IS-Beyond-   作:アカトーム

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 だんだん私生活の方も忙しくなってきたので、毎週更新も厳しいかもしれないです。その場合は活動報告でも連絡します。まずはそうならないよう頑張ります。……決して書きためが無くなってきたとかいうわけではないです。
 前置きが長くなってしまいましたが、それでは第4話をどうぞ。


第4話 ―始動―

 携帯のアラーム音で目が覚めた。まだ眠りたいと信号を発する頭をどうにか動かしてアラームを止める。隣を見ると彼女はまだ目を覚ましていないようだ。もう30分は寝ていても大丈夫そうなので起こさないよう出来るだけ物音を立てずに制服とタオルを手に取り、洗面台に向かう。顔を洗い前髪を下ろして制服に着替える。身支度が整ったところで念のため書き置きを残して食堂に向かった。

 やはりまだ朝食には早かったようで他に生徒はほとんどいない。メニューを一瞥して、トーストとスクランブルエッグ、それに冷たい牛乳を選んで食券を渡す。昨日の夜は定食を頼んだがとても美味しかった。様々なメニューがあるから飽きも来ないだろう。

 

「こんな量で大丈夫かい? お昼までもたないよ」

「いえ、朝はあまり食べられなくて。それに案外もちますから」

「そうかい? おかわりが欲しかったら言いなよ」

 

 礼を言いつつ、注文したものを乗せたトレイを受け取り空いている席に着く。僕はどうも朝は駄目らしく、食べることはおろかまともに歩けないことさえある。朝が嫌いだというつもりはないけど、きっと僕の細胞は朝に対応するシステムがないのだろう。お化け屋敷を歩くような速度で食事をしていると、段々人も増えてきた。時折出入り口の方に目を向けたが彼女が現れることはなかった。どうにか全部食べきって一口ずつ牛乳を飲んでいると、一夏が誰かを連れてこっちに向かってきた。僕とは違う理由で朝がつらそうだ。

 

「おはよう、隆宏。隣いいか?」

「おはよう。いいよ、と言っても僕はもう食べ終わっていったん部屋に戻ろうと思っていたところだからニアミスだったね」トレイを持って立ち上がる。

「そうか。じゃあまた後でな」

 

 左手をヒラヒラと揺らし別れを告げる。再び部屋に戻るとまだ彼女は寝ていた。流石にもうそろそろ起こさないと遅刻してしまう。

 

「簪さん、起きて。もうそろそろ用意した方が良い」

「ん、……え?」

 

 どうにか目を覚ましたようでぼんやりとした瞳で僕を捉えると一瞬ポカンとしていたがすぐに僕のことを思い出したようだ。

 

「あ、えっと……三海君?」

「覚えていてもらえて何よりだよ。もう目が覚めたみたいだから僕は先に行くね」

 

 そう告げて部屋を後にする。教室に着くと、すでに何人かは来ていたがそれでも精々3分の1程度だった。自分の席に座り授業の準備をして、教科書を手品師が扱うトランプみたいにパラパラとめくっていると、一夏たちが教室に入ってきた。

 

「よお、さっきぶりだな。ところで聞きたいことがあるんだがいいか?」

「奇遇だね、僕もだよ」

 

 そして、少しの間の後で同時に口を開いた。

 

『お前(君)は1人部屋だった?』

「同じ質問ってことはやっぱり……」

「君も誰かと相部屋だったわけだね」

「ああ……、幼馴染だったからよっぽどマシだったけどな」

 

 そう言いながらも深いため息を吐く一夏。何やら一悶着あったようだ。

 

「へぇ、知り合いがこの学園にいるんだ」

 

 あえてそのことには触れずに質問をする。倍率数百倍とも言われているこの学園に知り合いがいるなんてかなり珍しいことだろう。

 

「知り合いっていうか幼馴染だな。小学5年になる前に別れて以来6年ぶりに再会したんだよ」

「へぇ、運命的だね」

 

一夏の話に相槌を打ちながらそれらしき人の方を見ると、どうやらあちらも見ていたらしく慌てて目線を逸らした。その目には幼馴染に向けるものよりももっと深い感情があった気がした。

 

「それでお前は誰と一緒の部屋だったんだ?」

「僕? 僕は……」

 

 そこで言い淀んだ。全くの赤の他人だということを打ち明けたくなかったのもあったけれど、それよりも何故だかまだ他の人には彼女のことを言いたくなかった。

 どうしようかと悩んでいるとチャイムが鳴った。

 

「おっと、もう授業が始まるからまた後でね」話を切り上げて席に戻る。

「お、おい。ちゃんと聞かせ――」

 

 バシン、と快音が鳴り響く。千冬さんが教室に入るや一閃、出席簿を振り下ろした。

 

