機動戦史ガンダム 双眸のガーディアン 作:アルファるふぁ/保利滝良
クインスローン2世のパールホワイトの艦体から、真っ黒い物体が放出された。ガンダムオーガである。
パイロットは無論、サブローだ。パイロットスーツを着て、不安そうにコクピットに収まっている。
横を向けば、すぐ近くにアールデン帝国のフネがいた。やけに近い気がする。それに、この位置取りでは、ソーラ女王を救出に行く進路の邪魔になりかねない。
「ガンダムオーガ、聞こえるか?」
「うっす」
「ブレイクガンで敵艦を撃ち落としてくれ!」
クインスローン2世からの通信。具体的な指示だ。今のサブローはクインスローン2世の所属で、彼の指揮はクインスローン2世の艦長がとる。
「ブレ…なんて?」
「オーガが今持っている銃だ。使ったことあるだろう!?」
「これで…」
オーガは今、ポンプアクションショットガンに似た携行銃器を装備している。普通より図体の大きいオーガの片手でも少々持て余すので、通常の機体では両手持ちになるだろう。
艦長の言う通り、サブローはこの武器を使ったことがある。それはオーガの初戦闘だ。
この武器で、敵機を消し飛ばし、Sサイズの敵艦を散滅せしめた。凄まじい威力だった。
だがサブローは知っている。否、知ってしまった。Sサイズのフネのクルーはだいたい70人前後だと。この武器は100人単位の命を一瞬で奪いされる代物なのだ。
レーダーに表示されている敵艦はどれもMサイズ以上。Mサイズ軍艦だと、100人は下らないという。
顔の知らない相手を、100人殺す。それも一発で。やれと言われて、そう簡単に引き金を動かせるはずもない。
サブローは躊躇した。その間にも敵艦隊は迫ってくる。だが、撃てない。オーガの持つ銃を撃つことができない。
自分の意思で、沢山の命を奪う勇気が出せない。
「なにやってんだ!」
突然、通信機越しに怒鳴り声が聞こえた。知らない声だ。
すると、衝撃。何かがぶつかってきたのだろう。見やれば、アールデン帝国の機体、ラムドだった。ずんぐりむっくりなシルエット。
ぶつかった拍子にブレイクガンを離してしまうオーガ。
「貸せ!」
アールデンの兵士であろうその男は、ブレイクガンを奪い取り、ラムドに持たせた。右手でグリップを握り、左手で銃身を持ち、腰だめに構える。
おそらく彼は、艦隊に攻撃しようとして、なかなか撃たないオーガにしびれを切らしたのだろう。だから、オーガの武器で敵艦隊を攻撃しようというのだ。
だが、彼は知らない。ブレイクガンはオーガにのみ持つことを許された武器であることを。他の何者も撃つこと叶わぬ武器であるということを。
「おい、よせ…」
それはサブローですら知らなかった。サブローはオーガのことをあまり知らなかった。だが、嫌な予感がして、名も知らぬそのパイロットを止めた。
が、言葉による制止は間に合わなかった。その男が戦場の空気に当てられ、正常な判断ができなかったことも重なったのだろう。
ラムドは、トリガーを引いた。
次の瞬間、アールデンのモビルスーツの両腕が、破裂した。
XLサイズ軍艦グランガンは、ナルカ軍の旗艦である。巨大な外見に違わず、実に60機以上のモビルスーツを搭載している。Sサイズ軍艦は3機前後、クインスローン2世は8機まで積むことができるが、グランガンの積載量は圧倒的であった。
だがグランガンも、その艦載機のすべても、いきなり立ち往生させられた。
彼らは敵艦隊からソーラ女王を守るために、ソーラ女王のいる方へと動こうとしていた。その進路を、同事行軍していたアールデン帝国艦隊に塞がれているのである。
「こちらナルカ共和国軍旗艦グランガンである。アールデン帝国艦隊にはどいてもらいたい!貴官らがそこにいては、ソーラ女王の救助ができない!」
「敵艦隊が目前に迫っている。砲撃をするためにはこのポジションから動くことはできん!」
「敵艦隊がここに到達したら我らの女王の命が危ないのだ!どいてくれ!」
「ならば先制砲撃で相手を蹴散らせば良いだろう?」
「あの艦隊規模では構わず突っ込んでくる!一刻も早く女王の救助を…」
グランガン艦長カワセ大佐が、アールデン艦隊に怒鳴りつける。だが相手は全く取り合わず、その場を動こうとしない。
