機動戦史ガンダム 双眸のガーディアン   作:アルファるふぁ/保利滝良

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本編開始です…



第1話 戦火の火口、二つのはじまり
1話Aパート


眼前に広がる真っ赤な大地。岩と砂以外には物質が存在しない場所。

 

その場所は地球生命は一切の生存が許されない過酷な土地だ。なぜなら、地球ではないのだから。

 

火星。太陽系第四惑星。地球から遥か離れた土地に、今足を踏み出そうとする地球人の影があった。

 

「本当にいいのか?ジョージ、ケーシー。君達もこの一歩を踏みたいだろうに」

「いいの、マーカス。この一歩はあなたに権利があるわ」

「しかし」

「お前がリーダーなんだぞ、遠慮なんかするなよ」

 

後ろを向けば、自分と同じように白くてぶかぶかな宇宙服を着た男女。彼らはその手に撮影機材を持っていた。人類が記念すべきそのシーンを撮影するためだ。

 

男はまだ躊躇いを捨てていなかった。彼は心臓の病で近いうちコールドスリープに入らねばならない。病気は火星へのロケットが道中の5分の4を過ぎた時点で判明した。

 

火星の衛星には、調査の結果地球では確認できなかった新資源が存在することがわかっている。遠くない将来火星のテラフォーミング作業も始まることだろう。

 

仕事が山積みの仲間たちを余所に、自分は病を治せる段階に至るまで長い眠りに入る。そんな自分が、この栄誉を授かっていいのか。

 

「さあ、マーカス」

「行ってちょうだい」

 

急かす仲間たち。彼らは自分を信じて共に進んできた。そんな彼らの勧めを、今更になって断るのか。

 

それは、彼らへの侮辱だ。

 

「…わかった。行ってくる」

 

前を向いて、一歩ずつタラップを降りる。その一歩ごとで、火星の大地が近づく。

 

撮影しながら固唾を吞む仲間たち。幸い、コケることは避けていた。

 

今までの苦辛に思い出しつつ、マーカスは最後の一歩を踏んだ。

 

赤い大地に、人類最初の一歩が刻まれる。足跡をつけるように強く、強く踏んだ。

 

ロケットの中の仲間たちの歓喜の声が無線機の中から流れ込む。これは歴史的な一歩だ、と。

 

「マーカス、マーカス!何か、一言何か言ってくれ」

「おいおい、いきなりなんだ?ジョークでも言えばいいのか?」

「教科書に載る言葉よ!早く早く!」

 

ジョージとケイシーの要求。マーカスは苦笑する。だが何も考えていないわけではなかった。

 

火星進出プロジェクトが始まってから、もし自分が火星最初の一歩を踏んだら何と言おうか、というのは妄想していたからだ。

 

それをそのまま、口にすればいい。

 

「今私は火星に降り立った。これは一つの終わりではなく、一つの始まりだ」

 

衛星の新資源、テラフォーミング化による人類の生活圏の拡大、人類の宇宙進出の加速。マーカスの目の前には、目に見えない多くの幸福なイベントが待っている。

 

それに万感の想いを馳せながら、言葉を紡ぎ出した。

 

「我々人類の、輝かしい未来への始まりだ」

 

 

 

 

 

 

 

それから、幾千、幾万もの月日が流れた。

 

 

 

 

 

 

暗い暗黒の中に瞬く、幾万光年先の恒星。その美麗な光景に振り向きもせず、鋼の巨人が飛び交っている。

 

全長18メートルを超えるそれらは、モビルスーツ。人類同士の殺し合いに用いられる、機動兵器。

 

黄色い単眼モノアイを光らせ、『ガードⅢ』が右手に握った小銃を撃った。ビームライフルから放たれた光の塊が、『レガスト』の胴体を捉え、砕いた。

 

「ブラボー5被弾、ブラボー5被弾!うわぁああっ」

 

