神様に雇われて、異世界転生者を殺すことになったラッパー少女の物語*リメイクするため凍結   作:しじる

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10.韻 列車襲撃

 襲撃当日、この2週間近く私たちは列車襲撃のための準備をしていた。

 と言っても、私自身はほとんど何もしてないけど。

 反乱軍兵達が政府軍の補給拠点の物資を強奪したり、作戦を再確認していたりと、ほとんど忙しなかった。

 それもそうだ、この作戦失敗すれば反乱軍はおしまいだ。

 突然入ってしまったドーアをどう起用するかとか、政府軍に今作戦がバレていないか。

 様々な話が混ざり合い、そして今。

 リバーウッド海岸、その湾岸線に列車が走っていた。

 この場所を走りきり、アルメンデル大橋を渡って国境の河越えれば反乱軍の負けだ。

 だけど国境付近には、隣国ラピスラズリの防衛部隊が対岸を埋めつくしているらしい。

 つまり正確には国境付近についた時点で負けだ。

 そんな作戦の中枢を担ってるのが私だ…というかこの作戦自体私抜きでは成り立つことないし。

 はっきりいって逃げ出したい。

 こんな大舞台任されたことなんて、16年生きていて初めてだ。

 心臓が早鐘を打つ、へんな汗が吹き出る。

 だがそれを味方には悟らせない。

 目の前に広がるリバーウッド海岸。

 天気は爽やかに晴れ渡って、スカイブルーが綺麗だが、海は私の心情を表すように、波がうねり荒れていた。

 そこを整備し、鉄と岩で作られた線路を黒光りする蒸気機関車が颯爽と走り抜けている。

 対する私たちは、反乱軍の技術を結集して作り上げたあるものに乗っていた。

 それは……水上スキー。

 正確には水上スキーのようななにか。

 でなければ素人の私でも動かせるわけない。

 木造のバイク部分と、エンジンに石が導入されてる。

 この石、魔鉱石と言われていて、どうやら魔力に反応して爆発的なエネルギーを生み出すらしい。

 それをうまく使って、加速と減速をコントロールする。

 そのため私の知ってる水上スキーより見た目はボロいし、何より手首に魔力吸入用のチューブ的なものが接続されていた。

 すぐに外せるように、私のは緩くしてるけど。

 つまり私たちは海から襲撃するわけだ。

 まるで反乱軍というより海賊だね。

 そんなくだらないこと考えつつも、私は合図を待つ。

 現在反乱軍は気づかれないように、遠くから列車と併走中。

 仕掛けるタイミングは決まってる。

 リバーウッド海岸は急なカーブが大きくて、列車の安全性を保つため、大きく減速する区画が幾つかある。

 そのタイミングに襲撃して、何れかで私が乗り込めば第一段階成功だ。

 その為に反乱軍はバックアップを全力で行うとのこと。

 と言っても、死にそうになったら逃げてと伝えているけどね。

 さて、その減速区画まであと少し。

 私は自分に喝を入れる。

 

 「集中しろ鎖腐華、私ならできる、ステータスを信じるな、このフカというキャラを作り上げた私自身を信じろっ!」

 

 自身の頬を、あいた左手で叩き、カッと目を開く。

 視界の端には無理矢理ついてきたフィーネがいた。

 作戦開始前に駄々こねて、仕方なく連れてきた。

 オヤジさんの機体に縛り付けられて、すごい不満そうだけど、危ないから仕方ない。

 ミスター・ドーアはいつでも私の盾になるとばかりに、ヤーさんの機体の後ろで準備運動をしている。

 開始まで1分を切った。

 姿勢を低くして、空気抵抗を減らす。

 30秒、アクセルを思いっきり捻りつつ魔力をぶち込む。

 20秒、スクリューが泡を吹きたて、視界が急激に変わる。

 10秒、列車の姿が更にはっきり、大きく見えてくる。

 5秒、敵兵士達が気づき始めた。

 1秒、反乱軍は銃や魔法を取り出し、私は突撃体制を取った。

 

 「反乱軍だ、撃てぇ!!」

 

 「反乱軍、報復開始ィ!!」

 

 両軍のリーダー、オヤジさんといかにもな騎士装備の男の怒号によって、爆発音が一気に響く。

 政府軍と反乱軍の銃と魔法の打ち合いだ。

 列車の壁がどんどんはげ落ち血が彩り、反乱軍はスキーや騎乗者が撃ち抜かれ散っていく。

 破片と赤が海と湾岸線を染めていく。

 炸裂音が鳴り止まない、銃弾と魔法弾の合間を縫って、私は一気に機体を走らす。

 大きな体のせいで、結構掠ったりしてるけど、ダメージは皆無。

 少し強引に迫る。

 

 「1人近づいてきたぞ!」

 

 「魔装連射砲を使え!」

 

 政府軍兵士達が何かを言って、奥から持ってくる。

 それはどう見てもガトリング砲。

 ちょっと趣味の悪い金の装飾がされてるけど、どの道ガトリング砲であることには変わらない。

 その狙いが私であることは先刻承知。

 私は冷や汗をかきつつも焦らず、左腕を虚空に差し出す。

 すると空間が黒に歪み、そこから鎖が吐き出される。

 それを一気に引き抜けば、現れるのは巨大な大鎌。

 私の愛刀ならぬ愛鎌、【死を宣告する腐敗の大武鎌鎖(インヴェクション)】。

 禍々しくも毒々しい、紺の峰と翆の脈動する血管のような物体の色合い、(ひず)んだ刃から放たれる、本能的に感じ取れる危険な空気。

 ラップで戦えると分かるまで使っていたメインウエポン。

 昔は出来たけど、あれ今もできるだろうか?

