私はアヴァリシア。
女性のような名前だと思う者もいるだろう。
しかし、しかしながら。
この名が示すのは強欲。
私はこの名をあまり好まない。
否、好まなかった。
私は今ほどこの名を受けて喜ばしいと思ったことはない。
私はこの名を誇りに思う。
強欲の指し示す通り、私は強き欲望のままにかけがえのないものを手に入れたのだから。
私の愛する騎士よ。
私を愛した騎手よ。
私に、強欲の名を嫌った私に
あなたに出会えて本当に良かった。
私が本当の意味で英雄になれたのはあなたのおかげだと心から思う。
あなたが私の騎手でなければ、私は今ここで覚悟を決めることは無かった。
見事なシルバーバックになるようにと、あなたが付けてくれたこの名は。
私を変えてくれた最高の名だ。
だからありがとう。本当にありがとう。
私はあなたの騎獣になれて、13騎として誇りに思う。
私の愛する友よ。
私を愛する暁よ。
君は最初、私のことを図体のデカい小心者と言ったな。
私は反論できなかった。かけらも間違っていなかった。
だが今こそ反論しよう。
怖かったのだ。
君や、他の12騎に存在する勇気が、私にはないと認めてしまうことが怖かった。
だが今は違う。
君からもらった、夜明けの太陽のように輝く勇気が私を導いてくれる。
君の勇気が私をここまで導いたのだ。
私に足りなかった勇気を、私に無かった勇気を君が教えてくれた。
私の最期に嫌な役を押し付けてしまうことは大変すまないと思っている。
だが我が友よ、悲観してくれるな。
君の勇気が明日に怯える民を救うのだ。
君の勇気が明日を照らす黎明になるのだ。
私は君に出会えて幸運だった。
私の愛する友よ。
私を愛するフルトゥナよ。
君は本当に優しい子だ。
その優しさは大変に眩しいものだった。
君は自分が弱いと言ったが、その弱さは同時に君の強さだ。
昼行燈が蔑称でなく敬称であるのは、君の強さを理解しているからこそ。
敵の死にさえ涙を落とす君は、本当に強く優しい子だ。
昼も夜も関係なく、足元を照らす光だ。
それは出来ることなら戦いたくはないという君自身だ。
戦わなくていい。闘わなくていい。
君はその強さを、いつかきっと理解するだろう。
だから今は少しだけ我慢してくれ。
この作戦が終われば、またみんなで笑うことができるさ。
その場に私がいないことだけが心残りだが、君たちがまた笑いあえる日を待っているとも。
私は君に出会えて本当に良かった。
私の愛する友よ。
私を愛するミラージェンよ。
正直に言おう。はっきりと。
君もわかっているとは思うが、なんども聞かせてはいるが。
私は君が嫌いだ。大嫌いだとも。
すべてを見透かすようなくだらない口調も。
何もかも諦めたようなその目も。
鳥になれない身体も。
獣になれない翼も。
魔獣や幻獣になれない血も。
誰よりも情に厚く非情になれぬその魂も。
大嫌いだよミラージェン。
何が迂腐だ。言葉の意味と真逆もいいところだ。
君は素晴らしいじゃないか、何をそんなに嫌がるのだ。
誇らしいじゃないか、私たち王直の13騎が嫌だというのか。
君の仕事は素晴らしい。君が、君たちが居なければ我々は今ここに立てないのだ。
誇れ、胸を張れ、前を向け。
世界を一つにするくらい造作もないだろう。
私は君に期待しているんだ。
私は君が大好きなんだ。
君に出会えていなければ、こんなこと考えることもなかっただろうがな。
私の愛する友よ。
私を愛するオブシディアンよ。
飄々とした、洒脱な、親しみやすい君は。
浮世離れした君の柔和な話し方にはいつも世話になった。
落ち着くのだ。とても。
君は軽口を叩けば滝のように喋り倒すが、それが苦にならない。
ムードメーカーとでも言えばいいか。
実際に君が居なければ幻籠13騎がまとまることが無かったように思う。
特に竜喰とミラージェン、加えて暁あたりが。
しかしながら姫の手作りクッキーを私たちに伝えることなく独り占めにしたのは酷い。
誰かの言葉を即座に否定して正論を叩き付けるのも酷いな。
それが君の良いところでもあるとは思うが。
一度でいいから私も君を毛玉と罵って見たかったよ。
君に責を押し付けるのは、本当は嫌なんだ。
それでも君にしかできないことだ、君だけにしかできないことなんだ。
カドルに怒られてしまうな。私も、君も。
君は大衆の人気が高いから、アルテミスにも怒られてしまいそうだ。
それでも、それでも君に頼みたい。
この作戦の要を。かの人工結晶を頼む。
なあに、君ならすべて包んで逃げることくらい簡単だろう。
