ゲイムギョウ界に来てしまった!?〔改稿中〕   作:ULTRA-7

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みなさんお待たせして申し訳ない…仕事やらで忙しくついにはこんな時期に。
投稿スピードはかなり遅くなると思いますが続けるのでご心配なく。

それではクリスマス編第二話をどうぞ。


クリスマス特別編その2 作戦開始!

 カタカタカタ…何かを叩く音が響き渡る。

 その音の先を見てみると――

 

 

「ここはこうで…あれはこうで…」

 

 

 そこにはキーボードを叩きながら、ぶつぶつと呟くネプギアの姿があった。

 だが今の彼女、普段の柔らかそうな雰囲気がまるでない。ものすごくピリピリしている様な、切羽詰った様な、そして疲れ果ててる様な表情をしていた。

 そしてそのネプギアの隣から、ダン! ダンッ!! と、大きな物音が聞こえてくる。

 

 

「100枚目…これで…101枚目っ!」

 

 

 その音の正体、それはネプテューヌが一心不乱に書類に判子を押している音だった。

 だがその書類の量も尋常ではない。今彼女が数えた通り、100枚は越えているのだが…その机の周りには書類がまだ山の様に詰まれていた。

 判子を押せども一向に終わる気配がない。それにげんなりしたのか、ネプテューヌはとうとう机にバンッと音を立てながら突っ伏してしまった。

 それを、この部屋に一緒にいたイストワールが、心配そうに二人に近づく。

 

 

「うぇ~ん…終わらないよー…」

 

「本当だよね…さっきから作業してるのに全然減らないし…」

 

「お二人とも本当にすいません…あ、仕事もう5件追加みたいです」

 

「「うそぉっ!?」」

 

 

 仕事が減らないうえに更に仕事の上乗せ。イストワールの宣告にネプテューヌとネプギアは思わず声を張り上げてしまった。

 その姿を見たイストワールは申し訳なさそうにしょんぼりする。

 そんな時、バンッ! と、勢いよく部屋のドアが開いた。部屋の中にいたネプテューヌ達は、一斉にドアの前に視線を集中した。

 

 

「イストワールさん! ただ今戻りました!!」

 

「ねぷっ!? 真司!?」

 

「お兄ちゃん!?」

 

 

 そこには息を切らしながら、笑顔で声をかけてきた真司が立っていた。

 真司を見た一同は目を丸くし、イストワールはふわふわと真司の下へ飛びより、声をかける。

 

 

「どうしたんですか真司さん? 貴方には休暇を言い渡した筈ですけど…」

 

「休暇なんて取ってられないですよ! ネプテューヌ達が頑張ってるのに俺だけ休むなんて絶対に出来ませんから」

 

 

 笑顔で、そしてはっきりと真司は言った。

 彼の優しさは底無しだ。そしてネプテューヌとネプギアは真司にとってとても大事な人達、そんな二人に仕事を任せて自分だけ休むなんてマネは元から出来る筈がなかった。

 

 

「真司…うう…持つべきものは優しい旦那様だね!」

 

「お兄ちゃん…ありがとう!」

 

 

 真司の言葉にうるうると瞳を揺らすネプテューヌとネプギア。

 二人とも仕事疲れもあったせいか、真司の言葉が余計に心に沁みたみたいだ。

 

 

「それに…」

 

「ねぷてぬーっ!! 遊んでーっ!!」

 

「ちょっ!? ピー子まっ…ねぷぎゃぁぁあ!?」

 

「ピーシェのストッパーも必要ですし…」

 

「「ああ…確かに」」

 

 

 安定のピーシェ。ネプテューヌはピーシェの頭突きで沈んでしまった。

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 その頃、ラステイション――

 

 

 カタカタカタ…ダンッダンッ! カリカリカリ…

 

 その音はリズミカル! と言う様なものではなく、何だかイライラしている様な感じが伝わってくる様な感じだ。

 その音が鳴り響く一室、ラステイションの教会の中の執務室だ。

 そこには、ノワールとユニの二人が、気を張りながら仕事を続けている姿が見えた。

 

 だが…

 

 

「~っ!! もう! 全然終わらない!!」

 

「お姉ちゃん落ち着いて!?」

 

 

