蛇の元夫   作:病んでるくらいが一番

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名前を出してはいけないあの生物が今回出てきます。

書いている最中も虫酸が走りましたし、お気に入りとか減りそうですが、あの下半身露出聖剣は物語に関わってきます、関わってきてしまいますので、一応登場回を用意しました……え? 既に登場しているだろうって? そんなまさか。




第14話:堕ちた乙、12世紀:エクスキャリバ~~~♪

 マカとソウルはハヤテの屋敷にある医務室で眠っている。

 

 シュタインが三船の資産を使って勝手に作ったこの部屋は何だかんだ利用頻度が高く、ここでも医療行為をするシュタインはこの屋敷の鍵を持っていたりする。あとハヤテがナザール(メデューサ)と結婚してデスシティーを離れた時、この屋敷を維持するためにスピリットも鍵を持っている。更にマカはスピリットにオネダリして、鍵を複製してもらっているので持っている。そしてキムは逃げ場のひとつとしてこの屋敷の鍵を持っている。ついでにいえば死神様も……。

 

 そんな場所にとうとう情報を嗅ぎ付けた、キレたデスサイズことスピリットがやってきた。

 

「おい、ハヤテ。これは一体どういう事だ!!」

 

 マカの横に座って汗を拭っていたハヤテの胸ぐらを掴み、スピリットはそのまま彼を壁に押し付ける。前にもこんな事があったが、その時の比ではないくらいスピリットはキレていた。

 

「すみません。到着するのが遅れました」

「…………いや、俺こそすまない」

 

 ハヤテがマカが襲われていて、たらたら助けに行く奴ではないことをスピリットは分かっている。今出せる本気をハヤテが出したことを彼は分かっている。だが、感情がそれを許さなかった。

 そんなスピリットもハヤテの謝罪を聞くと、自分が後輩に謝罪をさせてしまったことに気が付いて、ハヤテを下ろす。

 

 ハヤテはスピリットの内には未だに怒りが燃えたぎっていることが分かる。今回のヨーロッパ遠征は本来ならスピリットとシュタインが行くはずの事であり、無理やりハヤテとアリスが行ってしまったからその機会がなくなった。

 もし自分とシュタインが行っていたら、マカが傷つく前に止められたのではないか? とスピリットは嫌な想像をしてしまう。ハヤテが無理だったのなら、ほぼ不可能であろうことは容易に想像できるのに、それでも僅かな可能性が頭をちらつく。

 

 そんな事を考えていることが長年付き合ってきたハヤテには分かるからこそ、大鎌(スピリット)(怒り)油を注ぐ(煽る)

 

「……まあ、スピリット先輩達が行っていたら、きっとマカちゃんは死んでいたでしょうね。もしくは子供が産めない体になっていたのでは? 俺だったから助けられたんですよ。かん、」

 

 そのあとシュタインが止めるまで、スピリットは後輩に自分の怒りを背負わせてしまった悔しさに顔を歪めながら、ハヤテのマウントを取りつつ、その顔を殴り続けた。

 怒りや迷いを自分の先輩には出来るだけ持ってもらわず、ちゃらんぽらんとしていて、心に余裕のある先輩でいて欲しいハヤテはその拳を甘んじて受けた。

 ただしアリスがそれを許すわけがなく、黒血と同じ原理でハヤテの体を硬化させたので、殴り終わったスピリットの手はボロボロになっていた。

 

 茶番劇のような、信頼しているからこそのやり取りを近くで見ていたたぬきの魔女(キム)は、溜息をつきながら魔法でスピリットの手を治した。

 

 一通りやり取りが終わると、その場にいた死神様に問いかける。

 

「それで、今回現れた魔女についてはまだ報告がないと思うんだけど……ハヤテくん、報告してもらってもいいかな?」

「……どのような魔女かは不明ですが、魂的に上位の魔女だと思います。容姿は……パーカーのようなもので隠れていたので不明です」

 

 ハヤテはそこで言葉を終わらせた。

 

 ハヤテと死神様の間にある約束事(規律)は良い魔女なら幾らでも情報を秘匿して良いというものだ。だが、今回のメデューサは明らかに悪い魔女の所業である。

 まず鬼神の卵を作っている時点で言い逃れが出来ない。

 

