刀使ノ巫女と武宮ノ氏子   作:セルユニゾン

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徐々に現状を掴む追跡者達だが、彼等とて自分の身内全てを信用出来る訳ではない。
追跡者の知らぬ場所で、逃走者の知らぬ場所で追撃者が放たれようとしていた。

そんな中で逃走者はある人物との合流を図り、ある者は闇の中を探らんとする。


第六話 鋼の種類

「居場所を特定出来ただけでもお手柄よ。あなた達は、戻って来て」

 

舞衣からの報告を聞いた美濃関の学長。羽島江麻の言葉に舞衣は了解と告げて通信を切る。

 

場所は鎌府共学園の中の機動本部。様々なサイズのPCにディスプレイが部屋に所狭しと並べられ、部屋の明かり以上に部屋を照らしてさえいる。

 

「美濃関の刀使と武宮の構成部隊。それもトップクラスを退けるか、これは衛藤可奈美の関係は黒と見るべきだな」

 

手持ち無沙汰に椅子に座り、ジッポライターの蓋を開け締めしている苔石が声を漏らす。

「どうしてそう思いますの?」

 

「是非とも聞きたいな。時々言う、なんとなくは無しでな」

 

苔石の言葉に此花と獅童が問い掛ける。

苔石は椅子から立ち上がり、ライターをポケットに納めながら告げる。

 

「状況は分かりやすく三対三だった。もしも、衛藤可奈美が非協力的ないし脅されてなら二対三か二対四になる」

 

彼の仮定通りなら、美濃関の三人は救援に近い。逃走中に関わらず電話をすると言う事は恐らくは居場所を知って欲しいと言う意味なのだろうと言う事は予想が着く。

 

「これで逃げられる程に平城兄妹が強いとは思えない。ならば、衛藤可奈美は二人に協力的な関係。簡単に言えば共犯者って事だ」

 

苔石の中で今回の襲撃に可奈美は脅されていたのでは、と言う疑惑は有った。だが、今回の報告で可奈美の協力関係が確固な物と見て問題が無いだけの状況証拠が揃ってしまった。

 

「成る程、確かに状況証拠は揃っている」

 

「交戦地点周辺に監視カメラは無いですし、これだけで判断する他ありませんわね」

 

だろうと苔石がドヤ顔を浮かべた瞬間にドアが開け放たれ、鎌府共学園の学長を務める高津雪那が現れる。

 

「賊の追跡は「関係者以外の立ち入りを禁止していたと思うのですが?」貴様!! 私を見下すか! 所詮は紫様の温情で拾われ、親衛隊の服に袖を通す分際で!」

 

高津の登場に給湯室から顔を出した友衛が高津に退出を口外に願い出ると高津は激情して、友衛を見下す様な発言をする。

 

「おどれ、もう一度「いいの」……ああ、わかったよ」

 

友衛を馬鹿にする様に発言に苔石が詰め寄ろうとすると友衛自身が手を翳して辞めろと指示を出す。

苔石も彼からの意思であればと無理矢理に怒りを沈めて、椅子に腰掛ける。

 

「私の事はなんと思って貰っても結構です。ですが、今は関係者以外の出入りを禁止しています」

 

出て行って下さいと扉を指し示す友衛に、高津はそれ以上は何も言わずに怒りと嫉妬を混ぜた様な視線で睨んでから、ドカドカと歩き去って行くその際に周辺の監視カメラを解析する様に命令し、羽島と平城学館の学長の席に座る五条いろはに逆賊を育てた罪は重いと吐き捨てる。

 

「丁度いい時間ですね」

 

給湯室から響いたタイマーの音を聞いて本部の空気が変わる。

 

「気を張り詰めるの毒です。お茶でも飲みながら現状を再度確認しませんか?」

 

「そうやね」「頂こうかしら」

 

学長の二人がそれを了承した事で友衛が全員分のお茶を注いでいる間に獅童が口を開く。

 

「事件発生から30時間。この件に関しては箝口令を敷いています」

 

次に此花が口を動かす。

 

「御前試合に参加した他の生徒達も調査しましたわ」

 

次に苔石。

 

「だが、他に協力者は無し。三名のみの犯行のみと考えられる」

 

最後にお茶を注ぎ終えた友衛が明るい内容を告げる。

 