 きぃっ!! と声を張り上げながら机を叩くノワール。

 クリスマス期間の仕事を始めてからだいぶ経つが、その仕事は増えるどころか逆にどんどん増えている。

 その仕事に自身の作業が全然追い付いておらず、イライラが増して今の様に叫んでしまう結果となってしまった。

 そんな姉を、妹であるユニがどうどうと押さえながら宥めていた。

 

 

「ふーっ…ふーっ…ご、ごめんなさい、ユニ…つい取り乱してしまったわ」

 

「ううん。仕方ないよ、お姉ちゃん。これだけの量だもの、誰だってそうなるよ…」

 

 

 ユニは少しげんなりとした表情で、ノワールの机をチラッと横目で眺めた。

 見渡す限りの書類の山、山、山。ネプテューヌ達のところの比ではない。

 そしてユニの手にはまた更に別の書類が。内容はクエスト系、物品搬送や護衛系が主だった。

 その中の一つをおずおずと、申し訳なさそうにしながら、ノワールに渡した。

 

 

「今度はフェニックスから運搬物品の護衛みたい…」

 

「……………………はぁ…」

 

 

 ものすごく長い沈黙の後から、ものすごく深く暗い溜息。

 傍から見ると、表情が暗すぎて女神らしさを微塵も感じない、そんな表情だった。

 本当はこれ以上受けたくない、仕事を減らして欲しいと思っていると思う。だけど彼女は女神、そんな事は口が裂けても言えない。

 だから嫌でも仕事をしなくちゃいけない。それがわかってるから尚更暗くなってしまった。

 

 

(ここまでくると自分の真面目さも大概よね…)

 

 

 心の中でノワールはそう思いながら、ユニに渡された書類を受け取って目を通す。

 内容としては難しくない。そしてこのフェニックスも、ノワールは幾度となく倒してきた。彼女にとって、言わば雑魚の様な存在だ。

 

 

(ふぅ…ここは身体を動かして、少しくらいストレスの発散をさせてもらおうかしら。モンスターには悪いけど、今の私は虫の居所が悪いのよ…)

 

「お、お姉ちゃん?」

 

 

 ユニが少し引きつり、上ずった声でノワールに話しかけた。

 何でそんな事になったのか? 理由は簡単。今ノワールは、すごく素晴らしい黒い笑みを浮かべながら笑っているからだ。

 しかも今、その本人には全く自覚がない。それどころかユニに話しかけられてる事さえ気づいていない。

 

 

「ふふふ…さぁ…焼き鳥になる覚悟はいいかしら?」

 

「お姉ちゃん!? お姉ちゃん!? 戻ってきて!?」

 

 

 とうとうタガが外れてしまったのか、ノワールは黒い笑みを浮かべて、口元をつり上げて笑い出した。

 ストレスが溜まりに溜まった挙句、仕事がどんどん増える、こうなる事は必然…しょうがない事だ。ただ…ちょっと行き過ぎてると言えなくもない。

 そんなノワールを見たユニ、ユニは涙目になりながら姉のノワールを落ち着かせようと奮闘した。

 

 

「お姉ちゃん! まずは落ち着こう!? 少しだけでも休憩して…」

 

「あはは~! 私の地獄の業火に焼かれて消えなさ~い!」

 

「………キミ達は一体何をしてるんだい?」

 

「「…え?」」

 

 

 ノワールとユニにふと、誰かが声をかけてきた。

 その声は何とも呆れていると言うか、げんなりしていると言うか…とにかくそんな感じの声色。

 二人は声がする方へ振り向いた。そこには頭を手で押さえて、深い溜息をついているケイの姿があった。

 

 

「け、ケイ!? い、いつからいたのよ!?」

 

「『今度はフェニックスから運搬物品の護衛みたい…』くらいからかな?」

 

「ほとんど最初っからじゃないのよ!?」

 

 

 ケイの言葉に我を取り戻したノワール、だがその瞬間、ケイに向かって顔を真っ赤にしながら襟首に掴みかかった。

 自分のタガが外れたところを見られた、それだけでノワールにとっては十分な理由だ。だが肝心のケイは…

 

 

「ノックはしたよ? 反応しなかったキミ達が悪い」

 

「ぐぬぬぬぬ~っ!!」

 

「お姉ちゃん落ち着いて!?」

 

 