どうか生き延びて、未来の子供たちに私たちの勇姿を伝えてくれると嬉しい。
君に出会えて、本当に良かった。
私の愛する友よ。
私を愛するカドルよ。
君の言葉は容易に人を傷つける。
しかし傷を受けて人は立ち上がるのだ。
思い知らされたよ。身をもって思い知らされた。
だから少しだけ休んではどうだろうか。
君の騎手も心配するくらい君は働き過ぎだ。
事を急いたところで何が変わるというのだ。
この戦争は私たちが人に大切なことを伝えなかったのが悪い。
この戦争は人が私たちに重要なことを話さなかったのが悪い。
少しだけ待つことも大事だと思わんか。
傷を受けた民草が、立ち上がる時間だけでも待ってみてはどうだろうか。
今のままでは誰も変わることができない。
変わるだけの時間が必要なのだ。
私が犠牲になることで、どれだけの時間が稼げるかはわからないが。
必ず分かり合う時は来るから。
ほんの少しだけ、待っていてくれ。
せっかちで怒りやすい君のことだから、私がいないとなればまた怒るだろうが。
君に出会えてよかったよ。
私の愛する友よ。
私を愛するコタンコロカムイよ。
君の故郷では人の住む場所を守る賢神の名をもつ君は、その名に違わぬ知識を持っていた。
知識に負けぬ考え方も持ち、考え方に負けぬ感情を持っていた。
君がいなければ、この最悪にして最高の作戦を考えつくことは無かっただろう。
私が考えたと言えば、女性陣は驚くだろうか。
君が考えたと言えば、皆は納得するだろうか。
そのどちらでもないとは思うが、君はこの作戦を笑った。
嗤わなかっただけマシなのだろう。
哂われないだけマシなのだろう。
それはないと。それだけはないと私は首を振ったが。
君はこの作戦を最も尊き最良とした。
最優の選択を最高の形で成し遂げる唯一だと。
誰かが犠牲にならねば止まらぬ戦争など無いに越したことはないが。
我が身を犠牲にせねば止まらぬのならば、これこそ最良だと。
君は私を称賛した。
私が求めた答えを、私が出したのだから、それは最良なのだと称賛した。
果たして果たして。私は君に称賛されるほどのことを為せるだろうか。
今でも少し不安なのだ。今からが本番だというのに。
君に出会えてなければ、今の私が無いのだというのに。
だが分かったこともある。
私が変に臆病であっても、君は変わらずそこにいた。
これからも、皆のためにそこにいるのだろう。
だからこそ、君に感謝する。
君に出会えたことに感謝するよ。
私の愛する友よ。
私を愛する
私は君に、大きな
私は君の想う紳士であれたかな。
まだ答えは出ないんだ。まだ答えが出せないんだ。
もう先がないというのに、明日を迎えられないというのに。
君の小さな体躯に秘められた大いなる力を見た私は、それを自問自答する日々だった。
暁にも言われたことだが、私は小心者でね。
君のお気に入りの歌も、好きな花も、君自身も。
私が触れてしまえば壊れてしまうのではないかと思っていたよ。
存外君は強かったけれど、私は君に対して過保護だったように思う。
カドルと共に小言組などと言われていたことは知っているとも。
口うるさく感じていただろうか。
鬱陶しかっただろうか。
しかしながら、私は気づかされたよ。
君ほど勇敢で正しい心を持ったものは多くないと。
君ほど逞しく強かな心を持ったものは多くないと。
君が呼んでくれた紳士という、大きな私は。
君の想う紳士は確かにここに居たと。
君ほど私のことを見ていたものは多くないと。
君ほど私のことを気にかけてくれたものは多くないと。
騎手と、13騎と、鳥獣の姫と、人の姫と。
そして小さな
君に会えて良かったよ、小さな淑女。
私の愛する友よ。
私を愛する
戦争屋の君を友と呼ぶ日が来るとは思わなかった。
何せ私は騎手とともに、王直が下った時は騎士であると思っていたからね。
だから君を友と呼べる日が来るとは思っていなかった。
これは嘘偽らざる本音だ。
私の作戦を、いの一番に否定した君はとても感情的だった。
君の戦いそのものに私が立ち会うことは一度もなかったが。
君と試合う機会がくることなど私には一度もなかったが。
まるで私と君とが戦っているかのような錯覚がしたよ。
だから私は君に嘘をついた。
この作戦で私は死んでしまうのに、生き残ったら酒を酌み交わそうなどと。
生き残ることなど出来ないのに、男同士で酒を呑もうなどと。
あるいは君は、気がついていたのかもしれないな。
一番熱い男だ。
一番強い男だ。
