第3の人生は冒険者   作:紫蒼慧悟

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サブタイでネタバレしてしまいましたがベル君が中層デビューします。

※ベル君はサラマンダーウールどころか碌な防具を持っていません。


中層

 神ヘファイストスに報告した次の日。天気は雨だった。何気にオラリオに来て初めての雨だ。

 雨の日でもオラリオは特に変わらない。冒険者は朝からダンジョンに向かい、商店は冒険者から金を巻き上げるために店を開く。ただ、いつもより規模が少ないように感じる。誰だって濡れるのは嫌なんだろう。

 天気が変わろうとも、俺はいつもと変わらずダンジョンに赴く。途中で知神(ちじん)の神ミアハから"半分ほど水の特性水増しポーション"を2本貰った。このポーション何故か通常の回復量があるので受け取っているが、今のところかすり傷一つ負ったことがないので荷物になっていく。というか、何故通常の回復量を保ったまま水増しできるんだ?

 さて、昨日は横やりが入ったせいで満足に稼げなかったし、ここは中層まで行くのもありかもしれない。

 思い立ったら即行動の精神で足を速める。

 10階層までをいつもよりも素早く流れるようにモンスターを処理して魔石を回収する。

 

 「今までは10階層までしか行ってなかったからなー、少し楽しみだわー」

 

 自分でもわかるほどに上機嫌で11階層へと続く階段を降りる。今までは効率重視で階段を降りることはなかったので、実は10階層から下は何も知らない。

 11階層は10階層とほとんど同じ構造のようで、天井は高く、霧が出ている。

 出てくるモンスターは10階層から引き続き、豚頭(オーク)蝙蝠(バッドパット)蠅並に鬱陶しい小悪魔(インプ)と見たこともない白い猿だ。

 まずは、武器を振り上げてこちらに疾走してくる豚頭。3体か。

 鞘から剣を抜き放ち、即座に3つの首を落とす。魔石が3つ地面に落ちる。腰後ろにつけているポーチから投擲用のナイフ4つを取り出し、蝙蝠に向けて投げつける。魔石が4つ落ちた。

 遅れて向かってきた豚頭4体を即座に切り捨て、頭上でキーキーと五月蠅い小悪魔を投げナイフで刺し貫く。

 最後に残ったのは、初めて見る白い猿だ。大きさは昨日のミノタウルスと同程度だが、騒音度ではこの猿の方が上だ。

 叫び声を上げながら疾走してくる猿に向かって俺も歩を進める。その距離は直ぐにゼロになった。

 殴りつける為に振り上げた猿の右腕を根元から切り落とし、悲鳴を上げる猿の胴体に横一閃の斬撃をくれてやる。

 魔石にあたって猿は消滅した。同時に猿の魔石は粉々に。

 

 「しまった。魔石を斬ったら報酬が下がるんだった」

 

 失敗だ。次は上手くやろう。

 魔石を斬らないように斬殺しないと稼ぎの効率が落ちる。効率が落ちればその分稼ぎが低下する。

 ただでさえ昨日はロキ・ファミリアのせいで稼ぎが少ないんだ。今日は10万ヴァリス……いや、20万ヴァリス稼ぐつもりでいかないと……

 剣を一閃して、刀身についた血糊を落として鞘にしまう。落ちている魔石を拾い、下に降りる。

 上層の最終階層でもある12階層は更に霧が濃く広がっている。一寸先は闇ならぬ、一寸先は濃霧だ。

 普通であるなら警戒しつつ進むのだろうが、俺は気配でどこに何がいるかは大体わかるので、今までと変わらずに普通に進む。

 出会ったのは大きなアルマジロのようなモンスター。ハード・アーマードだったか?

 丸まって転がってきたので、居合の要領で一閃する。普通に斬れた。

 おかしい。上層で最硬の防御力を誇るんじゃなかったのか?普通に斬れたぞ?

