鏡映のモノポリー   作:まみゅう

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12.買収

 暇だなぁ。

 

 ヒソカは一体何度目になるかもわからない感想を抱いて、ところどころ赤茶色の染みが滲んだコンクリートの壁をぼんやり見つめる。

 相変わらず、”リリス”だった死体に動きはなかった。吐血やイルミの針による変形はあるものの、ヒソカ的にはそう派手な死体でもないので、眺めていて特に面白いものでもない。

 

 結局、イルミからの依頼は報酬が十分の一になる代わり、三日間だけ見張ればよいことになっていた。これは料金は払ったろ、いやでもこんなに長いとは聞いてない、の押し問答から粘って粘った結果である。ちなみに、その間にイルミが本体を殺せなかったとしても三日でヒソカの仕事は終わりとなる。

 正直ヒソカとしてはその三日でさえもきつかったが、性格上イルミが譲らないことも、ここで禍根を残せば後々何かを頼むたびに割り増し料金にされることも理解していたので渋々それで手を打った。

 

 しかしそれにしてもやっぱり暇である。先ほどから一人でトランプタワーを作っては壊し、作っては壊し。飽きっぽいヒソカではあるが、この遊びだけは昔から長く続いていた。なので、初日はなんとかこれで潰したが、さてあと二日どうするか。

 

 自分がここを動けない以上、誰かを呼びつける以外に暇の潰しようがない。しかしヒソカには、こんな死体が置いてある部屋に呼び出しても楽しくおしゃべりをしてくれるような親しい仲の人間は生憎いなかった。

 

 もっともお金を払えば別だろうが。

 

「あーあ。わざと怪我してマチでも呼ぼうかなぁ。彼女の念糸縫合、いつ見てもうっとりしちゃうんだよねぇ」

 

 ヒソカは蜘蛛の団員の一人を思い出し、トランプをすっと自分の左腕に当てる。クロロに惹かれてニ年前に入った幻影旅団だが、クロロの次にヒソカが気に入っているのはマチだ。基本的に団員から遠巻きにされていて接点の少ないヒソカだが、念糸を使って治療ができる彼女とは個人的な依頼で関わることも少なからずある。

 

「あ、でも、どうせならそこの死体を治してもらうのも面白いかもねぇ」

 

 変な方向にねじ曲がったりとれてしまった部分は彼女の糸で繋いで、ヒソカの”薄っぺらな嘘”で表面を再現すればそれなりの造形を再現できるだろう。それを写真にとるなりしてイルミに送ってやれば、本当に蘇ったとでも思うだろうか。

 

「クク……いい暇つぶしになりそうだ」

 

 そうと決まれば早速。

 しかし携帯電話を取り出したところで、誰かが階段をのぼってくる足音がする。廃ビルだから人が忍び込んでこないとは言い切れないが、オーラは感じられない。一般人特有の、垂れ流しのオーラすらもだ。

つまり今ここに向かってきている相手は絶状態。それにも関わらず、足音がするということはわざと訪問を告げているのだと考えていいだろう。

 

 足音はやがてヒソカのいる部屋の前で止まった。相手を想像し、ヒソカは笑みを抑えきれなくなる。

 

 

「どうぞ。まさかキミから来てくれるとは思わなかったよ」

 

 声をかければ、ぼろぼろの扉が軋みながら開かれた。

 

「昨日ぶりだね、リリスチャン。無事で何より」

「それはどうも。少しお話してもいいかしら?」

「うん、ボクちょうど暇してたんだ」

 

 部屋の中に入ったリリスは、昨日まで自分だったものの死体を一瞥し、それからヒソカに視線を戻す。絶状態は相変わらずなので、彼女の意思によるものではないらしい。おそらくイルミの仮説通り、インターバル期間。”入れ替わり”だけでなくあらゆる念が使えないのだろう。

 

「で、その状態でわざわざここまで来て、なんのお話をしてくれるんだい?」

「単刀直入に言います。あなたが欲しいの」

「クク……とっても情熱的だね」

 

