ゲイムギョウ界に来てしまった!?〔改稿中〕   作:ULTRA-7

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今回は忍者っ娘成分多めでお送りします!まさかのフラグにご注意を!


第十三話 観光、時々忍者!?

「やっぱり案の定だったかぁ…」

 

 

 どうもこんにちは、ラステイションに来て二日目の加賀美真司です。

 案の定とは何かって? 今日本来ならノワールとユニちゃんがこのラステイションの街を案内してくれる予定だったのだが…仕事が入ってしまったんですはい。

 二人は申し訳なさそうに俺に謝ってきただが仕事が入ってきたんだからそれは仕方がない。俺は別にいいよと二人に言い、この街の地図を受け取って今現在観光、そしてぶらぶらと散歩中。

 

 

「それにしても本当に工業が盛んな国だよなここ。来た時はチラッとしか見なかったけどここまでにぎわってるのはいいな」

 

 

 こうやって技術を高め合いながら最高のものを作り上げる、プラネテューヌもいいけどこのラステイションもまた違った良さがあるな。

 そう思いながら辺りを見渡す、いいものが見れて何だか嬉しい。

 

 

「キャッ!?」

 

「うわ!?」

 

 

 すると、誰かが俺にぶつかってきた。勢いで尻餅をついてしまう、腰を擦りながら立ち上がり目の前を見ると、オレンジ色のボブカットで露出が高い服を着た女の子がお尻を擦りながら涙目になっている姿が映った。

 

 そしてもう一つ、どうしても目に入ってしまう部分が一つ…

 

 

「いたた…」

 

「…ごく」

 

 

 先の説明でも話した通り、女の子の服の露出度が高いのだ。おわかりか?要はその、胸が…見えてしまいそうな感じの、胸が強調されている様な服装なんです。

 おかげで目を逸らす事が出来ない。と言うよりその一点に目が釘付けとなってしまい、思わず喉を鳴らしてしまう。

 俺だって健全な男だぜ? いくら特撮が好きだと言っても女の子にだって興味はある、ここ最近周りが女の子だけだからなのかそう言った感情が麻痺してるけど…

 と、いかん!このまま目の前のこの胸を凝視し過ぎてたら変態と間違われてしまう。そんな烙印、絶対に押されたくねぇ!?

 

 

「うーん…あ、すいません! 私余所見しちゃってて…」

 

「え、ああ、大丈夫だよ! うん!!」

 

 

 馬鹿な事を考えている間に女の子が起き上がって俺に謝って来た。

俺は慌ててその子に返事を返したが、声が上ずって変に思われていないかと心配になる。

 だが女の子は笑顔になり、そのまま声をかけて来てくれた。

 

 

「よかった~、あれ? そう言えばここら辺では見慣れない顔ですね?」

 

「うん、昨日この国に来たばかりなんだ」

 

「そうなんですか。あ、私の名前はマーベラスAQLって言います、気軽にマベちゃんって呼んでください!」

 

 

 随分変わった名前だな。まるで何処かの企業を思わせる様なそんな名前、だけど出会いがしらの人にちゃん付けでいいって…正直恥ずかしい。

 だけど悪い人ではなさそう、すごく人懐っこそうな感じ。そして笑顔が眩しい優しそうな女の子だ。

 

 

「それはちょっと恥ずかしいからマーベラスで…俺の名前は加賀美真司って言うんだ、よろしくな」

 

「うん! じゃあ真司くんって呼ぶね!」

 

 

 手を差し出されたのでお互い握手を交わす。女の子特有の柔らかい感触が、俺の手の平越しに伝わってくる。

 そう言えばこの世界に来てから女の子と交流する機会が増えてきた様な……うん、確実に増えてる。

 その事は今は置いておこう、今はマーベラスと話していることだし、でも話題は…あ、そう言えば。

 

 

「マーベラスってこの国出身なのか?ここら辺では見慣れない顔って言ってたけど…」

 

「ううん、ここじゃない別の国だけどね。いろんなところを旅して回っているんだ」

 

「そうなのか、となるとマーベラスは冒険家か何か?」

 

 

 なるほど、冒険者だと言うのなら国の事も良く知っている筈。アイエフもかつては冒険者だと言っていた、いろんなところを旅したって言った事が記憶に新しいな。

 その時の武勇伝とか、たまにコンパの補足の黒歴史とか、思い出すと笑える話も多かった。

 あの時のアイエフの慌てっぷり、あ、思い出したら笑いが込み上げてきそうになる。ぷふ……っ!

 

 笑いを必死で我慢している俺、だがマーベラスを見ると首を横に振っていた。

 

 あれ? 冒険者じゃない? そうすると一体何者なんだ?

 

 

「違うよ、私は忍者なんだ!」

 

「……え? 」

 

 

 目が点になる。忍者、忍者ねぇ…カクレンジャーとかハリケンジャーとか戦隊の人達を思い浮かべる。

 だけどあの人達の服装ってマーベラスみたいに派手ではなかった…よな? 

 もう一度マーベラスを見るが、う~ん…だめだ、忍者って感じがしない。

 

 

「あ~、私の話信じていないでしょ! 本当なんだからね!」

 

「あー…うん、ごめん。忍者と言われてもいまいちピンとこなくてさ、俺の世界の忍者とはだいぶ違うイメージだし」

 

「え? 俺の世界って…」

 

 

 マーベラスの反応を見て、思わず口が滑ってしまった事に気が付く。

慌てて訂正しようとしたが、考えてみれば別段隠す様な事でもない。何で隠そうとしたのかな、俺……

 

 

「真司くんもこの世界の人じゃないの!?」

 

「え? 『も』って…」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、俺の目は点になり言葉を失った。

 

 

 

*     *     *

 

 

 

「じゃあマーベラスは別の世界から来たのか、それにネプテューヌ達とは知り合い関係だったなんて…」

 

「それは別の世界のネプちゃんとだけどね。でもネプちゃんとは友達だし一緒に世界を救った事だってあるんだよ!」

 

 

 近くの店で買ったクレープを頬張りながら、俺はマーベラスからいろんな話を聞いた。

 彼女は別次元を渡り歩き、冒険して回ってるのだと言う事。マーベラスだけじゃなく、他にも同じ様な仲間がいると言う事。別の次元にもネプテューヌ達が存在し、彼女達と世界の危機を救ったと言う事。

