IS-Beyond-   作:アカトーム

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 隔週更新とはなんだったのか…
 とりあえずストックがなくならない限りは毎週更新していこうと思います。それではどうぞ


第2話 ―邂逅―

 チャイムが鳴ってすぐに、出て行った2人は戻ってきた。その際に彼だけ千冬さんに出席簿で叩かれていた。やっぱりいくつになろうと弟は弟ということだろう。

 この時間から早速授業が開始された。内容はISの基礎理論とIS運用協定、通称アラスカ条約について。ISの基礎知識はシールドエネルギーやPICと呼ばれる浮遊、加減速を行うシステムのことについての説明で、もう1つのアラスカ条約とは、簡単に言ってしまえば、ISの軍事転用の禁止・ISコアの譲渡の禁止・ISに関する情報の開示とその共有を取り決めた条約である。今熱心に説明している眼鏡の先生――山田真耶という名前らしい――には悪いが、たったそれだけのことを何故こうも長ったらしくしかも分かり辛く書く必要があるのだろう。それに、今や各国の軍隊では自衛用と称してISを配備し、こんな風にスポーツと称した戦争ごっこに勝つために多くの企業が躍起になって武器や機体を開発している。こんなとってつけたような条約なら、まだ案山子のほうが役に立っているだろうという感じだ。そもそもISはそんなオママゴトをする兵器(オモチャ)じゃないというのに。

 気づかれないように内心でため息をつき、頬杖をつきながら前を見ると、彼が挙動不審な態度をとっていた。どうやら山田先生もそれに気づいたようだ。

 

「織斑君、どこかわからないところがありますか?」

「え、えっと……」

「分からないことがあったら何でも質問してくださいね、何たって私は先生ですから」

 

 そう言って、胸を張る山田先生。これまでの説明も分かり易かったし、見た目以上に頼りになるのかもしれない。

 

「あの、先生。……全部わかりません」

 

 僕はまさかそう答えると思っていなかったから、危うく顎が左手から離陸しそうだった。でもそのまま飛行できる機能はなかったからそんなことにならずホッとした。山田先生の困惑ぶりは言わずもがなだろう。

 

「えっと、今の時点でわからない箇所がある人はいますか?」

 

 山田先生が辺りを見回すが、誰も手を挙げる者はいない。それも当然だろう。僕や彼は特例だが、他の生徒たちはここに入るために遅くとも中学校からはISについて学び始めているのだから。

 

「三海君はどうですか?」同じ男性ということからか、僕も質問された。

「大丈夫です。理解できているつもりです」

 

 もともと僕は将来ISの研究職に就こうと考えていたからこの程度のことは既に知っていたし、もっと言ってしまえばおそらく2年生程度の知識は持っていると思う。

 

「織斑、入学の際に渡された参考書はどうした? 必読と書いてあったはずだぞ」

 

 見かねた千冬さんが訊ねた。彼は一瞬考え込み、探し物の場所を思い出したようにハッとして言った。

 

「古い電話帳と間違えて捨てました」

 

 言い終わると同時に頭上へと出席簿が振り落されていた。そのままコント大会に出ても十分通用するくらい鮮やかで無駄のない一撃だった。

 

「後で再発行するから、一週間で覚えろ」

「え、さすがに一週間ではちょっと」

「いいな」

「は、はい」

 

 あまりの剣幕にいいえとは言えない様子であった。流石に少し不憫に思えてくる。でも、僕にはちょうどいいかもしれない。

 

「とはいえ、三海。こいつに教えてやれ」

「できる範囲でやってみます」

「よろしく頼む。さて山田君、授業を進めてくれ」

 

 千冬さんに頼まれたのも好都合である。というのも、授業が退屈だったから時間を持て余していたのだ。IS以外の普通の勉強も高校程度のものは学習済みだから、どうしようかと思っていた時にちょうど教えるように頼まれたのである。彼用に授業を要約したノートでも作れば、時間もつぶせ、自己の知識の再確認もできるからうってつけだった。彼は従順な宗教家のように僕の方を振り返ってみていた。あまりにも大袈裟すぎたから僕は思わず口が緩んだ。

 

「初めて笑ったね」隣の席の女の子が小声で話しかけてくる。

「そうだっけ?」

「うん、さっきまでず~っとつまらなそうだったよ」

「きっと、さっきはドアが開いていたからだよ」

「え? どういうこと?」彼女は首を傾げた。

「今はドアが閉まっているから、詰まったんじゃない?」

 

