「……あー、つまり、これは神様転生って奴なんですよ
ね? 」
『うむ、そうなるの』
僕の確認に、目の前の幼げな神様は無い胸を張って頷いた。
どうしてこんな状況になったのか?
それを説明すると長くなるので、省略する。
簡単に簡潔に説明すると。
どうやら僕は死んだらしい。死因は良く分からない。気がつけば死んでいて、気がつけばこの世界に――ただ白いだけの世界に来ていた。
そんな白い世界にポツンと一人、小さな女の子が立っていた。
『ん? ワシの顔に何か付いているのかの? 』
それが、彼女だ。
ただの幼くて愛らしい少女だとばかり思っていたが、この少女は所謂『神』という存在らしい。それも宗教上の神様では無く、世界を自ら創り上げた――本当の神様。
――ナハト。それが神様であり少女でもある彼女の名前。
ナハトさんは若き身でありながら無念にこの世を去った者に、もう一つの生を授けているのだと言う。ライトノベルでも良く扱われる転生というヤツだ。
生まれ変わる世界はランダムというか、ナハトさんの独断で決められるが、基本的に危ない、命の危険がある世界に生まれ変わらせる。
しかし、生まれ変わったとしても、もう一度何かの危険で死ぬかもしれない。それでは、転生させる意味が無い。
だから、その世界で生き抜くための武器――特典を与えるのだ。
「……あの」
『何じゃ? 』
「……何で僕を転生なんてさせるのか聞いても、良いですか? 別にお詫びって訳でも無いんですよね? 」
ナハトさんは無言で目を閉じた。
そして、胸の前で腕を組んで、口を開く。
『……退屈とは敵じゃ。それは、全知全能の神様でさえ逃れは出来ぬ……。じゃから、ワシは沢山の人の生を見てきた』
ナハトさんは集点の合わない目で、どこか遠くを見る。それは、何か、大切なものを思い出しているかのようで、……手を伸ばしているようだった。
『人の生はワシと比べれば、塵芥とさして変わらぬ。……じゃが、その短い人生でも、――確かにあったのだ。自分はここにいる。そう証明するように、雷光のように駆け抜け、花火のように散っていた者たちが……! 』
「…………」
『ワシはその者たちをもっと見ていたい。じゃから、ワシは転生させようと思った。そうすれば、輝かしい人の生を沢山見ていられるから。どうじゃ? それがワシがそなたを転生させる理由じゃよ。そなたはどう思う? 』
「…………」
……そうか。
そういうことか。……つまり、この神様は人間が大好きなんだ。だから、退屈をしのぐために人の生を観察し、そして転生さえさせて、自分が見たい者を見ようとする。
そんな神様に僕は……。
「……『納得』か。うん、納得した。それがナハトさんが僕たち人間を転生させる理由ですか……それなら良い。少なくともラノベとかで出てくる、神様よりずっと良い」
人を玩具のように考える奴よりずっと良い。
「僕は転生します。特典も決めました」
『……ほう。して、それは何じゃ? 』
「『解り合う能力』僕はコミュニケーション能力が欲しい」
『……は? 』
……神様は『こいつ何言ってるんだ? 』みたいな顔をして呆ける。
そして数秒たって神様は。
「いやいや! もう少しあるじゃろう⁉ そなたくらいの年頃の少年なら、格好良い能力を所望するのではないのか⁉ 」
確かに、僕も一瞬それが良いかと思った。
だけど、僕は会話力が低いせいで、怒らせるつもりがないのに、怒らせてしまったり、友達と絶交になったりしたんだ。……それが、とても辛かった。
そもそも僕は、話が上手くなることも、嘘を吐くことが上手くなるのも、望んでいない。
……人の心が解れば、人に自分の心を伝えれば、それはどれほど素敵なことだろうと思った。自分の思いを勘違いされることも、逆に僕が勘違いすることもない。そうすれば僕は……。
……勿論男として武力というモノは憧れる。強い人に憧れるのは男の性と言っても良いだろう。しかし、その武力と会話力を天秤で測ると、会話力の方に傾いてしまった――それだけの話だ。
「はい、僕の意思は変わりません」
『……まさか神様にコミュニケーション能力を求めるとはな。人間とは奥が深い……良いぞ、それくらい全く構わない』
「ありがとうございます! 」
『……じゃが、それではお主――生き残れんぞ』
「……はい? 」
生き残れない……? 一体どういう意味だ?
