機動戦史ガンダム 双眸のガーディアン   作:アルファるふぁ/保利滝良

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第4話 杞憂と出撃、駆ける初陣
4話Aパート


 

Lサイズ特殊戦闘空母、ペガリオ級ペガリオ。全長250メートル、全高35メートル、全幅100メートル。

 

長方形の艦体が特徴的な、巨大なシルエットの戦艦だ。艦中央のフローティングフィールドジェネレーターにより、空気の上に乗ることで大気圏での飛行が可能となっている。

 

この艦は現在、中国大陸の大空を突っ切って日本へと向かっていた。

 

その一室、艦上部の兵宿舎ユニットの休憩室で、メリー・アンダーソンは自動販売機に100ホープス硬貨を突っ込む。缶コーヒーのアイコン下のボタンを押すと、注文通りの品物が取り出し口に落っこちる。

 

プルタブを開け、口を付け、一言。

 

「あつっ」

 

メリーは昔から猫舌だった。両親が過保護なせいで、息を吹きかけてしっかり冷まされたご飯を食べていたのだ。そのせいで舌に熱耐性が上手く身につかなかったのだろう。

 

両親で思い出す。家族が今の自分を見たら、どう思うだろう。

 

明日はメリーの初陣だ。初めての実戦、初めての戦場。それは今までのどの訓練とも桁違いの難関になるはずだ。下手すれば、その初陣で死んでしまうかもしれない。

 

怖くないといえば、嘘になる。恐怖を紛らわせようと自販機で缶コーヒーを買うくらいには緊張している。

 

白一面で塗られた壁。この休憩室は綺麗過ぎて何か落ち着かない。

 

「あ、先客」

「メリーじゃない。どうしたの?」

「あ、おっす〜二人とも〜」

 

コーヒーをちびちび啜っていると、ショコラとアリスが入ってきた。これでGT-1のガンダムパイロットが全員揃ったことになる。

 

「や、なんか…明日が実戦だなって思ったら、落ち着かなくって…」

「誰も聞いてない。でも気持ちはわかる」

「まあ、そうね。色々と、ね」

「うん…」

 

3人は親しい間柄だ。地球連邦軍は入隊当初、新兵教育のための1年を過ごす。モビルスーツパイロットの場合、その後も1年かけてモビルスーツの操縦訓練を受ける。

 

メリーとショコラとアリスは、新兵教育からの友人だった。訓練仲間、というべきか。新兵教育を履修した後、3人揃ってモビルスーツ訓練を学び、そして3人揃って新型機ガンダムのパイロットとして努力し続けてきた。

 

今もまた、3人揃って同じ戦場に赴こうとしている。

 

「入隊した時からこれは覚悟してたと思ったんだけどなあ」

「いざ初陣!ってなると、なんだかね」

「二人とも緊張し過ぎ」

「アリスは平気?」

「うん」

「強がってるだけじゃないかしら。絶対そうよ」

「そんなことない。メリーが行軍マラソン訓練で泥の中に潜った時もそう思ってた」

「ちょ…それまだ覚えてたのぉ!?」

「あれは酷かったわねぇ」

「無様」

「や、やめてよぉ!私だって覚えてるよ、寝るときの恋バナ!」

「え、あ、待って。まさか」

「ショコラがいきなり良い家系の息子の男の子と知り合いになりたい〜って言い出した!覚えてる!」

「あれも酷かった」

「そっちこそ何変なこと思い出してるの!ちょっと…」

 

もうすぐ実戦、と言うことも忘れ、3人は思い出話に花を咲かせた。何気ない会話が弾み、笑い、楽しむ。

 

中身があるようでほとんどない、綿菓子のようにふわふわとした会話。それが、彼女らは若い娘であることを証明していた。

 

果たして、この思い出話をもう一度楽しむことができるのか。これは戦場への恐怖を紛らわせるためのトークではないのか。

 

胸に去来した負の疑問。それを今ここで口にすることは、他の二人への侮辱に感じた。

 

