機動戦史ガンダム 双眸のガーディアン   作:アルファるふぁ/保利滝良

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3話Cパート

 

一面の砂、砂、砂。まるで視界いっぱいの砂の海、ヌマズ砂漠。

 

砂といっても岩石や鉱物ではなく、コンクリートや資源プラスチックの成れの果てなのだが、それは今はどうでもいい。重要なのは、この砂の上でモビルスーツ戦が行われていることだ。

 

サブフライトシステム、略称SFSに乗っかったレガストが複数。両腕代わりの機関砲をこれでもかとばら撒いてくる。

 

ショーンのディヴァインはその火線の嵐に潜り込む。無傷で通り過ぎた後、目前の相手にビームライフルを放つ。

 

相手ものんびり飛んでいるわけではない。SFSは横を向き、旋回するように回避機動を取る。ビームライフルは外れた。

 

再びの集中砲火。ナルカの機体は飛べる代わりに軽く脆い。あんな弾幕、当たってはたまらない。

 

集中砲火を受けるポイントから急速離脱。その一瞬に周囲を見渡す。

 

メイヴィーのダナオスも、ヴィクターのボルゾンも、敵機にちょっかいをかけては集中砲火で追い返されるパターンを繰り返している。双方一歩も譲らない膠着状態だ。

 

この場の敵機は6。ほかにも3機いるというのに、こんな状態で大丈夫なのか。大丈夫なわけがない。

 

「未だ一機も落とせずか!親衛隊長の名が泣くな…」

「独り言してる場合!?狙われてるのよ!」

「くぉおっ!」

 

二つの機関砲を持った機体が6。計12本の火線。レガストは安価な軽量機だが、両腕の火力は驚異的なのだ。数を揃えた途端どうしようもない相手に変わる。

 

どう手をつけたものか。このままでは残りの3機が来る前に負けかねない。

 

その時、3人の耳にソーラ女王の声が轟いた。

 

 

「ナルカ共和国現女王、ソーラ・レ・パール・ナルカの名において、客人サブロー・ライトニングの出撃及び作戦参加を許可する。各員、把握せよ!」

 

 

その内容は驚くべきものであった。

 

「は?」

「えぇっ、ちょっと!」

「なっ…」

 

一瞬、女王の乱心が疑われた。そして、それが乱心でないことはすぐに証明された。

 

レーダーに反応。3機の敵機と一機の味方機。敵の反応はブリジット。味方の反応は、詳細不明。

 

「不明機…ガンダムか!」

 

記憶の中の候補を口走る。とならば、乗り手はあの男。

 

突然現れた自称農家の三男坊、サブロー・ライトニング。女王は本当に奴を作戦に参加させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待てやゴラァアア!!」

 

SFSに乗った敵モビルスーツを追いかけるガンダム。こめかみの辺りからは、20ミリ弾が絶えず飛んでいく。

 

マニュアルで頭部機関砲の存在を知り、早速撃って見たものの、効いている様子がない。そもそも、20ミリ程度ではモビルスーツに損傷を与えるのは難しい。敵が装甲の厚いブリジットであるのも理由の一つか。

 

「なんだこいつは?ろくな飛び道具がないのか」

「舐められたもんだ。ふざけやがって」

「別ポイントの味方のために囮になっているのか」

 

どんどん引き離されていくガンダム。機動性が高くても、空を飛んでいる相手の方が速い。

 

横並びの編隊を取っていた敵が散開する。彼らはサブローを囲んで叩くつもりのようだが、戦争素人のサブローがそれに気付けるはずもない。

 

真ん中の一機へひたすら突っ込んでいく。そしてそれぞれが反転し、サブローを狙う。

 

「集中砲火だ。俺に当てるなよ」

「了解」

「それはお互い様だろ」

 

ロケットランチャー、マシンガン、ビームライフルの弾がそれぞれガンダムに向けて放たれる。まっすぐ飛んでいくビームとロケットと徹甲弾。

 

「レーダー…敵の攻撃か!?」

 

レーダーに表示される、別々のスピードの赤い点が3つ。二本のブレードアンテナがもたらす索敵能力は、飛び道具の弾でさえもレーダーに表示してくれる。

 

「クソッタレぇええええ!!」

 

ブースターペダルを限界まで踏み込む。ジャンプしたガンダム。こちらへ進んで来るブリジット。

 

攻撃のためにガンダムの方を向いていたその一機は、必然的にガンダムのいる方へ直線的に飛んでいた。

 

第一射が跳んで避けられたため、そのパイロットはガンダムを見上げる。だが、白いシルエットは太陽と重なった。陽を直視して目が焼かれる。

 