 聞いただけでどれだ壮大なのかがわかる、俺は始終驚きっ放しだった。

 

 

「でもごめんね。私、真司くんの力になってあげられなくて…」

 

「いいよいいよ、俺がこの世界に来たこととは全く違う方法でマーベラスは来てるんだからさ。話を聞いてもらっただけでもありがたいし俺以外にもそう言う人がいるってだけでも安心したしさ」

 

 

 しゅんとなるマーベラス。何故彼女がこうなってしまったかと言うと、俺が原因なんだ。

 マーベラスがどんな方法で次元を旅してるのかと気になり、俺は彼女の話を聞く事にした。もしかしたら俺の元いた世界に戻るヒントになるかもしれない、そう思ったから。

 そしてもう一つ、俺は彼女に打ち明けたのだ。

 

――元の世界が恋しい…と。

 

 不安だった、もし元の世界に帰れなかったら…俺の家族、友人にも二度と会えないと言う事、それが堪らなく怖かった。

 その事を含めてマーベラスに打ち明けてみた。だけど俺の話を聞いた彼女の表情は段々と暗くなっていく、その表情を見た時、いや…薄々とは感じていた。マーベラスが知っている次元の越え方では、俺は帰る事が出来ないって……

 でも何故か、俺の心が少し軽くなった気がした。その理由は間違いなくマーベラス、彼女に俺の話を聞いてもらったからだと思う。

 俺が感じていた不安、恐怖、その事を打ち明けることが出来た。だから今は、がっかりするどころかマーベラスに対する感謝の気持ちでいっぱいになっているんだ。

 

 

「話を聞いてくれてありがとうな? それじゃあ暗い話はこれで終わり! 気分を変えてラステイション巡りを楽しむとしますか!」

 

 

 残ったクレープを口に放り込み飲み下した。

 湿っぽいのは気分的に嫌だし、せっかくラステイションの観光に来たんだ、楽しまなきゃ損と言うものだ。

 

 

「あ、それじゃあ私が案内してあげるよ!」

 

「え? マーベラス?」

 

 

 いざ気分を変えて観光にと思った時だ、マーベラスから声がかかった。

彼女はラステイション観光の案内を買って出てくれた。先ほどの沈んだ様な表情は見ら

れない、とても良い笑顔で。

 

 

「これでも全部の国のことは知り尽くしてるつもりだよ? 確かに違う世界のラステイションだけど他の次元と比べてもそこまで違いはなかったし」

 

「でもいいのか?迷惑じゃないか?」

 

 

 出会って間もない俺にここまでしてくれるのは嬉しいけど、マーベラスにも何か用事とかあったりしたら悪いよな……

 だが彼女は満面の笑みを浮かべて答えてくれた。

 

 

「そんなことないよ。それにせっかく別次元同士で知り合ったんだしさ! これも何かの記念って事で、ね?」

 

「それじゃあ…お言葉に甘えようかな。よろしく頼むよ」

 

「OK! それじゃあ行こう!」

 

 

 マーベラスが掛け声を上げた瞬間、いきなり手を掴まれてしまった。

 いきなりで思わずビックリしてしまう、かなり積極的な子なんだと内思ったりした。この積極性はネプテューヌにそっくりだ、そう思うと何故か笑いが込み上げてくる自分がいた。

 

 

 

*     *     *

 

 

 

「この展示場はね、いろんな技術者が作った武器や技術を出展する時に使うところでもあるんだ。あの時はいきなり戦闘に入って大変だったけどね」

 

「なるほど、しっかし大きいな」

 

 

 ラステイションの街を抜けたところにある展示場に案内された俺。

 別世界では企業の一つが開発した戦闘マシーンが暴走して大変な事になったんだとか、マーベラスはそんな修羅場を何度も越えて来たんだな……

 

 

「私と別の世界のネプちゃん達はここで初めて出会ったんだよ!」

 

「そうなのかぁ…俺にとっての始まりの場所はプラネテューヌだな。あの時は空から落下したから大変だったけど…」

 

 

 あの時は本当に大変だった。

 パソコンがいきなり光り出したと思ったら急に渦に飲み込まれ、その渦から脱出できたと思ったらそこは遥か上空。

 そこから急降下で落ちて行き、ネプテューヌに助けられたと思ったら首根っこを掴ま

れて意識を失う。

 うん、かなり大変な目にあったと思うぜ…

 

 

「何気に真司くんも大変な目にあってたんだね…」

 

「あはは…それでも俺この世界に来れてよかったと思うよ、ネプテューヌ達にも会えたしさ。もちろんマーベラスにも会えたのも嬉しいぞ?」

 

「え? 私も?」

 

「もちろん! 俺があの時この世界に来れなかったらこうしてマーベラスとも話しもできなかったしさ。俺の事も聞いてくれて、こうやって観光案内もしてくれて…ありがとうな」

 

 

 俺はマーベラスに頭を下げてお礼を言う。 

 出会ったばかりの俺に観光案内どころか話も聞いてくれて、すごく嬉しかった。

 だが決して、ネプテューヌ達と比べている訳ではない。

 彼女達とて、俺の話を聞いてくれる。だけどお世話になっている手前、自分の不安を曝け出してしまったら迷惑なんじゃないか?そう思ってしまった。

 元の世界が恋しくない訳じゃない、帰りたいなと思った事は何度かあった。だけど仮にその事を話したら、今現在俺を元の世界に帰るための方法を見つけようとしてくれているイストワールさん、教会でお世話になっているネプテューヌ達に申し訳が立たない。

 だから尚の事自分の不安を口にする事が出来なかった、だけどマーベラスのおかげで、俺は自分の不安を話す事が出来たんだ。

 

 

「め、面と向かって言われると照れちゃうよ…」

 

「照れる事ないよ、本当に感謝してるんだ。俺の話を聞いてくれて、俺が不安に思った事を聞いてくれて。だからもう一度言わせてほしい、ありがとう、マーベラス…」

 

 

