機動戦史ガンダム 双眸のガーディアン 作:アルファるふぁ/保利滝良
「メリー・アンダーソン、ガンダム行きます!」
赤い装備を所々に付けたメリーのガンダム、ダンシングシープが、ペガリオの前面ハッチから勢いよく飛び出した。
無重力であるのに空気を切り裂くような感覚。それは、眼前に広がる星景色が前から後ろへ流れていくからだろうか。
「メリー、突出しないでね」
「単独は危険」
「わかってるって!みんなで行かないと勝てない相手なんでしょ?」
後ろに追随する2機のガンダム。青い装備の方が、アリスのスマイリードッグ。緑の装備が、ショコラのスリーピィラビット。
3機のガンダムは、言葉も交わさずに陣形を形成した。スリーピィラビットが最前面、他2機はその後方へ。
「味方艦隊、砲撃開始!」
母艦ペガリオからの通達。それと同時、視界両脇からビームやらミサイルが前方へ飛んでいく。地球連邦はこれから、敵との砲撃戦を始めるのだ。先手はこちらがもらった。
ガンダムのレーダーには、敵機や敵艦の他に、味方の撃ったビームの熱が表示される。いくつもの熱源が表示されるので、若干目に悪い。
宇宙空間を飛んでいるうちに、ガンダムのカメラアイが一つの目標を捉えた。味方だ。
保護対象の連邦第3宇宙艦隊所属C分隊。敵の攻撃を受けて、艦数はわずかに8隻。そのどれもが無傷ではない。
「いた。もう敵に追いつかれてる」
「急ぎましょう」
「うん!」
ダンシングシープが加速をかける。バックパックのスラスターから炎が巻き上がり、機体に推進力をもたらす。
メリーは一直線に敵に向かっていった。
「突出しないでって言ったばかりなのに!」
「追いかけよう、ショコラ…」
他二機のガンダムもそれに追従して加速をかける。ダンシングシープより遅いとはいえ、彼女らの機体もガンダムだ。それなりに速い。
三機のガンダムは艦隊の下を通り抜けて突撃する。
「こちら連邦機動軍第三師団実戦試験大隊所属第三小隊、こちらの声が聞こえますか?」
「こちら、連邦第3宇宙艦隊所属C分隊…助かった、希望はまだ潰えていなかった」
「油断するのはまだ早いです。全速で後ろに下がってください」
ショコラの呼びかけに答えるかのように、ボロボロのフネ達が後退を始める。その中から、小さな光が二つ飛び出してきた。
モビルスーツだ。
「こちらグリーンモンス隊。支援に感謝する。我々も共に戦おう」
「グリーンモンス隊!?連邦のエース部隊じゃん!」
「でも、数が…」
「とんでもない奴らのせいで手酷くやられてしまってな。だが、二機でも俺たちはやれるさ」
メリーは驚いた。グリーンモンス隊とは、連邦の中でも特に有名な部隊だ。少数で大軍の進行を押しとどめ、味方部隊の盾となり武勲をあげるモビルスーツ部隊。大柄な緑色のブリジットが、彼らの証だ。
だが、その数はわずか二機。追撃戦で消耗したか、それともそれ以前の戦いで大ダメージを被ったか。
そう考えているうちに、敵部隊が近付いてくる。あれは地球で見たシルエットだ。
「あれ、ラムド、だっけ?」
「そうよ。少ししぶといから、確実に仕留めて」
「わかってるって!」
向こう側から飛び込んでくるビーム物質の弾。宇宙空間でくるくる回りながら、ダンシングシープはそれをかわしていく。
メリーの操縦技術は日に日に増すばかりだ。最早雑兵の攻撃は滅多に当たらないだろう。
敵部隊に肉薄し、敵機の横に回り込み、ビームライフルを一発、二発。
ラムドの一機が煙を吹き、動かなくなる。
「これで何機目だっけ…まあいいや」
「こいつ…落ちろ!」
ダンシングシープの背中にビームライフルが向けられる。
殺気。背中に向けられた殺意を感じ取ったメリーは、振り向きもせずに急上昇。ビームの弾が一瞬前までガンダムのいた場所を通り過ぎた。
「何…ぐわっ」
死角から撃ったのに避けられた。驚愕したラムドは、その隙にマシンガンを食らって大破した。
今のスマイリードッグとスリーピィラビットは、ビームガンやビームライフルではなく、マシンガンが持たされていた。
