【完結】魔法界に百合の花が咲く   作:藍多

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夏の長期休暇に突入!
とは言えどこにも行く予定はないので家でのんびりアニメや漫画の消化ですかね。

それでは56話どうぞ。


56. やさしさに溶かされる

授業が始まったホグワーツはいつもと同じ……ではなかった。

寮同士の、特にグリフィンドールとスリザリンの間の諍いは今までと変わらないのだが、その頻度と規模がかつてないのだ。

 

「おい! なんだこっち見てニヤニヤして! なんか企んでいるんだろう!?」

「どうせ親と一緒で闇の魔術に魅入られているんだ!」

 

「おお、怖い怖い。勇猛果敢なグリフィンドール寮の勇者様たちは何もしていない善良な一般生徒を一方的に疑うのがお得意にようだ。」

「俺たちは君たちのご両親が心配なだけさ。何せ……なぁ?」

 

「マグル生まれだからってバカにしてんじゃねぇ! エクスペリアームス(武装解除)!」

 

今も廊下でただ目が合ってスリザリン生がニヤついただけでこの有様である。

基本的にはグリフィンドールが過剰にスリザリンに対して反応し、ハッフルパフやレイブンクローも表立って何かするわけではないが嫌な顔をしてスリザリンを睨んでいる。

それに対してスリザリンが嫌みを返すといった感じであるが、他の寮と違って余裕を持った態度が更に神経を逆なでしている。

 

実際にホグワーツの外から入って来る情報では闇の帝王の勢力が猛威を振るっているという情報ばかり。つまりはそれに連なる家系が多いスリザリンはまるで自分たちの勝利が決まっているかのような態度を取っているのだ。それが気に入らないグリフィンドールたちがまた揉めての悪循環。

廊下での魔法や魔法薬での攻撃などの応酬や余波による怪我人の増加に、校内の備品の破損も必然として増える。

そんな事態に誰よりも怒りに燃えているのは二人。

 

「お前らぁ! いい加減しろぉ! そんなにこの鞭での折檻が望みか!?」

 

一人は管理人のアーガス・フィルチである。

スクイブにもかかわらず魔法使い同士の戦いに怒りだけで割って入るほどに日に日に怒りが溜まっていっている。

 

「貴様らは罰則だ! いいか!? お前らの生まれなどわしが知ったこ「うるせぇな。生まれ損ないのクズが。吹っ飛べよ!」

 

去年までであったら罰則や減点を恐れて馬鹿な真似をすることはスリザリン生にとってあり得ないことだった。それがスクイブとはいえ学校の運営側の人間を攻撃するなど異常も異常な事態である。

どれだけ罰則や減点されようが、最悪退学になったところで闇の帝王側で純血の自分たちは輝かしい未来が待っていると疑いもしていないのだ。

 

「おお~!」

「ははっ! スクイブは魔力が無いからかよく飛んだな!」

 

「てめぇら! この闇の魔法使いが!」

 

普段は嫌みでこちらの粗を探している嫌いなフィルチでも一方的に攻撃されて蔑まれているのを見るのは正義感の強いグリフィンドールにとっては我慢のならないことだった。

もはや目の前のスリザリン生は闇の魔法使い! 止める! 

 

インカーセラス(縛れ)!」

 

縛り上げられる馬鹿な生徒たち。もちろん寮関係なく全員だ。

 

「だ、誰だ!? こんなことしてただで……。」

 

そこに現れたのは怒り震えるもう一人、マダム・ポンフリーであった。

 

「来なさい。あなた達がしたことについてみっちり教えて差し上げましょう。もちろん医務室のベッドの上で。」

 

有無を言わせぬ迫力でマダム・ポンフリーは気絶したフィルチと馬鹿な生徒を連れて行った。

みっちり説教と怪我人の手当ての大事さと命のありがたさを教わった彼らが解放されたのは次の日の朝であった。

 

 

そんな馬鹿な事をしでかしているのはもちろん男子生徒だけである。

女子はリリアン・リンリーの元結束を強めているので諍いが起きようはずはない。

男子たちも女子がいる傍では大人しい。

かつてあったドラコ・マルフォイの件は今でも当時いた生徒たちには恐怖を植え付けているし、そのことは下級生にそうはなりたくは無いと思うことしかできない程の真剣な表情で伝えられていた。

仮に女子が傷つくことがあればその原因の男はホグワーツから消えるだろう。

そしてリリに敵意が向けられるならば……その存在はこの世からもいなくなると誰も疑っていなかった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

