IS-Beyond-   作:アカトーム

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 活動報告で月曜とか言っておきながら、火曜日になってしまいました。本当に申し訳ないです。次からは毎週更新できるよう頑張ります。
 それではどうぞ。


第5話 ―暗転―

 その後、天音先輩と一緒に夕食を取り、部屋へと戻ってきた。まだ簪さんは戻ってきていない。溜まっていた疲れが噴き出してきて瞼が重くなってくる。耐え切れずにベッドに横になった。どうにかシャワーだけは浴びようと思っていたが、結局そのまま目を瞑っていた。誰かに呼び掛けられている気がして目を開ける。目の前には既に制服姿の簪さんがいた。

 

「あれ? もう朝?」

「うん、私が戻ってきたら明かりがついたままで三海君が眠ってた」

 

頭を左右に振ってなんとか記憶を手繰り寄せる。ベッドに倒れこんだところで記憶は途切れていたから、そのまま眠ってしまったということだろう。

 

「そっか、ありがとう」

 

 起き上がって時間を確認する。何とかシャワーと朝食をとる時間くらいはありそうだ。

 

「僕はシャワーを浴びてから朝食を食べるつもりだけど、簪さんは?」

「……朝ごはんはまだ」

「じゃあ、早く行った方が良い。あまりゆっくりしていると遅刻するよ」

「ううん、あ、あのね……」

「どうかした?」

「……やっぱり、何でもない」

 

 足早に部屋を出ていく簪さん。何を言おうとしたのか少し気になったけど、時間がなかったから僕は慌ててシャワーを浴びた。

 どうにか朝食を食べて始業の鐘にも間に合った。授業を聞きながら、今日は実際にISに乗る日だったことを思い出す。使う機体はラファール・リヴァイヴ。使いこなせるだろうか? それに、ただ動かすだけではない。戦うための、相手を倒すための兵器として使う。それが嫌だったのに、これまでの関係を投げ出してまで避けてきたというのに、結局こうなった。なんて脆い、なんて薄弱な意思だろうか。自分を殴ってしまいたくなる。でも、本当に嫌なのか? 途端に僕の頭がざわめきだす。じゃあ、何故僕はオルコットさんに挑発し返した? 昨日は何故天音先輩と戦った? 何故……

 ふと、右手を見る。ペンを握りしめている。知らず知らずのうちに力が入っていた。その手は必死にブレーキを握ろうとしているようにも、そのまま思いっきり振り出して走ろうとしているようにも見えた。

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「どうですか、乗ってみた感想は?」

 

 訊ねられた僕は手を上下させてその動きを見る。機械を付けているという違和感はほとんどない。

 

「なんて言ったらいいのか……とにかく凄いと思います」

「まさに科学技術の結晶ですからね。……それにしても、本当に動いているんですね」

 

 しきりに感嘆の声を上げて僕を見る山田先生。アリーナには僕たちの他にも訓練している生徒がいて、程度の差はあるにせよほとんど全員が僕のことを興味深そうに見ている。

 

「あの、先生。まずは何をすればいいですか?」視線に耐え切れなくなり声をかける。

「は、はい! ま、まずは歩いてみましょうか!?」

 

 本来の目的を思い出し、慌てて聞き返してくる山田先生。僕は首肯して右足を踏み出して歩き始める。普段通りに歩こうとするがどうにもぎこちない。そのまま歩き続けようとするがバランスを崩して転んでしまう。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 すぐさま駆け寄ってきて手を差し出してくれた。周囲では嘲笑の声が漏れる。それにいちいち反応することなく手を取って立ち上がった。

 

「すいません。普段通り歩こうとしたのですが、上手くいかなくて」

「それは初心者にありがちなことですね。簡単に言ってしまえば、ISに乗ると足の長さや重心のバランスが変わりますから日常の動く感覚とは変わってきます」

 

 なるほど、と頷く。いきなり重心が変わってしまえば慣れないのも当然だ。でもそんなことも言っていられない。いつでもISを使った訓練が出来るわけではないからこんな初歩で時間を取られるわけにはいかない。

 

「先生、少しお手本を見せていただけますか?」

「お手本、ですか?」

「はい。慣れている方の動きを参考にしたいと思うので」

「わ、わかりました。では少し動いてみますよ」

 

