神様に雇われて、異世界転生者を殺すことになったラッパー少女の物語*リメイクするため凍結   作:しじる

17 / 20
17.韻 マリアの独白

 反乱軍中央広場、昨日の大宴会が余程凄かったのが、改めて分からさせられる。

 なぜならこの惨状が全てを物語っていた。

 あちこちに散らばる酒瓶と酒樽、キレイさっぱり食べられて、何も乗ってない皿の山。

 そして酔いつぶれて爆睡中のヤーさんの山。

 あちこちに転がった木彫りのマイク、そして漂う酒と吐瀉物の臭い。

 正直…きつい、なぜみんなこの状況で寝れるんだか…

 そんなこと思いながらも、私はオヤジさんを探す。

 しばらくこの臭いのきつい広場を見渡すと…いた。

 端っこの方でうずくまってた。

 胡座をで座って、口からよだれを垂らして、ぐがぁーと豪快にイビキをかいていた。

 …女性だよね?

 疑問符が頭に浮かぶが、起こすのは悪いなと思いながらも起こすんだ。

 私が自分の世界に帰るために、ほかの世界の転生者を殺すんだ。

 別れも言わずに行くのは寂しい、だからせめてお世話になったオヤジさんには伝えたい。

 肩を触り、ゆっくりと揺らす。

 するとオヤジさんは不満げに目を開け始める。

 

 「んん…あんだぁ……まだ眠いんだよ…クサリ?」

 

 「オヤジさん、おはよう」

 

 起きるオヤジさん、すごく酒臭いけど、伝えたいからそれは我慢して口を開こうとした。

 

 「なんだぁ…湿気た面してんな、何かあったのか?」

 

 そのタイミングでこんなこと言われた訳だから、一瞬詰まってしまった。

 どうしてと言った表情に私はなったのかもしれない。

 だって続くオヤジさんの言葉…

 

 「2週間ちっとしか過ごしてなくてもな、大体わかんだよ…何人腹にひとつ抱えたやつ見てきてると思ってんだ」

 

 そう言えば忘れかけてたけど、反乱軍の人達の大半はもともとオヤジさんことマリアさんの部下。

 すぐにこんなに集まるわけないし、ここに至るまで相当長い時間があったんだろう。

 そう考えたら、オヤジさんがリーダーに選ばれるという人望にも納得だ。

 

 「で、なんなんだ」

 

 不満そうに伝えるオヤジさん、私は自分が転生者ということは伏せておいて、フィーネと一緒にこの場所を離れることを話した。

 私たちは遠い場所へ行くって、多分もう会うことなくなるだろうって。

 話せば話すほど、オヤジの表情が険しくなっていく。

 でもここで怖さに引っ込んじゃダメなんだ。

 突き放すように私は告げた。

 

 「お世話になりました…」

 

 「……」

 

 無言、お互いのあいだに広がる静寂。

 正直辛いこの空間。

 もうこのまま立ち去ってしまいたい…

 どうしたらいいかわからないこの状況、先に口を割ったのはオヤジさんだった。

 

 「行けよ…」

 

 「え?」

 

 私が聞き返してしまうと、オヤジさんはますます不機嫌な顔になって、鬼の形相でこう叫んだ。

 

 「行けよどこにでもよ!行っちまいな!!」

 

 頭をハンマーで殴られたような、重く低い声が響き渡る。

 それに私は怯えるように走り出した。

 やっぱり怒るよね、そんなこといきなり言われたら。

 もう少し時間を置くべきだったか…そんな思考が駆け巡る中、走り出す中、ぼそっと聞こえたその声で、私はそんな思考を投げ捨てた。

 

 「ったく、てめぇの決めることに文句あるか。自信もって言って欲しかったぜ…」

 

 「……ありがとう、オヤジさん」

 

 もう結構離れてる、ステカンストだからこそ聞こえた距離。

 多分私の呟きは聞こえていない。

 それでも、言わなきゃいけないと思ったんだ。

 そうして、私は広場をあとにした…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「馬鹿野郎が」

 

 私はクサリを見送る。

 でっけぇ体してちっせい肝っ玉だ。

 ここを去るとか言った時は確かに驚いたが、そんなもんあいつが考えて決めたことだ。

 あたしはいつもそうだ、そいつが考え抜いて決めたことなら文句ねぇ。

 クサリの目もそういう、悩みに悩んで選んだ回答のように見えた。

 だからあたしは突き放した。

 ああいうのは下手に大丈夫とか言うと、余計に離れられなくなって、踏ん切りつかなくてそのまま移住しちまうタイプだ。

 ガツンと拒絶しなきゃいけねぇ、例えいて欲しくともだ。

 あいつが来てから反乱軍は変わった。

 絶望一直線から、希望が見えた。

 このままゆるゆると全員死ぬのを待つのが、反撃の一手を繰り出せるほど立て直せた、そしてその刃は届いた。

 政府の油断と慢心から生まれた、無謀に近いお粗末な作戦を突き崩して、王子を捕らえて、国の政権を握った。

 クサリが、そしてフィーネの嬢ちゃんがいなかったらできなかった事だ。

 クサリ、あたしはあんたに王になって欲しかったんだぜ。

 普段何に対しても無気力そうなあんただが、真面目な時は真面目って分かってるからな。

 有能で無気力怠惰な王様が、今の国には必要な気がした。

 自分が楽するために全力尽くして仕事を終わらす、そんな王が。

 でも、そうは行かなかったな。

 さて、私は次に誰を王にするか考えねえとな。

 もちろん自分は論外、あたしに政治は無理だ。

 この中で頭の切れるのは…参謀か?

 あのハゲメガネに国の王ができるのか不安だが…試してみようか。

 

 「あーめんどくせぇな、これ子分共に説明しなきゃいけねぇのかよ」

 

 鬱陶しく思いながらも、あたしにはふっと笑みが浮かんでたと思う。

 憎たらしげに私は、もう見えないクサリへと呟いた。

 

 「あばよ、クサリ…また会うことがあればな」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。