 俺は改めてマーベラスにお礼を言った。

 するとマーベラスの顔は段々赤くなっていき、顔を俯せてしまった。俺がお礼を言った事に関して恥ずかしさを感じたのだろうか? 何にせよ、俺は自分が思ったありのままの言葉を彼女に伝える事が出来た。

 そう思いながら俺は笑う、目の前のマーベラスは顔を更に赤くして頭を掻き毟っているけど…

 そんなマーベラスはプルプルと震えると、だぁあああっ! と大きな声を上げな

がら両腕を天高く上げた。

 その行動に思わずビクッとなり、目を見開いてしまう俺。一体何事!?そう思った時、マーベラスは大きく深呼吸して、その後自分の頬をパンと叩く。

 そしてまたあの笑顔、俺を満面な笑顔で見つめてふんっと鼻を鳴らした。

 まるで気合を入れ直した感じがした。

 

 

「あ~、なんかこの空気苦手だな! それにいっぱい動いたからまたお腹すいてきちゃったよ! 太巻きがおいしいお店知ってるんだけど一緒に行かない?」

 

「何故に太巻き!?」

 

「太巻きは至高だよ、あれさえあれば私はずっと生きていけるよ! いつものご飯の時だけじゃなくて小腹がすいた時も食べてるもん!」

 

「さいですか…」

 

 

 これはかなりの太巻き狂信者…ご飯の時のみならず間食でも太巻き、よくそれでこのスタイルを保っていられると感心してしまう。

 あ、下心があるわけではないぞ? いくらマーベラスの胸に目がいってしまうと言っても絶対にそんな事あるわけないじゃないか、あはは! 

 ……すいません、ちょっとだけ目がいっていました。

 

 

「それじゃあ早速…「キャアアアアアアアア!?」な、何!?」

 

 

 いざマーベラスが俺と共に動き出そうとした時だ、何処からともなく大きな悲鳴が響いた。

 思わず辺りを見渡すが、叫び声の主が見つからない。

 それでも注意深く耳を立てて声を探る、すると何処からか騒ぎ声が聞こえてくるではないか。

 

 

「表通りの方からだ!」

 

「行ってみよう!!」

 

 

 騒ぎ声がする方へ、俺とマーベラスは全速力で駈け出して行く――

 

 

 

―――――――――

 

 

 

「ふえ…ふえぇっ…! 」

 

「おらぁ!! 近づくとこのガキぶっ殺すぞ!!」

 

「…っ! マーベラス、ストップ!」

 

「え? 真司くん…あ!」

 

 

 全力で動かす足をどうにかして急停止させ、マーベラスにも止まるように促す。そして丁度曲がり角の死角になる付近、そこで俺達は身を潜めた。

 そこから少しだけ顔を出し、様子を窺う。そして目に映った光景、それは小さな子供が大柄の男に捕まえられナイフを首元に突き付けられている姿だったのだ。

 子供は泣きながら震え、その子の親であろう女の人は口元に手を当てて泣きながらおろおろしている。周りの大人は動かない、と言うより子供が人質にとられているせいで下手に動けないでいた。

 

 

「まずいな…ナイフを持ってる男興奮してる、このままじゃいつあの子供に突き刺すかわからないぞ…」

 

「でもどうにかして助けなきゃ…」

 

 

 互いに苦虫を噛む様な表情になる俺達。確かに助けには行きたい、だけど今ここで下手に動いたらそれこそあの小さな子に危害が及ぶ。勇気と無謀は違う、今はこのままジッと耐えるしかない。だけど、それだけではだめだ。

 このまま誰も動かずあの子が連れ去られてしまったら? その途中であの子が大怪我を負ってしまったら? その前にあの男があの子にナイフを突きつけるかもしれない、どちらにせよ手遅れになる前にどうにかする他ない、だがその方法が見つからないのもまた事実だ。

 

 

 

「真司くん…」

 

「え?あ…ごめん、マーベラス。…くそっ!」

 

 

 マーベラスは少し悲しそうな表情で俺を見つめて声をかけてくる。

 俺の気持ちを悟ってくれたか、彼女は今俺の手に優しく自分の手で触れていた。

 自分の手を見ると、汗ばんで震えている。不安と緊張、恐怖からきたものなのだと思う。

 

…情けない、まったくもって情けない!!

 

 今一番恐怖を感じているのは人質にされているあの子供だと言うのに、俺は何もしないで臆病風に吹かれているなんて!

 思わず歯を食いしばる。握り拳を更に強く握り、壁に向かって思いっきり叩き

つける。

 そのせいで手からジワリと血が滲み出て、徐々にだが痛みも伝わってきた。だけどそうでもしないと、今の自分の感じている気持ち、悔しいと言う気持ちを押さえる事が出来なかった…

 

 

「くそっ…! このままじゃいけない、いけないのに…っ!」

 

「…真司くん」

 

「…マーベラス?」

 

 

 不意にマーベラスに声をかけられる。マーベラスを見ると、今の彼女の表情はすごく真剣で、息を飲んでしまうほどだった。

 

 

「真司くん、助けよう?あの子を…」

 

「マーベラス…だ、だけど今俺達が下手に動いたら…」

 

「確かに動かないで待つ事は得策かもしれない、だけどあの子は今助けを求めてる。だったらそれに応えてあげるのが私達大人の役目、少なくとも私はそう思う…」

 

「………」

 

「それに、目の前で助けを求めてるのに…助けられる、手が届く場所にいるのにただ動かないなんてこと、私は…したくない」

 

「っ!」

 

 

そうだ、考えれば…いや、考えなくても当たり前な事だったじゃないか。

 

目の前に助けを求めている人がいる、俺達は今その人に手が届く場所にいるんだ。それなのに伸ばさない、ただジッと待つなんてしたい筈がない。していい筈がない!

 ノワールにだって似た様な事を言ったくせに、もう忘れてたのかよ俺…それにネプテューヌを助けるために立ち向かった、ついこの間だって、ロムちゃんとラムちゃんを助けるために行動した。ベールさんの手助けをするためにも行動したじゃないか!!