 しれっとした態度でノワールを論破。しかも間違った事は何一つ言っていない。

 それに反論できなくて、ものすごい形相になりながらケイを睨みつけるノワール。ユニは慌てて二人の仲裁に入ろうとした。

 ケイは再びハァッ…と溜息をつく。そして襟首を掴んでいたノワールの手を取ると、そのまま引き離して乱れていた服を直し、ノワール達に向き直った。

 

 

「まったく…そんな事より、二人にお客さんだよ」

 

「「お客さん?」」

 

 

 ケイの言葉に目を丸くする二人。

 こんな時に一体誰が? それが二人の正直な感想だろう。だが、こんな時に誰かが来るなんて…

 

 

(絶対にロクな事が無い…)

 

 

 少なくともノワールはそう思った。

 仕事が増えてストレスが溜まっているうえに、こんな時にお客さん? ダメだ、どう考えても仕事が増える事が目に見えている。

 今しがた増えたばかりの仕事に、更に+αされるかと思うと…死にそうになる。

 だがそうだとしても、その客を通さない訳にもいかない。自分は女神なのだから、自身のストレスが増えるからと言う理由だけでその客を通さなかったら、自分の国のシェアにも影響しかねないからだ。

 だがその事が、ノワールに更なるストレスを与えている事は言うまでもない…

 

 

(はぁ…こんな時ほど、普通の女の子に憧れる事は無いわよね…)

 

 

 ふと溜息をつきながら、ノワールはそう思った。普通の女の子なら、女神じゃなかったら、こんなに仕事をせずに済むと思うのにと。

 自分が女神だから嫌と言う訳じゃない。それは自分にとって誇りだし、人々の役に立つのは本当に素晴らしい事だ。だけど、それでも憧れてしまう。女神じゃない、普通の女の子に…

 それに今はクリスマスシーズン真っ盛りだ。その事が余計に、ノワールをその気持ちにさせている。

 

 

(真司…今頃どうしてるのかしら…)

 

 

 真司の事を考えるノワール。だが今思ったところで、彼に会えるとは思っていない。今頃彼は、クリスマスを満喫している頃だとわかっているから。

 ノワールは再び溜息をつくと、両手で頬を軽くパンッと叩いて気合を入れた。

 

 

「ケイ、そのお客さんを通して頂戴」

 

「随分と長い間だったね…」

 

「うっさい! いいから早く通して!」

 

「お姉ちゃん、まあまあ…」

 

 

 ケイの言葉に、カッとなって怒鳴るノワール。それを再びユニが落ち着かせようとした。

 そんな二人を見たケイ。だが何故か、彼女は笑っていた。

 それを見たノワールは、しかめっ面をしながらケイに尋ねる。

 

 

「……何笑っているのよ?」

 

「ふふ。なぁに、今から君達の表情が驚きに変わると思うと何だかおかしくてね」

 

「? どう言う事?」

 

「すぐにわかるよ。それじゃあお客さんを通すね」

 

 

 そう言って、ケイは執務室のドアを開いた。

 入り口を見るノワールとユニ、最初こそ首を傾げて不思議がっていたが、その顔は見る見るうちに驚きの表情に変わっていった。

 入り口にいた人物、その人は…

 

 

「よっ! ノワール、ユニちゃん。仕事の方大丈夫か?」

 

「し、真司!?」

 

「お兄ちゃん!?」

 

 

 先ほどノワールが思っていた人物、真司本人だった。

 手を軽く上げながら、笑顔でノワールとユニに声をかける真司。

 そんな真司の下に、ノワール達は小走りになりながら走り寄った。

 

 

「何で!? どうして!? 真司、イストワールにお休みを貰ったはずじゃ…」

 

「いやさ、確かに貰ったけど…みんなを差し置いて休むって出来ないし。それだったら仕事を手伝った方が一番いいと思ってさ」

 

「それで…わざわざ来てくれたの? お兄ちゃん…」

 

「ん、そう」

 

 

 ノワールとユニの言葉に、真司は笑顔で応えた。

 ノワールとユニは目をパチクリさせ、その場で呆然となるが、プルプルと震えだして、涙目になりながら真司の手をガシッと掴んだ。

 

 

「「ありがとぉぉぉおっ!!」」

 

「おわっ!?」

 

「うう…グスン…本当に手一杯で、このままじゃ本当にぶっ倒れそうで…」

 

