この章から原作との差が大きくなっていく予定です。
それでは23話どうぞ。
23. 脱獄囚
荒れ狂う北海を黒い影が進んでいく。
それは大きな黒犬だった。
死に物狂いでひたすら泳ぎ続けている。ただただ真っ直ぐに。その目には狂気が宿っていた。
ひたすら泳ぎ続けた黒犬はついに陸地にたどり着く。
普通であったらその場で死んでもおかしくないだろう疲労がその身に襲い掛かる。そうでなくても疲労と寒さで動くことも困難なはずだ。
だが、その犬は動き出した。
それだけではない。犬の輪郭が崩れ、一瞬で男の姿に変わった。
ボロボロの服、ボサボサの髪、やせ衰えた体躯、伸ばし放題な髭。
どれをとってもまともな人間ではない。
その中で最もその男をまともでは無いと断言させるのは目だ。
血走った、犬の時と同じく狂気を宿した目。
その目にはただ一つの事柄しか見えていない。
「……殺す。殺す。ピーター……。ジェームズ、リリー、すまない、俺が愚かだった。ハリー……ああ、ハリー! ネズミ、鼠、ねずみ! 殺す殺す殺す何としても殺す仇を取る。ホグワーツ待っていろ待っててくれ行くな来い止まれ止めろ死ね助ける助けられなかった……。……ああ、今行くぞ。」
その後も口からはブツブツと物騒な単語が紡がれ続ける。
そのまま男は暗闇の中へと消えていった。
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『大量殺人犯シリウス・ブラックがアズカバンより脱獄する』
そのニュースは瞬く間にイギリスだけでなく世界中の魔法界に広がり、多くの魔法使いたちを恐怖させた。
アズカバンは魔法界最高最悪の監獄だ。
未だかつて脱獄したものはただの一人もおらず、そんな者が現れるなど想像することさえできなかった。そんなところから脱獄囚が現れるだけでなくその脱獄した囚人が更に問題だった。
彼の一族のブラック家は聖28一族の中でもとりわけ純血主義が強く、例のあの人が健在だったころには多くが帝王の下で恐怖を振りまいていた。
そしてシリウス・ブラックはその中でも最悪の一人。
たった一つの魔法で、魔法使い一人とマグルを20人近く吹き飛ばした狂人だ。
脱獄が発覚してすぐにイギリス全土が捜索されたが影も形も見つからない。
これには魔法省や魔法大臣への批判も殺到している。
しかし、魔法省もどうやってブラックが脱獄したか見当もつかないので心労が溜まる一方である。
街の商店にはそこら中にシリウス・ブラックの顔写真が張り出され、誰も彼もがブラックを恐れている。
たった一人の脱獄囚でイギリス魔法界は大きな影響を受けていた。
それはリンリー家も例外ではなかった。
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「あーもう! まだシリウス・ブラックは捕まらないのかしら!?」
リリアン・リンリーはご機嫌斜めであった。
連日の日刊預言者新聞は見たくもない凶悪犯が叫んでいる顔写真を一面に掲載しているし、記事の内容もシリウス・ブラックが犯した罪、経歴、ホグワーツでの同級生のインタビュー、更にはイギリスのいたる所での目撃情報。
これだけなら見なければそれでいいのだが、シリウス・ブラックが脱獄してからはリンリー邸で缶詰状態なのだ。
過保護なメイドたち(
何とか時間をかけて篭絡しようと計画していたが、
外出ができない、つまりデートができないのだ。
いくら
「う~う~。」
「可愛く唸っても駄目よ。」 こういう時は容赦が無いハーマイオニー。
「よしよし。もうすぐ夏休みも終わるからみんなにも会えるわよ~。」 いつもの様にリリのソファーになりながら撫でて癒すクラウディア。
「はい、リリ。あ~ん。」