 マーベラスのおかげで思い出す事が出来た。俺自身の今までの行動、そしてその想い…

 

 

「あ…ご、ごめんね!私ったら変に熱くなって…」

 

「…助けよう」

 

「え?」

 

「助けよう、マーベラス。あの子を…いや、絶対に助ける!」

 

 

 決意を新たに、拳を思いっきり握りしめた。

 今はもう恐怖は感じない、焦りも不安も不思議と感じなかった。今あるのはあの子を助けたい、ただ一つの想いだ。

 その想いを出させてくれたマーベラス、本当に彼女には感謝だ。もしこの場に俺が一人だけだったのなら、間違いなく途方に暮れていたと思う。本当に感謝だ…

 

 

「…うん! 助けよう、真司くん!」

 

「ああ! だけど具体的にはどうすれば…」

 

「その事なんだけどちょっとお耳を拝借…」

 

 

 俺の耳にマーベラスの口元が当てられる。こそばゆく、彼女の吐息がかかり思わずドキッとしてしまった。今この場では不謹慎だと思うが…

 だがマーベラスの口から出た提案。それを聞いたら段々と口元がヒクつき始め、嫌な汗が額から流れ出た。

 一通り提案を話し終えたマーベラス、その表情はやはり素晴らしいまでの笑顔である。俺はヒクつきながら、マーベラスに顔だけを向けた。

 

 

「お、俺って結構重要なポジションだったり…? 」

 

「ごめんね? でも今のところこの方法しかない、真司くんが頼りだよ」

 

「…が、頑張る!!」

 

 

 意気込んだ声を出して深呼吸、両頬を思いっきりパンッ! と叩き気合を入れる。…よし、大丈夫。

 今はあの子を助ける事に集中するんだ、絶対に…助けるんだ!

 

 

 

*     *     *

 

 

 

「このガキを助けたけりゃ金と逃走用の車を用意しろ!!」

 

「うえぇっ…!」

 

 

 むやみやたらに叫ぶ男。その手にはギラリと凶暴な光を放つナイフ、その先端の先には小さな子供の首が。ナイフの先端は子供の首に今にも刺さりそうな距離にある、今にも突き刺さってしまうかもしれないと言う恐怖、その恐怖からか子供はただ泣き叫んだ。

 それを見ている周りの人達は動けない。ただ歯を食いしばり、そしておろおろしながら見ているしかなかった。

 その中でも子供の母親であろう人は泣き崩れている、自分ではどうする事も出来ない…不甲斐ない気持ちが周りにも伝わってくるのがわかる。

 

 

「ああ…どうすればいいの…」

 

「くそ! 子供を人質にするなんて…」

 

「どうとでも言え! ははは!!」

 

 

 その様子を見ている男は高笑い。

 彼の良心は痛みを感じる事なく、ただ自分の事しか考えていない。どうやってここから逃げ出すか、手に入れた金や車をどう使うか…まさに私利私欲、欲望まみれの考えしか頭になかった。

 

だがその時だ――

 

 

「ちょっと…いいですか?」

 

 

 男の前にふらりと誰かが現れ声をかける。

 周りにいた人達は目を見開き、男は警戒心を強めて手にするナイフに込める力を強くする。

 男の目の前には一人の人が立っていた。男を見据え、キッと鋭い目つきで睨みつけるその人。その人物は…真司だ。

 真司はゆっくりと男に近づく。それを見た男はハッとして、警戒心むき出しの表情になり、手にするナイフを真司に突き付けた。

 

 

「なんだてめぇは! このガキが見えねえのか!!」

 

「それはわかっています、その事で一つ提案があるんですが…」

 

「は…? 提案だぁ?」

 

 

 真司の言葉に唖然とした表情になる男、そして周りの人達はざわざわと騒ぎ出す。

 真司の行動に誰しも動揺を隠せない、今下手に喋りかけてもしょうがない筈なのにと誰もがそう思った。

 だけど真司はそんな人達には目もくれず、ただジッと男を見据えている。いや、傍から見るとそう見えるのだが…内心は相当緊張して焦っていた。

 

 

(よし…俺の話に乗ってくれた。ここからだ、ここからが大切だ。ここでどうにかしてアイツの注意を俺に向けてくれさえすれば…)

 

 

 額から汗が滲み出る真司、緊張と焦りで身体が震え、ゴクリと喉を鳴らす。だがここで怖気づくわけにはいかない、目の前にいる泣いている子供を救うためにも、その想いが今の真司を奮い立たせた。

 自分を落ち着かせる様に深呼吸。辺りがまだざわつく中、再び真司は男を見据えた。

 

 

「その子に代わって俺が人質になるというのはどうでしょう?」

 

「てめぇが身代わりだと?」

 

「はい、その子はまだ子供ですよ? 殺すことには罪悪感を少なからず感じる筈です。それに逃走する時邪魔になりかねません、その点俺は大人だ、殺す事に躊躇わなくてもいいしいざという時には楯にできる。利用価値は十分あると思いますが…」

 

 

 ざわついていた人達の声が更に大きくなる。今彼は何と言った?自分が身代わりになると?

 

 中には勇気あるものと考えた人もいただろう―

 

 中には無謀だと思うものもいただろう―

 

 だが今の真司にとってはそんな事などどうでもよかった。

 目の前の男の注意を引く、その役目(・・)を全うするために全神経を集中させる。

 話を終えた真司。息が荒くなりそうなところを必死で抑え、口の中の唾をゴクリと飲み込んだ。

 

 

「くく…なるほどな。確かにその方が効率もいい、この泣き喚いているガキを連れて行くよりかは幾分マシかもなぁ?」

 

 

 真司の言葉を聞き終えた男、男は子供に突き付けていたナイフを離しクルクルと手元で回しながら弄ぶ。

 顔はにやけ、口元をつり上げながら気持ちの悪い笑みを浮かべた。

 

 周りの人達は期待する、もしかしたら子供が助かるかもしれない。

 だが真司の事も考える、この人はどうなってしまうのか?希望と絶望が渦巻く様な空気がここにいる全員を飲み込む。まさに緊迫した状態…

 

 

「どうでしょう? 悪くない案だとは思うんですが…」

 

 

 真司は男に語りかける、その頬からは汗が一滴、ツーッと流れ地面に落ちた。

 男の方はと言うと相変わらずのにやけた顔、気持ちの悪い笑みを崩そうとはしない。 弄んでいたナイフを持ち直し、峰の方で肩をトントンと叩きながら、真司の方へ視線を向けてつり上げていた口元を更につり上げ、小さく笑い声を出した。