 やはり、上層じゃ作業にしかならんか。腕試しに17階層の階層主(ゴライアス)でも斬りに行きたいが、今は昨日の遅れを取り戻すほうが先だ。

 四方八方から向かってくるボール(ハード・アーマード)を切り捨てながら、足元に魔石を量産していく。

 やはり上層じゃ旨味が少ないか。落ちていく魔石を一瞥し中層辺りに赴くことを思案する。

 向かってくる(モンスター)を全て斬り伏せて魔石を拾う。この量で往復してもたかが知れているのでもうこれは中層に行くしかない。

 他の冒険者も今いる階層に居るわけだが、この濃霧の中じゃ戦闘の音は聞こえても絡もうとするのはいなかった。ならば、魔石を拾い終わったらすぐにでも13階層に向かうことに決めた。

 

 「中層ではもう少し骨のある相手がいると良いんだが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 13階層からは更に地形が変わった。壁や地面、天井の材質が岩盤に変わったからだ。

 しかもランダムに下の階層直通の縦穴もあるらしく、最初の死線(ファーストライン)とも呼ばれる。

 今、俺の目の前にその入り口がぽっかりと口を開けるようにして佇んでいる。

 上層と中層は比べ物にならないそうだが、俺にとっては楽しみでならない。少しは楽しませてもらわないと割に合わないし、何よりも詰まらない。

 

 天然の洞窟のような道を突き進み、最初に出てきたのは白兎(アルミラージ)だった。

 赤い眼に白い毛皮、頭部に一本の角の生えた兎。かなり好戦的な性格なのかこちらを視認した途端に襲い掛かってきた。普通に斬り殺して魔石にしたが。

 ある意味俺にそっくりなモンスターだった。いや、いろんな意味でか?

 落ちた魔石を拾い先へと進む。まあ、直ぐにまた白兎が襲ってきたのでちょこちょこ足を止められながらも13階層を踏破し、14階層へとたどり着く。

 14階層で最初に出てきたのは黒い犬。『放火魔(バスカヴィル)』の異名を持つヘルハウンドだ。異名の名の通り口から炎を放射する。

 流石の俺も熱いのは嫌なので俺に向けて放射された炎を斬り裂き、一足で肉薄して首を斬り裂いて殺す。

 一匹だけなら対処は割と楽だが、群れる習性でもあるのか集団で来る。

 前世以来の緊張感だ。

 いや、シヴァと一昼夜ぶっ続けで戦ってた時も感じてたから、シヴァ以来だ。

 あの馬鹿(シヴァ)の槍の一薙ぎで、丘が消えたからな。掠っただけでも即死レベルだったから頑張って避けた。

 ヤハウェから聞いていた通り破天荒だった。いや、破天荒どころじゃなかったがな。シヴァと一緒に降りてきたパールヴァティが止めてくれたからどうにかなったが。止めてくれなかったらシヴァを殺す羽目になっていただろう。良くて相打ちだったろうから命拾いしたが……。

 未だ14歳の体じゃ前世のような動きは出来ない。全盛期の足元どころか100分の1以下の動きしかできていない。

 歯痒いが、こればかりは仕方ない。今、この未熟な体で無理をすれば成長した時に支障が出るのは明白だ。

 前世では親父殿のせいで一時期剣が握れなくなった。物心つく前から無茶な鍛錬を強要されたせいだろうと当たりをつけていたが妹は特にそんな素振りも無く死ぬ直前まで剣を振っていたが……

 

 「はあ、早く強くなりたい……」

 

 この独白は俺の本心。いや、渇望だろう。

 今の俺にはこの程度の力しかない。前世での自分の動きを力を知っているからこその息苦しさ。

 いくら、モンスターを斬り殺せても、どれだけ魔石を稼げても。未だ遠い目標に比べれば些細なことだ。

 そんなことを考えながらも群れで襲ってくるモンスターを半ば作業のように斬り殺す。

 相変わらず、この世界は動きづらい。いつになったら気にならなくなるんだろうか……




原作との相違点
 ・天気が雨
 ・シルと未遭遇
 ・上層踏破&中層デビュー

ベル君がキチンと最短記録でレベルアップ出来るか心配になってきた。

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