 もしこのままハヤテがまだ知っている情報を秘匿してしまったら、ハヤテが規律を破ったことになる。

 そんなこと絶対に彼の従者はさせない。それが彼のためになるのだから。

 

「そしてもうお気づきかと思いますが、ハヤテ様が結婚して()()()()魔女と同一人物であることがわかりました」

「当然分かっているよ。だから、私は死神として問おうかな。その魔女、ハヤテくんの元妻の容姿を教えて欲しい」

「黙秘します」

「……んんん!?」

 

 ハヤテは黙秘を宣言し、アリスを背後から抱きすくめ、その口を手で無理やり抑える。そのあとアリスにだけ聞こえる声でハヤテはある事を告げてから、アリスを解放した。

 

「……アリスくんは?」

「申し訳ございません。私はハヤテ様を失いたくありませんので、黙秘させて頂きます」

 

 あの女(メデューサ)の為に規律を破って欲しくはない。だが、ハヤテが話せばこの場で自害するなんて言ってきたら、アリスはもう何も出来なくなってしまう。

 ハヤテはアリスの好意を理解しているからこそ、この様な手を使った。ハヤテはチラリと眠るマカを見る。寝てはいるが、子供の前ではこんな卑怯な手は使いたくなかったなと心の奥底で呟く。

 

「ハヤテくん、君は死神(規律)との約束を反故にしている自覚はある?」

「あります」

「……はぁ。数日は牢の中で反省していなさい。アリスくんは彼と同じ環境には置かない。私の周りで適当に仕事をしているように」

「……」

「かしこまりました」

「僕が彼を連れていきます」

「頼んだよ」

 

 死神様は分かっていたことを聞いて溜息をつきながら、示しとしてハヤテを牢屋に送る。本来なら拷問に掛けるべきなのだが、死神様はハヤテを失いたくないし、何よりハヤテを拷問にかけたとしても、薬物漬けにしても絶対に吐かないだろうことを理解しているので、そんな無駄なことはしない。

 シュタインは治療をする魔法という珍しいモノが見れ、もうここには用がないので、ハヤテと共にこの場をあとにする。

 

「あっ、俺が禁固刑になっていたとしても、キムの保護は反故にしませんよね!?」

「私が子供たちを治してくれた恩人を無下にすると、本気で思ってるのかな?」

「キムが不安になっているんじゃないかって思って、一応ですよ」

「はいはい、君は罰せられているんだから早く行く〜」

 

 死神様はなおを変わらず、普通に接してくるハヤテを手で追い払い、屋敷を後にさせた。

 容態が急変することはないとシュタインもキムも確信しているが、もし何かがあったら二人を呼ぶことにして、アリスとスピリット以外は帰っていった。

 

 スピリットはマカを、アリスはソウルを看病しながら、ハヤテの頑固さを思い浮かべ、同じタイミングで溜息をつく。

 

 

 

 そのあと一時間もしないうちに、ソウルは悲鳴をあげながら飛び起きた。傷が綺麗に治っていることに驚きながらも、隣で寝ているマカに気が付き、近づこうとしたところでぶん殴られた。

 

「一度だけお前を殴る。いいか、お前が死んだらマカが悲しむから死ぬ気でとは言わない。だが、男なら女を守ってみろ!」

「……次こそは何があっても守る」

「その意気だ」

「ぐへっ」

 

 ソウルは夢で見た内容が頭の中でリフレインしているが、それでもスピリットの目を見ながら固く誓う。

 そんなソウルの背中を強く叩いて、その場でソウルとの蟠りを精算する。殴られた時よりも痛そうな声を上げていたソウルは、恨めしそうにスピリットを見ているが。

 

 ソウルは割と早く目覚めたが、マカはそのあと数時間かけてやっと目を覚ました。寝ている最中、マカが変な声をあげ始めたので、ソウルとスピリット(男性陣)は部屋から蹴り出され、離れたリビングで待つように言われた。

 マカは寝ている時、悲鳴をあげる訳ではなく、僅かながら喘ぎの交じる色っぽい声を出していた。

 

 目覚めたマカは頬を染めあげ、情事の最中に熟練の情婦がするような淫靡な表情を浮かべながら、その目は据わっていた。もし未だ純情少年なソウルがこの場にいたら、まだ14歳が決して出せないような雌の匂いに誘われて、マカを押し倒していたかもしれない。