 

 

「へへ…そうだな、お前の案に乗ってやる…と思ったか!!」

 

「っ!」

 

 

 言葉を放つと共に子供の服の襟首を掴み、そのまま真司目掛けて走り出す。そして手にするナイフを真っ直ぐに向け、突進の勢いを利用して真司に突き刺そうとしてきたのだ。

 男は端から真司の提案を聞く気などなかった。今の今までここからどう出し抜いて逃げ切り、自由になろうかと模索していたのだ。

 

 

「俺はてめぇみたいな正義面する様なやつが大嫌いなんだよぉっ!!」

 

 

 男の叫び声が木霊する、それだけではなく捕まっている子供の泣き声、周りにいる人達の声が嵐の様に響き渡った。

 そして全員の視線が真司に集中し、中には手で目を覆う人もいた。どう考えてもこのままじゃ真司が危ない、絶対に殺されてしまう、誰しもがそう思った事だろう。

 だが…

 

 

「…はっ」

 

 

 真司は何故か……笑っていた。

 まるで何かに成功してその事にホッと胸を撫で下ろすかの様な、そんな表情で。

 

 

「…この世の中に、不味い飯屋と悪が栄えた試はないってな」

 

「意味わかんねぇ事言ってんじゃねぇよぉおっ!!!」

 

 

 真司の言葉を聞いて更にナイフを握る力を強くし、全速力で突進する男。だが真司の笑みは崩れない、それは何故か?それは至極簡単な理由だ。

 

 

「今だっ! マーベラスっ!!」

 

 

 彼には――

 

 

「任せてっ! せりゃあっ!!」

 

 

 友が、マーベラスAQLと言う最大の秘策があったからだ。

 

 

「何っ!? うごぁっ!?」

 

 

 男は背中に飛び蹴りを喰らう。そして盛大に転倒すると、掴んでいた子供がその勢いで上空へと投げ出されてしまう。

 だがマーベラスAQLに抜かりはない。

 飛び蹴りの後すぐに地面へと着地するマーベラスAQL、そして徐に自分の胸元に手を掛けた。そこから何かを取り出す、それは…巻き物だ。

 その巻き物を口に銜えて素早く手を合わせ、人差し指を立てながら印を結ぶ。

 するとどうだろうか、マーベラスAQLの周りから巨大な風が巻き起こった。その風は上空へと飛ばされた子供のいる場所まで吹き込む、その風は子供の身体を優しく包み込み、マーベラスAQLの下へと運んで行った。

 そしてしっかりと運ばれた子供を抱きかかえ、とびっきりの笑顔を向けたのだ。

 

 

「よしっと! もう大丈夫だよ~?」

 

「ふぇ…ふぇえっ!」

 

 

 今までの恐怖、そして助かったという実感から子供は途端に泣き出した。それをマーベラスAQLはあやす様に抱きしめ、ゆっくりと背中を撫でて落ち着かせる。

 人質となった子供は、こうして無事に解放される事となった。

 

 

「うぐっ…! ぐぅうううっ…!」

 

「マーベラス、やったな…!」

 

「うん! 真司くんのおかげだよ!」

 

 

 飛び蹴りを喰らった男は地面をのた打ち回る。あまりの痛さに、その口からは苦痛の声が漏れていた。

 その近くで真司とマーベラスAQLはハイタッチ、共に人質が解放された事を喜ぶ。

 

 真司が今まで男に声をかけていた理由、それはこの人質解放までの布石だったのだ。真司が男の注意を引き、マーベラスAQLが子供を救出する作戦である。

 だったらそのまますぐに助けに行けばいいだけの話だと思うかもしれない。だが仮にそうした場合、絶対に子供の身に危険が及ぶ。それだけではない、この作戦ではマーベラスAQLの存在を絶対に気づかされない事も条件だった。

 彼女の存在に、男だけではなく周りの人達も気づいて声を出してしまった場合、それこそ子供の身に危険が及ぶ。だからこそ真司が、男や周りの人達の注意を自分に向ける事が必要だったのだ。

 それが功を奏し、現在の人質解放までに至る。後は男を拘束し、警察に届けを出すだけとなった。

 

 

「ぐぅ…っ! っの野郎がぁっ!!」

 

「え? きゃあっ!?」

 

「っ! マーベラス!」

 

 

 だが安心しきっていた、倒れていた筈の男が怒りに震えて起き上がり、ナイフを自分を蹴り飛ばした相手に…マーベラスAQLに向けて突き刺そうと突進してきたのだ。

 このままでは確実に突き刺さる。避けようとするが、マーベラスAQLは今子供を抱えている状態だ。身動きが取れない、マーベラスAQLはその事実に気が付くと、とっさに子供を抱きかかえ身を丸くした。

 

 

「っっっ!!」

 

「死ねやぁっ!!」

 

 

 男はもう目前に迫って来ている。

 目を固く閉じ、次に来るであろう痛みを覚悟しながら歯を食いしばった。

 だが痛みは来ない、代わりに来たものは何故か自分の身体を包む温かな温度と感触。恐る恐る目を開ける、そして気が付くと…

 

 

「て、てめぇ!?」

 

「俺の友達に…手を出すなっ!」

 

 

 真司が自分を抱き抱え、男のナイフから身を挺して守る姿が目に映ったのだ。

 

 

「この野郎っ!!」

 

 

 だが男の方はそれに怯まず再びナイフを構える、だが時すでに遅し、真司の手元にはアイエフから譲り受けた護身用の剣が握られていた。真司は剣を振りかぶり、思いっきり振り降ろすと男が持つナイフを叩き落とした。

 そして一旦マーベラスAQLから離れると、剣を素早く逆手に持ち替え、男のみぞおち目掛けて剣の柄を思いっきりめり込ませた。

 

 

「かっ…は…っ!?」

 

「食べ物を粗末にする事、女の子を泣かせる事、男がやっちゃいけない行為なんだぜ?お前の場合は後者の方だけどな…」

 

「う…ぐ…っ」

 

 