君は私の覚悟に気がついていて、わざと騙されてくれたのだろう。
君を騙すなど友として最低だと思う。
私の執務室においてある、いっとう綺麗なショットグラスをやろう。
扉に近い戸棚においてある、ドールム産の50年物のウイスキーもくれてやる。
君の部下たちに振舞ってしまうと良い。私には無用の長物だからな。
ああ、しかし。しかしながら。
君と一杯やる約束は守れそうにない。
守れない約束をするものじゃないと、守れない契約をするものじゃないと。
よく君が言っていたのを思い出す。
君が愚痴をこぼす、あの賭け事狂いの部下のような。
君が良く溜息を吐く、あのお調子者の部下のような。
そんな奴らになりそうなら、さっさとケツをまくって逃げてしまえと。
逃げることは悪い事ではないと。
だが、私は逃げないことにしたよ。
君たちを護る為に、守れない約束をしたよ。
だからどうか許してほしい。君にどうか許してほしい。
これから君は戦いに赴くだろう。
けれどそれは勝利への戦いだ。
私は君を誇りに思う。
君に出会えて良かったと思う。
私の愛する友よ。
私を愛するヤーチャイカよ。
人々の声を聴き、鳥獣の声を聴き、空を渡る勇者よ。
君はすべてを受け入れ、受け流す大きな空のような女性だ。
恥ずかしくて面と向かっては言えなかったけれどね。
私は君を尊敬していたんだ。
君は美しく、とても可憐で、いやはやなんとも。
恋をしているかのようだ。アルテミスを笑えないな。
だが同時に恐ろしくもあり、厳しくもあった。
常に先を見据え、戦争の行く末を、子供たちの未来を案じていた。
人も鳥獣も、誰もが絶望しない世界を模索していた。
カドルのように怒ることはなく、ミラージェンのように落胆することなく。
神の言葉を告げる神官ように、あるいは王に進言する従者のように。
誰に対しても平等なカドルより。
誰に対しても不平等なミラージェンより。
誰に対しても辛辣な暁より。
誰に対しても軽薄なオブシディアンより。
まっすぐな言葉はほかにない。
君の言葉は本当にまっすぐで、多くの人と鳥獣が君を尊敬していた。
いつも正しく、それでいて優しい言葉だ。
けれど君は少しだけ忘れっぽいからな。
烈海が心配するのも良くわかる。
戦う力はそれほどないが、君はまさしく勇者であった。
出会えたことに感謝するよ。
私の愛する友よ。
私を愛する
海を渡り、海と海とを橋渡す猛き獣。
大地を渡り、大地と大地を橋渡す猛き獣よ。
私は君の鋭い眼で射抜かれるとつい委縮してしまう。
なんというか、眼力があった。
物事の本質を見据えることのできる、強い眼であった。
物事の善悪を見定めることのできる、強い眼であった。
なるほど、よくわかる。
彼女が空の勇者ならば、君は海の戦士であろう。
彼女が声を聴くならば、君は声をあげるだろう。
彼女が声を伝えるなら、君は声を集めるだろう。
そういうふうに出来た一対の名だ。
君はとてもじゃないと言っていたがね。
昨今は君の称号を真似て
皆がこの戦争を望んでいないのだ。
皆がはやく終わってほしいの願うのだ。
皆が豊穣の海に、大地に、空に焦がれるのだ。
君は新しい風をそれぞれの人に、鳥獣に伝えるのだ。
老骨に鞭打つなと言っては歩き、走り、泳いだ君のことだ。
また君は歩き、走り、泳ぐのだろう。
我々の中で、我が師よりも長生きな君のことだ。
しゃがれた声で聴かせるのだろう。
重い足音で伝えるのだろう。
強い眼で訴えるのだろう。
そんな君に頼みたい。
忘れっぽい彼女のことを。我らが最速のヤーチャイカのことを。
彼女は何かを知っていて、私たちにそれを話せないでいるらしい。
きっと重要なことだ。
きっと大切なことだ。
だが私は彼女のもとに行くことができない。
君ならそれが可能なんだ。
誰も彼女のもとに行くことができない。
君ならそれが可能なんだ。
姫も王も騎手さえも、彼女に許されていないんだ。
君には、心の深いところを許しているんだよ。
君だけに、心を許しているんだよ。
だから気にかけてやってくれ。君が孫娘のようだと言っていた彼女のことを。
君に会えて本当に良かった。
私の愛する友よ。
私を愛するアルニレックスよ。
疑似的にではあるが永遠の命を生きる者よ。
疑似的にではあるが永遠の時を生きる者よ。
君の何代か前は、我が師の小さき頃を見たという。
君の何代か後に、先の子供を見るという。
これでも君は長生きではないのだから、苦労するのは当然だが。
それでも君は短命だからと、悲観的でないのは良いな。