「他の生徒達も現状では拘束してますが、そろそろ解けるかと」

 

友衛の言葉に生徒思いの教師と言える二人の学長は目に見えてホッと息を吐くが、五條は逃げている三人を案ずるかの様に頬に手を置いて、どれだけの罪が被るのかと告げる。

 

 

 

 

 

少し時間は遡り、高津が本部を出て行った頃。

 

高津の歩く廊下の中央に二人の刀使と武宮と思える鎌府の生徒が立っていた。

二人の風貌は白の混じった銀髪にアメジストの様な瞳と並んでいれば双子だと思える程に似通っていた。

 

女子生徒は人形の様な可愛らしさに幼さをを残した顔立ち。背中には一振りの水色の日本刀拵の柄に4枚花弁の丸い鍔のみと飾り気の無い御刀を黒い鞘に納めて背負っている。対して男子生徒は幼さを残しながらも十人中八人は振り返る程に整った顔だが、背中に黒い長方形の小型コンテナを背負い、手には電光受けて極彩色に輝く金属製の保護パーツが付けられた指抜きグローブと少し恐怖心を煽られる。

 

「沙耶香、津佳沙(つかさ)。あなた達は東京に向かい、潜伏中の逆賊どもを討ち取るのよ」

 

「「はい」」

 

高津の指示に二人は揃って感情の抑揚がない声で返答する。人次第だが、この返事を薄気味悪く思う程の返事だったが、高津は気にしないどころかこの返答に満足した様に沙耶香の側頭部に片腕を添えて、軽く撫で付ける。

 

「試合で敗れこそしたけれど、私の評価は変わらないわ。貴女こそ我が鎌府が誇る最高の刀使。親衛隊の様な試作品とは違うわ」

 

その言葉を投げられた沙耶香も、聞こえた津佳沙も虚空を見つめる様な感情の無い目をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此処か……」

 

とある建物の中で帝人と姫和。可奈美の三人は誰かを待っている様な素振りを見せていた。

 

姫和はこの場所に来る様に告げた相手が管理局の手の者では無いかと警戒しているが、可奈美は舞衣から受け取ったクッキーの中に隠す様に入っていた手紙が舞衣の字では無いが、罠では無いと可奈美には何処か確信していた。

 

「何も無いんだ。もしも、管理局なら倒して逃げればいい」

 

「あー! 居た居た! びしょ濡れじゃない」

 

そんな三人に無警戒と言える程によく耳に通る声音に足音を立てて近付く相手に帝人は警戒を解く。

近付いた人物の手には両手で抱える程に紙袋が入ったビニール袋があるからでもあるが。

 

「貴女が姫和ちゃんで貴女が可奈美ちゃんね。で、貴方が帝人くんね」

 

「ええ。貴女は?」

 

「私、恩田累。宜しくね。はいはい、これ持って」

 

そう行って両手で抱えていた荷物を帝人に差し出すと、三人は互いに目をやってから累の荷物を受け取り、累の車に乗り込んだ。

 

「羽島学長のお知り合い、ですか?」

 

「うん。私、美濃関出身だから」

 

暫く走っていると可奈美が累に話し掛ける。

 

「え、じゃあ、先輩なんですね」

 

「そう。羽島学長には今も良くして貰ってて、電話で三人のこと宜しくってお願いされてたの」

 

「では、あの手紙は? まさか……」

 

帝人の口が開くと同時に車は信号待ちで止まると累は後部座席に振り返る。

 

「羽島学長よ」

 

そう言って累は警戒心を解きたいのか笑って見せるが、姫和は未だに警戒心を解いてはおらず、そのまま累の住まいであるマンションについてしまう。

 

部屋の中では元刀使であると言う言葉を聞いた姫和が警戒心を強めるが帝人が頭を軽く叩いて注意する光景に累は笑いながら今は管理局との繋がりは無いと告げると食事の準備をするからその間に入浴を勧める。

 

「あんなデカイ風呂があるのは羨ましいな」

 

そう言いながら部屋の襖を開けた帝人に姫和はもう少し警戒してはどうだと告げると警戒はミスを抑えるが時にはチャンスを逃しかねない足枷にもなると告げる。

 

「ならば、せめて入浴中も御刀を持って行ってはどうですか?」

 

