席につけ。ああ、礼はいらん。
早速だが授業を開始しよう。
教科書の38ページを開け。
今日は魔力受動結晶の話をしよう。
魔力受動結晶は知っているな?
基本的には魔晶、あるいは魔力晶と呼ばれている私たちになじみ深いあの結晶のことだ。
騎獣たちが使うことのできる魔法を受動、すなわち受け取ることで一時的に私たち人間が魔法を使うことのできる結晶だ。
これは大陸全土の鉱山で取ることのできる大して珍しくもない石ではあるが、ある程度の大きさに加工することで魔法を一つだけ保存することができる。
魔力を扱うことができても騎獣たちのように魔法を使うことのできない私たちが魔法を使うために、結晶を利用することは必要不可欠である。
私たち騎手が使う結晶は、ふむ。
君、私たち騎手が普段使う結晶はどのような形をしている?答えたまえ。
そうだ。
乗ることのできない小さな鳥獣と共に空を駆けて行けるよう、形や大きさを整えたうえで中空移動用の板に張り付けてあるな。
だいたいが君の答えたように丸く、薄い板状である。
結構。座りたまえ。
ある程度の大きさであれば形状はどんなものでも構わず、厚みも関係がない。すばらしい事だ。
しかしながら研究の進まぬ分野でもある。
何せ私たちには魔法が使えない。使えたとしても騎獣たちから逐一魔法を受け取らねばならん。
魔力が使えるが故に結晶が使える、というわけでない以上、研究することもまた騎手と騎獣の力が必要になる。
この学舎から研究職に就いたものもいるくらいだ。
名前くらいは聞いたことがあるだろう、アルトール・ヴァスペーナとその騎獣ザナル。アルトールは研究熱心ではあったが口うるさいザナルの尻に敷かれていたよ。まったく困った生徒だった。
すまない、話がそれたな。
この結晶の研究に心血を注ぐ学者の中で、なじみ深い騎獣といえば
文献こそ少ない騎手だが、その身を削った研究は有名である。
靴の底と同じ厚形を作り、張り付けて“飛”べるかを試した。
宝玉のように磨いて剣にはめ込み“斬”ることができるかを試した。
彼の研究が戦争を引き起こしたと槍玉にあがることもあるが、私たちは彼の研究なくして騎獣と共に暮らしていけただろうか。
私たちは弱い生き物だ。
知恵を振り絞ろうとも竜に勝てず、剣を振ろうとも狼に勝てず、夜目の利く猫に勝てず、弓を引くより早く飛ぶ鳥に勝てず、他に勝てるとするならばそれこそ『研究』することではないだろうか。
魔力受動結晶は私たちに騎獣と並び立つ機会をくれた。
だが昨今、遠からぬ未来に結晶は尽きてしまうのではないだろうか。
そう警告する研究者もいる。
何を驚いている、当然だろう。
鉱石なのだから、枯渇することもある。
金山から金が出て、それを無尽蔵に掘ることができるわけではない。
魔力受動結晶もまた、無尽蔵に出るわけでは無いよ。
人工的に作りだされたこともあったのだが忌まわしき魔導兵器に利用されてしまったが故に現在、研究は凍結されている。
ああ、そうだ。
凍結を解除すべきだというものも多くいるのが現状だとも。
結晶の組成は単純な構造でできている。
人工的に作り出すことができるのはそのためだ。
だが結晶を作るのに必要なものは公開されていない。
そうだ。勝手に作り出し、それらを悪用するのを防ぐためだ。
古い文献に残されているもので再現も可能だが、ふむ。
君は月にどれほどの小遣いをもらっているかね?
そうか、そうか。
その額であるならば、ふむ。
約8年間溜め続けた小遣いを一瞬で使い果たす勇気があるかね?
使い果たして出来た結晶が満足な大きさにならなくても?
ははは、正直でよろしい。
私もかみさんからもらった小遣いが消し飛ぶのは嫌だ。
額で言えばそれほどになってしまうのだよ。
だからこそ私たちは今ある結晶を大事にせねばならないのだ。
壊れぬ限り使い古されようとも再利用することが大切だ。
と、時間のようだな。
今日の授業はここまで。
魔法を1つきりだが込められるだけの結晶を用意してある。
次の授業までに君たちの騎獣に込めてもらいなさい。
それを課題とする。
―――とある授業風景
「ジジイみたいに靴底にベタっと貼り付けたら、足が消し飛んでも文句言えないと思うけどな!まあジジイみたいな奇抜な発想するのは研究者くらいだろ」
―――目覚の黎明
だが彼は知らない。
十数年後の新入生に3名ほど、アサガオ翁よりもぶっ飛んだ使用方法で
騎獣と空を駆ける騎手が現れることを。
彼は知らない。
彼を含めた『生き残り』たちが、この使用方法について
胃の腑を痛めつけられることを。
暁:夜明け、明け方を指す言葉