双子は学年の臨海学習に行った。
ジジイは監視をカドルに任せた。
オイラは学園で留守番、という名の休暇。
清々しい気分とはこのことだ。
何かとオイラに辛辣な双子はいない。
ジジイも所用があるとかでしばらくいない。
ついでになんでもかんでも毒はきやがるカドルもいない。
オイラの腹中を痛めつけてくれる高等1年のバカどもも、ここ一週間は薬草学の補習で学園に缶詰と来たもんだ。
「あー……最高かよ……」
情けない息も吐きたくなるというものだ。
こちとら正体隠してジジイの命令きかなくちゃいけねえ。
ただの騎獣じゃねえんだぞ?
だってのに、まあヒルはオイラのこと捌くとか言うわ。
ヨルはヨルで意図的に踏もうとするわ。
やってらんねー。
だがしばらくは休暇だ。
休暇が楽しめる。
なんてステキなんだ。
オイラちょっと泣きそう。
青い空、白い雲、ちょっとばかし黒い脚と顔も見えるが、おおむね清々しい夏空だ。
……うん?
ちょっとまて、いやいや、まてまてまて。
今オイラちょっと幻覚でも見たのかな?
黒い脚と顔?
「やあ」
懐かしい声が聞こえた気がした。
いや気のせいだ。
アイツは王国には入れねえ。
入れない。
入るな。
むしろ来るな。
「あれ?聞こえていないのかい?おーい」
だからなんか上の方で浮いてる淡いクリーム色の毛皮は違うんだ。
だからなんか上の方でさわやかな笑顔を見せているアイツは違う。
「おや、これは無視してるかな?アーカツーキくーん、あーそーぼー」
「違わねーじゃねーか!バカかてめぇ!なんでここに来てやがる毛玉ァ!」
「聞こえているじゃないか。酷いなあ暁くん。君と僕の仲だろう?」
「聞こえねえフリしてんだよ!わかれよ!」
「わかるよ?」
……ッ!コイツは、この、くそ、ホント、毛玉ァ……!
同じ家畜種のよしみで仲良くしてやろうかと思ったのが間違いだった。
そもそもコイツを13騎に推薦したのが間違いだった。
「なんでここにいる?オブシディアン」
「さあ?」
おい。
「おー怖い。そんな顔しなくてもいいじゃないか。カドルさんがいないからに決まってる。そんなこともわからないの?」
「毛玉」
「冗談だよ。まったく、暁くんは変わらないね」
変わらねえのはてめえだよオブシディアン。
いっつもヘラヘラ笑って、あの時だってひとりで背負いこんで。
白鞘の作戦じゃすぐに吐き出すって話で。
なのにいつの間にか雲隠れしやがった。
おかげでオイラはカドルにとばっちり喰らっちまうし。
ぎゃんぎゃん泣いてうるせえ宿子やフルトゥナのお守りなんざしたくねえってのに。
そのうち宿子もフルトゥナもどこかに消えちまうし。
「僕ね、たぶんもうすぐ死ぬよ。カドルさんとは関係ない。けれどね、死ぬよ。確実に」
「てめえが言うんだから間違いねえんだろうよ…せいせいするぜ」
「うん。だから暁くんに会っておこうと思ったんだ。会ってどうするかは決めていなかったんだけれどね」
そういう行き当たりばったりなところあるよな。
「けれど決めたよ。少なくとも今は大丈夫だから、後継者を探す」
「後継者だ?」
「そう、いわば二代目蒼天の浮舟を決めるんだ……違う。違うな」
あー。
こりゃ始まるか?
「違う二代目じゃない僕は蒼天の浮舟王の決めた習わしの13騎次はどうすべきだ何をすればいいそうかならそうしようか君たちはそれでいいそうかじゃあそうしよう僕たちの次を決めよう僕たちの跡を決めよう」
こいつは。
蒼天の浮舟はこういうところがある。
家畜出身とかそういうものかとも思ったが。
オイラは家畜種だが家畜じゃねえし、そういう違いかとも思っていたが。
そうじゃねえ。
前からそうだった。
放浪する前から。
13騎になる前から。
家畜になる前から。
それこそオイラの知らねえ小せえ時からかもしれないが。
ここじゃない何処かの、誰かの声を聴くときが合った。
そこを見染められたようなもんだ。
オイラの推薦だけじゃねえ。
少なくとも、こいつの「声を聴く」能力は王とアルニレックスが認めるものだ。
だから嫌なんだけどな。気持ちわりいし。
「そうか。そうだった、そうだった。あ、なんの話だっけ?」
「お帰り」
「ただいまー」
「で、お前の後継者が何だって?」
「ああ、うん。僕のじゃなくてさ」
「あん?」
「決めようよ!新しい13騎を!」
……は?
何言ってんのこいつ。
「何言ってんのこいつ」
「決めようよ!」
「聞こえてねえわけじゃねえよ!?」
昔から突拍子もない事をいうヤツだったが。
こいつホント変わらねえな!