 

「マカ様」

「なんですか?」

「ご気分は如何でしょうか?」

「とってもいい気分ですよ」

 

 アリスは色々言いたいことがあるが、メイドとして適切な処理をするべくマカに告げる。

 

「寝汗が酷いようですので、シャワーを浴びることを推奨致します」

「わかりました」

「ではこちらへ」

 

 上半身よりも寝巻きのズボンが濡れているマカを、隣接しているジャグジーへと連れていく。そしてアリスはとりあえずこの後ハヤテを問い詰めることにした。

 

『マカ様に女としての快楽を教え込みましたよね?』

 

 女の子が女にいきなり変化していた時は、まずはスピリット(今回はセーフ)ハヤテ(ほぼ犯人)を怪しめばいいと理解しているメイドは、若干キレながらベッドメイクに精を出す。

 

 

 **†**

 

 

 マカが目覚めたくらいの時、デス・ザ・キッドとブラック☆スターは虫酸の走っているような表情をしていた。

 

「昔に長時間の朗読会をするのなら、それを聞く側に紅茶の一杯でも出したらどうだ? と言われたことがある。その時はヴァカめ!! と叫んでやったが、今の私は機嫌がいい。諸君らの為に紅茶を用意してやろう」

「……」

「……」

 

 二人の前には紳士服を上だけ着て、下半身は露出している不思議生物、エクスカリバーがいた。『とうとう私の出番だぞ諸君。喜びたまえ』

 

 

 

 ブラック☆スターは風の噂で聖剣と呼ばれる伝説の剣が居ることを耳にした。

 曰く、その剣を地面から抜き、解き放てた者は『勇者』と称され、永遠に讃えられると。

 曰く、過去にその聖剣を扱った者は王にまで登り詰めたと。

 

 ブラック☆スターは先日本気で戦っても勝てず、騙し討ちのような、相手が本来のコンディションならまず見破られていた、BIGではない方法で勝った(ミフネとの)戦いを思い出す。

 抜群の共鳴と丈夫な体から繰り出される自信に満ち溢れた戦いをする、死神様の息子であるキッドにも実質敗北した。

 それに子供の頃からずっと負け続けているあの糞男(ハヤテ)。それらの要因があり、ブラック☆スターは若干自信が揺らいでしまっていた。

 

 ハヤテだけならブラック☆スターはいつか殺すで済んでいたが、あのミフネには本気の戦いをしたら瞬殺されるとブラック☆スターは感じていた。なまじハヤテにボコられた続けていたからこそ、ミフネの力を正確に測れてしまっていた。

 そして同じ子供であるキッドにも椿が居なかったとはいえ、勝負としては勝ったが、戦いには負けた。

 

 だからだろうか、その聖剣とやらに興味が出て、いつもは来ない図書館に足を踏み入れたのは。あまり気が合うとは思えないキッドと共に聖剣探索に出かけたのは。

 そしてここに来ること自体が間違いだったと理解した。キッドも同じように理解しているようだ。

 

「君たちは聞いていなかったようだから、また初めから語ってやろう。私の伝説は12世紀から始まった。おっと、自己紹介が遅れたな。私はエクスカリバー……エクスキャリバ~~~♪」

「……は?」

「なんだ? 私の歌が聞きたいと?」

「んなこと言ってねえよ」

 

 青筋を立てるブラック☆スターの言葉を無視して、エクスカリバーは高らかに歌い出す。『私はある職人達とも約束をしている。故に君たちにも聞かせるために歌ってやろうではないか。もし聞き逃したら、ヴァカめ!! と言ってからもう一度歌ってやろう』

 

「エクスキャリバ~~~♪ エクスキャリバ~~~♪ フロム ユナイテッド キング♪ アイム ルッキング フォ ヒム♪ アイム ゴイング トゥ キャリフォルニァ~~~♪ エクスキャリバ~~~♪…………」

 

『どうだね? 私の美声は。私の歌声を聞けばどんな国の美女だろうとこちらを振り向いていた(ただし虫酸顔)

 エクスカリバーは何処か別の所にも声をかけながら、二人の少年に歌を聞かせる。自分の声が宇宙一の美声であり、自分がハンサムなナイスガイである事を疑うことなく、たまに増殖しながら歌う。