敵は迷わずこちらに来る。進路を塞ぐ帝国艦隊さえいなければ、すぐにでも女王と親衛隊を収容してしまえるのに。
「撃てぇ!」
彼らを横切ってでも救助に、と思った瞬間、アールデン艦隊が砲撃を始めた。ミサイルやビームが次々放たれ、レーダーに映る敵艦隊に撃ち込まれる。
しまった、とカワセ大佐は呻いた。無理矢理横切ろうにも、砲撃をしている味方の火線に飛び込まねばならない。迂回したら、先に敵艦隊が到達してくる。
どうする、と考えている暇はなかった。アールデンの砲撃を受けた敵艦からの猛烈な反撃が迫ってきたからだ。
ビームやミサイルが次々こちらへ来て、フネのすれすれを通過していく。攻撃は、アールデン艦隊の向こうにいる女王たちの部隊にも及んでいた。
「こんなことをしている場合ではないのに!このままでは…」
カワセ大佐はグレーの髪を引っ掴んで叫んだ。
「このままでは、我らの女王が討たれてしまうっ!!」
さっき出て行ったオーガが、すぐに戻って来たので、クインスローン2世の整備クルーたちは大変面食らった。右手にブレイクガン、左手に両腕の無いラムドを抱えているのを確認したときは、もっと驚いていた。
オーガは軽くスラスターを吹かしながら入り、ハッチから格納庫内部にどしん、と着地した。
「こ、こりゃどうなっとるんだ?」
老人の整備士長が、通信機で問うた。彼が指しているのは、ラムドだ。両腕が吹っ飛んでしまったようになくなっている。ピクリとも動かない。
パイロットは死んだか気をやったか。ちっとも動かない機体を見るに、意識はないように見える。
少しの沈黙の後、サブローの声が返ってきた。
「こいつはブレイクガンを奪って、撃って…ブその反動…だと思う」
「反動?モビルスーツの腕が反動でぶっ飛んだ!?」
「そう、そうなんだよ。信じらんねえ」
サブローの眉間にシワが寄る。ブレイクガンの威力は、殺人的な反動あってのものだったのだ。オーガのパワーは通常の10倍、そんな機体が取り扱う武器なのだから、そんじょそこらの代物とはワケが違う。
「こいつの撃った弾はどっか飛んでった。どこにも当たっちゃねえ。でも、ブレイクガンは故障した…」
専用でもない機体が無理に発射したのが祟ったのだろう。ブレイクガンは故障し、使えない。
戦闘はすでに始まっている。撃つのを躊躇ったとはいえ、飛び道具無しで戦場に飛びだせる自信はない。
「とりあえず、手すきの奴にそのラムドをどうにかさせる!オーガは武器を変えるぞ!」
返答する暇もなく、整備士長は向こうの方に駆けて行った。
どんな武器を渡しても、今の自分では躊躇してしまうだろう。ブレイクガンの恐ろしさを目の当たりにした今は、もっとビビるに違いない。
なぜ出てきた。オーガに乗る限り、自分が戦場でできることは何もないのに。
サブローは、悔しそうに自分の腿を叩く。パイロットスーツが衝撃を吸収し、痛みは感じない。自分の不甲斐なさを自分自身にぶつけることも、できない。
「どうすりゃいいんだよ」
「さっき言ったことを忘れたの?」
「え?」
通信機から、若い女性の声がする。これは聞いたことがあった、
メイヴィーの声だ。
「…ビビりっぱなしで、うじうじ悩む俺は…俺らしくない」
「覚えてるじゃない。あとは、あなたらしいあなたに戻るだけ」
「簡単に言うけどさ、無理だよ。俺は…そう沢山殺せねえよ。連邦の兵隊だってそういうの覚悟してきてるんだろうけど、俺には、無理だ…」
操縦桿から手を離し、サブローが呻く。頭に被ったヘルメットを抱えるように持ち、胎児のように丸まっていく。
「オーガ…こえぇよ」
ため息が聞こえる。メイヴィーのため息だ。
呆れたか、失望か。また別の何かなのか。その意図がつかめない。
だが、続いた言葉が、その意味を教えてくれた。
「サブロー。私はあなたに3つ話をする。よく聞いて。まず最初の話」
コクピットの中で丸まっていたサブローが、両手をヘルメットから離した。メイヴィーの話に興味を持ったのだ。
それを知ってかしらずか、メイヴィーは話し続ける。