魔法界一安全とも言われるホグワーツでこんな異常事態がまかり通ってしまうのも今の魔法界の情勢がそのまま影響していると言える。

校長のダンブルドアを中心とした不死鳥の騎士団所属の教師は学校を空けることが多くなった。

元々少ない教師で500人を超える生徒を管理するのが無理だったのだ。

特にグリフィンドールとスリザリンの寮監のマクゴナガルとスネイプが不在というのが生徒の暴走に拍車をかけている。

 

ちなみにリリ達女子にとっては授業が自習であることが多い、そのせいで宿題が大量ということの方が問題となっていた。

 

異常なホグワーツでリリ達も独自に動いていた。

知らなければ何もできないと情報収集と戦力の強化を進めているのだ。

闇の帝王側に近いということでスリザリンの女子からは情報提供が多い。

 

「危ないことはダメ。私と約束できる?」

 

「もちろん!」

「危ないことなんかしないわ。」

 

リリは心配から変な輩に近づくこともして欲しくなかった。

しかしリリを想う心が強ければ女子たちの動きは活発になっていった。

 

得られた情報はリリからロザリンド(ママ)、そしてキャロル経由で不死鳥の騎士団にもいきわたっている。もっともロザリンドの独自のルートによる情報収集によって新しい情報は無いと言ってもいいのだが。

とはいってもリンリーがいるこのホグワーツに通う女子を子供に持つ闇の帝王の一派から情報が漏れることも予想されていることと、女子自身の大半が闇の帝王よりリリの為にと家から出て行っていることが多いため、情報としての精度と信頼性は低いのだった。

 

 

男子や教師陣が騒いでうるさいが、リリにとってはいつものホグワーツすなわち女子と触れ合える場である。

特に、今年はハーレムのクラウディアが卒業したので癒しが足りず、色んな生徒にそれを求めていたのだ。

張り切るのはリリの一つ上の7年生。母性ならば正妻やハーレムに負けぬとその未成熟ながらリリ達より熟れた肉体を使ってリリに癒しを与えるために努力していた。

一番積極的なのはクラウディアが抜けて穴ができたハッフルパフ。

 

「はい、よくできました! これで今日の勉強はお終い!」

「それじゃあ、皆で料理……お菓子でも作りましょうか。」

「賛成!」

「リリちゃんは何が食べたい?」

 

「う~ん……。クッキーかな。ちょっと多めに作っていい?」

 

「材料は……問題なさそうね。多めにってことはハーマイオニー達へのプレゼント? やっぱりちょっと悔しいわね。」

「でも、私たちがリリちゃん手作りクッキーを最初に食べられるだから十分幸せものね。」

 

今もハッフルパフ7年生のお姉さまに囲まれたて勉強会後のお料理教室となっていた。

劣等生が集まると言われるハッフルパフだが、別にそういうわけではないのでこうして下級生のリリに勉強を教えることも不可能ではない。

逆に、料理など勉強以外について教えることが多い寮であるのだ。

魔法や屋敷しもべ妖精が料理を作るような環境で生きている魔法使いだが、愛する人や気になる人には手料理を振舞いたいと思うのはマグルとも共通した女として当然の考えだった。

リリの手料理を一番に貰える権利を持ったハッフルパフたちは喜びつつも、本命のクッキーを貰える相手に嫉妬しながら料理をリリに教えていった。

 

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「はぁ……。」

 

平和に過ごす女子たちの中で一人、ドラコ・マルフォイだけは憂鬱であったり、物思いに耽ていたりとどこかおかしかった。

聖二十八一族の男子たちも親や上からの指示で女子とは接触するなと言われてはいるが、ドラコとはどうすれば良いのか測りかねていた。

一応は友であったグラッブとゴイルが近づく。

 

「お、おいドラコ。」

「これ喰うか?」

 

差し出された激甘そうなチョコレートケーキ。

流石にどうかと思うが一応は彼らなりに精一杯気をつかった結果なのである。

 

「ありがとう。でもそれは二人が食べなよ。私はちょっと……散歩でもしてくるね。」

 

女になってから時間が経つにつれて仕草や言葉使いが徐々に女の様に変わってきているドラコ。更にはリリアン・リンリーを中心とした女子たちとも距離があるし、男子に対してもきつくない。

これで元が男でなければ……そう思うスリザリン男子は多い。

実際に何も知らなかった下級生から告白されたことも数知れず。

本人は嬉しくないであろうが。

 

 

「はぁ……。」

 

ぶらぶらと当てもなく歩き続けて気が付けば湖のそばまでやって来ていた。

何だかんだでスリザリンの地下の談話室の窓から見えているので愛着がわいているのだろうか。

 

ドラコは悩んでいた。

魔法省の襲撃の際、父親のルシウスは騎士団に負け捕まった。死喰い人(デスイーター)仲間によってすぐに脱出したが失態に変わりはない。そして闇の帝王はそのしりぬぐいをルシウス本人ではなくドラコにやらせようとしていた。ルシウスにとってはその方が厳しい罰になると知ってのことだ。

ドラコに命じられたこと、それは学生の身には無理難題。

どう考えてもその方法が思いつかない。

 

(でも……どうにかしなければ父上が……!)

