機動戦史ガンダム 双眸のガーディアン 作:アルファるふぁ/保利滝良
ピクシブで先行公開した後、こちらでは設定資料集なども交えた本格形態で公開する予定です
室内を真昼のように照らす無数の大型照明の下で、上半身にシートをかぶせられたモビルスーツがあった。ここはその機体のためのガレージのようだ。
そこでは複数人の男女が整列していた。中心には3人の若い女性。
団体はその3人から少し離れた場所で形作られていた。文字どおり、この3人がこの会合の中心なのだろう。
そのうち一人は黒いロングヘアーの、釣り目がちな女。凛とした佇まいの真面目そうな顔立ち。
そのうち一人は赤毛のおかっぱで、眠たそうな垂れ目。背も3人で最も低く、何事にも無関心そうな表情。
そのうちの一人は銀髪のポニーテール。見るからに快活そうな雰囲気だった。
3人娘に限らず、その場の全員が、地球連邦の窮屈そうな制服に身を包んでいる。
ここにいる全員は、地球連邦の軍人なのだ。
「けいれーーーッ!!」
3人の前方2メートル、特別に用意されたであろう台の上で、髭面の大男が吠えた。それと同時に、その場のほぼ全員が右手の手刀をひたい右側手前で構える。挙手の敬礼だ。
きっかり3秒後、敬礼を行なっていた全ての軍人が構えを解く。銀髪の女だけ数瞬遅れて慌てたが、誰も問題にしていない。
髭親父はその場にいる全員を睨め付ける。脂ぎった顔面は、目にした者全員に不快感を与えるであろう。
だが、それを正面から言ってのける人物はこの場にはいない。何故なら、彼こそがこの連邦基地の司令官であるから。
「諸君らは従軍2年目でありながら、それぞれの部門において優秀な成績を残し、我が軍の栄えある新モビルスーツ運用試験部隊、連邦機動軍第三師団実戦試験大隊第一分隊に所属するという栄誉を得た!ついては、これから激化する戦線において、諸君らの活躍によって我が軍と我らが故郷を守る重大な任務に着き、その使命を全うすることを命ずる!」
「大佐、あとは自分が」
「おぉ、すまないライン特務大尉。では、あとは特務大尉から説明してもらう!聞き漏らさないように!」
基地司令と入れ替わりに、サングラスをかけた金髪の男が台にあがった。
長い睫毛、端正な顔立ち。凄まじく濃い顔の髭親父と比較するまでもなく、その外見を形容するなら美青年といったところだろう。
金髪は照明に照らされ、不自然な輝きかたをしている。洗髪料でも使っているのだろうか。
「ご紹介に預かった通り、私が連邦機動軍第三師団実戦試験大隊第一分隊…通称『GT-1』の責任者兼隊長のセイヴ・ライン特務大尉だ」
甘いマスクに、これまたその顔立ちにふさわしいボイス。その場の女性の何人かは、思わず顔をにやけさせる。
中心の3人のうち、銀髪の女性隊員もそうだった。
「いいなぁ…」
知らず知らずのうちに、頰が緩み、セイヴの顔面に釘付けになる。
「連邦機動軍第三師団実戦試験大隊は、新たに開発された地球連邦の新主力機体の実戦データを収集するために設立された。その第一分隊であるGT-1は、諸君らのような実戦経験の浅い新兵でも十分な運用が可能かどうかの実証を行う。存分に活躍してほしい」
セイヴは振り返り、モビルスーツに向けて手を払うようなジェスチャーをした。それを合図に、作業員がワイヤーを引く。
「そして、これが…君達が扱う地球連邦軍の最新モビルスーツ」
ワイヤーとつながっていたシートが引き摺り下ろされ、モビルスーツの上半身が露わになる。それは白い色をしていた。
「ガンダムだ」
精悍な顔立ち、比較的細身ながら整った全体。目立つのは頭部だろう、ツノのような2本のブレードアンテナに二つの目。既存のモビルスーツにはない特徴であった。
右肩にはガンダムの頭文字であろう『G』と、地球連邦軍の略称である『EFF』の文字。左肩には、ペットネームだろうか、『adam』の四文字が刻まれている。
ガンダムの白い装甲が照明を反射し、その姿を実際以上に煌びやかに見せている。ヒロイックな外見とあわせ、さながら誉れ高き騎士に贈呈される鎧のようだ。
