機動戦史ガンダム 双眸のガーディアン   作:アルファるふぁ/保利滝良

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第2話 闘争の予感、未熟な戦い
2話Aパート


 

コロニーセンチュリー、略称はCC。宇宙に建設された大規模入植施設『スペースコロニー』に最初に人類が入植してから数える、人類全体の新年号である。

 

だが、発足したばかりの地球連邦政府は入植したコロニーの住民への支援を満足に行えず、それが100年以上続いたある年に、ついにあるコロニーが国家として独立を宣言。

 

それに倣うように、他のコロニーも一斉蜂起し、地球、ひいては連邦からも独立してしまう。独立したコロニー国家たちはコロニー連盟として寄り集まった。

 

100年もの平和で予算を絞られ続けた連邦軍部は、此れ幸いと武力による制圧にかかるが、コロニー連盟は新資源をふんだんに用いた新兵器『モビルスーツ』を開発。その性能で持って連邦軍の艦隊を撃退する。

 

これによって連邦と連盟の間の溝は決定的になり、地球人類とコロニーの人類による戦争が勃発した。

 

発達した文明を支える新資源を貯蔵する資源小惑星はコロニーに抑えられ、その資源を欲するために戦う連邦。

 

コロニーという人工物に住むために、地球にはたんまりある水も食料もギリギリの連盟。

 

双方は双方に、どうしようもない理由で相手と戦っていた。

 

ナルカ共和国は最初に連盟からの独立を宣言したコロニー国家である。その勇気と決断を讃えられ、偉大な国家と呼ばれて久しい。

 

「おはようございます、ソーラ様」

「おはようございます、ショーン。見張り、ご苦労です。しばし休息をとりなさい」

「ありがとうございます。私はまだ働けます」

「そうですか…無理だけはしないように」

 

そんなナルカ共和国の現当主は、17を数える少女であった。

 

第一次地球圏戦争終結後に即位した二代目国王は非常に保守的な凡才だった。莫大な軍維持費を切り詰めることでかつてのナルカの威光を消してしまう愚を犯すも、医療を徹底的に見直させ、当時のナルカ共和国で問題視されていた死産発生率をほぼ0%までに引き下げた。

 

だが連盟全体の意識が再び連邦との戦争に向くにつれ、精神的重圧を抱え始め、地球に留学していた後継候補の一人息子が行方不明になると、体調を崩してそのまま崩御。

 

摂政を立てた上で緊急的に当主とされたのが、まだ若すぎるソーラである。

 

「ソーラ様、朝のお清めの時間は…」

「今私たちがいるのは砂漠である。兵達のための水を無駄に使うことはできません」

「他の兵達に代わりまして、親衛隊隊長ショーン・ザンバー、心よりお礼申し上げます」

「良いのです。国を預かる身としてこの程度の節制は当然でしょう」

 

青緑の髪のロングヘア。大人びた長いまつ毛にパッチリとした瞳。非常に端正な美しい顔立ち。

 

その外見と神秘的な雰囲気から、ソーラ女王はナルカの外でも一定以上の知名度を持つ。

 

「それよりも、今後の戦略方針を固めていかなければいけません」

「はっ」

 

だが、ソーラはただ外見だけのお飾りではない。

 

就任直後、摂政の仕事に見せかけてナルカ共和国の軍事を徹底強化。さらに連盟各国と積極的な交渉を行い、モビルスーツや戦艦の独自開発に成功する。

 

これによって一度は地に落ちたナルカ艦隊の戦略価値を大幅に引き上げ、連盟内部における強力な発言権も獲得する。

 

ついに始まった第二次地球圏戦争において、ソーラは摂政に自国の内政を任せ、自らは外交と軍事に集中。

 

ナルカ共和国派遣艦隊に同行し、士気強化を兼ねて派遣艦隊の指揮を行う。

 