「嬉しい…嬉しいよぉ…お兄ちゃん…」

 

「お、おう…大変だったんだな…」

 

 真司に泣き寄りながら、ノワールとユニは本音を漏らす。

 その姿に、若干引いていた真司だが。二人の心情を察し、優しく頭を撫でた。

 

 

「何かごめんな…俺も二人の仕事手伝うからさ、頑張って終わらせようぜ?」

 

「うん…うん…!」

 

 真司の言葉がよほど嬉しかったのか、ユニとノワールは涙目ながらも笑い、真司の言葉に頷き返した。

 その様子を見ていたケイは、少し微笑ましそうにしながらクスッと笑い声を出した。

 

 

「…何よ、ケイ?」

 

「ふふ。いやなに、愛しの彼が来てくれた事に感激している二人を見ていたら、何故か微笑ましくなってね」

 

「んなっ!? ひ、一言余計よ!!」

 

 

 ケイの言葉に、髪を逆立てながら、ノワールはまるで猫の様にフシャーッと怒った。

 だが、そんなノワールを―見ても、ケイはしれっとした態度で…

 

 

「おや? 何かおかしな事を言ったかな? 何も間違っていないと思うけど?」

 

「ぐぬぬ…っ! ムキーッ!!」

 

「お姉ちゃん!?」

 

「ノワール!? 落ち着けって!?」

 

 

 含み笑いを浮かべながらケイは言う。それを聞いたノワールは、それはもう怒りが爆発してケイに殴りかかろうとした。

 そんなノワールを、ユニと真司が必死になって止めたのは言うまでもない…

 

 

 

*     *     *

 

 

 

その頃、ルウィー――

 

 

 

「…………」

 

 

 ガリガリガリ…カタカタカタ…

 

 

「…………」

 

 

 カタカタ…ダンッ! ダンッ!

 

 

「……ふぅ。これでとりあえずは…「ブランさんっ! また書類の追加です~!?」…うがぁぁぁぁあっ!? ドチクショウ!? 全然終わんねぇぇぇぇえっ!?」

 

 

 先ほどから黙々と、書類整理やパソコンでのデータ処理をしていたブラン。後少しで終わるかなと思った瞬間、追加の書類が運ばれて来たせいで怒りが爆発した。

 勢いよく立ち上がり、目をギラつかせながら頭を掻き毟る。

 それを見たミナは、ヒイッ!? と小さな悲鳴を上げて後ずさりした。

 

 

「ふーっ! ふーっ! …ごめんなさい、取り乱し過ぎたわ」

 

「い、いえ…大丈夫です…でもしょうがないですよ、これだけの仕事が回ってきているんですから」

 

 

 憤慨した事をミナに謝るブラン。それを、ミナは苦笑いしながら許した。

 そんなミナの表情を見ながら、ブランは大きな溜息をつく。

 

 

「本当にね。クリスマス時期には毎度こうなるけど…正直言って辛いわ…」

 

 

 嘆きながらブランはチラッと、自分の座っていた机に目をやる。

 そこにはまさに書類の山、山、山。これでも整理の半分は終わった方らしい。だが、それでもこの量だ。

 

 

「すみません…私に力が無いばかりに…ブランさんにはご迷惑を…」

 

 

 すると、ミナがシュンとなり、ブランに謝った。

 クリスマスシーズンの仕事量が、自分のせいで多くなってしまったと思っている様だ。

 だが、そんなミナに、ブランは優しく笑いながら声をかけた。

 

 

「ミナのせいじゃないわ。この時期に仕事やクエストが多くなるのは何処の国も同じだもの。確かにこの仕事の量は骨が折れるけど…私達が頑張る事で国民が幸せになるのなら安いものだわ」

 

「ブランさん…」

 

 

 この時期が大変なのはルウィーだけじゃない。それがわかっているから、ブランはミナを責め立てる様な事はしなかった。

 ブランの言葉を聞いたミナは嬉しくて微笑んだ。だが…その笑顔はまた曇ってしまった。

 

 

「ミナ…?」

 

 

 その表情が気になったのか、ブランは再びミナに話しかけた。

 話しかけられたミナは、物悲しそうな表情で口を開く。

 

 

「せめて…ロムとラムにはブランさんとクリスマスを過ごして欲しかったです…」

 

