死魂   作:ニゲル兎

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2話 初っぱなからホームレスはキツイ

「……はあ」

俺は今、公園のベンチに座って黄昏ている。

チラリと右方向を横目で見ると、まるでダメなおっさん――略してマダオが自販機の下に潜り込み、必死に金を毟り取ろうとしている……憐れだ。

「……はあ」

もう一度溜め息を吐く。

ホント意味が分からねぇ……。なんで、女なんだよ。しかも、両儀式とか……ふざけるにも程がある。

『両儀式』

空の境界の主人公兼メインヒロイン。

退魔四家の一角である両儀家のお嬢様で、生まれながらの二重人格。

高校生時に交通事故に遭い、二年以上を昏睡状態になってしまう。

昏睡から目覚めて以来、「両儀式」の否定を司る人格『識』を失い、代わりにあらゆるモノの死を見る『直死の魔眼』を覚醒めた。

常に殺人衝動を抱えており、日夜殺し合える場を探し求めている……。

容姿は、まるで実際に濡らしたかのような艶やかな黒髪、男とも女とも取れる中性的で整った顔立ちの女。

 

――そんな女に俺はなってしまった。

……まあ、それは良い。いや、良くは無いけど諦めた。

だけど、なんで……

「……なんで直死の魔眼なんだよ……」

『直死の魔眼』

魔眼とも称される異能の中でも最上級の物。異能の中の異能。希少品の中の希少。無機、有機物問わず「活きている」ものの死の要因を読み取り、干渉可能な現象として視認する能力。

つまり、生きているなら――何であろうとも殺せる眼。

 

そう――

「――生きているなら神様だって殺してみせる、か」

 

今の俺の目は『死の線』が見えている。不気味なほど赤白く、見ているだけで気持ち悪くなり、どうしようも無く不安になってくる。

……俺は今ちゃんと生きているのか? 心臓は小さく鼓動し、呼吸をしている。それでも、生きているという実感が無い。この不気味な線を見れば、心が空っぽになって仕方がない……。

……ああ、そうか。だから、両儀式は人と殺し合いたいと思うのか……。

自分が生きているという実感を得るために、両儀式はギリギリの殺し合いを求める。前世では正直、意味が解らなかったのだが、今なら解る……嗚呼、殺し合いたい。

 

これは本当に特典なのか? こんなに辛いのが本当に特典だって……?

冗談は辞めて欲しい。これが夢なら早く覚めろ。ていう覚めて……!

 

 

両儀式になって三日が経った。

女神様のおかげなのか、気を張れば自分の意思でONとOFFに切り替える事が出来た。ずっと気を張り続けないとONになってしまうのが割りと不便なんだけど、まあ慣れるだろう。

それ以外にもっと大事な問題があった。

…………金が無い。家が無い。服が一着しか無い。

衣・食・住、全てが足りない……!

フラフラと当ても無く歩く。

空には宇宙船。天まで突くような機会の塔。二足歩行の豹や、頭に触覚の生えたデブとジジイ。そして、ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ。

明らかに地球じゃ無いよな。

……なんか俺、この世界知ってるんだけど。今までずっと自分を誤魔化してきたんだけど。そろそろ限界が来てきた。

あれさ……もしかしてこれ『銀魂』じゃね? 二足歩行の豹や、頭に触覚の生えたデブとジジイはそこら辺にいるかもしれないけど、ゴリラ・ゴリラ・ゴリラが出てくる世界なんて一つしか思いつかないぞ。

まあ、そんなことは正直どうでも良い。

腹減った。本気で腹が減った。腹と背中が比喩抜きでくっつきそう。水は蛇口で補給出来たけど、固形物はこの三日間まるで取っていない。

寝不足でさっきから意識が朦朧としているし、あまりの空腹でお腹が痛い。

――ドンッ。

誰かにぶつかった。

「おい、あんた」

「……もう無理……」

力が抜けていく。

視界が黒く染まった。意識が消えていく。

「え、えぇええええええ⁉ ちょ、俺何もしてないんだけど⁉ 」

……………………。

……………………。

 


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