「お前の珠鋼造と違ってこっちは愚鋼造だぞ。水で錆びる場合もある。最近は天候も安定しないから錆び取りは出来ないんだぞ?」

 

愚鋼は通常の手入れでは錆や刃こぼれを直せない。直すには個体ごとにある手間や鍛え直さないと刃こぼれも錆も直せない少し面倒で特殊な鋼だ。

金やコネのある武宮や刀使は御刀にパウダーコートや別の金属を張り付けて錆の懸念を軽くするのだが、帝人はそれが出来ない為に錆に注意を払っている。

 

「状況が状況だ。私は、持っていく」

 

そう宣言すると御刀を持ったまま入浴の為に部屋を出て行く。

可奈美は空気を変えようと帝人に話し掛ける。

 

「帝人さんの御刀って愚鋼だったんですか! てっきり、和鋼(にぎはがね)造だと思ってました!」

 

「あんなレア物早々に手に入らないさ」

 

帝人がたははと軽く笑う。

 

和鋼。

ノロが変質した物体で時間経過で固まり、高温の熱で直ぐに粘度の高い液体状の鉄に変わる美しい鉱石の様な鋼だ。算出方法が荒魂を退治した際に倒し方次第と言われているが未だに解明しておらず奇跡の産物となっており、荒魂退治で和鋼を手に入れた刀使や武宮にはその和鋼を報酬として獲得。換金するか鋳物か削り出し武器にするか選べる。

 

ある程度の厚みがあれば曲がりもしなければ折れもしない御刀が作れる故に手に入れた刀使や武宮は武器にするのだが、御刀同様に使用者を武器側が選ぶので作ったは良いが選ばれなかった場合がある。また、和鋼の入手自体が滅多に無い事と削り出し・鋳物の武器は伝統的、保守的な存在が多い武宮や刀使には人気が無く、作り方の問題か刃文が無いなどの理由で使いたがる者が少ない。

 

さらに愚鋼同様の手間を掛けなければ自然と錆びてしまうという弱点もある。

因みに愚鋼はこの和鋼をカサ増しする為にダマスカス鋼の作り方でやったら偶然に出来た量産品だ。

 

「御守りはどれでどこですか?」

 

そして愚鋼は大抵の人物は認められるが写シや八幡力、迅移が使えないという弱点があり、簡単に言えばただ単純に荒魂にダメージを与えられるだけの武器で使うのに適性がいるという面倒くさい武器だ。

 

そんな武器を荒魂退治で使うにはセット運用される通称で御守りという道具がある。

 

「ここだよ」

 

そう言って見せたのは柄頭のカバーを外した下にある細長い六角形にカットされた和鋼で出来た護石の様な物だった。

 

御守りには二種類あり、帝人の持つ和鋼の御守り、和神(にぎかみ)の御守りと荒魂の甲殻から作られる禍神の御守りだ。

 

和神の御守りには同じ様に御守りごとにある特殊な手間により効力を維持する。

禍神の御守りに手間は要らないが長く使った時や所持していると悪夢を見やすくなる。ただし、禍神の御守りは珠鋼や和鋼、愚鋼の近くにあると悪夢を見せなくなる、悪夢の質がマシになる事から禍神の御守り使用者は刀使や和鋼、愚鋼の御刀を持つ人間と同室で寝たりする。

 

「和神の御守りなんですね。彗士くんは心鋼(しんはがね)の御刀だから、禍神の御守りを付けた鹿の足のナイフを持っているんだよ!」

 

心鋼。

職人達が心・誇りを込めて鍛えた物、神域や聖域と呼ばれる場所に祀られた物や鍛えられた物、受け継がれた物がなるという御刀の一種だ。

 

ただし、上記の条件の一つを満たせば必ずしも出来る物ではないので奇跡の産物とされ、和鋼の次あたりにレアな御刀だが、中には探せば簡単に見つかるという程に心鋼を生産出来る場所もある。

 

対荒魂能力は持ち、八幡力を使う能力はあるが、迅移と写シが使えないので御守りとの併用は必須。また、折れたり、曲がったりはしなくなるがあくまでも通常の鋼なので、錆や切れ味低下はするので普段の手入れは必須。

 

「あの投げたナイフか。足になんか巻いていると思ったが、禍神の御守りだったのか」

 