「ねえ。そういえばさ。私たちの機体、訓練に使ったガンダムをそのまま使うんだよね」

「いきなり何?まあ、その通りよ」

「それが、どうかした?」

「いや…最初に乗った時と比べて、色々くっつけられたね、って…」

 

メリーの一言に、ショコラとアリスが同意するように頷く。彼女たちの機体、ガンダムは、その当初とは大きく姿を変えているのだ。

 

時はペガリオに乗艦した時より更に少し前、約一週間前に遡る。

 

 

 

 

 

地球連邦軍、ケルンテン基地。第3モビルスーツガレージ。

 

早朝から叩き起こされ、昨日の訓練の疲れが癒えない体でガレージに集まったGT-1パイロット3人娘は、そこで自らの愛機に様々な装備が施されているのを見た。

 

3機それぞれの追加装備に共通性はなく、ほぼ全て別々のものだった。共通するのはバックパックから伸びる細長いサブアームだけ。

 

例えば、メリーのダンシングシープ。バックパックの後ろにくっつけられる、複数のスラスターを持つユニット。リアスカートのハードポイントに接続されるビームサーベル発信器の倍はあろうかという長さの筒。

 

例えば、ショコラのスリーピーラビット。全身に纏われる追加装甲。サブアームが保持する、モビルスーツの全身を覆う程の巨大シールド。

 

 

例えば、アリスのスマイリードッグ。肩に装備されるキャノン。脚部横に装着されるミサイルランチャー。

 

「すごぉい…!」

 

呑気に感嘆するのはメリーだけで、ショコラは唐突な状況に驚き、アリスは怪訝そうに首を捻る。そんな三者三様の反応を眺めつつ、3人よりも早く来ていたセイヴが説明を始めた。

 

「以前、ガンダムはただの素体で、莫大な出力によって多様かつ強力な兵装を追加装備できると言ったね。これが、その追加装備だ」

 

それは、3人が初めてガンダムとセイヴに邂逅した際に行われた集会での発言。あれには一切の嘘偽りはなかったのである。

 

続々と装着されていく追加装備たち。新型機であるため、作業員はマニュアル片手に四苦八苦している。メカニック担当としてのだが、彼らもGT-1のメンバーだ。

 

「出力以外の面でガンダムを上回るモビルスーツはいる。だが、ガンダムの強みは基本性能ではなく、その高出力で強力な追加装備を多数運用できる面にある」

 

セイヴは続ける。

 

「これが、ガンダムの本当の運用法というわけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの時は本当に驚いたわね。昨日乗ってた機体がガラッと様変わりしているんですもの」

「私もすごくびっくりした!確か、私達の得意分野で追加装備が変わってるんだっけ?」

「その通り。訓練の記録から特務大尉が選定したみたい」

「全部私達にぴったりだったね。やっぱセイヴ大尉ってすごいよ〜」

 

立ち話もそこそこに、3人は休憩室のテーブルに座っていた。そこでもまたミリタリー色の強いガールズトークを展開している。

 

彼女達の前には、それぞれ空中投影型モニターが置かれている。連邦軍人全員に配布される携帯端末の機能だ。

 

映像の中身は、3人のそれぞれのガンダム。そのコンピュータグラフィックのモデルである。ペガリオの格納庫で眠るそれぞれの機体が、ペガリオ格納庫のカメラを通じてCGで再現、そのモデルを360度じっくり眺められる、という機能だ。

 

その画面の中のガンダムは全て白がメインのトリコロールだが、3機それぞれの追加装備は単色で統一されており、それが各機体に視覚上の差異を生んでいる。

 

メリーのガンダムは赤。ショコラのガンダムは緑。アリスのガンダムは青。色で特徴付けられているのは、映像データにおけるわかりやすさのためなのだろう。テスト部隊らしい、とショコラは感じた。

 

「私は機動性、ショコラは防御力、アリスは遠距離火力。だよね?」

「そう」

「よく見てくれてるというか、なんというか…」

 

メリーは回避機動が多く、それでいて動きが激しいために、機動力を補助する装備が与えられた。

 

ショコラは防御姿勢が完璧で、被弾時のダメージを抑えるのが得意だったため、防御力を向上させる装備が与えられた。

 