セイヴ大尉の判断だ。ガンダムの装備は、今回だけ変更されている。
しかしGT-1のガンダムパイロットはこの程度では狼狽えもしない。
ガンダムチーム及びグリーンモンス隊の射撃で、敵機は続々撃墜されていく。
「突出しないでって言ったよね!?」
「メリー、良い加減にして」
「ごめん、本当にごめんなさい!いけると思っちゃった…」
「ところで、今避けたのは何」
アリスの質問にメリーは首をかしげる。
「今のって…」
「背中から撃たれたのに避けたでしょ」
「あれはね…」
「前方に敵艦!あれはやばいぞ!」
グリーンモンス隊隊長の声が、おしゃべりを阻む。ガンダム3機はすぐさま前を向いた。
青く塗られ、両側に円筒型のコンテナを持つそのフネは、連盟側のLサイズ輸送艦スプリング級。
ガンダムの双眼は、他の機体よりも高性能だ。スプリング級のコンテナから何機かのモビルスーツが現れたのもはっきりと視認できた。
「青い…あれがブルー・タイフーン部隊!」
「奴らに味方が数多くやられた。気をつけろ」
グリーンモンスのブリジットがビームライフルを撃った。すると、青い機影達は素早く回転運動を始める。
渦を描くような機動。ガンダムのカメラアイでさえも、完全には狙いをつけられなかった。
ブルー・タイフーンの機動は凄まじい。どんなに撃っても命中しない。
別の味方も彼らに砲撃を加えるが、六機の敵回転機動でそれを易々とかわす。
だが連邦も、黙って見ているわけではない。
「アリス、まだ?」
「まだ」
アリス機は砲撃を止め、前方から向かってくる敵をじっと視界に収めていた。
今のスリーピィラビットにはビームカノンがない。代わりに、敵を確実に視界に収める巨大カメラが、両肩に載せられていた。
カメラを使い、別々の渦を描く六機のモビルスーツ。接近する敵を、ただ見ているだけ。
「こちらガンダムチーム、ペガリオへ!」
「こちらペガリオ。ガンダムチーム、どうしました?」
「セイヴ大尉に繋いでください」
「了解しました」
メリーが通信機でペガリオに連絡を行う。
これから行うのは敵の撃破だ。ブルー・タイフーンを打ち破る秘策が、彼らにはあった。
彼らの秘策を握るのは、彼らの指揮官、セイヴ・ライン大尉。
「こちらはセイヴだ。どうした」
帰ってくる返事。メリーは一瞬口をつぐんだ。
セイヴは、彼は元々コロニー連盟出身だ。彼自身がそう白状した。
メリーは彼を信頼している。だがもしかしたら、もしかしたら彼は、連盟側のスパイではないのか。
「メリー、どうした。何かあったのか?」
セイヴの声。メリーは心に生まれた疑念を、頭を振って追い出した。
彼はスパイなんかじゃない。心から信頼できる男だ。
「セイヴ大尉、ブルー・タイフーンが現れました」
「…よし、想定通り。言われた通り、アリスは敵を捉えているか?」
「はい!」
「こちらの各艦とスリーピィラビットにデータリンクを開始する。アリスをなんとしても守ってくれ」
「了解です!」
メリーはすぐに、自分の役割は時間稼ぎだと理解した。
操縦桿を引き、ペダルを踏み込む。ダンシングシープのバックパック、メインスラスターが巨大な炎を吐き出す。
莫大な加速をかけた突撃。正面から体を押し付けられる感覚がする。パイロットスーツの中で呻く。
ディスプレイに表示されたロックオンマーカーが青い敵に狙いを定めた。
メリーは操縦桿のトリガーを引く。ガンダムがビームライフルを撃つ。
しかしどの敵にも当たらない。ブルー・タイフーンの螺旋機動は未だに破られない。
「六人のブルー・タイフーンをどこから連れてきたの!?」
当たらない攻撃に苛立ちつつ、しかしメリーは攻撃の手を緩めない。
渦を描きながら迫る敵はまっすぐ直進するよりも移動スピードは遅い。距離をとり続ければ時間は稼げる。
しかし、ダンシングシープの熾烈な攻撃も虚しく、敵はスリーピィラビットへと向かっていく。
「嘘でしょ?!」
セイヴは、敵部隊を倒すにはアリスが敵を視認し続ける必要があると語った。