 それを聞いた彼女はクスクスと笑いだした。幸いにもジョークは通じたようだ。満足した僕は、私語は終わりだというように前を向いて、彼用の要約を作り始めることにした。

****************************************

 授業が終わった休み時間。先ほどの彼が僕に話しかけてきた。

 

「ちょっといいか?」

「なに?」

「さっきは自己紹介できなかったからな。俺は織斑一夏だ。よろしくな」

「知っていると思うけど、僕は三海隆宏。こちらこそよろしく、織斑君」

「別に名前で呼んでくれて構わないぜ。俺も隆宏って呼ばせてもらうから」

「わかったよ、一夏」

 

 僕は彼―織斑一夏―に右手を差し出す。一夏もすぐに右手を出して握手をする。

 

「それにしても、俺以外に男がいてよかった。俺一人じゃ絶対に耐えられなかった」

「確かにね、こうも見世物になるとは思わなかったよ」

「本当だぜ。今なら動物園のパンダと愚痴も言い合えそうだ」

「じゃあ、僕は水族館のペンギンとでもお話ししていようかな」

「ははっ、あいつらもなかなか大変そうだよな」

 

 どうやらこのジョークは一夏には好評みたいで、なかなかいい滑り出しができたようだ。

 

「そうだ、さっきISのこと教えてくれるって言ってたけど、本当に良いのか?」

「僕のできる範囲でだけどね。それで早速なんだけど――」

「ちょっとよろしいかしら?」

 

 これを見て、と言おうとした声は突如横から発せられた声に遮られた。そちらに視線を向けると、金髪の少女が立っていた。腰くらいまである髪の先の方はロールがかっている。あのロールの軌道ができる操縦者はそうそういないだろう。

 

「うん、なんだ?」一夏が聞き返す。

「まあ、なんですのそのお返事は! わたくしに話しかけられるだけでも光栄なことなのですから、それ相応の態度というものがあるでしょう?」

「それで誰に用があるの? イギリスの代表候補、セシリア・オルコットさん」

「あら、貴方の方が少しは賢いようですわね。褒めて差し上げますわ」

 

 どうやら彼女は明らかに僕たちを蔑んでいるようだ。最近では特に珍しいというわけでもないが、ここまであからさまな人は初めて見た。

 

「なあ、1ついいか?」

「いいですわよ。下々の者の質問に答えるのも貴族の務めですから」

「代表候補生ってなんだ?」

 

 一瞬教室全体の空気が固まった。まさかそんなことを質問されると思っていなかった彼女も怒り半分、呆れ半分という顔だ。

 

「貴方、本気でおっしゃっていますの?」

「おう、隆宏はわかるか?」

「読んで字の如し、だよ。ISの国家代表の卵って感じかな」僕も呆れて言った。

「なるほどな。つまりエリートなのか」

 

 大きく頷いて納得する一夏。さっき書いた要約で本当に大丈夫なのか不安になってきた。

 

「そう、エリートなのですわ!」

 

 そんな僕の不安も露知らず、彼女はここぞとばかりに畳み掛けて言う。

 

「ましてや入試主席でもあるこのわたくしのような選ばれた人間とクラスを同じくすることだけでも奇跡、そう、幸運なことですのよ。その現実をもう少し理解していただける?」

「そうか。それはラッキーだ」

「貴方、馬鹿にしていますの?」

 

 馬鹿にするというよりも呆れているようだ。初対面の人物がいきなりこんな態度で接してくれば無理もない。

 

「大体、ISのことを何も知らないとは正直落胆しましたわ。期待外れもいいところです。よくもまあこの学園に入学出来ましたわね」

「俺に何かを期待されても困るんだがな」

「でも、まあ、泣いて懇願するというのならこれからご指導して差し上げてもよろしくてよ。何せ、わたくしは入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートなのですから!」

 

 どうやらこのセリフがとっておきの切り札のようだ。でも、おそらくその相手は織斑先生ではないだろうし、入試なのだからその教官が本気を出したとも限らないだろう。そのことを言ってやろうかとも考えたが、今の状態では耳なんて飾りだろう。

 

「入試って、あのISを動かして戦うやつか?」

「それ以外に何がありますの?」

 