 何故だか緊張した面持ちで歩き出す山田先生。僕のようなぎこちなさは全くなく、軽々と歩く。段々とスピードを速めていき走っているがそれも安定している。

 

「こんな感じでどうでしょうか?」恐る恐る言ってくる。

「とても参考になります。ありがとうございます」

 

 僕は目を閉じた。先程の動きを思い出しトレースしていく。次第に自分の体が軽くなるような錯覚も覚える。今ならいける、直感でそう感じた。ゆっくり目を開いて、前を見据える。

 

「三海君?」

「行きます」

 

 心配そうに呼びかける声にそう答えて、僕は歩き出す。

 先程のような違和感はない。

 次第に歩く速さを速めて走る。

 いつも走るのと変わらない。

 更に速度を増していく。

 全力疾走に近いスピード。

 切り返して、先生のところへと戻る。

 

「どう、でしたか?」

「す、凄い。もう普段歩いたり走ったりしているのと変わらないですよ」

 

 驚きを隠せない様子で僕に言う。息を整えながら周りを見渡すと、まるで合わせたかのようにだれもが同じ表情を取っていた。

 

「次は何をするのですか?」

 

 まだ息が整っていないままで多少声を上ずらせながら訊ねた。心なしか声が少し大きくなったかもしれない。

 

「そ、そうですね。では次は空を飛んでみましょう」

 

 僕の態度に気圧されて、声を小さくして答える。瞬間、僕の心は躍った。ようやく願いが叶う。掴めないと知りながらも、これまで何度も手を伸ばしてきた。遂に手が届く。空を飛ぶということに。

 

「まずは上昇からですね。私が先に上がって見せますね」

 

 ゆっくりと先生のラファールが上昇する。そして地上から10m位の高さのところで停止した。

 

「では、ここまで上がって来てください!」

 

 僕の方を向いて声を張り上げた。その声に頷きを返し、上昇するイメージを固めていく。下から押し上げられる。そして次第に地上から離れていく。何の抵抗もない。重力も、意思も。余計なものは何もない。それだけを思い浮かべた。

 テイク・オフ。自分だけに聞こえるようそっと呟く。その言葉に呼応するかのように上昇を始める。足が完全に地上から離れる。そのまま上がり続け、先生と同じ高さに辿り着く。

 

「これから空中での機動を教えますけど、その前に空中を動く上で何が一番大事か分かりますか?」

 

 口元に手を当てて考えを巡らせる。複雑な動きをすること? いや、それは違うだろうと自分の考えを否定する。他に考えられることは……

 

「――速さ、ですか?」

「それも重要ですけどちょっと違いますね。正解は“姿勢”です」

「姿勢?」とっさに聞き返す。

「はい、重心とも言い換えられます。空中では何処にも接していませんから如何にバランスを崩さないかが重要ですよ」

 

 確かにその通りだ。どこにも接しないということは、すなわち体を支えるものが何もないということになる。鳥を模して、飛ぶために作られた飛行機であるならばまだしも、そもそも人は空を飛ぶことができないし、飛ぶための形をしていない。それをISによって人の形を保ったまま飛ぶのだからどこかで不都合が出るのも当然である。その中で最たるものが先生の言った姿勢であり、重心ということだ。

 

「ですから、これから飛ぶときには常に姿勢や重心を意識してくださいね」

 

 僕は頷いてそれに応えると、先生は地上の時同様に基本の飛行を見せてくれた。僕に合わせてくれたようで、あまり速度は速くなかったが無駄のない美しい動きだった。

 

「それじゃあ、今度は……あれ、どうかしましたか?」

「いえ、美しい動きでしたので少し見とれていました」

「そ、そんな……美しいだなんて」

 

 両手を頬にあて、顔を夕日なんかよりも真っ赤にさせて慌てふためく先生。近くにいた他の生徒にも聞こえていたらしくあちこちから歓声が上がる。ほとんど無意識のうちに出ていたので改めて思い返すと恥ずかしさが込み上げてくる。

 

「じゃ、じゃあやってみます」

 

 耐え切れなくなり、逃げ出すようにして飛行を開始した。焦って飛び出したためスピードを出しすぎて、壁が一気に迫る。強く制動をかけて壁との衝突を避けたが、その分体に負担がかかった。