 真司の一撃によりぐったりと倒れる男、前のめりに倒れそうなところを真司は両腕で抱えながら地面に下ろした。

 男は完全に気絶し、もう身動きが取れない状態となったのだ。真司はその様子を見てホッと胸を撫で下ろすと、呼び出した剣を消し、マーベラスAQLの下へ駆け寄った。

 

 

「マーベラス! 怪我は無いか!?」

 

「う、うん。大丈夫…真司くん! その腕!!」

 

「腕? あ…」

 

 

 マーベラスAQLの言葉を聞いて真司は自分の腕に、右腕に目を向けた。すると服が裂けていて、その上からジワリと血が滲み出ていたのだ。

 どうやら先ほど男のナイフが腕を掠ったらしい。

 

 

「大丈夫!? 私を庇ってくれたから…」

 

「あー…うん、平気平気。掠っただけだし、特に痛みもないから」

 

「そのままじゃダメ! ちょっとジッとしてて!!」

 

 

 自分の腕を押さえる真司。だがマーベラスAQLはその腕を強引に掴むと、自分の右腕に巻いていたバンダナを取り外して真司の腕に巻き付け止血する。

 その間のマーベラスAQLの表情は険しく、申し訳なさそうに顔を俯せていた。

 

 

「ごめんね、ごめんね…私が油断してたから…」

 

 

 何度も謝るマーベラスAQL、その瞳からはジワリと涙が溢れた。そしてそのままの状態で沈黙してしまい、言葉が続かなくなってしまった。

 結果論とはいえ自分が油断して怪我をさせてしまった、その事が申し訳なくてどう声をかけていいかわからない、そんな様子だった。

 だが、真司は左手をポンとマーベラスAQLの頭に乗せる。そしてワシャワシャとがむしゃらに彼女の頭を撫で回した、マーベラスAQLに負けないくらいのとびっきりの笑顔で。

 

 

「ふぇ!? し、真司くん…!?」

 

「気にすんな、怪我した事は事故だ事故。それに子供は助かったんだからそれでいいじゃないか、この怪我がその代償なら安いものだって。それにマーベラスに怪我がなくってよかったよ」

 

「で、でも…」

 

 

 笑いながら頭を撫でて語る。その表情からはマーベラスAQLを責める様な感じは見られない、あるのは子供が助かった喜びと友に怪我がなかった安心感だ。

 だがそれでもマーベラスAQLの顔色は優れない。いくら真司が笑いかけてくれても、そう簡単に割り切ることが出来なかった。

 だがそんなマーベラスAQLの肩に、再び真司の手が触れた。パッと顔を上げるマーベラスAQL、目の前の真司の顔は…またしても笑顔だった。

 

 

「俺は大丈夫、ちゃんとこうして無事だから。今は悲しむ事より喜ぶ方を優先しようぜ? 子供も無事に助かった、俺も小さな怪我だけで済んだ、そしてマーベラスは怪我一つなく無事だった。俺はそれで満足だ」

 

「真司くん…」

 

「それに知ってるか?俺が受けたのは傷じゃない、宇宙ではこう言った傷は男の勲章って言うんだぜ? これは俺にとって胸を張れる勲章、子供を助けられてマーベラスも助けられた、最高の勲章を俺はもらったんだ。俺嬉しいよ、子供だけじゃなくマーベラスも助けられた事が、本当に」

 

「っ…」

 

「だからさ…その、まぁ俺が言いたい事はさ。俺は全然気にしてないから、マーベラスはさっきまでの様に笑顔でいてくれって事! マーベラスの笑顔、俺すっごくいいと思ってる。それに、か…可愛いと思うし…」

 

「っ! …ありが、とう…」

 

 

 照れ隠しする様に最後の方の言葉は早口になる真司、その後は目を逸らしながら、頭をガシガシと掻きまくる。

 マーベラスAQLはと言うと、俯きながらも口元は笑っていた。

 そして若干だが頬が少し赤い、自分の胸に手を当て、何かを思っている様だ。

 何やら甘い様なムードが漂う、真司もマーベラスAQLも互いに声をかけづらい状態となってしまった。

 

 

「おかぁさぁんっ!!」

 

「ああ…よかった…本当によかった…っ!!」

 

「お前達すげぇよ!! よくやってくれた!!」

 

「「…あ」」

 

 

 だがそんな状態はそう長く続かなかった。

 周りの人達からの歓声、それが二人の思考を現実へと引き戻させたのだ。

 子供とその親は泣きながら抱き合い、周りの人達は人質が解放された喜びに声を上

げていた。

 すると子供の親であろう母親が、真司とマーベラスAQLに泣きながら何度も頭を下げてお礼を言い続けた。

 

 

「ありがとうございます、ありがとうございます!! 本当に…何とお礼を言ったらいいのか…」

 

「え? あー…そんな事いいですよ。俺達は別に…な? マーベラス」

 

「あ、うん! それよりもお子さんが無事で何よりです」

 

 

 真司達の言葉を聞き、更に頭を下げてお礼を言う母親。それを聞いた真司達は互いに見つめ合いながら笑った。

 

 こうして人質事件は幕を閉じる事となった。

 余談だが真司とマーベラスAQLは、この後来る警察に事情聴取を受け時間を潰されるはめになったのはまた別の話である。

 

 

 

*     *     *

 

 

 

「はぁ…すっかり日が暮れちゃったな」

 

「そうだね、事情聴取があそこまで長引くなんて思わなかったし」

 

 

 ラステイションで夕日を一望できる橋の上で佇みながら、俺とマーベラスは一息つく。

 人質事件の後、俺とマーベラスは警察から事情聴取を受けて漸く解放された。あれは長すぎ、もう二度と受けたくない…そう思いながら再び溜息、だけど今は開放された安心感に浸る事にしようと思う。

 

 

「…真司くん」

 

「ん? マーベラス、どうかした?」

 

「あの時はありがとう…私を助けてくれて」

 

 

 それは唐突だった。安心感に浸っている最中、マーベラスが声をかけてきたかと思うといきなりお礼を言ってきた。

 

 

「え? あ…その、どうしたんだよ、いきなり」

 

 

 いきなりで少し慌てたけど、俺はどうにかして取り繕った。

 たぶん今の俺の顔は引きつっていると思うけど…

 それとは正反対に、目の前のマーベラスは優しそうな表情で微笑んでいる。その表情はバックにある夕日と重なった。

 

 それを見た俺は、心臓が跳ね上がりそうになった――

 

 マーベラスはこんなに綺麗だったっけ?いや、マーベラスは綺麗だと思う。だが俺が今思っている綺麗はたぶん別の意味、最初に思った彼女は可愛いと言う言葉が合う。

 だけど今は…その、女性らしいと言うか…何と言うか…ええい!自分が何を言いたいのかさっぱりわからん!!