「うっ」

「らぁあああああッ!」

 

そのまま空中でブーストを吹かしたタックルをブリジットにぶちかます。SFSが足をロックしていたので落ちはしなかったが、衝撃でビームライフルを取り落とす。

 

砂漠に突き刺さったビームライフルを拾うガンダム。規格が合っているため、セーフティなどは自動解除される。

 

コンソールに表示されるビームライフルのアイコン。

 

「ビームライフル、セーフティアンロック。オンライン」

「使えってか…?」

 

撃てる、というのをオペレートアナウンスが教えてくれた。コンソールをタッチ。

 

ガンダムは、地面と水平にビームライフルを向け、構える。

 

アームレバーのトリガーボタンを押せば、ビーム物質の弾が熱と光を伴って発射された。サブローのガンダムは、今日ここでまともな飛び道具を手に入れたのだ。

 

「撃てる、な。よっしゃ…」

「敵に武器を取られた!?」

「もう一度だ。もう一度囲んで、今度こそ!」

「メインモニターに表示された黄色い枠の中に敵を入れれば…」

「迂闊だ、反撃される恐れが…」

「3機で囲めば落とせんはずはない!」

「…当てられるんだったよなぁ!!」

 

敵を囲む位置どりのためにフラフラ飛ぶブリジットに、ビームライフルが向けられる。撃たれる。

 

「うぉっ!」

 

敵も訓練を積んだプロだ。素人の一発が直撃したりはしない。だが、SFSには当てられていた。

 

「ワーラGをパージする!」

 

下部が蕩けきったSFSから飛び降りるブリジット。

 

ど素人のサブローが今の攻撃を当てられたのは、ガンダムのデュアルセンサーカメラアイの恩恵だった。コンピュータやFCSと同期して、ロックオンの精度を向上させてくれたのである。ガンダムの性能が、一般市民と3機小隊を互角にせしめていた。

 

砂漠に墜落するSFS。着地するブリジット。飛びかかるガンダム。

 

「うぉおおおおお!」

「クソッタレがぁああああ!」

 

ブリジットが持つ、筒にグリップを付けたようなロケットランチャーが、火を吹いた。放たれるロケット。

 

サブローが機体を傾ける。それはほぼ動物的な勘であったが、おかげで命中すれすれでロケットを回避する。

 

「あっぶねえええええ!!」

 

コンソールを叩き、サーベル起動。ガンダムが左腕を背中に回し、バックパックのビームサーベルを掴んで、振り下ろす。

 

ロケットの爆発。ブースターによって巻き上がった大量の砂。煌めくビームサーベルの軌跡。ガンダムの二つの光る目。

 

それらの輝きが一瞬にして消え去った後、ブリジットの右腕は肩からごっそり切り落とされる。

 

「ぐああああ!貴様っ、うぁあああああ!」

「いただきっ」

 

サーベルをしまい、ロケットランチャーを持ったままの右腕を拾い上げるガンダム。ブースターダッシュで斬り付けたブリジットから離れるのも忘れない。

 

振り回すと、ブリジットの腕が落ちた。左腕にロケットランチャーのグリップを握る。

 

「堕ちろーっ!」

「うわ、やべっ。来た!」

 

両腕に武器を持ったはいいが、迫り来るブリジット達の方が動きが早い。攻撃体制に移行する前に、弾が飛んで来た。

 

武器を奪われた2機は、サブウェポンとして携帯しているビームガンを持って射撃してくる。フットペダルを踏み続け、右へ左へと動く。

 

素人のサブローがプロの軍人の包囲射撃を避け続けられるはずもなく、マシンガンの弾がガンダムの肩部へ当たる。ビームガンの弾が脇腹をかすめる。

 

「わーっ!わぁーっ!クソッタレぇえええ!!」

 

相手をロックオンして射撃、なんてできない。死なないように避けるだけで精一杯だ。

 

ガンダムの運動性と機動性が無ければとっくに死んでいただろうし、そうでなくてもいつ致命的な直撃を食らってもおかしくない。

 

「当たれ!」

「奴の動きは早い、よく狙え」

「確実に仕留めろ!」

 

一瞬、コクピットにビームを撃ち込まれて焼き殺されるビジョンが脳裏に浮かぶ。それが現実にならない保証はない。

 

これが戦場、命を奪い合う場所。サブローの耳元で、死神の足音がした。

 

「サブロー、待たせた!」

 

一瞬、耳慣れない声がする。誰だろう。

 

味方だ。

 

「ぜぁっ!」

「うわぁああああ!」

 