 一旦、呼吸を落ち着ける。

 再度上昇。

 すぐさま降下し、そこから滑空するように地面と体を平行にする。

 右へ旋回。

 最小で回ることが出来ず大きく膨れ上がる。

 もう一度だ。

 再び上昇、そして滑空。

 今度は左へ。

 右の時より上手くいった。

 楽しい。

 心が高ぶっているのが分かる。

 スピードを速める。

 そのままロールに入れる。

 1回転で勢いを殺しきれず上下が逆さまになる。

 構わずに飛び続ける。

 次はバレルロールをしながら下降。

 地面が近づく。

 あと5秒くらいで地面に衝突しそうだ。

 心の中で3秒数えて急停止する。

 体が上方へと押しつけられる。

 その勢いを使って急上昇。

 抵抗に体が押され息が詰まる。

 苦しい。でも、嫌いじゃない。

 もっとだ。

 もっと綺麗に飛んでやろう。

 再び上昇しようとすると、目の前に影が差した。

「三海くん、勝手に、飛びださないでください」

 息も絶え絶えに先生が僕を上目遣いで睨む。

「すいません、でも僕の飛び方はどうでしたか?」

「え、あ、えっと、まだまだ荒い飛び方ですけど良かったと思いますよ。ISを乗り始めたばかりとは思えないくらいでした。」

 凄く嬉しかった。まだ先生みたいに飛ぶことは無理でも少しでも認められた。飛べたことと合わせれば、それだけでも十分すぎるくらいだ。

「少し早いですけど、試しに武器を扱ってみましょう」

 一瞬、何を言われたのかが分からなかった。頭にノイズが走る。体が硬直してしまった気がした。 夜の砂漠に吹く風にさらされたみたいに僕の熱は失われていった。そのまま一緒に地上へと降りて、試しに使う武器の説明を聞いたけれど、使うのが銃であることと構え方くらいしか僕の意識には落ちてこなかった。むしろ一度でそれだけでも聞き取れたことはミラクルに近い。

 耳だけでなく視界にも壊れたテレビが流すような砂嵐が現れる。どうにか気づかれないように振る舞って、差し出されていた銃を受け取る。その際に先生は不安そうな顔を僕に向けていたから、頷くことで大丈夫だと示した。言葉にもしようと思ったけれど、実際に音を発することが出来たのかどうかまで、思考を巡らせる余裕はなかった。

 先生が何か言うがノイズばかりが頭に響き、聞き取れなかった。狭まった視界で前を見ると、的らしきものが出現している。きっとアレに向かって撃てばいいのだろう。

 言われたとおりに銃を構える。ノイズが一際酷くなる。何も聞こえない。何も見えない。立っているのだろうか。苦しい。自分が呼吸をしようとする感覚だけは伝わってくる。体が動かない。このまま心臓も止まるのだろうか。それもいいかもしれない。

「大丈夫、そこだ」

 声がした。優しく、優しく僕を停止から突き放す。

 的が見える。指も動く。全てがクリアに。

 引き金を引いた。発砲音。

 的は見なかった。見なくても分かる。

 僕はその場にへたり込んだ。あわてた様子で先生が近づいてくる。手を、正確には手にまとったISを見る。

「ありがとう」

 そう呟いた。でも、きっと誰にも聞こえない。

 少し遠くで中心を射抜かれた立体映像の的が、倒れるグラフィックを表示していた。

***************************************************

 

 その後、僕は目に涙を浮かべた山田先生に説教を受けた。説教というより泣き付かれたという表現の方があっているかもしれない。とりあえず、大事を取ってその日の訓練は終了した。それから3回ほどISでの訓練を行ったけど、武器を扱ってもノイズが走ることはなかった。まだ武器への忌避感はあるけれど、幾らか割り切れるようにもなっていた。そして一番の変化は、飛行技術だった。まだまだ上昇や下降、旋回なんかは荒いのだが、速度の面に関しては異常といっていいくらい成長した。すでにラファールの限界速にも慣れるどころか物足りなさすら感じていた。偶然それを見ていた整備課の上級生が速度を速めるようにラファールのエネルギー配分を変えてくれた。確か速度が1.3倍になるように調整してくれたとのことだったが、とても飛びやすかった。恐らく、初期状態よりは戦いやすいと思う。