 

「ダンブルドアの暗殺なんて、どうやれば……。」

 

 

「ダンブルドアがどうしたの?」

 

「っ!?」 (聞かれた!?)

 

知らず声に出ていた不覚の一言、それも致命となる言葉!

何としてでも誤魔化さなければ、最悪記憶を消す!

そう思って振り返ればダフネを連れたリリアン・リンリーが立っていた。

 

「やっほ、ドラコ。クッキー食べよ?」

 

列車の中からドラコの異変に気付いていたリリはずっと気になっていたのだ。今日のクッキーも話すきっかけにするために作ったのだ。一応警戒心を下げるためダフネも同行してもらっている。

 

「ほらほら、食べようよ。結構自信作なんだから!」

 

「リリの手作りなんてレアなんだからありがたく食べなさいよね。」

 

「……聞こえてなかったの?」

 

「ん? さっきのダンブルドアを暗殺とかどうとかってヤツ? そんな事より食べて感想を聞かせてよ。」

 

「なっ!? そんな事! 私の父上の命が掛かっているのにそんな事 むぐぅ!」

 

言葉はクッキーを口に入れられることで遮られた。

吐き出そうとも思ったが予想以上に美味しくてつい飲み込んでしまった。

前を見ると先ほどまでの笑顔ではなく真剣な顔のリリがいた。

 

「ダンブルドアがどうなろうとどうでもいいこと。私は気にしないわ。もしダンブルドアが死んでもきっとママたちが何とかしてくれる。私はそう信じている。」

 

「私の父上と母上はダンブルドアを殺さなきゃ殺される! 私も!」

 

「なら助けなきゃ。」

 

「え?」

 

リリの顔がさっきより近く、すぐ目の前にあった。そのまま優しくまるで母の様に抱きしめてくれる。

ドラコの顔が真っ赤になって抵抗するが、リリは放してくれない。

 

「ドラコ。どうでもいいと言ったのはダンブルドアの事。でもあなたが危険な目に合うなら助けるわ。もちろん全力で、取れる手段は全部使ってね。」

 

「どうして……?」

 

「あなたが女の子で、私がリンリーだから。それだけよ。」

 

 

ドラコにとって自分の価値は純血であることが一番だった。

周りも家の力を求めて近づいてくるものが多かった。女子や取り巻きの男。

それが女になって自分の価値がなくなったと思っていた。

女子はより強いリンリーに惹かれ、男子は女子になった途端距離ができた。

闇の帝王が復活して、周りに集まった大人たちも女になった自分が、もう普通の子を産むことすらできない自分の事を見もしないことも、価値が無いということを強調させていた。

 

こんな無価値な自分は誰にも助けてもらえない。誰も頼れない。

そう思っていた。

 

でも目の前の人は自分を見て、助けると言ってくれた。

両親と自分の死という想像を絶するプレッシャーですり減らされた心にリリのやさしさと言う魅了(呪い)が染み込んでいく。

気が付けばリリの事を抱き返して泣きじゃくる自分がいた。

何もかも忘れてこの幸せに浸るのを止められなくてもいいじゃないか。

 

目の前の存在が自分がこんな思いをする元凶というのも忘れて縋り付いていた。




ドラコ陥落。

ホグワーツはハリーが(表向きは)死んだことでスリザリンが威張り散らしています。
そして気に食わないグリフィンドールとの戦闘もどきが頻発。
教師も留守が多くて半分無法地帯。

女子だけはいつもと同じ。

そしてドラコは原作とほぼ同じ感じに。
女体化の影響で精神も徐々に女に。言葉使いや仕草も。
これにときめくスリザリン男子が続出。

だが、リリに盗られて行きましたとさ。

自分を男から女にして、そんでもって魅了されて落とされる。
書いててなんですが、かなりドラコに対してひどい仕打ちだわ。

それでは次回お楽しみに。

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