ブリジットの一機が背後からビームソードを刺される。空を飛ぶモビルスーツの攻撃だ。

 

胸部まで刃が通っている。コクピットを焼かれたのだろう。そのブリジットは動かない。

 

「なっ」

「落ちなさい!」

「ナルカの機体…」

 

別のブリジットが、レーダーで見つけたか、後ろを振り向く。だが攻撃を防ぐことは叶わず、すれ違いざまに片腕を切り飛ばされた。

 

「これでぇ!」

 

脇をすり抜けたナルカのモビルスーツは、隻腕の敵へマシンガンを浴びせる。ブリジットはその装甲でしばらく耐えたが、3秒間の集中射撃を食らって動かなくなる。

 

たった今撃破された2機はSFSに乗っていたが、乗り手が死んでコントロールを失ったからか、両方とも浮力を失って砂へ突っ込んだ。

 

それを呆然と眺めていた最後の一機を、アクアブルーの機体が切り捨てる。落下着地からの縦一閃。まるで稲妻のようだった。

 

サブローと戦っていた3機のブリジットはここに倒された。

 

「あ、あざっす」

「油断すんな、まだ来るぞ!」

「う、ういっす!」

 

死の恐怖で身体中脂汗まみれのサブロー。モビルスーツのコクピットは空調が効いていて暑くはないが、汗は生温い。下着のシャツが体に張り付いて不快だった。

 

「サブロー聞こえるか?俺は親衛隊長のショーンだ。お前はその両手の武器で後続を牽制しろ」

「後続?牽制?…ってなんすか?」

「後から敵が来るから、適当に撃って追っ払えってことよ!」

「うっす!」

「あと、その敬語っぽいのもやめろ!俺たちの前ではな!」

「う、うっ…す。わか…わかった」

 

ガンダムがバズーカとビームライフルを構える。ナルカの機体3機が同時に飛び立った。

 

ガンダムのレーダーが、6機の敵を捉えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

助けに来たと思ったら助けなくてはならないとは、全く世話の焼ける奴だ。ショーンはサブローに対してそう感じた。

 

だが、フォローに入るまで3対1で持ちこたえたのは評価に値する。このおかげで敵を分断し、結果的に3機を仕留めた。サブローがいなかったら、今倒した3機はもっと手強い相手と化したであろう。

 

レガストの編隊を振り切って敵に囲まれたガンダムを助け、体勢を整え仕切り直し。相手は6、こちらは4。勝機は大いにある。

 

「サブローの砲撃で敵が散開したら、ヴィクターは右、メイヴィーは左、俺は中央へ突っ込む。懐へ潜り込み、一気に叩くぞ」

「了解!」

「了解!」

「俺は…とにかく撃ってりゃいいんだな!」

 

ナルカの機体が空中でビームの羽を広げる。ブースターを吹かし、空中へ飛び上がる。眼下、ガンダムの右手のビームライフルと左手のロケットランチャーを撃ちまくった。

 

「おらおらおらおらーッ!」

 

モビルスーツの武器は稼働のためにモビルスーツからエネルギー供給を受ける必要がある。ショーン達は知る由もないが、本来連邦のモビルスーツの出力ではビームライフルとロケットランチャーの同時ドライブは不可能だ。これもガンダムの超出力の恩恵である。

 

ロケットとビームが薄い弾幕を形成。レガストへ襲いかかる。そのほとんどが弾着前に散って避けられるものの、いくつかはブリジットの片腕やSFSを粉砕した。

 

「当てたのか、あの距離から」

「あれが新型の性能…」

「サブローは想像以上にうまくやったな。俺たちも行くぞ!」

 

ナルカ親衛隊が散開したレガスト達へ突貫する。

 

空中にいた6機のうち、1機がSFSを失い地上へ落下。2機が機関砲武器腕の片方を損失。

 

「うわぁあ!」

「敵は砲撃機を用意したのか!?」

「ブリジット隊は何をしてたんだ、減るどころか敵機が増えてるんじゃないのか!」

 

やれる。メイヴィーのダナオスがビームソードを構え、旋回する。

 

ナルカ共和国製モビルスーツの特徴として、マイクロカメラがびっしりひしめく複眼を備えた頭部がある。それは側から見れば虫そのものであるが、無数のカメラが映し出す映像は、全天周囲モニターを実現した。

 

360度の景色が網羅されている。視界の外へ逃げた敵を、頭部を動かして追う必要がないのだ。

 

「くそ、待て!」

 