これによってナルカ艦隊は敵の地球圏艦隊に穴を開け、コロニー連盟の地球降下作戦に大いに貢献した。

 

「現在地はヌマズ砂漠と思われます。分断したゼラ他5隻は北西80キロ、やや離れた位置です」

「そして敵勢力圏内…アールデンのドラクル公を信用しすぎました」

「ソーラ様の責任ではございません、それより今は」

「えぇ、ゼラとの合流が先決です。ここの艦隊が動けるまでの日数を把握しましょう」

「了解いたしました」

「艦長との相談もこれから行います。親衛隊は周囲警戒を厳とせよ」

「はッ!」

 

天に二物どころか万物を与えられた少女、それがナルカの女王であった。

 

「それから…」

 

そして、ソーラは政治手腕や指揮能力といった後天的能力だけでなく、特別な先天的能力も持ち合わせていた。

 

「どうか、しましたか?」

「昨晩、妙な胸騒ぎを覚えました。父が倒れたあの日と同じような…」

「…もしやそれは、エスパー能力の作用かもしれません」

 

『エスパー』。コロニーセンチュリーにおいて、人類が宇宙進出を果たした際に提唱された概念である。

 

宇宙に出た後、言葉を介さない意思疎通や、離れた位置から相手を感知する等の能力に目覚める人間が何人も現れた。

 

彼らは旧世紀の超能力者と同じように『エスパー』とされたが、コロニーへの移住が進むにつれてその数を増やしていき、近年では実在する概念として研究が進められている。

 

先天的に能力の程度が決まるエスパーにおいて、ソーラはかつてない能力値を叩き出した。思念による意思疎通も、感知能力も、弱点なしと言えるほどの精度と範囲を持っていたのだ

 

体力が安定し、感覚が先鋭化している時は、広大な範囲の人間の無意識を読み取り、それを元にした簡易的な未来予知すら成し得ることも可能とされる。

 

そんなソーラの協力により、連盟ではエスパー能力の研究が大幅に進歩した。兵器研究にも利用されているのは、本人は不本意なところであるが。

 

「具体的なことは何か、お分かりですか?」

「いえ、近いうちに何かあるということだけ…」

「そうですか…警戒した方が良いかもしれません。休息を頻繁にお取りください」

「迷惑をかけます…」

「ソーラ様に万一のことがあってはなりません。大事をとっておきましょう」

 

そんな彼女のカンは、時には何かの先ぶれにもなる。それが吉であるか凶であるかはわからない場合が多いし、大抵は避けようもないが、『近々何かが起こる』ということがわかるのは大きいものだ。

 

「それではショーン、軍議を始めましょう。ブリッジへ行きます」

「了解しました、ソーラ様」

 

だが、親衛隊の若き隊長ショーン・ザンバーには主人に対して憂鬱があった。その年齢だ。

 

別に年齢が低いから気に入らないというわけではない。ソーラ女王はしっかりと仕事をしているし、その非凡な才能を存分に発揮している。

 

ショーンが心配しているのは、ソーラの内面だ。年頃の娘が、果たして遊びもせずに戦争やら政治やらの激務を務めていて、本当に良いものなのだろうか。本当は、戦争のためなどではなく、心ゆくまで地球観光をさせなければならないのでは、ないだろうか。

 

きっと先代のナルカ国王が存命なら、ソーラをうんと遊ばせたやったのかもしれない。だが、先代が崩御したのをきっかけにソーラの才能が顕在化した。

 

果たして、どちらが良かったのか。ショーンには最早わからない。確かなのは、ナルカの現代における発展は、ソーラの努力と才能無くして有り得なかった、ということだけだ。

 

ソーラは少女として生きるべきなのか、女王として生きるべきなのか。親衛隊として、一人の男として、一体どちらが正しいのか。

 

「…どうしましたか、ショーン」

「い、いえ。問題ありません」

 

答えが出ぬまま時間が過ぎて行く。

 