「席に就け、織斑。授業を始める」

「……ご指導痛み入ります、織斑先生」

 

 渋々といった様子で席に着く。その際に恨みがましく僕を見ていたようだが、そんなことは全く気にせず授業の用意を取り出した。

 今日の授業も内容的には退屈なもので、何度か瞼が重たくなったがあの出席簿による一撃はどうしても避けたかったのでどうにか意識を保ちながら授業を聞いた。一夏用のノートを作っている時に、山田先生が僕と彼を交互に見て赤面していたがちょうどそのとき話を聞いていなかったので何のことか分からなかったので気にせずノートのまとめ作業を続けた。

 気が付くとどうやら昼休みのようで、銘々に昼食をとっていたり食堂に向かっていたりするのが見受けられた。僕も何か食べに行こうと思い、席を立って一夏に呼び掛ける。

 

「お昼食べに行く?」

「そうだな。他に誰か一緒に行かないか?」

 

 一夏が周囲に声をかけると、何人かが勢い良く返事をする。

 

「ほら、箒も行くぞ」

「……私はいい」

 

 箒、と呼ばれた少女は拒否の態度を一度は示したが一夏が腕をとって連れて行こうとする。何か言い合っていたかと思うと、突如一夏が投げ飛ばされていた。見事な円軌道を描いて床にたたきつけられた一夏を見たところで僕は食堂へと向かうことにした。

 

「先に行っているよ。あんまり遅くならないようにね」

「痛ぇ。……ってちょっと待ってくれよ、ほら行くぞ箒」

 

 結局少女は腕をとられて渋々ついてきた。食堂はなかなか混雑していたけど、幸いちょうどいい多人数掛けの机が空いていたのでそこに座った。正面には一夏が座り、その隣に先ほどから不機嫌そうな顔をしている少女、そして僕の隣にはどこか抜けているようなのんびりしているような雰囲気で服の袖を随分と余らせた少女とその友人らしき人が座った。

 

「みうみうはソバなんだ~、なかなか渋いね~」

「そうかな? ところで2つ質問してもいい?」

「いいよ、どんと来たまえ~」

「まずはみうみうって何ってことと、君たちの名前は? ってこと」

 

 一応同じクラスだということはわかるが、逆に言えばそれしか知らなかった。訊ねられた2人は一瞬驚いた表情をしたがすぐに口を緩ませた。

 

「私の名前は布仏本音だよ」

「私は鏡ナギ! よろしくね、三海君」

「よろしく」差し出された手に応じる。

「それとね、みうみうはみうみうだよ」

「つまり、僕のあだ名ってこと?」

「そうとも言う~」

 

 なかなか独特なネーミングセンスだと思う。そういえば、もう1人似たようなニックネームをつけてくれた人がいたかもしれない。でも、今はもうどうでもいいことだ。

 

「そして、貴女は誰?」先ほどから口を開かない一夏の隣に声をかける。

「私は、……篠ノ之箒だ」

 

 その姓を聞いて、僕の鼓動が早まったがどうにかそれを表に出さないよう平静に努めた。なぜ一夏が幼馴染といった時にその可能性を考慮しなかったのだろう。自分の思慮の浅さに嫌気が差す。

 

「そうそう、なんで隆宏には専用機がないんだろうな?」

「専用機? 何の話?」

 

 口を挟んで話しかけてくる一夏に聞き返す。果たしてそんな話していただろうか?

 

「え!? お前話聞いてなかったのかよ?」

「多分そうなるね。それで、どういう内容?」

 

 一夏は呆れたように息を吐いてから説明してくれた。要するに、一夏には専用機が用意されるということだった。でも一方で僕については一切言及されなかったので一夏が千冬さんに訊ねたところ、結局はぐらかされてしまったらしい。

 

「多分、対照実験みたいなものじゃない? 片方は専用機、もう片方は訓練機を使わせてその比較データを取るとか」

 

 一通りの話を聞き終わってから僕は口を開いた。でもおそらくはそれだけではないはずだ。僕にはこれといった後ろ盾がないが、彼は千冬さんの弟なのである。そんな事情も専用機の配備を進めることに繋がったとみて間違いはなさそうだ。

 

「理由がどうであれ、それはそれとして受け止めるしかなさそうだね。僕としては訓練機で臨む気だったから問題ないけど」

 

 軽く言ってソバに箸を付ける。すると今度は隣に座っていた二人が心配そうにこちらを見てきた。

 

「そ、それはなかなか厳しいんじゃないかな?」

「しかも、たしかセッシーの機体はイギリスの――」

「BT-01ブルーティアーズ、イギリスの第三世代機でマインド・インターフェース兵器、通称『ビット』の運用試作機。また、BT適正率100%においては偏光射撃も可能となっている」

