英霊に負けないくらい強くなりたいです   作:ニゲル兎

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第2話

転生してから、十年が経った。

最初は二回目の人生、前世とは違う両親に戸惑っていたが、時間がその戸惑いを薄れさせ、前世と同じような人生を送れるようになってきた。

前世と違う点を挙げるなら、僕がナハトさんに頼んだ特典だろう。

『解り合う能力』それを僕は望んだ。

会話が上手くなりたい訳でも、嘘が上手になりたい訳でもない。ただ、自分の本心を伝え、相手の心が解れば、それはどんなに素敵なことだろうと――そう思って望んだ能力。

この能力は文字通り、人の心が解る。とは言え、相手が何を考えているか解るなんて、そんな読心術めいた能力ではなく、相手の感情が自分に伝わるんだ。その人が何を思って言葉を放ったのか――それが伝わる。

そして、僕自身の感情も相手に伝えることが出来る。

だからこそ、『解り合う能力』。

勿論、それが良いことばかりではない。相手が何を思っているのか解る。それは、つまり、相手が悪意を持っているのかも伝わってしまう。内心で嫌悪しながら友人関係を持っている人も居たし、自分を軽蔑している人だって分かった。

嫌なことも中々多い。正直想像していなかった。けど、良いこともあった。両親が自分を心の底から愛しているのが伝わった。だから、前世とは違っても、あの人たちが僕の両親だって思えた。それは、とても嬉しいことだ。

……本来なら、僕はあの人たちの子供ではない。僕が転生してしまったせいだ、奪ってしまったとすら言えるだろう。だけど、僕はあの人たちの子供だ。

奪ってしまったから、代わりの子供になってしまったから、僕は親孝行をしたい。あの人たちに僕が子供で良かったと心の底から思えるようになって欲しい。……多分、それが僕の出来る唯一の償いだと思うから。

――そう、思って、いたのに……。

 

何が悪かったんだろう?

理不尽な現実を見て、僕はそう思った。

「おい、こいつもう死にやがったぞ」

「……チッ、たかが魔力弾をぶつけたくらいで……。これだから下等生物は」

……こいつは一体何を言っているんだ?

二人の黒い翼の生えた男性は、さっきまで僕の父親だった死体を、苛立ったように足で蹴った。

自分が殺したくせに、こいつは、自分は何も悪いことなんてしていない、ただ邪魔な草を刈っただけ、そんな様子だった。

「せっかく有用な神器を持った女を見つけたのに、直ぐに死にやがって。この俺が来た意味がねぇだろうが! 」

もう一度、しかし次は母の死体を蹴飛ばした。

「まあまあ、落ち着けって。また、次があるだろう」

「……はぁ、仕方がないか。おい、このガキはどうする? 神器も何も持っていないようだが」

「利用価値が無い。殺しといてくれ」

まるで、荷物を片付けて置いてと言うような適当な様子だった。こちらことはまるで眼中にない。最初から見下している。

「……チッ、面倒くせぇ」

そう吐き捨てて男は、その手を僕に伸ばす。

……嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

こんな奴等に殺されたくない。僕は生きなければならない。生きないと、父さんと母さんが命を呈して僕を守った意味が……!

それをこんな屑に邪魔をされたくない!

俺はキッ! と睨み付けながら、叫ぶ。

「こんな人を簡単に殺す、お前みたいな奴に……! 」

その瞬間だった。

膨大な魔力が吹き荒れた。目の前に大きな紅い魔方陣が展開する。

鮮血の如く紅く輝く魔方陣は、眩く光出す。

目も眩むような光は、何故かどことなく温かく――優しかった。安心させるようなナニカを感じた。

そして――

「――サーヴァント、ランサー。真名、カルナと言う。よろしく頼む」

強烈な光の後、紅い魔方陣があった場所には、一人の男性が立っていた。

肌と一体化しているような黄金色の鎧と、胸に埋め込まれた紅い宝石が印象的だった。

カルナ――そう名乗った男性は。

「契約に従い、オレはお前を守ろう」

そう言って、どこからともなく取り出した槍を一閃。

目にも止まらぬ早業で、二人の男は嘆く間もなく肉塊にされた。

「……ハッ」

僕があそこまで恐怖した男たちを、カルナと名乗る男は、まるで苦労した風もなく殺した。……どうしてか虚しかった。

しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。僕はカルナの方に体を向ける。良く見ると、とても顔立ちが整っているのが分かったが、そんなことはどうでも良かった。この男は……。

「……カルナ。君は僕を守る――サーヴァントだね」

「ああ、そうだ、マスター。お前はオレの助けを求めた。故に、これからオレはお前の槍となり、全ての脅威を取り除こう」

「……それじゃあ、足りないよ。カルナ」

「何? 」

この感情は一体何なんだろう?

まるで分からない。今まで全部分かっていたのに、今抱いた感情が何なのか、僕には全く分からない。

「両親が死んだ。僕のせいだ、僕の力が足りないせいだったからだ」

「それは違う。マスター、お前は何も悪くない。悪いのはお前を殺した悪魔たちと、守れなかったオレだ」

「……頼むから……! 」

「…………」

「……僕に君を恨ませないでくれ。君に罵詈雑言を浴びせたくない。そんな恥知らずな真似をしたくない」

唇を噛み締める。この口を開けた瞬間、カルナを罵ってしまいそうで。

「…………」

「今日の日は、僕の力が足りなかったせいで父さんも母さんも死んだ。僕に力があれば防げたんだ。だから、カルナ。僕に力を教えてくれ。理不尽を打ち砕く力を僕に――与えてくれ」

「……それが、お前の望みなら、オレはお前の力になろう」

「ありがとう、カルナ。君が僕のサーヴァントで、良かった……」

微笑んで、僕は父さんだった死体と、母さんだった死体の側に行き、その手を掴む。……まだ少し、温かった。今はまだ寝ているだけだとそう錯覚してしまいそうだ。

だけど、もう死んでいる。――忘れてはいけない。僕はこの光景も感触も一生忘れてはいけない。僕は一生背負っていくんだ。

……だけど、今日だけなら、泣いても、良いよね?

父さんが良く言ってたもんね。子供の時は沢山泣きなさいった。

僕は前世の記憶を持っているけど、精神年齢は二十歳を越えているけど、それでも良いよね?

まだ僕は父さんの言うように――子供だから、さ。

 

……亡骸が、滴で濡れた。

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