「動力は従来のモビルスーツに搭載される燃料電池ではなく、小型・安定化させた最新鋭の核融合ジェネレータを使用する。ガンダムはこれによって通常の約5倍のエネルギーゲインを得ている。今君達に見てもらっているのはただの素体だが、この機体は莫大な出力によって多様かつ強力な兵装を追加装備できる」
「おぉ〜…」
「すげェ」
「よく見えない!」
「ガンダム…」
「頭部の二つのセンサーカメラアイも、二つのブレードアンテナも、この出力で標準装備を可能にした。このガンダムの生産が進めば、連邦は連盟に勝利し、長くに続いた戦いを終結せしめるだろう。君達は、この連邦最強のモビルスーツを運用する」
ガンダムの登場によってざわついた集団に、セイヴ特務大尉の声が響き渡る。
「連邦の明日は、君達の手にかかっている!」
セイヴの話が終わり、会合に解散の令が出される。ある者は仕事場へ赴き、ある者はガンダムの周りに集まろうとしていた。
「ショコラ・ガレット少尉!」
「はい!」
「アリス・サカモト少尉!」
「はい」
「メリー・アンダーソン少尉!」
「あっ、はっ、はひぃい!」
髭の基地司令が、先の会合で中央にいた3人を呼び付ける。黒髪のショコラ、赤髪のアリス、そして銀髪のメリーがそれぞれ返事を行なった。メリーだけ油断しきっていたため慌てたが、誰も気にしない。
「諸君らパイロット3名は、15時までにここへもう一度集合せよ。そこで諸君ら専用のガンダムを与えられる予定である。この栄誉に恥じぬよう今後も努力して行くこと!以上だ」
「「「了解しました、司令殿!」」」
それだけ言うと、基地司令は自慢の髯を撫でながらその場を去って行った。一仕事終えたとでも言いたげに息を吐き、黒い制帽を被ってのしのしとガレージ出口へ向かって行く。
その後ろ姿が完全に出口を通ってから、メリーは興奮気味な顔で口を開いた。
「ねえねえ聞いた!?専用のガンダムだって!私たち専用だよ!?しかも、一人ずつに!」
「はいはい、わかった。わかったから落ち着いて」
「そう…でもやっぱりすごいね!3年間訓練頑張った甲斐があったってもんだよぉ〜」
「メリー、だから少し落ち着きなさいって…」
「コロニーのパパママ姉ちゃんに教えたいなあ!私最新鋭機のテストパイロットになったよ凄いでしょって!」
「一昨日辞令を貰ってからずっとそればっかじゃない!いい加減聞き飽きたわよ」
ショコラが宥めようとするが、メリーの興奮度は未だ下がらない。むしろ、落ち着く余裕を与えられたためにヒートアップしていく。
「アリスもすごいと思わない!?あのガンダム!新型だよ新型!乗り放題だよ〜!!」
「メリー、話聞いてなかったの」
「何が?」
「GT-1は実戦テスト部隊だって、特務大尉が」
「そうそうあの特務大尉!カッコよかったよね〜もう私あんなのが超タイプなんだよ〜」
「…良かったね」
「きっとあの特務大尉さんとお仕事一緒にできるんだなあ〜いいなあ〜」
一人で大盛り上がりするメリーに、同期二人は並んで肩を竦める。あれで本当に大丈夫なのか、そんな不安が顔にありありと出ていた。
「頑張るぞっ、ガンダム!」
満開の笑顔を向けながら、メリーは直立不動の最新鋭機を見つめた。
彼女たちので戦争は、これから始まろうとしている。
吠えるエンジン、回るタイヤ。いつもより遥かに人通りが少ない街を走る一台のアメリカンタイプバイク。
サブロー・ライトニング19歳は、歯を食いしばりながらバイクを飛ばしていた。
目的地まであと1分ほど。今の彼にとっては果てしなく遠い。
シャッターが閉じられた馴染みの肉屋を通り過ぎ、『ボモドアルのミートサンド、今なら250ホープスセール!』のチラシ貼りとすれ違い、走る、走る。
静寂な街を抜ければ、途端に乾いた音が耳を穿つ。
その音は昔父親がポップコーンを作った時を思い出させた。乾いた破裂音、それも連続して聞こえる。
だが、その音の発生源が寂れた基地ならば、今過激な若者に襲い掛かられている軍施設だったらそうだろうか。それは銃声以外に考えられない。
「始めやがったのか…!?」
銃声に混じって、空気を震わすような爆発音が聞こえる。爆弾も使われているのだ。