「………」

 

 

 ミナの言葉で、ブランはそのまま沈黙してしまった。

 実はロムとラム、クリスマスと言うものをちゃんと過ごしたことがない。正確に言えば、ブランと共に過ごした事がないのだ。

 ロムとラムは女神候補生、本来ならブランと共にクエストや仕事をこなすと思うだろうが…二人は女神候補生と言えど幼い。戦いだって、ここ最近し始めたばかりだ。

 そんな二人にブランが、このクリスマスシーズンの仕事を一部でも任せるだろうか? いや、妹を寂愛している彼女は絶対にそんな事はしない。仕事の全てを自分で受け持つ筈だ。現に今、仕事はブランとミナ、教会の教員しか行っていない。

 ただ、そのせいでロムとラムには構ってあげられず、二人に会える時間と言えば、朝ご飯の時と就寝時間に寝入った二人の様子を見に行く時だけだ。

 クリスマスの時期は、決まってこうなってしまい、ロムとラムには寂しい想いをさせてしまっている事に、ブランは手を握りしめた。

 

 

「私の努力が及ばなかった結果…と言う事ね…」

 

「っ!? ち、違います! ブランさんはいつもいつも頑張ってるじゃないですか!」

 

「だけど結果がなければ一緒よ。ロムとラムに寂しい想いをさせて…頑張ってるなんて…っ」

 

「ブラン…さん…」

 

 

 ブランは思わず歯噛みしてしまった。手に込めた力も段々と強くなっていく。

 妹二人に寂しい思いをさせて、すごく悔しい…そう思っているのだろう。それを見たミナは、どう声をかけていいかわからなかった。

 

 

「…ごめんなさい。今はこんな事言っている場合じゃなかったわね…一つでも多く仕事を終わらせないと…」

 

「…はい」

 

 

 ミナを見て謝るブラン。それをミナは、悲しそうな表情で見つめた。

 今は仕事を片付ける他ない、そう思いながら二人は、机の上に山積みにされている書類に目を通し始めた…

 

 

――きゃはは!

 

――まてー!

 

 

「…何?」

 

 

 丁度書類に目を通し、いざ整理に移ろうとした矢先、部屋の外から声が聞こえてきた。

 不思議に思い、ブランとミナは部屋のドア付近に自然と目が行く。

 

 

「この声…ロムとラム…でしょうか?」

 

「たぶんそう…だけど、やけにはしゃいでいるわね?」

 

 

 外から聞こえる声の主に気づいた二人、だがその声のトーンに少し疑問を抱く。

 いつも通りに追いかけっこをしているのかもしれない、そうは思ったが、それにしては明るすぎる二人の声。不思議に思ったブランは、椅子から立ち上がって部屋のドアを開いた。

 

 

「二人とも、はしゃぐのはいいけどもう少し静かに…っ!?」

 

「ブランさん? どうかしたんですか?」

 

 

 ロムとラムがはしゃいでいるのを注意しようとしたブラン。だが、それがいきなり中断され、ブランはそのまま、ドアの前に立ったまま動かなくなった。

 それが心配になり、ミナはブランに声をかけながら、小走りになって傍に駆け寄った。

 

 

「ブランさん? ロムとラムに何か…?」

 

「なん…で?」

 

「え…?」

 

 

 ブランに声をかけるミナ。だが当の本人は、ミナの声に反応せず、信じられない様なものを見た様な表情になっている。

 ブランの目線の先を見るとそこには…

 

 

「待てー! ロムちゃん、ラムちゃん!」

 

「あははっ! お兄ちゃんこっちこっちー!」

 

「鬼さんこちら…♪」

 

「え…? し、真司さん!?」

 

 

 ロムとラムが、現在進行形で真司と鬼ごっこを開催していた。

 一見微笑ましく思える光景、だが問題はそこではない。

 

 

「真司…?」

 

「あははっ! あ、ブラン! よっす!」

 

「いや、よっす! じゃなくて…何で真司がここに!? イストワールから休暇を貰ったって…」

 

 

 そう。イストワールから休暇を貰ったはずの真司が、何故か自分の国に…ルウィーいたからだ。

 目を見開きながら真司を見るブラン。真司は笑いながら、ブランに歩み寄り、肩にポンッと手を当てた。

 