アリスは遠距離射撃における命中率が高く、狙撃センスを持っていたため、遠距離用装備が与えられた。

 

セイヴ特務大尉は3人の得意分野を伸ばす方向で追加装備を選定した。あとは、彼の期待通り、ガンダムとその追加装備の性能を実戦で引き出せばいい。

 

言葉にするのは簡単だ。

 

「それが実戦でも、通用するのかな、って…」

「メリー?」

「あ、いや、ごめんね。やっぱり…不安なんだよね。私、できるのかなって」

「メリー…気負いすぎなんじゃない?大丈夫?」

「うん。出撃はするし、戦ってみせる。でも、やっぱね…」

 

浮ついた雰囲気が一気に沈み込む。メリーの頭からは、戦場への不安が抜けきっていない。

 

ショコラは、メリーが過度に緊張していると感じた。適度な緊張は物事に対する集中力を生むが、過度の緊張は心身の硬直を招く。肝心な場面で固まり、大きな失敗を生む元となるのだ。

 

メリーはそんな状態に陥っているのだろう。緊張をほぐそうにも、自分も実戦への不安が残っている。何を言っても説得力がないだろう。

 

「メリー、落ち着いて、リラックスしなさい。らしくないわよ」

「ショコラの言う通り。今日はもう休んで」

「…うん、ありがとう」

 

こんな言葉をかけるしかない。だがせめて、この一言がメリーの命を救ってくれるように願う。

 

「じゃあね、おやすみ。また明日」

「うん、明日はがんばりましょうね」

「おやすみ。また明日」

 

そうして、3人娘は解散した。ショコラとアリスが去った後には、メリー一人しかいない。

 

湯気も中身も消えたコーヒー缶を名残惜しそうにゴミ箱へ押し込み、メリーも休憩室を出た。戦場への不安は、未だ彼女の中で燻っている。

 

 

 

 

 

 

 

自室へと向かう廊下を行くメリーの前に、一人の男が現れた。セイヴ・ライン特務大尉だ。

 

「あっ、セイヴ大尉」

「ん?ああ、メリー少尉か。自分の部屋へ?君の部屋はこっちだったか」

「あ、はい…」

 

メリーは、セイヴが好みの男性だった。初めて見た時からその甘いマスクにメロメロで、そのミステリアスな雰囲気に憧れを抱いていた。

 

だが、実戦に対する緊張を抱えた今の彼女には、そんな相手の前ではしゃぐ元気はない。

 

「浮かない顔だけど、どうしたんだ?」

 

心配してくれるセイヴ。メリーは口を窄め、何かを言おうとしても、何も言えない。

 

「…明日の作戦のことかな?」

「…はい」

 

心当たりは的中した。残念ながら、深刻な悩みだった。

 

初実践に赴く兵士が抱く不安。軽々しいアドバイスはできない。

 

セイヴも実戦は経験したことはない。が、メリーをこの状態で初陣に送り出せるほど、無知を被る気にはなれなかった。

 

「そこに座ろう。少しだけ、話でもしようか」

「あ、はいっ」

 

ペガリオの通路には、等間隔で固定式の長椅子が置かれている。これは緊急物資のコンテナも兼ねていて、シートを開けると消化剤や医療キットが入っている。無論、主目的はクルーの簡易休息の助けだ。

 

その上に、二人は腰を下ろした。親密な関係でもないため、一人分の隙間を開ける。

 

「まず、深呼吸だ」

「は、はい」

 

鼻から大きく息を吸い、口から吐き出す。すると、先ほどまでバクバク鳴っていた心臓が、少しずつ落ち着きを取り戻した。

 

肩から余分な力が抜けていく。メリーがリラックスした頃を見計らって、セイヴは話し始めた。

 

「メリー少尉」

「はい」

「訓練の成果を云々、なんて言うつもりはない。実戦と訓練は大いに違う。どれだけ訓練を積もうと、初実戦は初実戦。皆素人なんだ」

「はい…」

「だから一人で無理する必要はない。君は一人なんかじゃない。腕利きの部隊が援護してくれるし、ショコラ少尉もアリス少尉も君と一緒に頑張ってくれる」

「一人じゃ…ない」

 

