ウェルフなる旅人の帰路   作:揚げやきとり

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Prologue 汽笛の響く谷間

「間もなく、汽笛の町モリ、汽笛の町モリ~」

 

 木の葉の形をした黄色の髪飾りを揺らし、黒色の乗務員服姿の少女が脇を通った。

 きっとこの列車の乗務員さんなんだろうが、小柄だからか服が大きめに見える。

 

 

「……ん、もう着くのか。早いな」

 

 自分で聞いても眠そうな声を窓の外に流して、自力でなんとか目を覚ます。

 別に寝ていた訳ではないが、軽くうとうとしていたらしく目が痒くなっている。

 

「この列車も、もう少し揺れが柔らかかったらぐっすり寝られるんだけど……」

 そんな声を洩らして目を擦ると、

 

「悪かったね、お客さん。どうも古い列車なもんで」

 そんな声が聞こえて、目を開くとすぐに、さっきの少女が視界に入ってきた。

 その顔は片方の口角が上がっていて、何だか皮肉を言いそうな顔だった。

 

 

 柔らかそうな頬に華奢な体、小柄な背丈に伸ばした髪、それと綺麗で細い指。

 外見からして幼い印象しか伝わってこないが、実際は何歳なんだろう。

 

「きみ、おいくつ?」

 そう疑問に思ったので、とりあえず聞いてみた。

 

「……お客さん、どこから来たの? 外見とかからして何処か遠くだと思うけ――」

「逆質問しないで。まずはこっちが先、でしょ」

 

 上がった口角が更に上がった。

 失礼だったかな? とも思わなくもないけど、知りたかったものはしょうがない。

 

 引く意思がない事を察したのか、少女は小さく息をはいて口を開く。

「私はローレ。ローレ・レランクル。本列車の客室点検主任と、あとは女乗務員の監督を任されていて、歳は……」

 そこで言葉を切り、彼女が軽く顔をしかめる。初めて嫌そうな雰囲気を帯びた彼女だったが、やむなしかと小さくため息を付き、少女は再び口を開いた。

「今度、12歳になるわ」

 

 

 若い、という感想が思いついたが、自分は口を開かなかった。

 この世界で言えば、12歳という歳で定職を持つ人間は珍しくもない。珍しくはないがその人数は多くもなく、家庭の事情で、とか、生活の事情で、だとか、いろいろな事情を抱えた人間が存在する。全体的に言ってしまえば”ませている“ともとれる。

 しかし、この世界の人間は誰も”ませている“とは言わない。決して、言わない。

 

 若い働き人の殆どが親を持たぬ事を、この世界の人間は知っている。

 

 

「12歳、かぁ。残念、2つ違った」

「……ん? 何の話?」

 

 小首を傾げて可愛らしく疑問の意を示した少女と、車窓から外の景色が見える。

 周囲を高い山で囲まれて、列車は汽笛を上げながら谷間(たにあい)を進む。

 

「車掌さん、とっても綺麗な顔をしているから、14歳くらいかな、って思って」

 そんな返しに驚いたのか、少女は少しの間だけ惚けてみせた。

 

「……まさか、年上に見てくれる人がいるとはね」

 意識が戻ったのか、そうとだけ呟いて照れくさそうに顔を逸らす少女。

 

「女性ってのは、年下に見られる方が嬉しく感じるんじゃないの?」

 少女は答えた。

 

「人間ってのは、若さの全盛期を常に追い求めるのさ。だろう? お客さん?」

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