周囲をぐるぐると回るダナオスに対し、敵は必死に頭を向けて追い縋ろうとする。だが、メイヴィーはどんな複雑な軌道をとっても敵への視界を確保している。隙を見つけ次第、敵を撃てる。

 

「そこ…!」

 

背中を取った。マシンガンのトリガーを引く。

 

レガストはブリジットより脆い。あっという間に穴だらけだ。落ちていく敵機。

 

「うぁああ…」

「一機…次!」

「く、来るなーっ!わーっ!」

 

片側だけの機関砲を撃ってくるレガストの下へ潜り込み、SFSを両断。バランスを失ったところへ胸部に一突き。撃墜。

 

ダナオスは前大戦の頃、つまり約10年前に生産されたモデルだ。ナルカ最初の独自生産機体でもある。アンバランスなほどの細身で、所々コードが露出している。

 

ナルカの軍備強化は、前王が退役させたこの機体を前線復帰させることから始まった。それでも、最新式のビームライフルを運用できないほどの旧式なので、最新機種の開発が急がれた。

 

いまや作業用機代わりの予備機として前線の格納庫で埃をかぶるような機体。だがその性能の低さが、そんな機体で現行機を易々と撃墜するメイヴィーの実力を証明している。

 

「こちらヴィクター、2機やった」

 

そして、ナルカの最新機のボルゾン。こちらはナルカの現行主力機で、去年に開発生産が始まった。それもあって、メイヴィーよりも腕の劣るヴィクターでもレガスト2機を倒せるだけの活躍ができたようだ。

 

視界を横に向ければ、上下に分かれた別のレガストが重力に従い堕ちる姿。高速機動によるすれ違いざまの一刀両断は親衛隊長ショーンの得意技だ。

 

ショーンの乗るディヴァインはボルゾンとは別系統の試作機である。性能を追求されたが、アクチュエータなどの問題でピーキーな性能に仕上がった。それも、ショーンにとってはハンデにならない。

 

敵わないな。ディヴァインが活躍するたびに、メイヴィーはそう感じていた。

 

「最後の一機!」

「畜生、畜生ーっ!皆やられちまった!本部、HQ!応援を寄越せ、早く!」

「諦めの悪い奴だ…まだ抵抗するつもりらしい」

「拿捕どころか、手加減もできそうにないわね」

 

地上に落ちた奴が残っている。足を止め、対空砲火でこっちを狙っているようだ。

 

その腕を、ロケットが直撃。ガンダムの砲撃。意識の外からの遠距離の不意打ちだった。

 

「ぎゃああ!」

 

左の腕が爆散するレガスト。その怯んだ隙を、ショーンが突いた。

 

「今か!」

 

コンバーターエンジンが振動する。ブースターが炎を吐き出す。剣を構え、最大速度で敵へ突撃するディヴァイン。その姿はまるで青い切っ先だった。

 

掬い上げるような機動。青い切っ先となったディヴァインが通り過ぎた後、レガストの上下半身が泣き別れした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵機の全滅を確認!」

「ご苦労だった、親衛隊。今回の活躍も見事だ」

「いえ、サブローがいなければ敗北は必死でした。女王の采配と、彼の活躍があったればこそです」

「親衛隊長は謙虚で素晴らしい」

「恐れ入ります」

「さて、艦隊はこのエリアを離脱してゼラ達と合流する。ゲストと一緒に速やかに帰還せよ。異常だ」

「了解」

 

砂漠を飛ぶ3機のモビルスーツ。横並びに飛ぶ。

 

その後ろを、ガンダムが必死に追いかけている。弾切れになったので武器は捨てていた。

 

「…よくやったな、サブロー」

「ほんとほんと、素人とは思えねえや」

「いやあ、俺なんか何にもしてねえよ。皆が凄かっただけ」

 

 

謙遜だ。彼がいたから、ナルカ艦隊は大きな損失もなく生き延びた。

 

ショーンとメイヴィーは未だサブローを信用しきってはいない。敵陣営の新型モビルスーツから出てきた一般人を警戒するなという方が無理なのだ。だが、彼は命をかけて戦い、自分たちを救った。

 

それに対して失礼な態度を取り続けるのは、ナルカの沽券に関わる。

 

「急ぎなさいサブロー。もうすぐ艦隊が飛び立つのよ」

「えっ?」

「しばらく居座るつもりなんでしょう?」

「あ…わ、わかった!」

 

だから、最低でも今は礼を示さねばならない。

 

全力で敵愾心を露わにするのも良くない。もしかしたら、事故か何かに巻き込まれた不幸な一般人である可能性もあるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

怖かった。もうすぐで死ぬところだった。視界の中央から後ろへ流れていく砂の大地をじっと見つつ、サブローはため息をつく。

 