鍵はスリーピィラビットにある。今彼女を落とされるわけにはいかない。
「来た…!」
アリスのガンダムはサブアームのガトリングやミサイルランチャーを撃ち放ちながら動き始める。
その全てが、当たらない。敵の機動で回避される。
そして、六機の青い敵が、リボルバー型ビームガンをスリーピィラビットへ向けた。
スリーピィラビットは重量が重い。つまり、回避能力が低い。
一斉攻撃を受けたら避けきれない。
「アリス!」
メリーは叫ぶものの、その眼前を何かが横切る。レーダーで見るまでもなく、敵だ。
ブルー・タイフーン部隊以外の敵がこっちに来る。
「このっ」
地味な見た目のガードⅢに向け、放たれた光の矢が敵を貫く。
ビームライフルを腹に食らったガードⅢは動かなくなった。
しかし、連盟のモビルスーツはまだいるのだ。一機二機倒したところで意味はない。
「あっち行け!」
「こいつは報告にあった二本角か」
「気をつけろ、奴はエース…ぐわっ」
ブルー・タイフーンが迫る今、雑魚までこちらを狙って来たら歯が立たない。メリーはブルー・タイフーン部隊から目を離し、近付いて来る敵を撃ち始めた。
今のダンシングシープは、軽量化のためにハイパーサーベルとビームライフル以外の武器を外している。スピードは上がったが、継戦能力は低くなっている。
この状況が長続きすると、まずい。
「く…」
その間にも、アリスは青い敵に追い詰められていく。
ビームガンの弾が六機ぶん、アリスのガンダムに浴びせかけられた。
着弾の直前、ブルータイフーンとガンダムの間に、割って入る機影があった。
緑の大盾を構えたそれは、ショコラのスマイリードッグ。アームズシールドが無数のビーム弾を受け止める。その一切は、アリスへ届くことはない。
ショコラのガンダムも装備が変更されている。アームズシールド以外のシールドを外したおかげで味方のフォローが素早く行えた。
だがそのぶん防御能力は低くなっている。あまり悠長には防いでいられない。
「ショコラ!」
「アリス、データリンクはまだ?」
「あともう少しあれば」
しかし、敵も考える頭はある。六機のうち二機が、アームズシールドで守られていない場所、背後を狙う。
「後ろ!」
「くっ…」
ビームガンを向けるブルー・タイフーン部隊。しかし、やはり横槍が入る。
「援護する!」
「何やってるのかわかんないけど、とにかくあんたらを守ればいいんだよな!」
グリーンモンスのブリジットが二機のガンダムをかばう。別の一機が、小脇に抱えた巨大な武器を乱射して、ブルー・タイフーンを追い払う。
回転する砲身を束ねたそれは、ガトリングだ。巨大な弾の弾幕が、敵を寄せ付けない。
「よし…来た!」
スリーピィラビットのコクピット右側、サブコンソール画面に表示されたゲージが満タンになった。
ガンダムの二本角はレーダーと通信システムを兼ね備えた高性能パーツだ。艦隊とのデータ通信を行い、膨大な量のデータを捌き、味方艦へのデータリンクを完成させた。
「ガンダムとグリーンモンスは、その場から離れろ!」
通信機越しにセイヴ大尉が呼びかける声。
それと同時に、メリーの頭の中に激しいビジョンが浮かび上がった。
「…何かくる!」
三機のガンダムと二機のブリジットが、敵に目もくれず散り散りに逃げ出す。
六機のブルー・タイフーンは、螺旋機動を維持しつつそれを追おうとした。
その瞬間、彼らのいる空間に、曳光弾の嵐が吹いた。
四方八方、三百六十度様々な場所から飛んでくる機関砲の弾。
台風が巻き起こす風のように、弾丸が敵を打ちのめしていく。
戦闘に参加している連邦軍艦隊が、彼らのいる場所に一斉に機関砲を撃っているのだ。
無論、射程外の艦もあるが、ガンダムとのデータリンクによって命中座標の誘導も行われた。
「敵艦から攻撃!ぬぁっ!」
「回避しきれない、隊長ぉおおおおおお」
「だ、だれか助けてっ!」
「なんだなんだなんだ!?」
「食らった、まだ来る!まだ来る!」
いくら螺旋機動といえど、動いた先にまで弾があるような状況では被弾は免れ得ない。