パイロットは散華する。コクピットに直撃したために、肉体は塵も残らない。

 

「やった!」

 

撃墜。武勲を立てれば昇進し、こんな地獄の船上からもおさらばできる。

 

だが非情で非常な現実はそれを許さない。

 

「ブラボー3よりブラボー2。ブラボー5の仇討ちだ」

「了解ブラボー3。回り込む」

 

爆発した味方機を避け、別のレガストが腕部と一体化した機関砲を連射する。スラスターを駆使して回避機動をとるガードⅢだったが、しくじって脇腹に弾を食らった。

 

そこへさらにもう一機が加わる。挟み撃ちでマシンガンを食らいまくる。

 

「くそっ、死にたくな…」

 

反撃のために構えたビームライフルが粉々になるのと同時、ガードⅢは蜂の巣になった。この機体はもう動くことはないだろう。

 

「ブラボー3、対艦攻撃に移る」

「ブラボー4、ブラボー3に続く」

 

二機のレガストはガードⅢの残骸を迂回して、その向こうの宇宙軍艦に向かう。

 

 

 

そこから直線距離で10キロメートル。別のガードⅢがビームライフルを撃つ。

 

だがそれは、巨大な装甲板に阻まれて霧散した。二発目はうまいこと直撃するものの、肩部装甲を焼き穿いただけ。

 

「連邦の、ブリジットめ!」

 

他の機種より一回り大きな体格、堅牢そうな外観。それは地球連邦軍の主力モビルスーツ、『ブリジット』であった。

 

その装甲は非常に分厚い。摂氏一万度を超えるビームライフルも、コクピットの存在する胸部に当たらねば致命打にならない。

 

シールドから身を乗り出したブリジットは、己を狙うガードⅢを睨みつけた。肩部ハードポイントに装備されたミサイルランチャーを発射する。

 

「回避…ぐぁああ!」

 

全力のスラスター移動も虚しく、ミサイルの誘導を切れず直撃。ガードⅢの胸部へミサイルが殺到し、その胸部はコクピットもろとも砕けて散った。

 

一機撃墜、ブリジットのパイロットは一呼吸置く。だが、彼は今にでも家族の元へ帰りたい気持ちでいっぱいだった。

 

だが戦況は彼にそれを許さない。後方の遠距離砲撃部隊を守るため、ブリジットの機体特性がアテにされているのだ。

 

次の敵を探すためにレーダーを見る。新たな敵機はすぐに確認できた。

 

「後ろ?!速っ…」

 

ガードⅢではここまでの速度は出せない。別機種だ。

 

振り向くことも許されず、ブリジットの胸部からビームの刃が飛び出した。

 

コクピットも重要な内部機器も焼き尽くされる。これでもう、このブリジットは永遠に動けない。

 

高速で敵モビルスーツを後ろから刺し貫いた連盟のモビルスーツは、ビームソードを引き抜き、血振りのようなモーションを取ってから背中にしまった。

 

虫を彷彿とさせる意匠を持ったその機体は、コロニー連盟の加盟国、『ナルカ共和国』の正式採用機『ボルゾン』。この機体だけでなく、複数機が連邦の砲撃部隊に躍りかかっていた。

 

 

 

敵の宇宙軍艦に対し腕部機関砲を斉射していたレガスト部隊は、味方の反応が消えつつあることをようやく悟った。

 

連盟のミドルサイズ巡洋艦『ブルガー級ペルス』は、船体各所から火花を散らしつつ、未だに撃沈できない。

 

「ブラボー3より、ブラボー2。本体がまずい。後退を…」

 

周辺確認のため足を止めた。それが命取りになった。

 

ビーム弾がレガストの機体を貫く。高機動化のため構造の単純化と装甲の軽量化を徹底したレガストには、ビーム兵器は耐え切れない。

 

各所に6つの直撃。動かなくなったレガストの上を通り過ぎる青い影。

 

 