 一夏には何か思うところがあるようだ。まさか倒したとか言うんじゃないだろうな。

 

「あれ、俺も倒したぞ。教官」

「え……?」

「冗談抜きで?」オルコットさんに続いて僕も思わず呟いた。

「ああ。といっても相手が突っ込んできたのを避けたら壁に衝突して、勝手に動かなくなっただけなんだけど。そういう隆宏はどうなんだ?」

「僕の相手は織斑先生だったからね。一方的に叩きのめされたよ」

 

 それを聞いて、一夏とオルコットさんはそろって同情の念を込めた眼差しを向けてきた。あの人に勝つことは今世紀中にはどうやっても不可能に違いない。

 

「それは大変でしたわね。……って、そうではありませんわ!教官に勝ったのはわたくしだけと聞いておりましたが?」

「女子ではってオチじゃないのか?」

 

 案外一夏の言ったことも間違いじゃないかもしれない。でも、今ここでそれを言うのは火に油を注いでいるとしか思えないくらい間違っている。

 

「本当に貴方も教官を倒したと言うんですの!?」

 

 案の定軽く錯乱したオルコットさんが一夏に詰め寄る。

 

「あ、ああ。多分な」

「多分ですって! いったいどういう意味ですの!?」

「まあ、とりあえず落ち着けよ」

「これが落ち着いて――」

 

 授業開始のチャイムが鳴った。オルコットさんはそれを聞いて幾分か正気を取り戻したようだ。と言っても、まだ納得しかねているみたいだけど。

 

「まだ後で来ますわ! 逃げないことね! 良くって!?」

 

 そう吐き捨てて席に戻っていった。まだ続ける気があったのにはいい加減うんざりしたけど、とりあえずは一難去った、と考えて良さそうだ。

**************************

「さて、この時間は実戦で使用する各種装備について説明する」

 

 この授業は千冬さんの担当らしく、山田先生も僕たち同様座ってノートを広げている。僕はこれまでにある程度ISの知識を習得してきたけど、武装に関することは意図的に避けてきた。とはいえ、ここではそんな我儘は通じないから切り替えるしかなさそうだ。

 

「そうだ。その前にクラス代表者を決めないといけないな」

「先生、そのクラス代表者とは何ですか?」

 

 思い出したように言った千冬さんに対し、女子の一人が質問を投げかける。

 

「クラス代表者とはそのままの意味だ。来月行われるクラス対抗戦に出る代表者のことで、他にも生徒会関係の会議や委員会への出席もしてもらう。早い話、クラス長と考えて差し支えない」

 

 小声での会話が始まり、教室が色めき立つ。どうせ、一夏か僕をクラス代表にしたいのだろう。学園唯一の男子だから、インパクトは抜群だろうし。

 

「はい。織斑君を推薦します」

「私もそれが良いと思います」

 

 予想通り、一夏が推薦された。当の本人は何のことだとでも思っている様子みたいだが。

 

「では候補者は織斑一夏。他にはいないか?自薦他薦は問わない」

「え、俺?」

 

 本当に自分のことだと思っていなかったらしく一夏は思わず立ち上がっていた。

 

「邪魔だ。席に就け、織斑。他にはいないか?いなければ無投票当選だが」

「くっ、じゃあ俺は隆宏を推薦する!」

「私も三海君を推します」

「わたしも、みうみうがいいと思うな~」

 

 苦し紛れに僕を推薦してきた。それに乗じて何人かも僕を推薦している。別にそれは構わないが、みうみうって何だろうか。後で聞いてみよう。

 

「納得がいきませんわ!」

 

 そう言って、机を叩き勢いよく立ちあがったのはオルコットさんだった。

 

「そのような選出は認められません! 男がクラス代表なんて良い恥さらしですわ。それに、クラス代表は実力トップであるこのわたくしがなるべきですわ」

 

 どうやら、随分な女尊男卑主義者らしい。そんなに嫌なら最初から自分で立候補しておけばよかったろうに。

 

「物珍しいという理由だけで代表者を極東のサルにされては困ります! わざわざサーカスをするためにここに来たわけではありませんわ」

 

 さすがにそれは言い過ぎだろう。僕や一夏はともかくとしても、クラスの半分くらいは日本人のようだし、それに千冬さんや山田先生も日本人だと言うのに。

 