一機、また一機と被弾し、螺旋機動を維持できなくなっていく。
ショコラはその光景に固唾を飲んだ。ガンダムの性能は、直接的な戦闘能力だけではなかった。
「すごい」
身もふたもない感想。これが、ブルー・タイフーン部隊を倒すための、セイヴ大尉の秘策。
「俺達も続くぞ」
「了解!」
グリーンモンスのブリジット両機が、機関砲弾の嵐に翻弄されるブルー・タイフーン部隊にガトリングを向けた。
回り続ける砲身から、巨大弾丸が吐き出され続ける。
「私たちも!」
「うん」
アリスとショコラも続く。
マシンガンやガトリングによってばら撒かれた弾幕は、動きの鈍った青い敵を次々に粉砕した。
推進剤に引火したか、穴だらけにされた敵が突然爆発する。爆炎の中から、生き残った最後の一機が飛び出した。
「くそ!」
本物のブルー・タイフーン、レフェール・オルデラは毒づいた。
彼が丹精込めて育てた新兵達は、四方八方の機関砲弾を食らって死んだ。
だが、彼らの死を悼む時間はない。敵は彼の方に近付いてくる。
「あれが本物…!」
オルデラの向く方向、星々が瞬く宇宙に、一つの流星が現れた。
それはレフェールの方へと接近してくる。
二つの目、二つの角。火を吐くスラスターの光が、眩いて輝く。
レフェールはアレを知っている。ガンダムだ。以前彼を撃墜寸前に追い詰めたガンダムだ。
「チッ!きやがったか!」
「うりゃああああああああ」
ダンシングシープはハイパービームサーベルを取り出し、荒々しく振り回した。
通常の3倍の、巨大なビーム刃が形成される。
ブルー・タイフーンは回転運動を始める。スラスターを駆使して、凄まじいスピードで螺旋軌道を描く。
そうして敵を翻弄しつつ、ビームガンを浴びせる。だがガンダムはそのビーム弾の尽くをかわした。
右に、あるいは左に、凄まじいスピードで突進してくる。
逆に、ガンダムの方はレフェールのツイスターをよく捉えているようだ。螺旋軌道に怯えることなく、最短距離で突っ込んでくる。
「なんだと!?」
驚愕したのもつかの間、ガンダムはレフェールのすぐ手前にまで来た。前に遭遇したよりも、ずっと速くて正確だ。
そしてガンダムは、手に持ったハイパーサーベルを、螺旋軌道の先に置くように、振り下ろした。
「ぐあっ…畜生…!」
ビームの束に自ら突っ込む形で被弾したツイスターは、ぐるぐる回転しながら飛び去った。
そして、ゆらゆらと揺れながら爆発し、銀河に瞬く星の一つとなった。
「やった…」
メリーはそう呟いた。その声には、大きな達成感が込められていた。
かくして、GT-1のガンダムチームは敵のエースを完封し、勝利した。
「メリー!」
ショコラの機体が近寄ってくる。ダンシングシープと比べると、その動きは緩慢だ。
アームズシールドに傷はあれども、ガンダム本体にはダメージはなさそうだ。メリーだけでなく、ショコラの腕も上がっている。
「ショコラ、次の敵は?」
「敵部隊はもう撤退を始めたわ。追撃はしなくていいって」
「じゃあ、作戦終了?」
「そうね」
それを聞くと、メリーは大きなため息をついた。
ヘルメットを脱ぎ、パイロットスーツの胸元を開ける。ピチピチのインナーに包まれた胸が、窮屈そうにはみ出した。
「やったー!」
「緩みすぎ!油断しちゃダメよ」
今日の勝利に酔うメリーに、ショコラの咎めの声は届かない。
何故なら、仲間と得た勝利の喜びが、今の彼女を包んでいるのだから。
カステラ型のフネが宇宙を漂う。ペガリオは、先端のハッチを開き、艦載機を迎え入れた。
一番乗りは3機のガンダムだ。出撃の時に出たハッチの口に、今度は逆に入り込む。
壁にぶつかったりなどはせず、器用に着艦する。すると四方からクレーンアームが伸びて、白い装甲をがっちり掴んだ。
クレーンに掴まれて固定されたガンダム。その胸部真ん中、角ばった出っ張りが動き、パイロットの女性達が身を乗り出す。
ガンダムパイロットの三人の女達は、作業員や着艦途中のモビルスーツの邪魔にならないように格納庫の隅に集まった。