 

「確かに貰ったけどさ、みんなが忙しいのに俺だけ休む真似が出来ると思う? 俺も仕事手伝うよ」

 

「で、でも…!」

 

「それにさ…ロムちゃんとラムちゃんと一緒にクリスマス、過ごさなきゃだろ?」

 

「あ…う、うん…」

 

 

 ロムとラムの事を出されて押し黙るブラン。そんな光景を見ながら、真司は優しい微笑みをブランに向け、頭に手を置いて撫ではじめた。

 

 

「だったら尚更、だよな? ブラン達だけに頑張らせるような事、絶対にさせないから。そのために俺は来たんだからさ」

 

「っ…ひぐっ」

 

 

 するとブランは、目から涙を零したと思ったら、真司の胸に飛び込んだ。

 真司は慌てて抱き留める。最初はどうしたんだと思ったが、柔らかく微笑み、ブランの頭を撫でた。

 

 

「真司…ありがとう…」

 

「…おう。一緒に頑張ろう」

 

「真司さん…すみません…」

 

 

 ブランを抱きしめながら頭を撫でている最中、ミナが真司に声をかける。ものすごく申し訳なさそうな表情で、シュンとなっていた。

 休みを返上し、仕事を手伝いに来てくれた真司に申し訳ない気持ちでいっぱいなんだと思う。自分はこの国の教祖なのに、仕事を減らせもできず、あまつさえ真司に手伝ってもらう事に。

 

 

「本当に…申し訳ないです…! 真司さん、ごめんなさい」

 

「ミナさん…謝らないでくださいよ」

 

「え…?」

 

 

 必死に頭を下げているミナに、真司は声をかけた。

 顔を上げるミナ。目の前にいる真司は、満面の笑みをミナに向けていた。

 

 

「手伝いは俺がしたくてしてる訳ですし。別にミナさんが謝るところなんてどこにもないですよ?」

 

「で、ですが…私がもっとしっかりしていれば…ブランさんや真司さんに負担をかけずに…ロムとラムに寂しい思いをさせないですむのに…」

 

 

 真司の言葉を聞くも、卑屈になって自分を責めるミナ。

 拳を握りしめる力は強く、目には薄っすらとだが涙が浮かぶ。そんなミナの手を、真司は優しく握る様に掴んだ。

 

 

「ミナさん…ミナさんはしっかりしているじゃないですか」

 

「真司さん…?」

 

「そうやってブランやロムちゃん、ラムちゃんの事を考えてるじゃないですか。仕事の量の方は…こればっかりは仕方がないですよ。今全部の国がこんな感じだって聞いてるし」

 

「ですが…」

 

「だから、頑張ってみんなで終わらせましょうよ! ブラン達の事を考えてるなら、みんなで協力し合って仕事を手っ取り早く終わらせる。それが一番じゃないですか?」

 

 

 真司は優しくミナに語る。

 そしてミナの目の前でサムズアップを作り、満面の笑みを浮かべた。

 

 

「こう言うのは助け合い、でしょ?」

 

「っ! 真司さん…」

 

 

 真司の言葉を聞いたミナは、口元を手で覆い、涙を零した。

 まるで、張りつめていた糸がプツンと切れた様に、涙は止めどなく溢れ出てくる。それくらい、ミナは思いつめていたのかもしれない。それが今、真司の言葉で解放された。

 ミナを見て真司は柔らかに微笑んだ。が、その傍ら、ブランが頬を膨らまして真司を睨みつけた。

 

 

「ぶ、ブラン…? どうしたの?」

 

「ミナといい雰囲気作るの禁止…」

 

「え? ぶ、ブランさん…?」

 

「むー…ぷいっ…」

 

 

 ミナが声をかけるが、ブランは膨れっ面になりそっぽを向く。

 明らかにミナに嫉妬しているのがわかる。恋人の自分がいるのに、別の女の人といい雰囲気になっているから怒った様だ。

 だがそれでも真司に抱き着いて離れないのは、彼女が、真司の事が大好きだからと言う事なのだろう。

 そんなブランを見た二人は、ぷっと噴き出して笑い始めた。

 

 

「んなっ!? 何二人して笑ってるのよ…!」

 

「ぷふっ…! いや、だって…」

 

「ブランさんが可愛くて…! ぷっ!」

 

