過去の王より優れたものはいなかった。
あの戦争を終わらせた王よりも優れた王は未だ生れていない。
そう言われ続けた。
そう言われ続けたのだ。
俺が王だ。
今の王は俺だ。
俺なのだ。
だというのに、奴は。
マルプロスペローは言うことをきかない。
何が偉大なる魔法の継承者だ。
ただのトカゲではないか。
飛ぶことを忘れた竜など、トカゲではないか。
否、否、否。
トカゲにも劣る矮小な獣だ。
だというのに、奴は。
アルニレックスは言うことをきかない。
何が不死の伝承者だ。
ただのネコではないか。
話すことを忘れた騎獣など、ネコではないか。
否、否、否。
ネコにも劣る矮小な獣だ
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「わたしは言ったじゃないか、アルニレックス」
「何がだ」
「あの男は危険だと」
「いかにも」
昔は黄金であったであろう分厚い鱗は剝れ、落ち、生え変わることなく。
横たわる黄昏竜は深く深く息を吐いた。
いつかどこかの迷いの森で共に戦い、友として別れた我らに彼女はもう笑わない。
「わたしはあの男を許さない。わたしが騎手を殺したあの男を許すことはできない」
「そうであろう。我が王の仇だ」
「わたしたちの次を担う赤子をどこかに隠したことは感謝するよアルニレックス。だがあの男は何をした?何をしたというのだ」
「う、む」
「自らの父を殺し、自らの兄を追放し、その兄の息子まで殺そうとし、白鞘に見限られたことを逆しまに怨み、鳥獣に命令することしか知らず、人と笑いあうこともせず、王になったことで満足してしまった」
マルプロスペローの言うことは正しい。
我が王を殺したのは正しく現王だ。
王国を継ぐはずの男を殺したのは現王だ。
白鞘が見限ったわけではないが、結果的に彼の死で我に返った国民も多い。
鳥獣たちは現王でなく若き騎士隊長に従い、アルテミスに傅く。
国民の多くは国王に笑いかけず、国王もまた国民に笑いかけない。
国民が真実を知ることはついぞなかったが、多くの人々や鳥獣が知ってしまったのだ。
現王が戻れないことを。
全てを諦めてしまった王を、皆は知っている。
「わたしは、あの赤子に会いたいよ」
「もう彼は立派な騎手だ」
「わたしは、あの子供に会いたい。わたしの騎手の孫に会いたいよ」
「マルプロスペロー、君はまさか、もう」
もう、眼が見えていないのか。
声も、ろくに聞こえていないのか。
ただ、友の想いに答えているだけなのか。
ならば、それならば。
我が秘術などいらない。
我が友よ、聞いてくれ。
愛するマルスよ、聞いてくれ。
「マルプロスペロー!聞いてくれ!君の願いを叶えよう!」
「あいたいよ、わたしゃみんなにあいたいよ」
「想い出に浸る君の願いを、我は生涯をかけて叶えよう!」
「わたしゃ、クラレンスに、あいたいよ」
「クラレンス王はもういない。だが待っていてくれ。我の生涯をかけて我が友の願いを叶えよう!」
「ああ、また眠くなってきた。眠りの黄昏なんて称号、昼寝好きのわたしの為にあるもんだ」
幾たびの戦争を経て。
幾たびの平穏を経て。
マルス、君は老いていった。
我が友も。我が王も。代々の王も。
皆が我を置いて逝った。
「かの王の孫は今、学園にて騎手の長を担う者!必ずや君に逢わせよう!」
「ああ、おやすみ。またしばらく眠らせてもらうよ」
「懐かしい顔も見たかろう!君の好敵手が見守る双子に逢わせよう!」
「アルニレックス、また会おう」
「マルス、また会おう!我が名に誓ってまた会おう!」
この遠き地でまた会おう。
王国から遠き、この森で会おう。
だから待っていてくれ、それまで死ぬのは待ってくれ。
まだ君は行かないでくれ。
まだ君は逝かないでくれ。
我を独りにしないでくれ。