王家に仕える中で最も気高き君は、戦う必要がないのによく前線に来た。
士気が上がっていたのは確かだ。
騎士たちの暗い顔が晴れていくのを何度も見た。
戦士たちの気力が回復していくのを何度も見た。
騎獣たちの心が温まっていくのを何度も見た。
君はわかっていたのかい。
君は知っていたのかい。
君の存在が誰かの心を繋ぎとめていたのを。
王家について、人について、果ては世界についた君のことだ。
これから私たちが行う作戦についてもくれたのだと思う。
ある意味では、知らぬ者にとっては最大の裏切りだからね。
まだ王国を裏切っていないのだから大目に見てくれた。
それだけのことなんだろう。
私が犠牲になる、というのは誤りだが。
私がならねば誰がなれるというのだ。
我が師ではない。君ではない。
だから君は笑っていてくれ。
だから君は泣かないでくれ。
この
死すら超越し、生すら凌駕し、大陸に縛られた私が。
再び魂を開放され、産まれ直したその時に。
その時まで、感謝するのは待ってくれないか。
その時まで、ありがとうを待ってくれないか。
私の愛する師よ。
私を愛するマルプロスペローよ。
あなたの教えに背いたことを謝らせてほしい。
あなたの知る魔法を悪用することを許してほしい。
あなたは今、この世界で純人を知り、それらを我々に教える唯一だ。
だからこそ、特定の魔法の組み合わせを禁じた。
魔法は組み合わせにより特殊な方向に進化する。
魔法は組み合わせにより得意な性質に真価する。
戦争に使われた哀れな生き物の成れ果てはどの個体も恐ろしく強い。
戦争に使われた哀しい生き物の成れ果てはどの兵器も恐ろしく醜い。
私のことをどうか憎んでほしい。
私のことをどうか恨んでほしい。
禁忌となった
祈りが人を変えるのなら、私は喜んで祈ろう。
近いが獣を変えるのなら、私は喜んで誓おう。
純人が使用を禁じ、あなたが使用を禁じた魔法を使う。
それが最良なのだから、あなたはそれを止めるだろう。
最善でない限り無理はするな。
純人が人以外に魔法を与えた意味を考えろ。
魔法は与えられたのだ。選ばれたわけではない。
あなたの言葉だ。すべてあなたの言葉だ。
だから私は無理をしない。
考えたうえで行動し、選ばれなかったことを幸運に思う。
これは幸運だ。
あなたは私にとって最高の師だった。
私があなたに会えたことは、本当に幸運だったのだ。
私の愛する鳥獣の姫よ。
私を愛するアルテミスよ。
騎手に恋い焦がれ、人と鳥獣を超越する愛をもつ君は。
何者にも負けない強い意志と揺るぎない覚悟、そして魂の輝きを持つ君は。
誰に恥じることもない、立派な鳥獣の姫だ。
やがては鳥獣の長となる君が我々の主君であるのは明白だ。
世間知らず、若すぎる、優しすぎるなどという輩の声など、君は気にしなくていい。
鳥獣と人とが恋に落ちることなど、神話の世界では日常茶飯事だったことだ。
我が師もまた、騎手に恋をしたことがあると言うではないか。
何を恐がることがある。
何を畏れることがある。
それは君が世間を一から知ることができ、若く、優しいから出来たことだ。
前を向くことがどんなに辛いか、ミラージェンを見ればわかるだろう。
言葉を紡ぐのがどんなに難しいか、ヤーチャイカを見ればわかるだろう。
戦う意思を見せるのがどんなに勇敢か、宿子を見ればわかるだろう。
強さを示すことがどんなに苦しいか、竜喰を見ればわかるだろう。
誰かを見守るのがどんなに素敵か、アルニレックスを見ればわかるだろう。
人を笑わせるというのがどんなに嬉しいか、オブシディアンを見ればわかるだろう。
思いを伝えるということがどんなに嬉しいか、カドルを見ればわかるだろう。
知識を深めることがどんなに楽しいか、コタンコロカムイを見ればわかるだろう。
歳をとることがどんなに楽しいか、烈海を見ればわかるだろう。
優しさを持つということがどんなに素晴らしいか、フルトゥナを見ればわかるだろう。
誰かを待つということがどんなに素晴らしいか、マルプロスペローを見ればわかるだろう。
誰かを待たせるということがどんなに辛いか、暁を見ればわかるだろう。
臆病であることが、小心者であることが、何もできないことが。
どれだけ愚かなことであるのか。どれだけ悩ましいか。
私を見ればわかるだろう。
君は君のままでいなさい。
君は君に忠実でいい。
我ら王国直命幻籠騎士獣団、騎手14人と騎獣13騎。
姫の言葉、姫の想い、姫の願い。
一挙手一投足そのすべてに従う者なり。
君が私の主君であって、私はしあわせだった。