 心配になりながらも、ガトリング砲を発砲してくる政府軍兵士達。

 その弾が私に届くことは無い。

 

 「何ィ!?」

 

 「あいつ、なんだ!!」

 

 弾は全て私の大鎌に塞がれた。

 私はインヴェクションを円状に回転させ、弾が届く前に叩き落としていたのだ。

 回る大鎌に弾丸が当たるたびに、ポンと小さな炸裂音と共に、魔装連射砲の名の通りか、魔力を帯びた弾丸が錆びては砂になる。

 当然だがこのインヴェクション、名前の通り腐敗属性持ちだ。

 通称ハンデサイズと言われるくらいには腐敗属性付与値が高く、通常攻撃が低い。

 その為スカイウォーオンラインでは、ゲーム屈指の産廃武器とか言われてしまったが、それでもこの武器を私が愛用し続けた理由はかっこいいから、そしてこれがあるから。

 

 「なに!?」

 

 政府軍兵士の驚きをよそに、私は水上スキーから吹っ飛ぶ。

 そしてインヴェクションの柄尻に付いていた、先がフックになってる鎖を投擲する。

 それは見事列車の床に突き刺さり、私は思いっきり引っ張る。

 よって私は突き刺さり抜けなくなったそこへと、真っ直ぐ寄せられていく。

 そうこのインヴェクション、使い方次第ではこんなふうにスタイリッシュなワイヤーアクションも出来るのだ。

 ダメージを減らすため、着地に合わせて前転、反乱軍の攻撃によって出来た列車の破片(障害物)へと転がり込む。

 唖然としていた政府軍兵士達はそのタイミングで我を取り戻し、私の隠れた場所へと銃撃と魔撃を撃ちまくる。

 どうせ効かないと言っても痛いものは痛い。

 素直に隠れて、私は大鎌を構えた。

 

 「ラップを使う時間が無い…というか、ラップを使うまでもないかな」

 

 確認させるように自分に言いかせたあと、隠れてた障害物を立ち上がると同時に蹴り飛ばす。

 ステカンストの蹴り飛ばしによって、障害物は大砲の如き威力ですっ飛んでいく。

 食らった兵士は溜まったものじゃない。

 吹っ飛ばされ、線路へと叩きつけられていった。

 

 「このアマ!」

 

 続きは言わせない、確実に刃を当てるためバックステップ、一歩交代して大きく横に薙ぐ。

 ギャオンと音を立て、鎌が振るわれれば…想定より凄いことになった。

 まず真正面にいた兵士の胴体が泣き別れした、それはまあいい。

 手に斬った感覚が伝わってきて気持ち悪いけど、この際どうでも良くなった。

 だって、その彼の後にあった何台かの車両の半分上が……

 

 「なんで斬れたの…」

 

 そんな威力インヴェクションにはない、ステカンストでも出来やしない。

 なんでこんな大破壊出来たんだろう。

 当然そんなことになると思ってなかったため、その先の兵士たちも切り飛ばされている。

 回避なんて夢のまた夢、死んだことすら分かってないだろう。

 自分が起こしたことに若干唖然とするが、どうせ神こと白いのがなんかしたと考えることにした。

 そう言えばこの世界に来てから、全力で戦ったことも、ましてや全力で行動すること自体なかったからな。

 それもあるのかもしれない。

 何にしても、おかげで大分進みやすくなった。

 擬態化魔法を解くこともなく、私はあえて悠々と歩き、車両を進んでいった。

 迫ってくる兵士は切り捨て、銃撃は鎌を回して塞ぎ、空いた足で障害物を蹴飛ばして処理。

 魔法は紙一重で開始しては切り飛ばす。

 気合い入れた最初が馬鹿らしくなるくらいにはサクサク進んだ。

 兵士たちは、急ぐべきこの状況で、私が歩いていることから、自分たちを蹂躙して進むことは容易いと思い込み(事実そうだけど)、逃げ出すものが出てきた。

 狙いはこれだ。

 誰しも彼しもが王のために死にたいわけじゃない。

 誰だって自分の命は惜しい。

 それでも戦う兵士達は余程王に忠義があるんだね。

 何にしても、結構な兵士達が逃げたおかけで更に楽に進めれた。

 立ち向かう少数を殲滅しつつ、車両を進む。

 そうしてようやく客席らしきものが見えてきた。

 自分が飛び乗ったところはそんなもの無かったから、荷物を載せる車両だったのは知ってたが、こんなに長いとは思わなかった。

 さすがに客席には誰も乗ってない。

 この列車は国王の貸切状態だからだね。

 正確には脱出のためのがつくけど。

 ガラガラの客席をあとにして先に進めば、少し豪華な扉が見える。

 恐らくここがそうだろう。

 この扉を開ければ、反乱軍ターゲットの国王の息子【ジョンソン】、そして私のターゲットの【御堂皇】が…

 

 「ふぅ……」

 

 息を吸い、そして吐く。

 何度も自分に言い聞かせる。

 私はこれから転生者を殺すんだと。

 何人も恨みもない兵士達を殺しておいて今更と思うけど。

 この扉を開ければもう帰れない。

 本当の意味で神の殺し屋になる。

 ここで逃げたら反乱軍もおしまいだ。

 自分の世界にすら帰れなくなる。

 改めてそれを頭に浮かべ、私は決意を胸に抱いた。

 そしてその思いのまま、その扉を蹴破った…


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