さらに近づいて行くにつれ、人型のシルエットが見えてきた。誰か、あそこから逃げてきた人がいるのか。
だがサブローが見たのは人間ではなかった。18メートルの鋼鉄の巨人。モビルスーツだ。
あの機種は『ワトソン』だろう。サブローはあの機体をよく知っているし乗ったことも少なくない。彼の故郷の農村では、農家達が金を出し合い、中古の作業用モビルスーツを二百万ホープスで買って共同で使っている。それがワトソンだった。
だが視線の向こうにいるのは見知ったそれではない。武装された作業用モビルスーツが、手に持った大きな大砲をぶっ放している。
その足元に、サブローは目的の人物を見た。その人物もサブローを見つけ、見つめてきた。
「ジロー!お前…自分が何やってんのかわかってんのか?!」
バイクを止め、兄の胸ぐらを掴みあげるサブロー。だが、落ち着いた様子のジローは口角泡を飛ばして叫んだ。
「サブロー、これはいつものちゃちなテロじゃない。今日こそ俺達が地球も守れない無能な連邦を叩き出してやる時だ」
「戦争がおっぱじまったって街の皆が大慌てで向こうに逃げてったんだぞ!」
「俺達を搾取する連邦を追い出せば一般市民の生活はもっと豊かになる!お前も何時までたっても百姓の三男じゃ不満だろ!?」
「こんな作業用モビルスーツを用意して、お前、アルバイトでこんなもん買ってまで戦争したかったのかよ!」
「違う!イチローと俺で交渉したんだ。連盟のアールデン帝国とな。そしたら、世界中から同志が集まってきて…」
「連盟、同志…?お前何を言って」
ジローがサブローを突き飛ばす。無様に尻餅をついた弟を見下ろしつつ、ジローは言った。
「もう今更止まれる状況じゃないんだよ…」
サブローは知っていた。ジローは自分より頭がいいと。今の言い合いでも、ジローの口からサブローの知らない単語がいくつか出てきている。
しかしそれでも『これ』は間違っていると、サブローは理由のない根拠を固めた。ジロー達がただいたずらに暴れているだけだとしか思えないのだ。
「イチローはどこだ?言えよ!」
彼の故郷の過激派達は、サブローとジローの兄、イチローをリーダーとしている。三兄弟で一番頭のいいジローはその参謀といったところだ。
サブローは家族の農業を手伝うのにいっぱいいっぱいで過激派達とはつるまなかったが、今回の件で、関わらないで良かったと思った。
だが、このゴタゴタをとっとと解決せねばならない。サブローは、イチローを説得できれば、このドンパチが止むと考えた。実際には止むはずはないのだが、それをわかっていても動かずにはいられない。
「イチローのところに行ってどうするつもりだ?」
言い渋るジローの頰に右拳をぶち込む。今度はジローが尻餅をついた。
「今度は利き手で殴ってやろうか?!」
「…まっすぐ進んで左の、黒一色の倉庫だ。そこを制圧しに…」
「そうか、わかった。お前はもう帰れジロー!父ちゃんと母ちゃんを心配させんなッ!」
それだけ聞くと、サブローはジローを置いてバイクを走らせた。
後ろで轟音が鳴り、砲弾が飛んで行く。ワトソンがまだ戦っているということは、ジローはドンパチを止めるつもりがないということなんだろう。
「クソッタレ!!」
サブローはアクセルを最大に開いた。
周りの炎と煙が増えてくる。激戦区が近づいている。
バイクから降りて半開きのシャッターを潜ると、コンクリ敷きの部屋に、コンテナとカバーがかかった大きな何かが目に止まった。
次に見えたのは、多種多様な服の男達と、軍服の死体。銃撃戦をやっていないところを見るに、どうやらこの場所での戦闘は終わったようだ。
惨たらしい有様だ。サブローは今まで、葬式の時の祖父の亡骸以外に死体を見たことがない。だがこの惨状には10や20ではきかない数の戦死体がある。
まさかイチローまでもが。
「サブロー!お前、どうしてここにいるんだ」
イチローはいた。まだ生きていた。
カバーがかかった巨大な物体の中に潜り込んでいたのだろう、そのカバーの中から這い出てきた。
「来ないって言ってたじゃないか」
「お前こそ何やってんだよ!!」