「この戦争はどうしようもない理由から始まった。滅多なことじゃ終わることはない。でも、どう言葉を取り繕っても、前線に立つ兵士は人殺しになることを余儀なくされる。生き残るためには、相手のことなんか気にできないし、する人間はすぐに死ぬ。でもね…」
「でも?」
「私はあえて、祈ることにした。顔や声や名前は知らなくても、祈る権利はある気がするから」
「祈る?」
目から鱗だった。サブローは、殺害の事実から目を背けようとしていた。殺害したと言う結果から逃れたくてしょうがなかった。
だが、祈る。殺すこと、殺したことを認めて祈る。相手のために祈る。
謝罪か、贖罪か、あるいは自己満足か。だがそれでも、何もしないよりはマシかもしれない。
「次の話。その上で、私はあなたにお願いしたい」
オーガの目の前に、ナルカ共和国製機体のダナオスが立っていた。地球でもメイヴィーが載っていた、藍色の旧式機。
「私と一緒に、ソーラ女王を助けて。女王と親衛隊のメンバーが、敵艦隊と接触してしまった。このままじゃ全滅する。あなたの力が必要なの」
「俺の力?俺にできることなんて…」
「そして、最後の話」
サブローの弱音を、メイヴィーは遮り、言った。
「それはあなたの力。あなたにしか使えない、あなただけの力」
「それ…?」
言われて気が付いた。それ、とは、ガンダムオーガのことだ。黒い全身、真紅の瞳、金色の全身。
サブローが恐れていたその存在は、サブローの力なのだ。恐れる対象ではなかったのだ。
サブローの脳裏に、あの夢の続きが疾った。迫るオーガ、後退る自分、こちらへ伸びる左腕。その腕に乗り、腕が動き、開かれた首元の穴からコクピットに滑り込む。
これは、己の機体。親から借りた作業用モビルスーツでも、連邦から奪ってきた試作機でもない。
サブローだけの機体だ。
「さあ行きましょう」
「…おう。ソーラさんを、助けに行こう。俺の力で」
その返答を聞き、メイヴィーの少し笑った声がした。
格納庫のクレーンが近付いてくる。そこにあった大きな剣と小さな銃を受け取って、サブローは改めて格納庫の外に向かって行った。
自分だけの機体、ガンダムオーガに乗って、出撃する。
ソーラの乗るクインメイルと、親衛隊各機は、苦戦を強いられていた。
砲撃をかわしたまでは良かったが、後から来たモビルスーツ隊が強敵であった。装甲を強化された緑色のブリジット。それが十機以上。
さらにその他のモビルスーツ隊も来たが、これは相手にもならなかった。親衛隊があっという間に斬って捨てたのである。
だが緑のブリジット部隊は簡単にはいかなかった。分厚い装甲は下手な攻撃を全く寄せ付けず、ビームライフルやマシンガンの直撃を易々と耐えた。さらに、雪崩のようなミサイル攻撃と複数の射撃武器からなる弾幕で、こちらに接近を許さない。
ナルカ共和国の機体は、背中のユニットによる高機動力と、ビームソードによる接近格闘戦が強みだ。相手はそれを、圧倒的な火力で速さと接近を封じることで潰した。
こちらの持つ最後の対抗手段の射撃武器は、装甲で無効化するという徹底ぶりだ。成すすべがない。
「緑のブリジットだと?グリーンモンス隊か…!」
親衛隊パイロットの一人が、相手の正体を察知した。
「連邦の超精鋭部隊じゃないか!」
火力で敵の大部隊の動きを封じ、装甲で攻撃を耐える、少数で多数の相手を翻弄する屈強なモビルスーツ隊、グリーンモンス。通称緑の城壁。
そんな相手が、こちらよりも多い数で襲いかかってくるのだ。親衛隊モビルスーツは一機、また一機と墜ちていく。
「ぐぁっ」
「ヴィクター!食らったのか!?」
「たっ隊長…僕は…ここまで…」
「死ぬな、死ぬんじゃない!」
「女王と、サブロー君を…頼みま…っ!」
ヴィクターのボルゾンが、敵のミサイルを食らって砕け散った。
「ヴィクタぁああああああっ!!」
緑の城壁が迫る。その火力と屈強さに、こちらは数を減らすばかり。
味方艦隊は敵と接触し、身動きが取れない。もっとも、こちらとナルカ艦隊に挟まれているアールデン艦隊が邪魔で、救援部隊を回すのに苦労しているに違いない。
こちらも、逃げれば敵の攻撃を背中にひたすら浴びることになる。増援が来るまでこの場を離れるのはできない。
助けはまだ来ない、もしくは、ずっと来ない。