「リリ、次こっち。」 パチル姉妹はそんなリリにお菓子で餌付けしている。
「はいそこの三人! あまり甘やかさないの。ハーレムがただ単に主人を甘やかすためじゃないって教わったでしょうに。新人も見てるのよ。」 ダフネがそこに厳しく突っ込む。
「ああ……お姉さま。お姉さまには悪いけれどシリウス・ブラックには感謝ね。こうして夏休みの間中ずっとこの閉鎖空間で一緒この館全てにお姉さまの吐息が染み込んでいるハーレムと家族以外は誰もいない本当は二人っきりがいいけどこれ以上の贅沢は神罰が当たってしまうわねいや待ってお姉さまは女神つまり神……ということは神罰はお姉さまからの贈り物!? 待って待つのよジネブラ・ウィーズリーいやジネブラ・リンリー! お姉さまからの罰って何かしら鞭? 蝋燭? いやいやそんなありきたりなものはダメもっとこう高貴で素敵な何かああ私の想像力ではお姉さまの素晴らしさの1%も想像できない!」
ジニーは平常運転だった。
ふてくされているリリにメイドの一人、警護担当のキャロルが進言する。
「お嬢様。シリウス・ブラックは善悪がどうあれ優秀な魔法使いというのは確かな事実です。それにアズカバンに10年もの間いたのならば確実に精神がおかしくなっているはず。
そのような狂人とどこで遭遇するかもわからないのならここにいるのが安全です。」
キャロルの言葉に他のメイドたちも同調する。
「そうですよ! あいつは確かに優秀だったのは事実です。」
「それに例のあの人の部下なんでしょ? 怖いわ。」
「おいおい心配する必要なんてないぞ。お前たちは主たる私が必ず守ってやる。何も心配する必要はない。安心して私の愛を受け取り愛を与えてくれ。」
リンリー家の主たるロザリンド・リンリーがキャロルを除く不安そうにしているメイドに力強く宣言する。何の根拠もないのに自信たっぷりなその言葉にメイドたちの心からは不安が嘘のように消え失せていた。
「では、私はこの命に代えてもロザリンド様とリリ様をお守りしましょう。」
警護担当のキャロルだけは嬉しさを隠しながら自分の責務を全うすると改めて誓った。
ロザリンドもキャロルを信頼しているのでここが世界一安全であると思っている。
「それではお嬢様、ハーレムの皆様にもこれをお渡ししておきましょう。」
キャロルからペンダントが手渡される。
何の変哲もないただのペンダントだ。だが、見る人が見ればそこに付与されている魔法が凄いものだと理解するだろう。
「お守り?」
「はい。もしお嬢様方が助けを求めるならこれに念じてください。私が力になります。」
キャロルだけでなくママたちからも言われシリウス・ブラックの件が片付くまで、いやそれが終わっても出来るだけ身に付けておくようにと言われた。
その後は今日一日どう過ごすかリリは悩んだ。
宿題はハーマイオニーとパドマの指導によって既に完璧に片付いている。
家でやることもあらかたやりつくしている。
外にも出られないのでフラストレーションがたまる一方だ。
ならば、普段はしないことをしてスッキリするにかぎる。
「よし! 皆、部屋に行きましょう!」
「お! 私たちも久々に全員で楽しむぞ!」 同調するロザリンド。
この後、全員で色々と楽しんだ。
そうして何だかんだとハーレムたちと楽しんでいるうちに夏休みは終わり、三年目のホグワーツへと旅立つ日がやって来た。
シリウス脱獄。
ここは原作と同じ流れですね。
この時点でウィーズリー家に劇的な変化が無い限りはエジプト旅行の写真にネズミが写って脱獄するのは確定かな。
脱獄の影響
何だかんだと色々と影響がありそうだなと思ってます。
過保護
メイドたちは結構リリに対して過保護です。
ハーレムメンバーも同様。
そのためダイアゴン横丁のイベントはカット。
それでは次回お楽しみに。