ソーラの予感した時が、近づいてくるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーストリアはケルンテン。旧世紀では標高1000メートルを超える土地が州面積の半分以上を占めることで有名なこの地も、CCへ移行してからは大幅な地ならしを行われ、山脈要塞を兼ねた地球連邦軍基地として機能している。

 

そんなケルンテン基地の中央部、コンクリート敷きの地面の上、三機のモビルスーツが気を付けの姿勢で立っている。隣にはそれぞれ一台ずつ、クレーンの先端に台座のようなものがついた車両。

 

雲は見えるが日差しも強く、青空の眩い快晴。燦々と照りつける太陽の下で、三人の女パイロットと一人の男がいる。

 

パイロットの方はメリー、ショコラ、アリス。階級は全員、モビルスーツパイロとしては最低の少尉。

 

男はセイヴ・ライン。階級は特務大尉。特務大尉の軍内における権限は大尉の二つ上、つまり中佐相当となる。

 

彼らは、新設された連邦試作機研究部隊GT-1の中核である。ガンダムを扱うパイロット三人と、その指揮官。GT-1は彼ら無くして成り立たない。

 

「よく来てくれた。面倒な段取りは大体すっ飛ばしてしまおう。君たちはこれからこの…ガンダムに乗ってもらう」

 

セイヴが状態を捻って後ろのガンダムを見る。三機だ。3機のガンダム。

 

ガレージで行われた先の会合における性能を聞けば、ガンダム3機の圧巻さはわかるだろう。実際、メリーどころかショコラもアリスも高性能試作機が三機と言う状況に冷静さを剥がされかけている。

 

「ガレージで見せたのは第一世代の一号機、アダムだ。あれは起動テストと駆動テスト用のプロトタイプで、君たちがこれから乗るこの三機は…専用装備の運用を行うための機体、第二世代だ」

「あれが、プロトタイプ…」

 

ショコラが思わず口走ってしまう。あの機体が旧式化したプロトタイプだと言うのなら、目の前の機体にはいったいどれほどのポテンシャルがあるのだろうか。

 

「これから行うのはいわゆる慣らし運転だ。メリー少尉は一番機『ダンシングシープ』へ、ショコラ少尉は二号機『スリーピーラビット』へ、アリス少尉は三号機『スマイリードッグ』へ。それぞれ搭乗してくれ」

「「「了解!」」」

 

三人はまずハシゴでクレーン先端に登る。クレーンが自動で動き、ガンダムの胸部に台座を近付けた。14メートルもの高さだが、これくらいでビビるようではパイロットは務まらない。

 

「コクピットは…ここかな?」

 

胸部真ん中、角ばった出っ張り。おそらくコクピット保護のための開閉式可動装甲だろう。その横のカバーを開くと、スリットと数字のボタンがあった。

 

「これだね…」

 

メリーはポケットから連邦軍人の証明カードを取り出し、スリットに押し込んだ。小さな液晶に赤い光が点る。続いて6桁のパスワードを打ち込むと、空気を抜くような音とともにコクピット装甲が上に開いた。

 

中を覗けば、コクピットハッチが真ん中から左右にスライドする途中だった。完全に開ききると、奥に最新の衝撃吸収素材で製造されたコクピットシートが鎮座しているのが見える。

 

「よし!」

 

台座を飛び越えてコクピットへ滑り込む。くるりと振り向いてからシートに腰をかけ、肩から腰にかけてしっかりとシートベルトを締める。

 

「アリス、搭乗完了しました」

「こちらショコラ、こちらも完了です」

「あ、私がビリか〜。メリー、搭乗完了しました!」

 

三人の報告を聞き、セイヴはストップウォッチを見た。経過時間を確認する。

 

10秒は切っている。彼女たちの搭乗シーケンスに一切の無駄はなかった。

 

訓練終了から1年の新兵にしては、かなり動きがいい。試験部隊のメンバーに選抜されただけはある。

 