「わ、笑うなぁっ!!」

 

 

 笑い始めた真司とミナに憤慨するブラン。

 両腕を天に突きだし、自分が怒っている事をアピールしている。だが、何故か見ていて微笑ましい。

 更に真司とミナに触発され、傍に居たロムとラムも笑い始めた。

 

 

「お姉ちゃんの怒り方おもしろ~い!」

 

「何だか可愛い♪ぷぷ…」

 

「お前らまで…う~っ!! 笑うなぁぁあっ!!」

 

 

 先ほどまでの暗い雰囲気は何処へやら。

 ルウィーの教会には、笑い声が絶え間なく響いた。

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 その頃、リーンボックス――

 

 

 

「ふぅ…あまり片付いた気がしませんわ…」

 

 

 執務室の机で一人ぼやく女性、リーンボックスの女神、グリーンハートことベール。

 彼女の目の前には溢れんばかりの書類の山、確かにぼやきたくもなってしまう…

 そんなベールは、両腕を伸ばしてうーんと背伸びをする。その時、ゴキゴキと関節が鳴る音が。彼女からその音が鳴るのは想像がつかない。それほど、疲れが溜まっている証拠だ。

 ベールは腕を伸ばした後、ぐったりしながら机の上に突っ伏した。そして顔を机に擦りつけ、ごろごろと動かしながらむくりと顔を上げ、涙目になりながらぼやく。

 

 

「うー…ゲームしたいですわー…ここ数週間、全然出来てませんわー…」

 

 

 完全に自分の欲望が駄々漏れだが…ゲームオタクのベールが数週間もゲームを出来てないと聞けば、それほど仕事の量が多いとわかる。

 いつもならゲームを最優先して、仕事は後に片付ける筈の彼女だが、今回ばかりはそうはいかない様だ。いや、この年はの間違いかもしれない。

 

 

「毎度この年は仕事が多くて困りますわ…おかげで限定イベント等はほとんど逃してしまうし…国民の皆さんが笑顔でいられるのはとても嬉しい事ですけど。はぁ…」

 

 

 女神の立場上、趣味のために仕事を疎かにはできない。それが国民のためなら尚の事。

 もちろんベールはその事はわかっている。だが…

 

 

「せめて休憩を長く取れたらいいのですけど…さっきから6時間ぶっ続けですわ…はぁ…」

 

 

 そう。実はベール、この数週間はほとんど休憩なしのぶっ続けで仕事をしていた。

 朝起きて朝食を取った後すぐに執務室、書類整理が終わったらすぐさまモンスター討伐のクエストへ、お昼が終わったらそのまままた書類整理とクエスト、それが夜の就寝までずっと続いていた。

 チカを初めとする教会の職員も頑張ってはいるが、全然手が足りないのが現状だ。

 

 

「はぁ~…紅茶が飲みたいですわー…」

 

「お姉様! 書類の追加が…っ!」

 

「…はぁ」

 

 

 ぼやいていた手前、チカが荒々しく部屋のドアを開けて走って来た。

 ぜぇぜぇと肩で息をしながら、その手には山ほどの書類を抱えている。その姿を見たベールは、更に気を落としてしまった。仕事がまた増えてしまったからだ。

 

 

「うう…この世の地獄とはこの事ですわぁ…」

 

「お姉様…すみません、仕事の量を増やしてしまって…」

 

「…気にしないでくださいな。チカのせいではありませんから」

 

 

 ベールの言葉を聞いたチカは、気を落としてしまう。だがベールは、それをやんわりと励ました。

 仕事が増えたのはチカのせいではないとちゃんと知っているから。ベールは励ましの意味も込めて、チカの頭を優しく撫でた。

 

 

「さあ、早く仕事を終わらせてしまいましょう!」

 

「お姉様…は、はい!」

 

 

 ベールはチカを元気づける様に、笑顔で張り切る声を出した。それを聞いたチカは、先ほど沈んてた表情から、一気に明るくなった。ベールの言葉は効果抜群だった様だ。

 そのベールも、もう一度グッと背伸びをする。ん~っ! と、声を出した後、両手で頬を叩いて気合を入れ直した。

 

 

「それじゃあまずはこの書類から…っと…ペン、ペンは何処かしら?」

 

「はい、ベル姉。ここにあるよ」

 