 

「……それで、私にエネルギー配分を変えてほしいってこと?」

「うん、今日の内に明日使うISを確保して整備しておく許可を織斑先生にもらったから、あらかじめやっておきたくて」

 

 廊下を歩きながら簪さんにこれまでの経緯を掻い摘んで伝える。もちろん、ノイズのことなんかは言わなかった。念のため時計を見てみたが、まだ夕食を終えたばかりだったから消灯まで十分に時間がある。

 

「でも、それなら、その先輩に頼んだ方が良いんじゃ?」

「それがその時に名前を聞き忘れていてさ」

「……もしかして、三海君って天然?」

「そんなことない、と思うけど」

「でも、初めて会った時なんて――」

「よし、整備室に着いた。早速だけどお願い。」

 

 無理に話を逸らした。それが不服だったらしい簪さんは梅雨時のようにジトッとこちらを見つめる。僕は思わず苦笑することしかできなかった。

 作業を始めて10分ほど経った。僕は後ろからその様子を眺めていたが、どうやら簪さんは左右の手で1台ずつ、計2台のキーボードを操作していた。なんとか僕も2つのスクリーンを眺めているが気を抜いたらその工程をすぐに見逃してしまいそうだった。

 

「……これで、大丈夫だと思う」

 

キーを軽快にタンと鳴らし、こちらを振り向く。

 

「凄いというか、凄まじいというか。よく2つを同時並行で打てるね」

「そんなに、たいしたことじゃない……」

「いやいや、十分たいしたことだって。誰だって出来ることじゃない」

「……ありがとう」

 

 それを最後に会話が途絶える。どちらからともなく視線を逸らす。今度は僕がキーボードを操作して、武装のチェックを行った。カタカタとキーボードの打鍵音だけが響く。

 

「……三海君は、」

「何?」

「勝てると思ってる?」

 

 不意に名前を呼ばれたので、素早く作業を終わらせてから振り向く。簪さんがこちらを向いて俯いていた。

 

「それはやってみないと――」

「相手はイギリスの代表候補生で少なくとも300時間はISを動かしている。それに専用機だって持っている。……どうあがいても無理だよ」

 

 僕の言葉を遮り簪さんが一気に言い切る。何故だか分からないけど、その物言いは僕に向けているだけではないように感じた。

 

「確かに、負けはほぼ確実だろう」

 

 でも、と一息おいて続ける。

 

「それはただの予想だから。実際どうなるかは分からない」

「そんなの……ただの詭弁」

「そうかもね。無駄なことかもしれない。それでも、やらないよりはましだ」

「無駄だと分かっていても?」

 

 首を縦に振ることで答える。

 

「……どうして、それでもやろうと思えるの?」

「どうして、か。……矛盾しちゃうかもしれないけど、どこかで無駄じゃないと思っているのかもしれない。だって、自分で勝手にそう判断しただけで、もしかしたらすごく意味があることかもしれない。それに……」

 

 一旦言葉を止めて、再びしっかりと簪さんを見据える。

 

「僕は負けない」

「……本気?」

「もちろん。賭けてもいい。もし、僕が負けたら簪さんの言うことを何でも聞く。でも、勝ったら簪さんが抱え込んでいることを僕にも手伝わせて」

 

 簪さんは、顔を上げて目を見開いた。視線がぶつかる。

 

「……分かった」

「よし、じゃあ部屋に戻ろう」

 

 同時に立ち上がり整備室を後にした。明日は絶対に勝つ。

 ふと上を見上げたけど、天井しか見えないから空の様子はわからなかった。でもきっと、天井のむこうには雲に遮られていない綺麗な空が広がっているだろう。賭けてもいい。

*************************************

 

 放課後。僕は第3アリーナのピットに歩を進めていた。遂に今日が決闘の日だ。程度の差はあるにせよ、クラスの全員がそのことを意識していてあまり授業に集中出来ていなかったようだ。とはいえ、僕も授業中はこれまで調べたブルーティアーズの機体性能や実際に動いている映像を思い出していたり、僕の戦術を確認し直して時々ノートに書いてシミュレーションをしていたりだったから、似たようなものだろう。