 

 布仏さんの言葉を遮り、一息で言い切る。皆を見てみると篠ノ之さんまでも唖然としていた。

 

「え? なんで隆宏はそんなに詳しいんだ?」

「詳しいも何もこのくらいは調べればすぐにわかることだよ。それに、ここに来る前に各国の最新機体なんかは粗方調べてあるし」

「そ、そうか。というか、それを全部覚えてるのか?」驚いた様子で訊ねてくる。

「一応はね。それはいいとして、一夏はこれから特訓とかするの?」

 

 別に自慢したいわけでも、するほどのことでもなかったから適当な調子で答えて、話題を変えた。

 

「ああ、もちろんそのつもりだ。それでどうしようかと――」

「ねえ、君たちが噂の子?」

 

 突如横から現れた人に話しかけられる一夏。リボンの色を見ると赤だったことから、どうやら3年生のようだ。話を聞いていると、ISについて教えてくれるということらしい。

 

「じゃあ、今ようやく理論が確立してきたとの噂がある第四世代の仕様はどうなっているんですか?」思わず口を挟んだ。

「え、えっと……私にはよく分からないかな」

「それなら、ドイツで開発が進んでいるらしいAICについては?」

「ま、まあそんなことより私がISの操縦なんかを教えてあげるから」

 

 結局僕の質問には一切答えることはなかった。僕は少し落胆して残っていたソバを食べきって立ち上がった。

 

「じゃあ、お先に」

「あ、ああ。」一夏が驚いたかのように言う。

 

 先輩と思しき人物はまだ何か言い続けていたが、もう興味はなかったからそれに応じないで食堂を後にした。深くため息を吐く。僕は何か思うことがあった気がしたけれど、教室に戻ってきたころにはすっかりどうでもよくなっていた。こんな風に今までのことを考えることができたら、と思う。でも、それも結局どうだっていいことかもしれない。

********************************** 

 

 トレーニングルームと表示された扉をくぐると最初に様々な機具が見えた。詳しくは分からないが、見るからに全て最新型のものが取りそろえられているようで、大体部屋の3分の2を占めていた。

 どんな機械があるのかと辺りを見回していると、奥の方から物音がしたのでそちらに向かってみる。奥にはサンドバック、その隣にはリングがあった。サンドバックの前には誰かがいて、隙のないフォームでサンドバックを殴りつけている。更に近付くと相手もこちらに気付いたようだ。

 

「あら、こんな所に何のよう?」

 

 女性にしては低めのハスキィな声だった。肩より少し下まで伸びている黒髪は後ろで1つにまとめられている。振り返ってこちらを見る目には研ぎ澄まされたナイフを思わせる鋭さがある。

 

「あの、ここを利用したくて。使ってもいいですか?」

「別に許可を取る必要はないわ。空いていれば誰が使おうと問題ない」

「そうですか、ありがとうございます」

 

 礼を言って機械のところに戻ろうとすると不意に呼び止められた。振り向くとグローブが投げ渡される。

 

「これは?」

「それを着けてリングに上がりなさい、実力を見せてもらうわ」

「別に、僕はそんなこと――」

「イギリス代表に勝ちたくはないの?」

 

 思わず目を見開いた。その女性はすべてお見通しだとでも言うように薄い笑みを浮かべている。僕はその人を睨むように見つめる。

 

「悪くない目ね。早く来なさい」

 

 グローブを付ける前に手早く目の下くらいまで伸ばした髪をかきあげてゴムで留める。リングに上がりつつグローブをはめた。

 

「時間は無制限で貴方は私に一発でもパンチを当てたら勝ち。貴方が降参したら負け」

「分かりました」言って、腕を上げて構える。

「あら、なかなか冷静ね。てっきりそんなハンデはいらないと言うかと思ったわ」

「自分の力量くらいは把握しているつもりです」

 

 一応かつて千冬さんに武道の基礎を習ったとはいえ、それを使ったことはないから実質宝の持ち腐れと言っていい状態だろう。それに、さっきの様子を見る限りではこちらのパンチが当たるとも思えなかった。

 

「そう、それならかかってきなさい」

 

 そう言うと相手は腕を体の脇に下ろして構えを解く。挑発だということは全く分かりきっていたので、焦ることなく間合いを詰める。

 

右手を打ち出す。

左に移動され簡単に躱された。

自分も方向転換して距離を空けられる前に連続で拳を出す。

狙っているはずなのにまるで見当違いのところに打っているように躱された。

息が詰まる。

いつの間にか腹部を殴られていた。

「ほら、もっと本気を出しなさい」声と同時に拳が繰り出される。

ヘッドギアをしていないからか顔は狙ってこないが、すべてが体に的確に当てられる。

苦し紛れに打ち返すが全く当たらない。

苛立ちが募る。

それを嘲笑うように更に殴られていく。

拳を出すたびに5倍以上の拳が返ってくる。

割に合わない。

息が上がってきた。

まだ2分も経っていない。

避けた先に拳が来る。

防御すらできなかった。

立っていられない。

膝をついた。

「まだ続ける?」

まだ、やれる。

立ち上がることでその質問に答えた。

相変わらず拳は空を切るばかり。

思考が追い付かない。

どうすればいい?

