鏡映のモノポリー   作:まみゅう

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03.冷たい光

 まただ、今日も来ているのか。

 

 帰宅するなり例の気配を感じて、イルミは内心で舌打ちをした。一体うちはどうなっているんだ、いくらなんでも管理が甘すぎる。あの女の実力が大したこと無いとはいえ、情報だって守らなければならないはずだ。それなのに、こうも簡単によそ者を家にあげて良いわけが無い。

 

 この数か月間、自分が仕事に出かけていたことが非常に悔やまれる。父や祖父は仕事以外のこととなると基本的に母に任せてしまいがちだ。重要な決定はするけれど、細かいことは言わない。だからその分、イルミが家族のことには目を配ってきたつもりだった。反抗期のキルアは母親のいうことなんか聞きやしないし、ミルキはとっくの昔に舐められている。なにかあれば長男として頼られるのは自分で、それが当然だと思っていた。

 

 だからこそ――

 

 今のこの無秩序な現状が許せない。ゾルディック家に客人など笑わせる。

 イルミは苛立ちを滲ませながら、気配のする方へと足を進めた。さらに気に入らないことに、一緒にいるのはキルアとカルトだ。他人が物珍しいのはわかるが、警戒を怠り過ぎだろう。叱らなければならない。イルミはノックもせず、弟の部屋に足を踏み入れた。

 

「キル、」

「うわっ、イル兄」

 

 名前を呼ぶとわかりやすく飛び上がったキルアは、すぐさま気まずげな表情になってこちらを見た。隣には同じく驚いた表情のカルト、そして例の女。

 

「こんばんは」

 

 ごくごく当たり前みたいに挨拶をした女を無視して、イルミは弟たちを見据えた。

 

「なにやってるの」

「なにって、別に……訓練はちゃんとやったしいいだろ」

「そう。そのわりに酷く無防備だね。驕りはよくないよ、キル。今の家じゃ必ずしも安全とは言い切れないからね」

 

 そういってちら、と女を一瞥する。視線の意味に気が付いたキルアは今度はわかりやすく眉をしかめた。その庇うような態度も気に入らない。

 

「リリスは母さんの知り合いじゃん」

「正確には知り合いの娘で、母さんとは直接面識もなかった」

「イル兄はいなかったけど、もううちにくるようになってから三ヶ月にもなるんだって。 大丈夫だよ、だいたいこいつ弱ぇし」

 

「……だからさ、キル、そういうのが驕りだってわかんないの?」

 

 求めているのは口答えではなく反省だ。

 確かにキルアの言う通り、女は強くはないだろう。しかし、キルアが知らないだけでこの世界には念というものがある。そこには肉体の強さだけでは議論できない危険さがあって、どんな相手でも油断は禁物なのだ。もし、女が操作系の念能力者だったらどうする?いくらキルアが暗殺者として優れた身体能力を持っていたとしても、操られてしまえばそんなものは関係ない。念能力にはそういう怖さがある。

 

 しかし、念についてまだ教える気のないイルミは、弟を威圧することしかできなかった。いや、もしキルアが念を知っていたとしても、わざわざ危険性を説いて納得してもらう必要があるとは思っていなかった。キルアは黙って言うことを聞いていればいい。そうすれば間違いはない。少なくとも、暗殺者としては正しいことを教えているつもりだ。

 

「キルは人を信じすぎだよ。忘れてない?うちは命を狙う稼業であると同時に、狙われる家業でもあるんだ。家族以外は疑うくせをつけないとね」

「イル兄、リリスの前でそんな……」

「何が問題なの?」

 

 イルミの質問に、キルアは黙り込んだ。でもあの顔は納得したからじゃない。不満を溜め込んだ顔。文句を言いたいのだろうが、やはりまだ真っ向から立ち向かってくる勇気はないらしい。「あの、」流れた沈黙を破ったのは、例の女だ。キルアに当然のように名前を呼ばれている、女――。

 

「おっしゃることはもっともだと思います。逆の立場だったら、疑うのも無理ないなって。だから気にしないで」

「でも、」

「お兄さんはキルア達のことが心配なだけだよ。

すみません、本当に居心地が良くて……家族らしい家族に憧れがあっただけで、害意はないんです。もう帰りますね、邪魔してごめんなさい」

 

 ぺこり、と頭を下げる女。イルミは正しいことを言っただけなのに、まるで悪者扱いだ。弟たちの視線は女に同情的で、イルミに対してどこか非難を含んでいる。それも、キルアだけならともかくカルトまでだ。カルトは兄弟の中でも暗殺者らしい性格に育っていると思っていたのに。

 

 

 すれ違うようにして、部屋を出て行く女。イルミは牽制の意味も込め、横目で睨みつけた。少し殺気を飛ばしてやれば、恐ろしくなって二度と訪ねては来ないだろう。

 

 だが、女はもう一度イルミに会釈した。しっかりと視線が合って、微笑まれる。

 それは柔らかい笑みだったけれど、相変わらず瞳の奥は冷たい光をたたえていた。

 

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