その言葉は、メリーにすっと溶け込んでいった。

 

メリーは一人きりが嫌いな人間だった。どんな場所にも知り合いや友人、家族がいないと落ち着かなく、一人ぼっちの孤独感に耐えられない人間だった。お気楽な性格を気取るのも、親しい人とずっと付き合いたい心理からである。

 

だが、狭いコクピットではどうあがいても一人きりだ。その上で命を晒すなど、耐え難い。

 

だがそれは、彼女の考えようによるもの。作戦時に共にいてくれる仲間がいれば、一人などでは決してない。

 

「俺も君達のために全力を尽くす。ペガリオクルーの皆もそうだ。初陣の君を孤立させはしない。だから、君は君にできる全力を出せばいい。そして、最後には生きて帰ってくるんだ」

「…はい、了解です!」

 

その言葉を受けて、ようやくメリーから緊張と不安が拭い去られていく。自分は一人じゃない。

 

それが、彼女に自信と安心感をもたらす。

 

「…その様子なら、もう大丈夫かな?」

「はい、心配おかけしました。私、行けるような気がします。一人じゃないなら、頑張れちゃう気がします!」

「気張りすぎて、凡ミスしたりしないようにね?」

「うっ、き、気を付けます」

「はは、いや、メリー少尉なら大丈夫だ。君は優秀なパイロットだからね」

「ありがとうございます!」

 

気がつけば、元気がなかったメリーは、いつもの元気の有り余るメリーとなっている。この状態でなにかヘマをやらかさないか気苦労が生まれるが、少なくとも不安にまみれたまま初陣を飾るよりはマシだろう。

 

それに、自分で太鼓判を押したはずだ。彼女は優秀なパイロット。自信をつけた今、心配することはない。

 

銀髪ポニーテールを揺らしながら頷くメリー。彼女と接していると、セイヴ自身も明るくなれた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前11時。ニッポンはフジ山の麓。ここには地球連邦軍の辺境基地があった。今は、コロニー連盟の電撃戦によってその制圧下にある。

 

ペガリオの部隊は、同時攻撃をかける陸上部隊と共にフジ基地に侵入。フジ基地の敵戦力を排除する。それも、上空約1万メートルから。

 

古き良き降下作戦。敵の防衛戦を無視してて重要拠点を奇襲する。

 

兵員を上空から降下させるエアボーンは、天候による失敗や、降下重量の制限による装備量の少なさが欠点とされる。しかしモビルスーツなら、サイズと火力によってそれらの欠点を無視できる。

 

真下には雲。いつも見上げていたそれが眼下にある。今からここへ突入するのだ。

 

 

「こちらペガリオ。各パイロット、問題はないか」

「ペガリオアルファ隊、異常ありません」

「こちらブラボー、問題なし」

「ガンダムチーム、調子はどうだ?」

「こちらメリー、ダンシングシープはオーケーです!」

「こちらショコラ、スリーピーラビットは問題なしです」

「こちらアリス、スマイリードッグもオールグリーン」

「よし、降下開始まで5カウント。5…」

 

メリーがメインモニターを睨み、レバーを握る。深呼吸を一回。

 

「4…」

 

ショコラも同様に、ひたすら集中力を高める。

 

「3…」

 

アリスはリラックスしている。しかし、いつもの仏頂面が、僅かに歪んでいた。

 

「2…」

 

セイヴは、メインブリッジにて、モニターで3機のガンダムを見守っている。

 

「1…0!総員発進せよ」

 

ペガリオの前面ハッチが開いた。前面3つの格納庫のハッチが開き、3つの口からモビルスーツが次々、カタパルトで射出されていく。

 

そして、3人娘の番だ。

 

「ショコラ・ガレット、ガンダム出ます!」

「アリス・サカモト、出撃します」

「メリー・アンダーソン、ダンシングシープ、いっきまーす!!」

 

命を削る地獄の戦場へと飛び出す3機のガンダム。雲を抜け、下を見れば、砲火の嵐。

 

戦闘はすでに始まっていた。

 

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