……ああ、そうか。転生する世界は命の危険がある世界なのか。……ヤバい、どうしよう? 普通に忘れていた。
「……えっと、普通の世界に転生することは……? 」
『駄目じゃ』
「ですよねー」
あらかじめ、危ない世界に転生させると言っていましたからね。今更、それを撤回してもらうのも、虫が良いと言うものだろう。
「あの、その世界は普通に生きていても、危ない世界なんですか? 関わらなければ危険にならないとかではなくて……? 」
ソードアートオンラインとか、ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか? みたいな関わらなければ、普通の日常を送れる世界にではなくて?
『……そうじゃの。なんじゃったか……死亡ふらぐ? なる物がたくさんあるみたいじゃな』
「めちゃくちゃ危ないじゃないですか⁉ ヤダー! 」
そんな世界に転生させようとしたのか……なんという神様だ⁉
あと、死亡フラグの言い方、何気に可愛かったですね!
『……うーむ、いきなりそんなことを言われてものぅ。……お、そうじゃ! 』
「どうしたんですか? 」
何か名案でも?
『そなた自身に戦う力が無いのなら、そなたを守ってもらう者がいれば良いのではないか? 』
「……いや、でも、それって迷惑じゃないんです
か? 」
転生した人をいきなり守れなんて言われたら、普通キレるのではないだろうか? もし僕だったらぶちキレる自信がある。
『案ずるな。このナハトに抜かりはない。そなたはFateなる作品を知っておるか? 』
「え? まあ、人並み程度には」
エミヤさん格好いいとか、アルトリアさん可愛いとか、それくらいのことなら知っている。……いや、ウソウソ。実はかなりのファンです。
あらすじは確かこうだ。聖杯とかいう何でも願いを叶える願望器を巡って、七人の魔術師が七騎の使い魔と契約して、争い求める、とかそんな話じゃないかな。
ここで重要なのは、使い魔はその名前とは名ばかりの、本来上の立場である魔術師より上である、最上級の使い魔だということ。
その正体は英霊。
ヘラクレスとか、アーサー王とな、織田信長とか、歴史に名を残し、人類史に多大な影響を残した――英雄だ。
で、それがどうかしたのだろう? さっきの守る云々とは何も関係ない気が……いや、ちょっと待てよ。僕を守る存在?
「……え、もしかして……」
僕の狼狽えた声に、神様はニヤリと口を歪める。
『そなたの考えた通りじゃ。サーヴァントをそなたの護衛に付けよう! 』
「ちょっと待ちましょう! 僕の話をちゃんと聞いていましたか⁉ 」
『なんじゃよ……? 』
「英雄ですよ! 英雄! そんな存在が僕なんかの護衛に付いてくれる筈ないじゃないですか⁉ 」
僕は、疑問の言葉をほぼ叫んでいるレベルで吐いた。
しかし、何故か神様はヤレヤレだぜみたいな表情で肩をすくめる。……イラッ。
『さっきも言ったじゃろう。ワシに抜かりはないと。サーヴァントは聖杯で願いを叶える代わりに、魔術師の使い魔になる。なら、同じ方法は可能じゃろう? 』
「……と、言うと? 」
『つまり、そなたの護衛を務める代わりに、ワシが聖杯の真似事で願いを叶える。どうじゃ? ウィンウィンの関係じゃろう? 』
「それなら、良いの、かな……? 」
『取り敢えず、その手続きをしておくから。そなたはさっさと転生してこい』
え? 手続きとかいるの? というか、そんなシッシッと邪魔者を払うみたいな仕草は辞めて欲しいんですけど……と思った瞬間だった。
――浮遊感を感じた。ヒュッと恐怖で股間のアレが縮んだ。下を見ると、底なしの暗闇だった。……あ、なるほど。
「――お約束ですね、分かります」
はい、皆さん、ご一緒にどうぞ。
「怖ぇええええええええええええええええええええ‼ 」
そして、僕は暗闇に落ちていった。