『旅人の筆記』
私の名前を呼ぶ声がした。年若そうな、高い音が響く声だった。
「なんだい? お嬢ちゃん」
声に気付いて足を止めた私は、声の主の方を向き直っていた。
「お嬢ちゃんと呼ばれると、少し、こそばゆい感じがするな」
そこには貴族服を着た少女が立っていた。衣服には赤い縦縞模様が入っていて、少女の髪の間にも、一本か二本の赤い線の布が揺れていた。
「……どこかで?」
私はただただ、少女のその言葉に戸惑っていたが。
「ああ。君と私とは一度会っている。――君は覚えていなくとも、ね」
背筋にぞわりとした何かを感じた、という事を憶えている。
「それで、何か?」
「最近の君の様子が気になってね。元気にやっているかい?」
私が少女に短く問うと、少女はすぐに質問を返してきた。少女の頭が、少女から見て右前の方向にゆっくりと傾げられる。
「ええ、まあ。あまり変わりなく」
私は曖昧な返答を返す。
「そうか。それは良かった」
少女は簡潔な返答を返した。
「さて、お喋りはこのくらいにしようか。本題に入ろう」
少女が静かな動作で瞼を閉じる。傾げられた頭をそのままに。
「本題、ですか。長話は苦手なもので」
私は片方の広角をあげて呟いた。
「そう言わないでくれ。簡単な質問だから、きっとすぐ終わるさ」
少女もにやりと笑って言った。
吹雪に見舞われたとして、動けなくなる事がないようにする方法。それは“動き続けること”だ。じっとするとして、吹雪の入ってこない屋内で暖かいお茶を頂く時までは待つ必要がある。
私が動けなかったのも、動かなかったからなのかもしれない、と思った。
少女は言った。
「君は狼だが、同じ狩人としての鷹の爪を隠しているかな?」
なおも少女は続けて言う。
「君に力を与えたのは、他の人の希望となるように、だ。それを忘れたわけではあるまい?」
「ち、力だとか何だとかは分からないけど……」
少女の言葉に対して、私は無意識に口を開いていた。
「けど?」
少女が問う。再び私は答えを返した。
「――私のこの力は、罪のない命のために使っている」
自分でも不思議な断言に対し、少女が更に口角を上げた。
「へえ、罪のない命、ねえ」
その表情は鞠を叩く猫のように穏やかで、好奇心が浮いていて、どこか問い質される感じがした。赤い布の流れる白髪が靡くたびに、私は次の言葉を失った。
「でも、君にあげた力は”小さなペンダント“を象っていたはずだ。そんなおもちゃみたいな物持っていたら、逆に侮られると思うけどね」
ここで私は過去の記憶を探り出そうとしていた。そのことは憶えているが、得たい記憶を見つけ出したか、あるいは見つからぬままか、それも憶えていない。
最後に一言、少女はこう言っていた。
「人は
記憶はここで途切れていた。思い出そうと考えてはいるけれど、記憶の尾っぽにも触れられなそうだ。
故に今、今思い出した記憶をここに書き記しておく。
いつかいつか、私の記憶が全て蘇る時を願いつつ。