サブローはイチローの元へ走って行った。周囲にはイチローの仲間のテロリストがいたが、彼らはサブローがイチローの知り合いだとわかってサブローから注意をそらした。
「アールデン帝国の人達が、この基地に連邦の試作モビルスーツがいるって言っていたんだ。それがコイツだ」
「これが、モビルスーツ…?」
カバーがひっぺがされ、全体像が露わになる。二本角を生やした、二つ目のモビルスーツ。左肩には「eve」の三文字。
地面に仰向けに寝転んでいるそれは、全体的にはとてもヒロイックに見えた。
作業用モビルスーツを見慣れたサブローにとっては、かなり違和感を覚えるデザインである。
「俺達はこいつを使って俺たちだけの軍隊を作る。そして連邦を追い出して、豊かな社会を作るんだ。みんなでいい暮らしができるぞ」
「お前…正気で言ってるのか…?」
「アールデン帝国が手伝ってくれる。ジローも一緒だ、きっと上手くやれる」
イチローの目には根拠のない自信が満ち満ちていた。サブローはできるわけがない、と思った。
連邦はそんな無茶苦茶ができる相手じゃない。
それに冷静に考えれば、アールデン帝国とやらがタダでイチロー達に手を貸すのか。連邦を目の敵にしているから、言いくるめられて利用されているんじゃないのか。
それらを一気にまくしたてようとして、口を開いた。その瞬間だった。
「ゴーゴー!ゴーゴーゴー!!」
厳つい装備の軍人達が現れる。銃を撃ちながら、サブローの入ってきた方とは反対の入り口から雪崩れ込む連邦の歩兵達。またも乾いた破裂音が響き渡った。
殺し合いのプロは伊達ではない。イチローの仲間は反撃も許されず次々に倒されてゆく。
ここがモビルスーツの倉庫だったとしたら、テロリスト側が制圧できたのはここにいた相手が非戦闘員だったからだとわかる。
サブローはイチローの手を引いて近くのコンテナに隠れた。銃弾を食らったらお陀仏だ。
死にたくないし、こんなところで死ねない。だが、相手はやはり殺し合いのプロだ。
放物線を描いて、拳大の何かが飛んでくる。
「サブロー!」
イチローがサブローを地面に押し倒した瞬間、その何かは爆発した。
閃光と爆炎。そして破片。止まぬ銃声。
目を開ければ、自分に覆いかぶさっているイチロー。
「おい、イチロー…」
サブローはその下から鬱陶しそうに這い出た。そこで、イチローの異変に気がついた。
青いジャケットを着込んでいたイチローの背中は、いまやズタズタに引き裂かれ、焼かれ、流れ出た血液で真っ赤に染まっていた。
「イチロー?!」
応急処置をするべきか。間に合わない。これはそんなレベルの怪我ではない。
「しっかりしろ、おい!しっかりしろぉ!」
「サ…ブロー…モビル…モビルスーツを…」
一瞬、イチローの意識が戻ったかのように見えた。だがイチローはすぐにぐったりと動かなくなる。
息はしている。まだ、生きている。
「クソ、クソッ、クソッタレ!!」
逃げ出さなくてはならない。だがどうやって逃げ出せばいい。
何倍も重くなったように感じるイチローを背負い、サブローはコンテナから顔を出した。
連邦軍はかなりのスピードでテロリストを殺して回っている。今はサブロー達に対して注意を持っていないようだが、他の相手を倒し終えたらすぐにでも標的をこちらに変えるだろう。
バイクを置いた入り口に行くまでにテロリスト達が生き残っているだろうか。
悩みぬくサブロー。だが、逃げるヒントはすぐにでも見付かった。
「モビル…スーツ…あいつか!」
寝ているモビルスーツを叩き起こせば、動かすことができれば、歩兵を無視して逃げることができるかもしれない。
やってみる価値はある、というよりかは、やるしかない。
「ふっ、くっ、ぅう!」
コンテナから出て、イチローを背負いながらモビルスーツの上に登る。火事場の馬鹿力が出たか、想像以上にスマートに目的地に辿り着くことができた。
コクピットは開いている。そこへ滑り込み、座席に腰を下ろす。イチローは座席の後ろのスペースにうつ伏せで寝かせた。
「…そりゃあ、作業用機とは勝手が違うよなあ!」
見知ったそれとはあまりにも違いが多い計器や機器類の配置。ここで手をこまねいていてはたちまちに死ぬ。