 

 

 

「私が刺されそうになった時、私を庇ってくれたよね。いきなり抱きしめられる形になっちゃってたからビックリしたけど…」

 

「あ…悪い、嫌だったか…?」

 

 

 あの時は必死で、庇うためとはいえ思いっきり抱きしめちゃったからなぁ…しらない間に不快な思いをさせてしまったのかも。

 俺は頭を下げて謝る、だがマーベラスは両手をブンブンと慌てながら振った。

 

 

「ち、違うよ!? 嫌とかそう言う事じゃないの! 確かにビックリしたけど、あれは真司くんが私を守るためにしてくれた事だってちゃんとわかってるから」

 

「そ、そうか…? それならよかった…」

 

「逆に…嬉しいって思ったもん」

 

「え?」

 

 

 マーベラスに不快な思いをさせていなかった事にホッと胸を撫で下ろす。

 だがその代り嬉しいとの一言、俺はその言葉で目を瞬きさせた。

その様子が可笑しかったのか、マーベラスは口元に手を当ててクスッと笑いながら話を続けた。

 

 

「今までずっと戦ってきて私は守る側だったから。あ、私がまだ弱かった頃は守られてばかりだったけど…最近じゃそう言った事も無くなって、私が守ると言う事が当たり前になってきて…だから尚の事嬉しかった、真司くんが私の事を守ってくれた事が。そのせいで怪我をさせちゃったけど…」

 

「いや、だから怪我の事は…」

 

「わかってるよ、真司くんが気にしてないって事。だけどここでもう一度言わせて? 真司くん、私を守ってくれてありがとう。私、本当に嬉しかった…貴方のおかげで私は今、怪我もなくこうして無事でいられる。本当に、ありがとう!」

 

 

 お礼の言葉と共にとびっきりの笑顔。この笑顔は最初に彼女に会った時見た笑顔同じもの、どうやら調子を取り戻した様だ。

 それを見た俺はかなり気恥ずかしいのだが…

 

 

「な、何かこうして改めてお礼を言われると照れるな…だけど、俺もマーベラスを守れてよかったって思ってる。マーベラスみたいに可愛い女の子が怪我をしちゃったら嫌だし、女の子の怪我は一生ものだから尚更だしさ」

 

 

 どうにか気恥ずかしさを押さえて、俺もマーベラスに返事を返す。 

 確かに怪我をしちゃったけど、あの時言った通りこの傷は俺にとって勲章だ。

 マーベラスを、友達を守れたって言う最高の勲章、この気持ちに嘘は無い。

 

 だが俺の言葉を聞いた途端、マーベラスの顔が段々と赤くなっていった。

 

 

「え? か、可愛いって…い、いきなり変な事言わないでよ!?」

 

「へ、変な事って…別に冗談とか嘘とかじゃなくって本当の事だし…」

 

「だったら尚更困るの!!」

 

「えー…」

 

 

 すごい理不尽を見た…俺は一体何をやらかしてしまったんだろうか? 俺はただ正直にマーベラスの事を述べただけだよな? その中にマーベラスをあの状態にさせてしまう要因があったと言うのか!? 頭に手を当てて考えるも何も思いつかない、うむ…お手上げだ。

 

 

「えっと…とりあえずごめん?」

 

「……何でそこで疑問形なの?」

 

 

 うう…顔を赤くしていたと思ったら今度はジト目、俺には逃げ場がないとでも言うつもりかコンチクショウ!?思わず地面に突っ伏したくなる衝動に駆られるよ…グスン。

 

 

「…ぷっ、もう、真司くんったら。何かごめんね? 私が変な事言っちゃったから」

 

「うぇ? あ、ああ…それはもういいよ。俺も気にしてないから…」

 

「とてもそうは見えないけど…う~ん、えい!」

 

 

 マーベラスは掛け声と共に俺の手を握る。そしてブンブンと上下に振りながら

俺に再び笑顔を向けてくれた。

 

 

「今日は本当にありがとう、真司くん! もしまた会えたら今度こそ一緒に太巻きを食べよう!」

 

「太巻きは外せないのね…っし、なら俺も!」

 

 

 俺はマーベラスの手を握り返す。

 更に互いに拳を打ち合い、俺の拳がマーベラスの拳の下から上へと打たれた。仮面ライダーフォーゼ、如月弦太郎が友達と認めあった証、『友情のシルシ』である。

 一通りの動作を終えると、俺もマーベラスに笑顔で応えた。

 

 

「今日はありがとうマーベラス、すごく楽しかった! また会えるよな?」

 

「…うん! 絶対にまた会おう!」

 

 

 マーベラスは手を離すとそこから走り出す、互いに手を振りながら姿が見えなくなるまで声をかけ合った。

 

 今日と言う出会いを俺は絶対に忘れないだろう。

 マーベラスと言うかけがえのない友達がまた一人増えた、最高の日を。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 走る、ただひたすらに――

 

 私は走る、満面の笑みで――

 

 私はそこで止まる、先ほど彼と握手した右手を眺めながら――

 

 

「はぁ…ふぅ…真司くん…えへへ!」

 

 

 さっきの事を考えたら思わず笑い声を上げてしまった。

 ただ単純に友達が出来た事に喜びを感じてるのか、笑い合えたのが楽しかったのか。 それとも…

 

 何故か先ほどから感じている、胸が高鳴る気持ちに何かを感じているのか――

 

 それは定かではない。

 