「よし、順次起動させてくれ。起動完了後、ガンダムの歩行も許可する」

 

「「「了解!」」」

 

メリーはシート横の太いレバーを引く。コクピットハッチが閉じ、モニターに光が灯った。

 

「指紋、声紋、顔認証完了。初めましてパイロット」

「え?指紋?声紋?」

「ああ、セキュリティ登録だよ。それでそのガンダムは君にしか扱えなくなる」

「ほえ…すっごぉい」

「パイロット登録が完了しました。ガンダム、起動します」

 

オペレートアナウンスの宣言と同時、低い音を立ててガンダムの動力部が鳴った。核融合ジェネレータの起動音だ。

 

「すごい…本当に5倍以上ある」

 

左上の小モニター、機体状態を示す数値計に表示されている出力値は2534メガワット。メリーは思わず声を漏らした。

 

彼女が訓練生の頃乗り込んだ機体の出力は500メガワット以下だった。だがガンダムの出力はそれをはるかに上回っている。

 

「起動は完了したか?」

「あ、はい!」

「完了です」

「こちらもOK」

「では、歩かせてみようか」

「了解…!」

 

メリーが片方のフットレバーを踏む。ガンダム『ダンシングシープ』は片足を踏み出し、大地を踏んだ。

 

滑らかな一歩。これも訓練生時代の機体とは大違いだ。アクチュエータが違うのだろう。

 

「すごい…」

 

モビルスーツの性能は戦力の差だ。そしてモビルスーツの出力が高いほど、運用できる機能や搭載できる機器、使用できる装備が増えていく。モビルスーツの出力は総合性能と同義であると言っても良い。

 

動力がハイパワーなものであるこのガンダムはその思想の極地にいる。この素体には、いったいどのような追加装備が搭載できるだろう。

 

「セイヴ大尉、走らせても良いですか?」

「ちょっと、メリー!」

「構わないよ。スケジュールに余裕はないから、どんどん進めてくれ」

「了解です!よ〜し…」

 

責任者の許可も出た。メリーは左右のフットペダルを強く交互に踏みしめる。

 

悠々と歩いていたガンダムは、歩幅を大きくし、足を踏み出すペースを上げていく。やがてそれは歩行から走行へと変わる。

 

メインモニターの景色が、あっという間に後ろへ流れて去っていく。ガンダムは走るスピードも並ではなかった。コクピットの揺れも少ないことから、バランサーの性能も高いことがわかる。

 

「わあぁ…」

 

メリーはうっとりとした顔になった。鮮やかな青空、白い雲。空調の効いたコクピットで、軽快にモビルスーツを走らせる。

 

今がコロニー連盟との戦争の真っ最中で、乗っているのは新型機体だというのが嘘のような、夢のような爽やかなシチュエーション。

 

隣を向けば、同じようにガンダムを走らせて追いついてきた同僚二人がいる。

 

「こらこら、調子に乗らない!転ばせたりしたら大目玉なのよ?」

「はしゃぎすぎ」

「えへへ…楽しくなっちゃって…」

 

照れたように笑うメリー。それを諌めるショコラとアリス。

 

通信機から聞こえる楽しそうな情景に、セイヴも苦笑する。

 

「楽しい、か。お気楽だが、筋は確かってところだな。うん」

 

一周して戻ってきた三機のガンダム。横並びで走っているのにぶつかったりしない辺り、チームの連携も個人の実力もしっかりできている。

 

改めて、彼女らは試験機パイロットに相応しい腕はあるのだと教えてくれる。

 

「よ〜し三人とも、慣らしはもう良いか?次は模擬戦訓練に入るぞ」

 

無線機越しに、了解、が返ってくる。この調子なら、きっとすぐに実戦で活躍できるようになるに違いない。

 

三機のガンダムを見て、セイヴは頷く。

 

「素晴らしいチームだ。俺も頑張らなくちゃあ、な」

 

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