「おのれぇ!」
ショーンの頭に血が上った。仲間を次々なぶり殺しにされ、生存を絶望し、冷静沈着であらねばならない若き親衛隊長は、がむしゃらな特攻を選ぼうとした。
それを、凛とした声が止めた。
「死に急ぐのでなく、耐え切りなさい。ナルカの同胞を待つのです」
「ソーラ女王…」
親衛隊の後ろでじっとしているだけではない。クインメイルは純白の肢体を動かし、回避機動をしている。
人手が足りないのはソーラも知っている。だから突っ立ったままではいけないと考える。使えるものは自分自身でさえ使う、それがソーラの信条だった。
だがクインメイルの性能はそう高くない。両の袖口にはビームガンがあるが、これの威力は低い。グリーンモンスのブリジットに有効打を与えるのは難しいだろう。
これで敵の撃墜を狙うのは厳しい。もう一方の武器であるビームサーベルは論外だ。接近戦をすればそれだけ危険性が高くなる。
ビットも、ここまで敵の砲火が激しいと、回避に意識を割かれて使えない。
だがソーラは諦めない。ここで死ぬわけにはいかないからだ。
戦争を連盟と連邦のどちらも倒れない形で終わらせ、のちの時代に禍根を残さないようにする。それは彼女が、自身に課した使命。それを果たせぬまま斃れることはできない。
だが、実際この状況は、今の彼女らにはどうしようもない。八方塞がりだ。戦力が足りない。
「正面…!」
ソーラのエスパー能力は遺憾無く発揮され、彼女は敵の攻撃の意思が視えるようになった。意識している方向からの攻撃は、敵の殺意を感知することで察知できる。
だが、避けるだけでは勝てない。攻撃をしなければ敵を倒せない。
どうすればいいのか。ソーラの思考が行き詰まりかける。
その時であった。
「クソッタレぇえええああああああああッ!!!」
ソーラの視点右側からビーム弾が複数飛び込み、緑色のモビルスーツに飛び込んだ。グリーンモンスのブリジットは倒せていないが、彼らは飛び入りしてきた新たな敵機に視線を奪われる。
女王がレーダー表示を見やる。味方が二機。ナルカ艦隊から、艦隊戦の只中のアールデン艦隊を突っ切ってきたのだ。
誰だ。
「ソーラ女王、ご無事ですか!?」
「メイヴィー…ご苦労様です。もう一機の方は?」
「サブローです!」
ソーラに声をかけるのは、メイヴィーだ。親衛隊のNo.2。
彼女は言う。サブローが来た、ということは、ガンダムオーガが増援としてやって来たと言うことだ。
ボルゾンが隣に滑り込む。艦隊戦の中を突っ切ったにしては、損傷が少ない。
一方、ビームリボルバーを乱射しながらグリーンモンスに飛びかかる黒い機影は、所々ボロボロになっている。
「オーガを盾に?」
「はい。艦隊同士が接近しているので砲撃はなかったのですが…」
オーガを見やる。あの機体は、モビルスーツの迎撃のために艦隊同士が機銃の雨を起こしている最中、メイヴィー機の盾になりながらここまで来た。
ビームキャノンによる砲撃が、戦艦同士が接近して停止したためにできた、酷い荒技だ。
「クソッタレぇええええええ!!!!」
メイヴィーのボルゾンの盾になりながらここにきたオーガは、今度はソーラたちの盾となり、グリーンモンスからの集中砲火を凌いでいる。
あれでもまだピンピンしているが、いつまで保つかわからない。
だが、大きなチャンスが生まれた。これを活かさぬ手はない。
「親衛隊、突撃!」
「了解!!」「了解しました!」「ナルカのために!」
ボルゾン複数がビームソードを引き抜き、背中のコンバーターエンジンから焔を放つ。
コンバーターエンジンは本来大気圏内を飛ぶためのユニットだが、ナルカ系機体の機動力を支える大型スラスターとしての一面も大きい。宇宙に描かれる、炎の軌跡。
寄ってたかってオーガに火力を集中していた連邦機は、そちらへと標的を変えようとする。
「…ビット!」
クインメイルの長いサイドスカートから、ビットが放出された。それらは超スピードで敵へ向かい、ナルカ親衛隊を追い抜き、グリーンモンスの背中に辿り着く。
ソーラ女王が、コクピットで目を閉じる。すると、ビットは一斉に攻撃を開始した。
小さなビーム弾が緑のモビルスーツの背中を打つ。この程度の威力では、かの部隊のブリジットは落とせない。