 ヒソカがそういった途端、彼女は露骨に嫌そうな顔した。なるほどその言葉選びはヒソカの性格を見抜いたうえのもので、彼女の本意ではなかったのだろう。しかし、そうした狡猾さは確かにヒソカを喜ばせた。見え見えの作戦だとしても、面白ければなんだっていい。

 

「あなた、あの男にお金で雇われてるんですよね?私の見張りを」

「正確には、キミの”死体の”見張りだけどね」

「期限は?」

「三日」

「その短期間に私を見つけて殺そうってわけね。それで私の能力が蘇りではないと証明するわけか……」

 

 三日という期間が人を殺すのに充分な期間であるのか、はたまた短すぎるのかは、仕事として人殺しをしないヒソカにはよくわからない。だが、相手の素性が分かっている依頼に比べて、何の手がかりもないリリスの居場所を割り出すのはなかなか大変そうだとは思う。

 リリスは少し考え込むようなそぶりを見せると、やがてまっすぐにヒソカを見つめた。

 

「三日はあの男に雇われていて構いません。でもその後二十七日間、あなたを買いたい」

「その前にボクがイルミにキミのことを報告するとは思わなかったのかい?お金をもらっているのは事実だけれど、ボクとイルミが以前からの知り合いだというのも本当だ」

「もちろん。だからここへ来たのは危険な賭けでした。でもこれが最善だとも思っています。今の私では一か月もあの男から逃げられない。

どうせ死ぬなら賭けてみるのも面白いじゃないですか」

 

「そうだねぇ」

 

 ヒソカは頷いた。「じゃああと二日、ボクは”そこの死体が起き上がらないか”見張っているよ。それがもともとのイルミとの契約だからね」別にリリスを見つけたら殺せとも、連絡しろとも言われていない。ヒソカの仕事はあくまで見張りだ。

 

「で、残りの二十七日間、キミはボクに何を望む?」

 

 出す条件はよく考えたほうがいい。言外の意味をくみ取ってやるほどヒソカは親切ではないし、二十七日間という期間は長い。三日でこれなのだから、二十七日間の護衛なんて飽きてしまう可能性のほうが高かった。ヒソカは別に信頼も信用も必要としていないので、これから先関わるかどうかもわからないリリスとの契約を何が何でも守る必要はないのだ。

 

「あなたを拘束するようなことやあの男と戦わせるようなことはしません。要求は三つです。私に危害を加えないこと。移動する際は行き先を偽りなく明かし、私が望めば同行に協力すること。それから直接、間接を問わずイルミに私の情報を与えないこと」

「……それだけでいいのかい?」

「ええ、あとはあなたのお心遣いに任せます。金額も最低いくらは欲しいとか、希望がありますか?三割は前払い、残りは後という形にしようと思っています」

 

 護衛はする気は端からなかったものの、拍子抜けするくらい楽な条件だ。少なくとも、ヒソカにデメリットがあるようには思えない。

 

「いや、特にないよ。それこそキミの心遣いで」

「では交渉成立ですね」

 

 ヒソカが承諾すると、リリスはにっこりとほほ笑んだ。普通なら握手でもしそうな雰囲気だが、そこはお互い念能力者。相手の能力が分からないうちはむやみに触れたりはしない。

 

「ところで、契約前の二日間はどうするつもりだい?」

「……そうですね、あなたが嫌なら出ていきますし、いてもいいならここにいますよ」

 

 彼女の希望は言わずもがな後者なのだろう。わざわざ契約に同行を組み込んだくらいだ。灯台下暗しでヒソカの傍にいるのが一番イルミを欺けると踏んでいるに違いない。

 だから面白いことが好きなヒソカはこの二日彼女を突き放して、イルミが彼女の居場所を突き止められるか、彼女が逃げ切れるか、見物を決め込むのも悪くはないだろう。しかしただただ傍観するだけの状況には、ヒソカは昨日だけでとうに飽きていた。どっちの味方をするとかではなく、単に退屈が悪なのだ。

 

「そう。じゃあちょっとババ抜きでもしない?」

「いいですよ」

 

にっこりを笑って腰を下ろしたリリスに、ヒソカはなるほどね、と思う。

どうやら彼女は人の心情を汲んで誘導するのが上手く、そこがイルミとの違いらしかった。

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