その十分な隙に拳が差しこまれる。

膝から崩れ落ち、前のめりに倒れる。

僕は見上げ、彼女は見下ろす。

何とか立ち上がる。

息をすること自体辛くなってきた。

腕でどうにか防御するのが精一杯だ。

もはやサンドバックと同じ状態。

何か、手はないのか?

再び思考の隙を突かれ、腹に今までで一番重い一撃が入った。

倒れ伏す。

呼吸をしても全く酸素を取り入れられない。

彼女は何も言わず只々僕を見下ろす。

なぜ僕はこんなことをしているのだろう?

どうすれば勝てるのか。

もう、諦めた方が良いかもしれない。

様々な思いが頭の中をめぐる。

僕の荒い息だけが聞こえた。

何をすればいい?

そうだ、勝たなければ。

それは何故?

分からない。

でも、引く気はなかった。

引くくらいなら死んだ方がましだ。

僕は再び立ち上がり、腹部や胸部を守るように腕の位置を下げる。

相手は防御の上から殴りかかってくる。

まだだ、まだ早い。

段々腕の感覚もなくなってきた。

肩を上下させて息を吸う。

もっと、もっとだ。

更に殴打は苛烈になる。

一瞬だけ気を緩める。

とどめと言わんばかりの一撃。

狙い通りだ。

防御を解いて、足をバネにして自ら拳に迫る。

相手は驚愕しているようだがもう遅い。

僕も拳を突き出す。

腹に衝撃が走る。

そのせいで殴る勢いは弱まったが、相手は避けられない。

軽く触れる程度の拳が相手の肩に当たる。

「僕の、勝ちだ」

果たして口に出していたのかどうかはわからなかった。

そして、僕は体を三度リングに預けた。

************************************

 

「合格、と言いたいところだけど」

 

 並んで座り、まだ荒い息を整えているとそう切り出された。

 

「最後のアレはこれからギリギリまで使わないこと」

 

 アレ、とは一発当てるためだけに使った相打ち狙いの攻撃に違いない。

 

「あんな戦い方は無謀か死にたがりよ。命を大事にしなさい」

 

 僕は頷いては見せたけど、内心では納得していなかった。ああでもしなければ一発当てることは叶わなかったわけだし、それにそこまで命を蔑ろにしているつもりはない。そもそも、生きていること自体が命懸けなわけで、今回の場合は時間当たりに懸ける量が多かっただけだ。

 

「あのね、別に禁止するつもりはないの。本番や実戦ならともかく、練習では駄目だってこと」

 

 僕の不満を察したらしく、優しく諭すようにして語りかけてくる。

 

「私も捨て身の戦法は幾つか知っているつもりだったけれど、まさか肉も骨も切らせる覚悟で向かってこられるとは思ってなかったわ」

「自分でもよく思いついたな、という感じです」

「本人が予想外なら私じゃなおさら想像つかないわね」

 

 半ば呆れたように笑って、肩をすくめる。思わず僕もつられた。

 

「それで、一応僕が勝ったわけですけれど…」

 

 何と続ければいいのか分からず言葉に詰まった。別に何かを賭けているわけでもなかったから何かあるのかと聞くのも不自然だろう。

 

「そうね、私が貴方の特訓に協力しようと思うけど、どうかしら? 勿論、貴方が嫌で無ければだけど」

「それは、是非お願いしたいです」

 

 迷わず即答した。どれだけISの操縦訓練をしても自分の身体能力を上げなければ意味がない。自分一人ではできることも限られていたからこの申し出は本当に嬉しいものだった。

 

「わかったわ。私は3年の天音夕(アマネユウ)。放課後は大抵ここにいるからいつでも声をかけて」

「僕は三海隆宏です。これからよろしくお願いします」

「ええ、こちらこそ。よろしくね三海君」

 

 その後、早速僕は特訓を始めたいと告げたけれど、まだダメージが残っているからと却下された。その代りにメニューの確認や鍛えるポイントなんかを話し合った。天音先輩はどうやら大体の事情を知っているようだ。でも、僕は天音先輩のことを全く知らない。だからといって何かを訊こうとは思わなかったし、彼女も特に話そうとはしなかった。ただ、僕と先輩は少なくとも同じことを思い、行動しようとしている。それだけで十分だった。

 




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