時間が経っていなかったこともあってか鮮明に思い出せる。敵に囲まれ、集中砲火を食らったあの戦いの一瞬を。

 

恐ろしい死神が、あと少しまで迫っていた。サブローの背中には、あの時に流した脂汗がじっとりと着いている。

 

人生で最も死を意識した。今は、最も恐怖を意識している。これが、戦場。命の奪い合い。

 

「こっ…えぇ」

 

死ぬ理由はない。まだ生きていたい。だが今の自分に、具体的な生きる理由はあるのか。

 

家族の元へ帰るのか。違う。お尋ね者となった自分が、家族と会える可能性はない。

 

イチローの仇をとるのか。違う。イチローは連邦にテロを仕掛けて、その反撃で死んだ。それで連邦を憎めば、それは逆恨みにしかならない。不毛だ。

 

「イチロー…」

 

イチローが死んだ理由。死因とかのわかりやすいものでなく、もっと根本的に。なぜ、イチローは死んでしまうような目に遭ったのか。

 

サブローは、ジローと別れる寸前、イチローが死んだ理由を知りたいと語った。もうそれを知る術はないのだろうとも。

 

だが、偶然にも、サブローはその答えを教えてくれそうな人間に会えた。

 

「サブロー、お疲れ様です。ソーラです」

「…そ、ソーラさん」

「今こうして私達が無事でいられるのも、あなたの活躍のおかげです。臣下一同に代り、改めて、あなたの作戦参加を感謝します」

「…どういたしまして、っす…」

 

サブローはソーラに言いたいことがあった。だが、言っていいのかわからなかった。どうしようもなく変なお願いを言おうとしていたから。

 

口をもごもごさせ、唇を絶え間なく変形させ、それでも言葉が出ない。言えばいいのに、言えない。恥ずかしいのか、情けないからか、その理由もわからない。

 

様々な感情が渦巻いて、サブローが言おうとした言葉が封じられる。

 

「…どうか、しましたか」

 

だが、ソーラは女王である以前に政治家だ。サブローの様子を察してくれた。

 

それがサブローの背中を後押しした。

 

「俺、兄貴が死んだ理由を知りたいっす。なんでイチローは死ななければならなかったのか、俺知りたいっす」

「…私と一緒なら、それを知ることができると?」

「皿洗いでも便所掃除でもなんでもやります、俺を…俺を連れて行って欲しいっす!少なくとも、そういうことに詳しいソーラさんなら、俺の疑問に答えをくれるかもしれない。できなくても、答えに近付くには…俺一人じゃ無理なんだ!」

 

なんてことを頼むのだろうか。いきなり現れた男が一国の女王にこのようなお願いをするなんて、とても正気じゃない。

 

だが、サブローの口は止まらなかった。イチローが死んだ意味も、ジローが不幸な目にあう意味も、自身がこのモビルスーツに乗った意味も、まだ知っていない。命をかけてでも知りたい。

 

「いいでしょう」

「…え?」

 

ソーラは即答した。

 

「元々私も、あなたに知識を教えて欲しかった。あなたが私と共にナルカ艦隊と同行してくれるなら、これ以上のことはありません」

「そ、ソーラさん…!」

「お互いが知らないことを、教え合いましょう。これからよろしくお願いします、サブロー」

「ありがとう…ありがとうっす…」

 

嬉しさに飛び上がりそうになる体を抑えて、サブローは嬉しさを飽和させた。ガンダムのスピードが速くなる。

 

ソーラの待つクインスローンが見えてきた。先行する親衛隊機。

 

「ナルカ共和国現女王、ソーラ・レ・パール・ナルカの名において、あなたを歓迎します」

「は、はいっ!」

 

暴力と混乱の非日常によって粉々に破壊されたサブローの日常。彼の人生は一度、同時に消え去った。

 

しかし、ソーラとの出会いが、彼にもう一度人生を生きる意味を与えた。

 

「ガンダム収容、降りてクインスローンへ行け!」

「うっす!」

 

砂を踏みしめて、出た時とは逆にワーラーからクインスローンへ走って向かうサブロー。その足取りは、実際の喜び以上に軽やかであった。

 

「全艦、浮上!本艦隊はゼラ隊と合流の後、マスドライバー基地へ向かう!」

 

Sサイズ軍艦たちは、特殊なフィールドで空気の上に『乗る』。その光景は、大空を船が浮くメルヘンなそれであった。

 

「出航!」

 

夕日が沈む。ヌマズ砂漠は、真っ赤に輝いていた。

 

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