だが、背中のバックパックにある、メインスラスターを破壊することはできた。
一発撃って退散するビット達。それを撃ち落そうとするグリーンモンス。だが、機体が思うように動かない。
宇宙空間では推進力が無ければ移動ができない。メインスラスターをやられた重いブリジットは、最早浮砲台でしかなくなったのである。
「せやぁあああ!」
一番槍はメイヴィーのダナオス。旧式ながらも、その速度で敵の背中に回り込む。
火力と装甲があっても、身動きが取れないなら木偶の坊だ。ナルカの機体が一斉に飛びかかる。
先程とは形勢が逆転した。ビームソードが振るわれ、緑のブリジットが次々屠られる。ある機体は頭部を飛ばされそこからコクピットを一突き、ある機体は首関節を通して内部を串刺し。
ビームソードは強力な武器だ。実体刃にビーム刃を発生させ、ビームで溶けた装甲を実体刃で破って貫く。通常のビームサーベルより強力である。
それでもこのグリーンモンス機の装甲を抜けるか不安であった。ただでさえ装甲の厚いブリジットの装甲を強化した専用機。装甲を避け、関節を狙って内部の重要機関を速攻で破壊する必要があった。
青いボルゾンが、昆虫のような顔を巡らせる。メイヴィーのダナオスやショーンのディバインも、浮砲台と化したブリジットの関節に刃を通している。
だが、全てが木偶の坊にされたわけではない。
「敵機、接近」
「くそ、動ける奴がいる!」
わずか三機だが、ビットの被害から逃れたブリジットがいる。そのうちの一機が、全速力でこちらへ突貫してきたのだ。
残り二機を逃がすためのしんがりか。だが、増加装甲で肥大化したその機体が向かってくる姿は、さながら迫る壁だ。凄まじい威圧感。
敵は両手に保持した大型ガトリングの弾をばら撒いている。両肩に付いているミサイルポッドからもミサイルを飛ばしている。あれでは、装甲の薄いナルカ機体は近寄れない。
「ソーラ様、遠回りをしてきた味方部隊もいます。そちら合流しましょう」
「あれを放置したら、こちらにも少なからぬ被害が…」
「ソーラ様が無事であれば我々の勝ちなのです。相手取る必要は必要はありませ…」
「俺が行く!」
「サブロー!?」
黒い影が、ビームガンを投げ捨てる。相手の進路の前に立つように、オーガが動く。
あまりにも食らいすぎたためにもう満身創痍だ。だがまだ戦える。だから行く。
左腰にマウントした大剣を左手に握った。剣だ。板が二枚ついていて。その端に持ち手が付いているという風体だが、それは剣だった。
板には14枚ずつ小さな刃がある。それらの刃からビームが発生し、その状態のまま刃の列が動き出す。ビームを出したまま、刃の列が回転する。
チェーンソー。それはビームソードのチェーンソーであった。片側14枚計28枚の小さなビームソードを、秒間10回転させる武器。
ビームソードを28枚同時ドライブするのもさることながら、それらを高速回転させるためのエネルギーも莫大だ。これもまた、ガンダムオーガ専用の武器である。
こけおどしと判断したか、ブリジットはなおも突き進む。オーガも、相手に向かって速度を上げた。
機体に突き刺さるガトリング弾の雨。ミサイルの直撃。それでもオーガは止まらない。緑のブリジットも。
「機体耐久値、残り20%以下まで低下」
「まだだァ!!」
「残り15%以下」
システムボイスすら掻き消して。サブローが吠える。
俺は戦う。自分の力で。その意思を体現するように。
オーガとブリジットは、ついに互いに肉薄した。
「うオらァッ!!」
黒い鬼が、片腕を振り抜いた。ブリジットの右肩にビームチェーンソーが叩き付けられる。
例えビームサーベルを使っても、グリーンモンス専用ブリジットを正面から倒すことはできないだろう。だが、単純計算で秒間280回ビームソードを叩きつける武器ならどうか。
ブリジットは、チェーンソーを受けた箇所から細切れになっていく。それは時間にして1秒にも満たなかったが、サブローには見えていた。
オーガが武器を振り抜くと、敵の上半身は消えて無くなっていた。
クインメイルがグランガンのドッグに滑り込む。壁際に手を着いて立つと、コクピットハッチが開かれた。