 

「調子はどう?」

 

 戦い方についてもう一度イメージをしようとしたところに声をかけられた。前を向くと、壁に背を預けて腕を組んだ天音先輩がいた。

 

「心身共に悪くはないコンディションです。今日までの先輩との訓練のお陰です」

「そう。ところで、貴方は今日自分が勝てる可能性はどのくらいだと思っている?」

 

僕の言葉を否定も肯定もすることなく、表情を変えず僕に質問をぶつけてくる。

 

「そうですね。30……いや、25%くらいだと思っています」

「へぇ……」

 

 先輩は初めてポーカーフェイスを崩し、薄く笑みを浮かべた。

 

「ちなみに先輩はどうお考えなのですか?」

「15、いや10%弱程度ね」

「それは低く見積もって?」

「いいえ、もちろん貴方が最高のパフォーマンスを出した場合の可能性よ」

 

 つまり、現実的にはせいぜい5%が妥当という意味だろう。僕の換算は相手が油断しているという前提を入れた状態での値だったから、純粋に技術や機体性能だけを比較すればそうなることはすぐに分かる。

 

「どう? 腰が引けた?」

「いいえ、逆に安心しました。ここで先輩が嘘を吐いて高い値を言っていたら、それこそ僕は逃げ出していました」

 

 軽く肩をすくめて、おどけて言って見せた。先輩は僕を試していたようで、意地の悪そうな笑みを解いて、優しく微笑んだ。

 

「そう。じゃあ私は観客席で見物させてもらうわ」

 

 壁から離れ、観客席へ向かうために僕の方に歩いてくる。何も言葉はなかった。すれ違う時に肩を一度叩かれただけだ。でも、それで十分励まされたから、僕も何も言わずにピットへと向かった。

 ピットに着くと、既に一夏と篠ノ之さんがいた。何か2人が言い争っていたから、それを遠巻きに眺めていた。すると、一夏が僕に気づいたようで声をかけてきた。

 

「なあ、隆宏! 聞いてくれ、箒のやつが――」

「ええい、もう過ぎたことじゃないか! そもそも、お前があんまりにも弱すぎるのが悪いのだろう!」

 

 僕が向かうやいなや詰め寄ってくる一夏、を篠ノ之さんが止めて再び口論になる。どうにか2人を諫めて話を聞くと、どうやらこの1週間剣道の特訓しかしておらず、一度もISに乗ることなく今日を迎えたらしい。

 

「まあ、ドンマイ」

「止めてくれ、余計に虚しくなる」

 

 文字通り沈む一夏。でも、専用機だからまだ望みはあるだろう。

 

「あれ? そう言えば一夏の専用機は?」

 

 ピット内を見回したが、僕が乗るラファールだけしかなかった。

 

「……まだ来てない」

 

 一夏は更に頭を垂れる。もうそろそろ頭が地面に着きそうになっていたので心配になるくらいだった。

 

「2人ともいるか?」振り向くと、声の主は千冬さんだった。

 

「織斑の専用機は到着が遅れている。既にオルコットはアリーナで待機しているから、すまないが先に三海が出てくれ」

「はい、分かりました」

 

 答えながら僕は腕につけていたヘアゴムをとって、素早く髪を束ね上げる。そして、ラファールに近づいて装着する。すぐさま空中にウィンドウが展開されたので、全てに目を通す。

 エネルギィ、100%

 駆動、異常なし。

 武装、インストール済み。

 ハイパーセンサ、感度良好。

 

「大丈夫か、隆宏?」

 

 千冬さんが声をかけてきた。まさか名前で呼ばれるとは思っていなかったので、驚いて振り向いてしまった。

 

「えっと、だ、大丈夫です」

「そうか、ではカタパルトに乗れ」

 

 言われたとおりにカタパルトへ移動する。

 

「隆宏、頑張れよ!」

「応援している」

 

 2人からの声援に腕を上げてサムズアップで答えた。カタパルトにOKのサインが表示される。

 

「ラファール・リヴァイヴ、行きます」

 

 カタパルトが作動し一気に押し出される。それと同時にブースターを加速させた。そして、僕はアリーナの空へと飛び出した。

 




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