「これか…?」
とりあえず、目についたレバーを引く。ビンゴ。コクピットハッチが閉じ、モニターに光が灯った。
「指紋、声紋、顔認証完了。初めましてパイロット」
「なんだ!?」
「パイロット登録が完了しました。ガンダム、起動します」
それと同時に、機械音声がサブローの鼓膜を突っつく。AIによるオペレートアナウンスだ。作業用には付いていない。
だが、丁寧に色々教えてくれるのは非常にありがたい。
「動けるんなら、立ってみせろってんだ!」
アームレバーとフットレバーを動かし、とりあえずレバーを動かしてみる。作業用機なら、この操作で寝転んだ状態から立つはず。
コクピットが揺れ、一瞬の浮遊感が襲った。
ディスプレイの視点は高い位置にある。つまり、直立しているということだ。
立たせることができた。こうなったらもうサブローの勝ちだ。
戦闘用モビルスーツを歩兵がどうこうする手段はないに等しいのだから。
「よっしゃ…もう少しだ…家に帰るぞ、イチロー!」
基本は作業用と同じだと安堵しつつ、サブローは機体を走らせた。連邦の兵がその背中に銃撃を加えてくるが、なんの支障にもならない。
「どけーッ!」
テロリスト達がサブローの動かすモビルスーツの進路からはける。先ほどから喚いてくる通信機の電源も切る。
その段に至って、サブローは違和感を感じた。ワトソンのフットペダルは左右で二つだが、この機体には真ん中にもう一つある。
脱出の糸口が見えて油断したか、はたまた疲れ切った足の筋肉を無意識にほぐそうとしたか、サブローはその真ん中のフットレバーを蹴ってしまった。
「あ、やべっうわぁああああああああああ!!!!!!!』
ブースターが起動し、モビルスーツが加速する。高速の前進によってサブローが潜ったシャッターがぶち破られ、彼の乗っていたバイクが蹴っ飛ばされる。
「ああ、クソ!でも…」
ちょうど良い。このスピードなら逃げ切れる。
サブローは真ん中のフットレバー、スラスター制御用のフットレバーを再び踏んだ。モビルスーツは基地の外側を目指して飛ぶように進んでいく。
やがて基地内を示す金網フェンスを飛び越え、そのまま突き進んでいく。
ようやく一息つける、さてこの後どうしようか。
そう思って振り向いた。
だが、イチローの様子がおかしい。
「お、おい。イチロー…」
息を、していないのだ。コクピットの後ろには、夥しい量の血溜まり。
学のないサブローには判別がつかなかったが、このときのイチローは脈も無く、瞳孔も開いていた。
イチローはまちがいなく死んでいた。
「イチロー、おい、返事しろよ…おい!おい!」
死んでしまったのだ。
「クソッタレぇええええええええええええ!!!!!!!」
元来た道を、今度はモビルスーツで逆走し、サブローは慟哭した。
連邦基地での戦闘は、いまだ終わっていなかった。
砂漠の荒野で、スモールサイズ軍艦がいくつも駐泊している。このタイプの船は特殊なフィールドで空気の上に『乗る』ことで浮遊が可能だ。
それらは全てナルカ共和国の船であり、現在は戦闘における疲労を癒している途中である。
その中央、スモールサイズ輸送艦『ゼラ級クインスローン』もまた、休んでいた。女王ソーラ・レ・パール・ナルカの乗艦という大任を請け負ったこの船に、事故や不調は許されないからだ。
そのソーラ女王は、自室の窓の外から月を眺めていた。コロニーで見るのとはまた違った表情を見せる月。
今周りにいるナルカの兵は皆、地球の事柄には疎い。彼女自身もそうだ。コロニーの人間は地球のことについてあまりにも無知であると、ソーラは常々思い悩んで来た。
弱冠16歳でありながら、ナルカ共和国の指導者として様々な大仕事を行ってきた彼女も、地球で見る月は新鮮に感じられるものだ。
同時に、彼女の『特殊な能力』もまた、今までにはない何かを、彼女に伝えようとしている。
胸騒ぎを沈めながら、ソーラは呟いた。
「これから…何が起ころうというのでしょう?」
月は何も答えず、ただ砂漠の荒野を照らしていた。
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