 だけど何故かこの気持ちは嫌じゃなかった。

 トクントクンと心臓の音が高鳴って、胸の奥が温かくなるこの気持ち。

 今までに感じた事のない感情、普通なら不安に感じる筈なのにそれがこれっぽっちも湧き起こらなかった。

 彼に守られた事が嬉しい、可愛いって言ってもらえた事が嬉しい。そんな想いに私は浸っていた…

 

 

「随分と楽しそうな顔をしてるじゃないか?」

 

「どうしたの? マーベラス?」

 

「え? MAGES.! ファルコム!」

 

 

 後ろから誰かが話しかけてきた。

 振り返るとそこには見知った顔が、私の仲間の内の二人が怪しげな笑みとキョトンとした表情をして立っていた。

 青髪で魔女帽子、杖を持っている女の子の名前はMAGES.、赤髪をポニーテールで纏めている女の子の名前はファルコム、私の大事な仲間。

 するとMAGES.がニヤリと口元をつり上げながら私に話しかけてきた。

 あれ?何だか嫌な予感しかしない…

 

 

「どうやらよほどいい事があったと見える。察するに…男だな」

 

「ふぇ!? ち、違うよ! 真司くんとは…あっ!」

 

 

 慌てて口を塞いだけど時すでに遅し。

 MAGES.は更にニヤリと不敵な笑みを浮かべ、ファルコムはすごく興味津々な表情になって自分の身を乗り出してきた。

 

 

「へぇ~、もう名前を呼ぶまでの仲になったんだ。マーベラスってば抜け目がないね!」

 

「だからそんなんじゃないってば!!」

 

「わかったわかった、それじゃあみんなで今日マーベラスが体験した事を聞こうじゃないか」

 

「それ賛成!」

 

「何でそうなるのぉ!?」

 

 

 気がついたら既に私の事でこの場が持ちきりになってしまった。

 何度も抗議するけど二人は笑いながら『わかってるわかってる』の一言、この二人絶対にわかってない!? ある事ない事ほかのみんなにも言う気だ!? うう…絶対に何日かこのネタを引っ張り出されるんだろうなぁ…でも。

 

 

(でも、ちょっとは気になる…のかな?真司くんの事、でも友達になれたのはすごく嬉しい…それは絶対に変わらない)

 

 

 そんな思いを胸に、私は笑う。

 

 私を見て首を傾げた二人を背中に、顔を上げてグッと背伸び。そしてゆっくりと肩を下ろし、落ちて行く夕日を見つめた。

 

 

――真司くん、いつかまた…

 

 

 

*     *     *

 

 

 

「はい、これでお終い!」

 

「いででっ!? もうちょっと優しくしてよ…」

 

 

 マーベラスと別れた後、俺は真っ直ぐ教会へと戻った。

 だがそこからが大変だった……ノワールが俺の腕を見るや否や急に慌てだし、強引に腕を引っ張り傷口を見る。すると一体何があったのだと問われ、人質事件でこうなったと話をした。するとすごい見幕で怒りだし、そのまま現在の治療に至る。消毒液が沁みるぜ…

 

 

「真司が無茶した罰よ! 私には散々無茶するなって言ったくせに。でも…ごめんなさい、でもまさか私の国でそんな事件が起こるなんて…私の失態だわ」

 

「ノワール…」

 

 

 ノワールはしょんぼりとした表情になり、顔を俯せてしまう。

 自分の国でこんな事件が起こってしまったのだ、無理もない。

 だけどそれはノワールが謝る事ではない筈、これは人の心が招いてしまった不幸な事故だったんだ。

 だからこそ、俺に言える事がある。

 

 

「これからそうならないためにまた頑張ればいいんだよ、ノワールは今まで頑張ってきたんだから絶対にできるさ。一人が無理ならみんなもいる、俺だって力になる。だからさ、元気出そうぜ?」

 

「真司…ありがとう」

 

 

 ノワールに笑いかけながら、俺は思った事を口にした。

 起こった事はどうあっても変える事は出来ない、なら今後こうならないために頑張ればいい。それに一度経験したからこそ同じことを未然に防ぐことも出来る。そのための努力なら、俺は協力を惜しまない。ネプテューヌ達だって絶対に協力してくれる、だってみんなは仲間なんだから。

 

 

「それに悪い事ばかりじゃなかったぞ? ラステイションのいいところはたくさん見れたし。それにマーベラスが観光案内してくれたし」

 

 

「…その時々出て来たマーベラス? って誰?」

 

 

 おや?何だろう、何だか背筋がゾクゾクしてきた。ここ冷房効き過ぎじゃない?

いや違う、冷房の温度を見てみると普通の温度だ。

 なら原因は一体…

 そう思いノワールに目を向ける、だがノワールは、俺に向けて何故か鋭い視線を向けていたのだ。

 それも、絶対零度の視線で。

 

 

「え? の、ノワール…?」

 

「そのマーベラスって、誰?」

 

 

 その視線のまま、俺にもう一度同じ質問をしてきた。

 と、とりあえず説明した方がよさそうだ、そう思い深呼吸、俺はマーベラスの事を話す。

 

 

「え、えっと…マーベラスAQLって名前の女の子で……」

 

「女の子……真司は知らない女の子と一緒にいたのね…?」

 

「まあそうなるかな…?でもすごくいい子で今回あの子がいなかったら今日の事件も解決しなかったし…」

 

「…ふん!」

 

 

 マーベラスの事を話し終えた途端、ノワールが何故か怒り出して立ち上がる。

 そして俺に背を向けながら、スタスタと早歩きで俺の傍から離れて行ってしまた。

 

 

「ちょっ、ノワール!? どうしたんだよ!?」

 

「知らない!!」

 

 

 呼び止めるもノワールは全然足を止めてくれなかった。

 その間にもずっと怒っていて、理由を聞こうとしたけど俺の言葉に聞く耳を持ってはくれなかった。

 俺、何か悪い事を? 彼女を怒らせるような事をしてしまったのか……? 考えても何も思い浮かばない、結局どうすればいいかわからずに終わってしまった。

 

 

(何で私こんなにムカムカしてるのよ…真司が知らない女の子と一緒にいたってだけなのに…)

 

 

そして彼女、ノワールは自分の胸の疼きに、感情にまだ気づいていない――

 




いかがだったでしょうか?次回はノワール成分マシマシでお送りします!(たぶん…)
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