彗士の投げたナイフだが、鹿の足の剥製を柄にすると言うアレな趣味だが、ドイツの一部では普通に見られるナイフの形式だ。それはナイフ販売・製造の会社のカタログにも載る位には主流だ。

そんな彼の柄の足だが、足を怪我しており、それを隠す意味でも足輪に禍神の御守りを付けて巻いている。

 

「そういえば、帝人くんの流派ってなんなの! 見た事ない動きだからよくわかんないんだよ」

 

「流派じゃなくて、術かな? ただ、祖父から教わった術に我流、それに色んな流派の技を混ぜてるから……斬り方がなっている我流かな?」

 

我流と言うと良い顔をしないのが刀使だが、可奈美はそんな事は無く、輝く様な笑みを浮かべる、

 

「我流!! 今度、手合わせしてよ! 色々見てみたいな! どの流派をどんな時に使うか見てみたい!」

 

絆が深まったからか、それと剣術の話になったからか、一定の物理的な距離を取っていた可奈美が言い迫る様に帝人との距離を詰め、流石の帝人も上体を反らして距離を取るが、帝人もやっぱり男子。同年代の女性に近寄られる。それも可奈美ほどの少女となれば嫌な気はしない。

 

そんな二人の様子を風呂上がりに見てしまった(見せられたとも言う)事で若干ではあるが、不機嫌さを抱くも平静を装う姫和が合流。姫和の声に不機嫌さが混じっているなと帝人は思いながらも累と共に夕飯のハンバーガーを食べながらニュースで情報を収集。折神紫襲撃は伏せられている事を知る。

 

「警察発表はないみたいだね」

 

「混乱を避ける為か……」

 

一応はまだフットワークが軽い事に安堵する帝人の隣で御刀を抱える様に座る姫和が累に警戒心剥き出しの声で告げる。

 

「貴女は何を何処まで知っているんですか」

 

「一応、大体の事は知っているわ。あの、英雄折神紫様に御刀を向ける。なんてね。ま、余計な詮索はしないけど」

 

そのまま累は朝が早いからと寝てしまう。

 

「可奈美、兄さん。話がある」

 

姫和が異様に真剣味のある目で語り掛けて来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

鎌倉。

御前試合へと来ていた生徒達は今回の一件に対して無関係であると判断され、箝口令を敷かれた今回の事を誰にも口外しないという誓約書にサインした生徒達がバスに乗って各校へと帰る日。

 

生徒達の中にはやはり、今回の一件で未だに捕まらない同じ学校の仲間を心配する声がする。

 

「みんな帰るんだ……」

 

「そりゃあね。自分から面倒事に首突っ込みたがる奴なんて……なぁ?」

 

「その面倒事に首突っ込んでる阿保が目の前にいるんだが、殴っていいか?」

 

少し離れた場所で帰還する生徒達を見ながら話すのは、舞衣・彗士・勝武居。その側を鎌府の制服を着た二人の生徒が車に乗り込んで消えて行くのを勝武居だけが見つける。

 

「急いだ方が良いな」

 

ゆっくりと静かに呟くと野暮用で席を外すと二人に告げようとしたが、何か二人の家族がビジネスパートナーという金髪碧眼の女性と話している光景を見て、何も言わずに去る。

 

勝武居は二人から離れると指揮が取られている本部へと赴くと、目的の人物が居た事にホッとするとその目的の人物に近寄る。

 

「羽島学長、五條いろは学長。少しお時間を良いですか? 少々お聞きしたい事が……」

 

羽島は勝武居の声に拒否は許さないと言いたげな雰囲気を感じ取り、五條もそれを受け取り、羽島と五条は人気の無い場所であり、盗聴器などもないだろう場所として屋上を選ぶ。

勝武居としても大勢に聞かれるのは不味いとして二人の言葉に従う。

 

「で、話しって何かしら?」

 

「真実をお聞かせ願いたい。二十年前の相模湾岸で起きた、あの日の事を……」




真実を知ろうとする者は受け継ぐ者。

小さな烏を持つ妹に羨望の感情を抱く兄。

決して交わる事の無い者と会った者は悲しき過去を背負う者と会う。

そして逃走者は意外な共通点を知る。

次回、『各々の過去』

誰もが過去を背負う。それが良きものであれ、悪きものであれ。人は過去を背負うからこそ、今を生きる権利を得ている。

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