そして互いの手を叩き、ハイタッチし、喜びを分かち合う。戦争という状況とは思えない、華やかで姦しい光景だった。
「あっ」
ハイタッチの途中、メリーが何かを感じ取り、振り向く。
「よくやった。今回の戦果も上々だな」
メリーの向いた先、彼女らに近付く一人の影。セイヴ・ライン特務大尉であった。
コロニースーツのヘルメット越しでも、甘いマスクが目を引く。
「ガンダムチームのおかげで、我々は負けなしだ。これからも頑張ってくれ」
「ありがとうございます!」
「今後も全力を尽くします」
「…了解です」
セイヴの方を向き、三者三様の反応を返す。戦闘後の疲れは見えるが、彼女らの表情は、柔らかかった。
「アリス少尉とショコラ少尉は自室に戻って大丈夫だ。メリー…ちょっといいか?」
「あ、はい!」
セイヴに手招かれ、メリーはその方へ近付いた。無重力空間で浮いて虚空で滑っていく二人は、少々滑稽であった。
「え、まさか?」
「つまり…」
「ちょっと!変な話しない!」
後方でなにやら不穏な雰囲気を醸し出すアリスとショコラ。たぶん、セイヴに好意を持っているメリーが、悲願を達成したと思っている。
メリーは二人に釘を刺し、セイヴの方に飛んでいく。彼は、モビルスーツ格納庫から休憩室に繋がる通路で立ち止まっていた。
カラーコンタクトを入れている瞳が、照明を照らして怪しく光る。
「メリー少尉。少し話がある」
「どうかしたんですか?」
メリーは呑気に聞いた。呼び出される理由に心当たりがなかったのだ。
「君が、エスパーかもしれないという話だ」
メリーはぎょっとする。ヘルメットはすでに脱いでいて、銀のポニーテールがさらりと揺れた。
「君が本当にエスパーだというのなら…これはとても大きな発見で、地球連邦のエスパー研究を大いに発展してくれるだろう」
「お、大きな発見なんですか?」
「そうだ。地球にも研究機関はあるが、実戦で活躍したエスパーというのは、連邦では君が初めてだろう」
「そうなんですか…」
「そうなんだよ」
セイヴは唐突に、メリーの肩を掴んだ。
「ひゅえっ」
「メリー少尉、出戻りのようだが、我々GT-1は地球に向かう」
「地球に、ですか?」
「そう、宇宙での性能試験は十分だ。今、地球の戦線が変化しつつある。我々はガンダムの性能で連邦地球軍を援護する」
いきなりのタッチに顔を真っ赤にするメリー。
それを知らずなのか、セイヴは口を止めずに説明を続ける。
「その道中に、連邦のエスパー研究機関に赴く。君のエスパー能力を測定しにね」
「私の…エスパーとしての力を?」
「そうだ、君はすごい。君の力を貸してくれ」
メリーの頰がさらに熱くなった。
憧れの人に、すごいと言われて、彼女の心は舞い上がりそうだった。
「そうですか、地球へ…」
惚けながら思い出す。あの青い星を、緑の豊かな星を。
宇宙にぽつりと浮かぶ、人類発祥の地を。
そのとき、メリーの頭の中で、地球のビジョンが歪み出した。
これは彼女の妄想的なイメージではない。彼女のエスパー能力が、広範囲の人々の無意識を受信し、それを元に未来予知を行わせている。
地球の中心に向かう二つの影。片方は青い髪の女、もう片方はメリー自身であった。
その二つの影が激突し、その影響で光が地球を包む。そして現れる、黒い鬼。
「うぁっ!?」
「メリー少尉?どうしたんだ?」
弾かれたように正気に戻る。今のビジョンはなんなのだろう。一体何を示しているのだろう。
何を伝えるために現れたのか。
最後に現れた存在は、おとぎ話のオーガなのだろうか。
何もわからない。何も。
「時が…見えた…?」
わけもわからず口走る。彼女の中では、あの光景は未来だという確信があった。
根拠はない。しかし彼女には、メリーと青い髪の女、二つの影がぶつかる光景が現実となるだろうことを事実と認識していた。
そして、その時に現れるであろう、黒い鬼のことも。
メリーの不安を乗せて、ペガリオは暗黒の宇宙を進む。青い星へ、地獄の戦場となる地球へと、舵を切って。