「ありがとうございますわ真ちゃん。…え?」

 

 

 ベールは途端に目をパチクリとさせる。

 先ほどの一連の動作、特に変わった事は無いと思われた。だが唯一点、変わったところがあったのだ。

 その変わったところの答えは、顔を上げたベールの視線の先にあった。

 

 

「え? え!? し、真…ちゃん?」

 

「うん。ベル姉、お仕事お疲れ様」

 

 

 本来ならここにいる筈のない、プラネテューヌにいる筈の真司が目の前にいた。当の本人は何食わぬ顔で、手にはペンを持ち、書類に目を通している。

 そんな真司を見たベールとチカは、思いっきり目を見開いた。

 

 

「真ちゃん!? な、何でリーンボックスに!?」

 

「え? ベル姉達を手伝いに…」

 

「と言うかいつからここにいたのよ!?」

 

「『ふぅ…あまり片付いた気がしませんわ…』のとこくらいから」

 

「「最初っから!?」」

 

 

 まるで流れる様な言葉の掛け合い。見ている方は笑ってしまいそうだ。

 驚いた表情で真司を見つめ続けるベールとチカ、その先で真司は手にした書類を一枚ずつチェックする。二人の視線をまるで気にしている様子はなかった。

 そんな二人を見た真司は一言。

 

 

「二人とも、驚いてる暇はないよ! 早くこの書類の山を片付けよう!」

 

「「その前に何でここにいるのかちゃんと説明して!?」」

 

 

 やる気に満ち溢れた真司の言葉。それを打ち消すかのごとく、ベールとチカは力の限り叫んだ。

 おおうっ!? と、二人の声に圧倒された真司。身体は仰け反りはしたが、どうにか持ち直して二人の問いに答えた。

 

 

「今すごく忙しい時期なんだろ? だったら俺も手伝うよ」

 

「で、ですが真ちゃん…貴方はイストワールから休暇を…」

 

「休暇貰っても一人じゃつまんないよ…それにみんなが頑張ってるんだぜ? だったら俺も手伝わなきゃでしょ?

こう言うのは助け合い、違う?」

 

「じゃ、じゃあ…真ちゃんはわざわざ手伝いに私のところへ…?」

 

「だからそうだって。そうじゃなきゃここにいないよ?」

 

 

 説明し終わった真司はベールに笑顔を向ける。その笑顔を見たベールは、目をパチクリさせた後、ジワリと涙を零して真司に抱き着いた。

 その行動に驚く真司。慌てながら、抱き着いたベールを抱き返した。

 

 

「べ、ベル姉!? どうしたの!?」

 

「グス…ッ。ありがとう…ありがとう…真ちゃん…ごめんなさい、私が不甲斐ないばかりに…」

 

「ベル姉…」

 

 

 泣いているベールの頭を、真司は優しく撫でる。

 そして両肩に優しく手を置くと、にっこりと笑顔でベールに顔を向けた。

 

 

「気にしない気にしない! 俺はベル姉の恋人であり弟なんだから。姉が困ってるなら弟が助けないとさ!」

 

「真ちゃん…」

 

「さあ、仕事に取り掛かろう! 頑張ってちゃっちゃと終わらせてしまおう!」

 

「…はい!」

 

 

 真司の言葉に笑顔を取り戻し、意気込むベール。

 先ほどのしんみりした空気は何処へやら。今ここにはやる気に満ち溢れる二人しかいなかった。

 

 …おや? 誰かを忘れてしまっている様な?

 

 

「二人して意気込むのはいいけど…アタクシがいること忘れてないかしら…?」

 

「「え? …あ」」

 

「あ。じゃないわよー! うわぁぁぁあんっ!?」

 

 

 真司とベールはチカの事を完全に忘れてしまっていた様だ。

 二人の反応に、チカは憤慨しながら泣き叫ぶ。それはもうドン引きするほど…

 この後真司とベールは、チカを慰めるために時間を費やしたと言う。

 

 

 

 

 

 準備は整った…全ての国に俺の分身体が行った。

 

 後はこの一週間ほどで全ての仕事を片付ければみんなはクリスマスを迎える事が出来る筈…

 

 何が何でも終わらせる! みんなに…

 

 みんなにクリスマスを!




次はマベちゃん達が出るよー!
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