中から現れるのはソーラ女王。ヘルメットを付けっ放しにしているのは、まだ戦闘が終了していないからである。
駆け寄ろうとする臣下達を黙視するより前に、ソーラは高らかに宣言した。
「高周波炸裂弾の使用を許可します」
ブリッジ内部からの映像を見ていたブリッジルームは、少し呻いた。しかし、彼らはすぐに行動を起こす。
グランガン艦長カワセ大佐が、艦長席の脇の通信機を取り、号令を飛ばす。
「高周波炸裂弾、ミサイル用意っ!」
白い楕円の上に煌びやかな城。白い部分は艦本体で、城のような華美な上部はブリッジを兼ねた居住区である。グランガンの外見は、とても軍艦には見えない。
そのグランガンの前方の一部が開き、いくつかのミサイルが発射された。
「砲手!ミサイルのコントロールはできているか?」
「問題ありません!」
「よし。起爆タイミングは…連邦艦隊を通り過ぎるギリギリだ」
ミサイルは、ぶつかり合うアールデンと連邦の両艦隊を通り過ぎ、連邦艦隊の後端でついに炸裂した。
「なんだ!?」
「あのミサイルは…」
「ナルカの旗艦からだ」
両陣営各艦の艦長が、その行方に注目した。
その時、ミサイルを中心として、球状の光が現れた。
「何ぃいいいっ!?」
「全速回避!」
「巻き込まれるな〜!」
巨大な光球は、10秒間膨らみ続けた。その最中で触れた連邦艦隊は、すべからくその内部に飲み込まれる。
数キロメートルにまで膨れ上がり、光球はふっと消えた。まるで最初から何も存在しなかったように、忽然と無くなった。
飲み込まれた軍艦も、跡形もない。
「…撤退する!全艦に通達!撤退!」
連邦のフネが、こちらに軽く砲撃を加えながらじりじりと後ろにさがっていく。先ほどのミサイルに一網打尽にされないためか、互いに距離をとりつつの後退であった。
連邦のモビルスーツ達も、それに倣って後ろ向きに飛んでいく。その中には、緑のブリジットが2機だけいた。
このまま放っておけば、連邦艦隊は帰ってくれる。こちらの勝利だ。
「グランガン応答せよ。グランガン!」
「何か」
「今のはなんだ!?」
通信に出ると、アールデン艦隊の指揮官と思しき男が、口角泡を飛ばして叫んでいる。
どうやら、さっき撃った高周波炸裂弾のことが気になってしょうがないらしい。当たり前か、一発で戦況を変える武器だ。気になってもしょうがない。
「軍機であるのでお応えできない」
「なん…ふざけっ」
「それより、貴艦らは追わなくて良いのか?」
「無論、追撃をかける!同行願おう」
「お断りする。我々の任務ではない」
「くっ…了解した。地球戦線でも武運を祈る」
「そちらも、宇宙での健闘を祈る。それと、共同戦線に感謝する。通信終わり」
カワセが敬礼を下ろすと、モニターの映像が消えた。ブリッジルームに静寂が戻る。
灰色の髪の上に帽子を乗せ、グランガン艦長が号令をかける。
「状況終了。ナルカ艦隊各艦は艦隊陣形を再編成!進路地球、微速前進!」
両手の指を交互に組み、目を閉じて、両手を額に付ける。状況が落ち着いた後、サブローが最初にしたことは、祈ることであった。
格納庫の端っこで、オーガの整備に全整備兵がかき集められている脇での行動である。近くの人間は、サブローの奇行を思わず見た。
だが、それに理解を示す人間もいた。
「祈ること、ですか。メイヴィーも祈るのですか?」
「はい、自分の部屋でですが。自己満足のようなものです」
「…戦争は人の心をも狂わせます。そのなかで自分を保つには、神にすがるのも…」
「いえ、違います女王」
メイヴィーははっきりと否定した。主君相手でもはっきりモノを言うのが、彼女の良点であり悪点だ。
それを自覚した上でメイヴィーは言った。
「サブローは、死んだ味方と敵のために祈っているのです」
「…貴女もですか?」
「はい」
ソーラは、再びサブローの方を向いた。
「エスパーと呼ばれていても、間違えてしまうものですね」
そう言いつつも、彼女にはわかったことがある。サブローはもう自分の機体を恐れたりしないこと。そして、戦いを受け入れる強さを得たことを。
祈りを終えてオーガを見上げるサブローの目は、強く輝いていた。