にして艦体を通過、貫通。巨大な弾が内部を引き裂き、抉り、食い散らかす。そして、凄まじいまでの被弾衝撃が艦全体を襲った。トゥエルベは、たった一発の攻撃で、粉々になって霧散した。

 

機動兵器や月面施設の亡骸が転がる。その場にたった一機、黒いモビルスーツだけが屹立していた。この破壊の光景こそが、この機体の産声であるかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソーラとクニヒコの乗る脱出艇は、破壊された訓練場から約数十キロ離れた地点で止まっていた。オーガが起動し、敵部隊を足止めしてくれた。その様子を観察するためだ。

 

だが、戦いは彼らの想像をはるかに上回った。その様子は、一方的な蹂躙とだけ言えば十分であろう。

 

「サブロー、無事ですか。サブロー、返事をして下さい!」

「…はっ、ああ…生きてるっす」

「オーガは、動かせますか?」

「なんとか…」

「連邦部隊は、ナルカ部隊と基地防衛隊が撃退しました。状況は落ち着いて行きます、そこから動かないで下さい」

「ウッス…」

 

コクピットの中で、サブローは弱弱しく返答するほかなかった。あまりにも強いガンダムのパワーに振り回され、息も絶え絶え。何より、あっきまでのオーガの暴れようが、自分の操縦でもたらされたことにショックを受けていた。

 

ソーラも、皆も、自分も生きている。相手に完膚なきまでに勝った。だが、サブローの胸中には、恐れの感情が渦巻く。

 

初めての殺人、対艦戦、多対一。そして、ガンダムオーガ。こんな機体に乗って、これから戦場で戦い続けるのだ。

 

「お前は、何だ?何なんだ?」

 

5000メガワットと4500メガワットの間を駆け巡る計器表示。通常のモビルスーツは500MWで、ガンダムは2500メガワット強。

 

サブローは震えた。今、自分はモビルスーツを操縦しているんじゃなく、化け物の腹の中にいる錯覚に陥る。

 

サブローの無事を確認し、ソーラは通信機のスイッチを切った。そして、自らと同じように、オーガの戦いを観て真顔となったクニヒコの方を向いた。

 

「…連盟はあれを量産すると?」

「違う、違います。ガンダムの核融合ジェネレータとギルティス内蔵の無数の燃料電池が生み出した莫大なエネルギーによるものです。量産型ギルティスはあんなに強くない」

「では、あれは一体なんなのです」

 

ソーラは問うた。彼女らしくない、抽象的な質問だった。

 

「モビルスーツですよ、女王。もはや、その範疇を逸脱しかけていますが。断言しますよ、コロニーセンチュリーで、ガンダムオーガより強い機体は産まれることはありません」

 

クニヒコは答えた。その目は、狂気の沙汰を垣間見た人間のそれだった。

 

彼らの頭上に、ボルゾンやガードⅢといった連盟のモビルスーツが集まってくる。迎えが来た、ということだ。あるいは遅すぎる救助隊か。

 

その中にあってしかし、ガンダムオーガは、強く強く個を主張し続けていた。月面に立っているという、ただそれだけなのに。

 

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