 

「どうだね? 私の美声は。私のパートナーになれば幾らでも聞かせてやろうではないか」

「……なあ、キッド」

「なんだ? ブラック☆スター」

 

 ブラック☆スターの出来の悪い頭でも、エクスカリバーが『私の伝説を聞かずに私を理解したと? ヴァカめ!! 私の伝説を聞き、朗読会を聞いても真に理解できるわけがなかろう!!』どんなものかわかった……ような気がする。

 

「もう帰、」

「そういえば君たちはどこから来た?」

「……もうか、」

「君たちは何者だ?」

「俺たちは死武、」

「まあそのような些事はどうでもいい。私が言葉を発する気配を出しているのに、話し続けた☆の君に一言言いたい」

「……あ?」

「ヴァカめ!!」

 

 エクスカリバーはその手に持つ杖でブラック☆スターを突きながら、お決まりの言葉を発する。そんなエクスカリバーに『なんだ、怒っているのか? ヴァカめ!! ははは、ヴァカめ!!』…………青筋を立てながら、ブラック☆スターは()()()()()()()()()()()()()に殴り掛かる。しかし、

 

「甘いわ、このヴァカめ!!」

 

 キレたブラック☆スターの攻撃を柳の如く、体をひらりと翻して攻撃を避けていく。エ○○○○○○はそんなブラック☆スターの頭を乗って、更に無駄にどうでもいい事を語る。

 

「君たちのような若者がここに来たこともある。あれは5年、いや9年、はたまた15年……いつだったかな?」

「ブラック☆スター……帰っていいか?」

「てめえ、俺を置いていくな! 死神ならこいつをどうにかしろ!」

「ヴァカめ!! 12年と言わせてやるために惚けてやったんだろうが! 白衣とスーツの職人は君たちと同じような輝きを見せていた。当然私の方がその12倍もの輝きを見せているがな!! そんくらい察しろ、ヴァカめ!!」

「いい加減頭から降りろ!」

 

 ブラック☆スターの暴れる頭の上に、()()は何故か直立している。キッドは自分の父親以外に根底から未知な存在がいる事に驚きながら、一人でこの場から帰ろうとする。

 

「私を使役したいのなら、()()()の項目を守ってもらいたい。これでも厳選しているのだぞ? ありがたく思いたまえ」

「…………わかった。ならそれを守るから、俺の武器になってくれ」

「キッド、お前マジで言ってるのか?!」

「ああ。お前を助けるためだ。これも死神の役目だろう」

「キッド……」

「…………ふむふむ、よかろう。デス・ザ・キッド、君は選ばれた!! そして手に入れる!! 勝利と!! 栄光を!!」

 

 キッドは覚悟を決めたのか、それを受け入れることを伝える。ブラック☆スターはそんなキッドに感謝を告げ、()()は聖剣となって、キッドの手元に降り立つ。

 聖剣と言われるだけはあり、ただ剣になっただけなのに、神々しい光を放っている。

 

「さあゆこう! いざ共に!!」

「……ふんっ!」

 

 キッドはキメ顔でエクスカリバーの刃を地面に向け、そして元々ハマっていた岩の穴にエクスカリバーを突き刺した。

 

「ま、分かってたけどな」

「こんな奴使うわけがない! 虫酸が走る!!」

 

 どうやら星族の生き残りであるブラック☆スターも、死神様の息子であるデス・ザ・キッドも()()とは『人としての波長』が合わなかったようだ。

 

「待て、わかった。項目をいくらか減らしてやろう。でも朗読会は、へっくしょん……へっくしょん!」

「うっざ!!」

「虫酸ダッシュ!!」

 

 二人は虫酸ダッシュな顔で聖剣のいた洞窟をあとにした。

 

「ふむ、死神でも星族でも駄目だったか。まあいい、私の偉大さを理解出来る者、私と波長が合う人間を待つとしよう……むむ、もう昼ではないか! アフタヌーン・ティーで昼を始めなくては」

 

 不思議存在はどこからともなく取り出した熱々の紅茶をズズズッと啜りながら、意味深なことを言ってみた。これも伝記に書き加えようと、()()()()は筆を取る。




正式なサブタイトルは『第14話:堕ちた乙女』です。

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