「そもそも、文化としても後進的な国で暮らすこと自体、耐え難い苦痛だというのに――」

「イギリスだって大した国じゃないだろ。世界一不味い料理で何年グランプリだよ」

 

 耐え切れなくなった一夏がオルコットさんに罵倒を仕返す。とはいえ、脱線しかかっていた話をさらに脱線させている気がしないでもない。あまり気が進まないが、仲裁した方がいいかもしれない。

 

「あ、貴方! わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

「最初はそっちが言ったんだろ。だいたい――」

「はい、そこまで。」軽く手を叩いて二人に呼び掛ける。

「話がずれてきているよ、オルコットさん。それに一夏も乗っちゃったらダメでしょ」

 

 いきなり僕が発言したことにクラス全体が驚いたらしく、全員の視線が僕に向けられる。

 

「で、オルコットさんは何が言いたいの? 言いたいことがあるならはっきり言ってくれないかな?」

「だからわたくしは、サルのサーカスなんかを――」

「正直に言いなよ。僕や一夏みたいな男がクラス代表なんて嫌だって。自分こそふさわしいって思ってるんでしょ?」

 

 オルコットさんの言葉を遮って、確認するように言った。最初からはっきり言ってくれれば済んだというのに。

 

「貴方まで、わたくしを侮辱するのですね。…いいですわ、決闘です!」

「おう、四の五の言うより分かり易い」威勢よく言い放つ一夏。

 

 なぜそんな流れになったのか全く分からなかった。もしかして、僕が助長させてしまったのだろうか?

 

「言っておきますけど、手加減などして負けたりしたら、わたくしの小間使い、いいえ奴隷にして差し上げますわ」

「侮るな。真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいないぜ」

「そう、それを聞いて安心しましたわ。何にせよ、このセシリア・オルコットの実力を示すにはいい機会ですわ」

 

 オルコットさんは余裕を取り戻したようで、手を腰に当て、空いているもう片方の手で髪をなびかせた。

 

「そうだ、ハンデはどのくらいつける?」

「あら、早速お願いかしら?」

「いや、俺がどのくらいハンデを付ければいいかってことだよ」

 

 その瞬間、クラスの女子が一斉に笑い出す。さっき、真剣勝負で手を抜かないって言っていたことに対してではない。

 

「織斑くん、それ本気?」

「男が女より強かったのなんて、大昔の話だよ」

 

 そう、今の社会ではISによって男性の地位は著しく低下している。男性はISを使えない、でも女性なら使える。だから女性の方が強いし偉い。そんな理屈があるらしい。

 馬鹿馬鹿しい、本当に馬鹿馬鹿しい。お前らみたいなのが安易にISを語るな。お前らのせいだ。お前らみたいな馬鹿が自分に都合のいいオモチャのように扱うから……

 

「そうですわよ、むしろわたくしの方がハンデを付けて差し上げましょうか?」

「じゃあ、お願いしようかな」僕はオルコットさんを見据えていった。

「あら、殊勝な態度ですわね。言ってご覧なさい」

 

 オルコットさんが悠然と言う。その言葉と僕を見る目には明らかな軽蔑も交じっていた。

 

「おい、何言ってるんだよ?」

「そうだね、1週間の猶予が欲しいかな」一夏の言葉を無視して続ける。

「流石に今日、明日にすぐやるなんて言われたら勝てないけど。まあ、1週間くらいあれば話は別だろうし」

 

 おどけてそう言うと、僕の頭の上に出席簿が置かれた。

 

「そんな今すぐに出来るか、馬鹿者。そもそもどこで戦うつもりだったんだ?」

「そこまで考えていませんでした」

 

 オルコットさんに視線を向けると、僕を睨んで肩を震わせている。当然だろう、僕はあからさまに1週間準備すれば勝てると挑発したのだから。

 

「まったく。それでは1週間後の月曜日、その放課後に第3アリーナで行う。三海、織斑、オルコットの3人は準備しておくように。それでは授業を再開する」

 

 教壇に戻っていく千冬さん。僕が席に着くと、2人も席に着いた。どうやらどちらも釈然としていないようだった。僕はというと、意識を切り替えようと、ノートに授業の内容をひたすらに書いた。でも、僕の右手は出番がなかったことが不満みたいで、何度もシャープペンシルの芯を折っていた。僕は誰にも聞こえないように舌打ちをした。本当に、馬鹿馬鹿しい。

 




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