両腕の機関砲を撃ち続けながら後退するレガスト。だが、青の敵機は火線を中心に渦を描くように突っ込んでくる。

 

当たらない。撃っても撃っても当たる気配がない。相手はエースだ。

 

「あれが『ブルー・タイフーン』か?!」

 

ブルー・タイフーンとは、連盟にいるとされるモビルスーツエースだ。青い機体に乗り、渦のような軌道を描くパイロット。

 

もしや、あれがそうなのか。

 

「…っ!弾切れ!」

 

敵艦にひたすら撃っていたため、レガストの腕部機関砲から弾丸が尽きた。それと同時にブルー・タイフーンが急接近し、その胸部へビームガンを撃ち込んだ。

 

離脱した青いモビルスーツの後ろで、レガストが爆散する。大型のブースターによる強引なヒットアンドアウェイ。それも彼の専用機のみが成せる技だった。

 

「ふぃ〜。ざっと、こんなもんかなぁ」

 

ブルー・タイフーンことレフェール・オルデラ中尉は、ため息をつきつつヘルメットを脱いだ。

 

ペルスの周囲にはもう敵影はない。直掩のモビルスーツは大分消耗したが、母艦が生きているならまだ救いはあった。

 

彼の機体は『ツウィスター』。コロニー連盟加盟国『マンタイト合衆国』が建造した、レフェール中尉のための機体だ。ガードⅢをベースにしている。

 

異名と、専用モビルスーツ。その二つの要素が、彼の腕を如実に表している。

 

「敵本隊の方もナルカ艦隊が潰してくれた。さ〜て…」

「こちらペルス。レフェール中尉、帰投をお願いします」

「おっと、帰還命令か?はいはい、今行きますよ〜っと」

 

ツウィスターが進路を変える。ブルー・タイフーンと呼ばれた男はすっかりボロボロになった母艦から目を離し、他のどの惑星よりも近くにあった星へ視線を移した。

 

青い星、人類が生まれた星、地球。今や地球連邦の本拠地であり、コロニーに住む人間からは憎悪と羨望を向けられている地球。

 

この宇宙空間と同じように、地球もまた戦場となっている。

 

「…地球の方はどうなってんだろ〜ね?」

 

激戦区になっているであろう青い星を見つめ、レフェール中尉は身を震わせた。

 

 

 

 

 

 

宇宙。かつては多くの人々が憧れ、求めた世界。

 

旧世紀にいくつも襲来した資源小惑星と、火星衛星によってもたらされた恩恵により、人類は宇宙に浮かぶ『土地』としてコロニーを生み出した。

 

コロニーはたちまち乱建造され、いまや地球とコロニー全体では人口の比率が逆転している。

 

だが、コロニーと地球との間では、置かれている状況からくるギャップが生まれ、それが双方への不満に変わっていった。

 

コロニーセンチュリー101年。食料をはじめとした物資を渋り続けた地球連邦政府に対し、とあるコロニーの自治体が国家を名乗り、独立を宣言する。

 

それと同時期、他のコロニーも連邦からの独立を行う。連邦はこれに対して実力による対処を行なった。

 

だが、新資源を満載した資源小惑星は宇宙の民であるコロニーに抑えられていた。新資源を利用して開発された新兵器、人型機動兵器「モビルスーツ」は、独立したコロニー国家達の連盟が運用し、地球連邦を一時退ける。

 

だが、地球連邦もまた、コロニー連盟へのカウンターとしてモビルスーツの開発に着手し、成功。人類の生存圏では、モビルスーツによる戦争が多発。

 

連邦と連盟は消耗により一時休戦。第一次地球圏戦争は幕を閉じたが、地球とコロニーは互いを打倒するためにモビルスーツの開発競争を加速させた。

 

コロニーセンチュリー125年。人類は、かつて夢見たフロンティアでさえ、戦場にしていた。

 




ガンダムは次の話までお待ちください
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